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第12話 そうまでおっしゃるのなら

 

 ワインで汚れてしまったドレスの染め直しを依頼していたノースポール男爵令嬢アリサから、ドレスが仕上がったと手紙が届いた。


 アリサ自らがドレスを持ってスチュワート領サガンまで来てくれるとのことだった。


 その知らせを見て、ルシアは嬉しそうに目を細めた。


「ねえリアム、アリサ様が来てくださるのですって!」


 ルシアにはこれまで友達と呼べるような人がいなかった。


 幼馴染のベンジャミンくらいのものだ。


 だからこうして、手紙のやり取りをしたり、家に招いたりすることがとても嬉しかった。


「お嬢様、アリサ様をお迎えするのですから、お茶会をされてはいかがですか?」


 ルシアが友達とのお茶会をしてみたいと思っていることをリアムは承知していた。


「お茶会…!それはいいわ。さっそく準備をしましょう」


 これまで想像するだけだった友達とのお茶会を実現させるべく動き出した。


 まずはお茶とお菓子、軽食のメニューを決める。


「お嬢様、まずはコンセプトを決めましょう」


「コンセプト…?」


「そうです。テーマを決めて、お茶会をトータルコーディネートするのです。どんなお茶会にしたいですか?」


 ルシアは唇にひとさし指を当て、首をかしげて考える。


「そうね…。うちの領のことを知ってもらいたいわ。それとアリサ様と仲良くなれたらいいなって」


「それでしたら、領で取れる食料品を使った料理がいいですね。レモンを使ったケーキやタルトなどはいかがですか?それから海産物を使った軽食を用意しましょう」


「いいわね。料理長の作るエビのスープは絶品よ。あとはスモークサーモンのサンドイッチとかどうかしら」


「よろしいかと。料理長に頼んでおきますね。それから、一緒に何か作られてはどうでしょう?」


「作るの?私にもできるかしら」


 リアムは笑みを深めた。


「いい案がありますので、お任せください」


「わかったわ。ありがとう、リアム」


 リアムは料理長にルシアの希望を伝えた。


 料理長も初めての友人との茶会ということで気合が入ったようだ。


 これなら任せても大丈夫だろう。


 料理の次はテーブルウェアや花など会場などだ。


 スチュワート領と言えば、海。


 マリンスタイルで統一することに決まった。


 マリンブルーと白を取り入れ、さわやかにまとめる。


 衣装はルシアの希望で、スミスにデザインを依頼することにした。


「アリサ様とお揃いで着たらかわいいと思うのだけど…」


「いいですね。ペアで着られるように依頼しましょう」


 早速、スミスの店に出向き、新しいドレスのデザインを依頼する。


 マリンルックをドレスに取り込むというアイデアはスミスには刺激的だったようだ。


「セーラーカラーのドレス?!」


「ええ。水兵さんの制服のような襟を付けたいの。スカート丈は思い切って短く。柔らかい布を使って、優しい雰囲気にして欲しいのだけど…引き受けてくれるかしら?」


 スミスは鼻息荒く、スケッチブックにルシアの案を書きつけて行く。


「もちろんやりますわ!またアタシに声をかけてくれてありがとうございます。お嬢様の考えた物はなんでもアタシが形にして差し上げたいわ!」


「ミススミス、嬉しいわ。でも、この前のように無理はしないでね」


「…気を付けます」


 スミスがルシアの要望を聞きながら描いたドレスは、水色のベースに白いラインの物と、白ベースにピンクのラインが入った物の二着。


「こっちの白にピンクのラインは、アリサ様に似合いそうだわ。ピンクブロンドの髪だもの」


「では水色のドレスの方には、お嬢様の髪色を取り入れますか?」


「いいえ、私の髪は地味だから・・・。それなら、リアムの髪色の方が合うわ」


 リアムの髪色はヘーゼルナッツのような柔らかい色合いだ。


「たしかに。ではヘーゼルブラウンのオーガンジーでパニエを作ってドレスの裾からたっぷり見えるようにしましょうか」


「わぁ!それ、かわいいわ」


 リアムは礼儀正しくルシアに聞いた。


「私の髪色でよろしいのですか?」


「ええ、その色がいいわ!」


「さようでございますか。ではミススミス、完成したらご連絡ください」


「ええ、お任せください」


 ちなみに後日スミスの申し出で、水着同様、ルシアシリーズとして一般販売されることとなり、再び売り上げの一割がルシアのもとに入ることになった。


 お茶会の当日の朝。


 ルシアは心配そうにサロンを見回した。


「これで準備は大丈夫かしら?」


「お嬢様、ご心配なく。一番大切なのは楽しむことですよ」


「ええ、そうね!」


 準備が整ったところで、例によって例のごとく、呼んでもいないベンジャミンがやって来た。


「そんな気がしていましたよ」


 リアムが小さい声で呟き、冷たい笑顔でベンジャミンを見る。


「おや、パーカー子爵令息様。たしかお約束をしてからお越しいただくことになっていたように思いますが…?」


「そうだけど、別にいいでしょ?何か用事があった?」


「ベンジャミン、ごめんなさい。今日はお友達とお茶会なのよ」


「え~、お友達って誰?僕の知らない人なの?僕も入れてよ」


 アポなしでやって来て図々しいことこの上ない。


 ルシアは申し訳なさそうな顔をした。


「今日は女の子だけで楽しみたいのよ。ごめんね、ベンジャミン」


「そんな…!ひどいよ、ルシア。じゃあ、僕のこと、女の子だと思ってよ」


「え…」


 ルシアはどう返事してよいかわからず困ってしまった。


 リアムは冷ややかにベンジャミンを見て言った。


「そうまでおっしゃるのなら、パーカー子爵令息様、本日はマリンスタイルをコンセプトと致しましたお茶会でございます。衣装をご用意していますので、どうぞこちらへお越しください。それを着ていただけるのでしたら、ぜひご参加ください」


 ベンジャミンはパッと笑顔を作って満足そうに頷いた。


「いいよ。着るよ、それ」


「かしこまりました。どうぞ、こちらへ」


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