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ギャルゲーキング!

作者: 穂村一彦

妹:お兄ちゃーん! 学校遅刻するよ! 早く起きて!

兄:んんー……

妹:まったく……あれ? パソコンつけっぱなしじゃん。まったく、節電してって言ってるのに……

二次元少女:おめでとうございまーす!

妹:うわ、びっくりした。

二次元少女:おめでとうございます、鈴木秋夫さま!

妹:へぇ……最近のギャルゲーって名前まで呼んでくるんだ。

二次元少女:鈴木秋夫さま! あなたは見事! 今年のギャルゲーキングに選ばれました!

妹:ギャルゲーキング?

二次元少女:ご存知かと思いますがっ! ギャルゲーキングとは、その年で最も多く、長く、そして熱くギャルゲーをプレイしたものに与えられる栄誉ある称号です!

妹:どこが栄誉よ。要するに日本一のダメ人間ってことじゃん。

二次元少女:さぁ賞品をどうぞ! それでは、よりよいギャルゲライフをお楽しみください! さようならー!

妹:……あ。勝手に電源切れちゃった。何これ? お兄ちゃん、何が楽しくてこんなゲームやってるんだろ。

兄:んんー……ああーっ! おい、春菜! 勝手にパソコン切るなよ!

妹:し、知らないよ! パソコンの中で変な女の子が勝手にしゃべりだして勝手に切れたの!

兄:嘘つけ! ああ、もう! ちゃんとメニューから終了したか? もし壊れたりしたら、俺の今までの三桁におよぶギャルゲーのセーブデータが……!

妹:って、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 学校学校!

     

(通学路)

        

兄:ふわ、ねむ……

妹:しゃきっとしてよ! どうせまた徹夜でギャルゲーやってたんでしょ?

兄:うん。

妹:1ミリも恥ずかしがったりしないんだね……

兄:恥ずかしい? なんで?

妹:お兄ちゃん……はぁ……もういい。さすがギャルゲーキングに選ばれるだけはあるわ。

兄:ギャルゲーキング?

妹:ほら。今朝お兄ちゃんがやってたゲームが言ってたの。お兄ちゃんがギャルゲーキングに選ばれたとか何とか。

兄:……は?

妹:ちょっと、どうしたの?

兄:俺……そんなゲーム持ってない。

妹:はあ?

ツンデレ少女:どいてどいてー! きゃあっ!

妹:痛っ!

ツンデレ少女:いったーい! ちょっとどこ見て歩いてるのよ!

妹:い、いや、ぶつかってきたのはあなたのほうから……

ツンデレ少女:って、やだ、時間! 今度から気をつけなさいよね! あーもう、遅刻遅刻―!

妹:な、なによ、あいつ!

兄:春菜! そんなことよりギャルゲーキングって本当? マジでギャルゲーキングって言ってた?

妹:お兄ちゃん……朝っぱらから外でギャルゲーギャルゲー騒がないでよ。

兄:いいから! 本当に? 俺が今年のキングに選ばれたって、そう言ってたのか!?

妹:あ、うん、言ってたけど……。

兄:よっしゃあ! やったあああああ!

妹:喜びすぎでしょ……どんなゲームをクリアしたんだか知らないけど……

兄:違うんだ! これ、ゲームの話じゃないんだよ!

妹:え?

兄:ギャルゲープレイヤーに伝わる都市伝説がある。それがキング……『ギャルゲーキング』だ。一年のうちで最も多く、長く、熱くギャルゲーをプレイした者に贈られる称号だ。

妹:で? それに選ばれると何があるの? 犯罪者予備軍として刑務所入りとか?

兄:……ギャルゲー体質になれる。

妹:ギャルゲー体質?

メガネ少女:はわわわわっ! どいてくださーい! きゃあっ!

妹:痛っ!

メガネ少女:いたた……ああっ、ごめんなさいごめんなさい!

妹:ちょっ、落ち着いて、あなたが謝ってるの電信柱だよ。

メガネ少女:ええっ? あれっ? えーと、メガネメガネ……

妹:ほら、これ。落ちてたよ。

メガネ少女:ひゃあ! 重ね重ねすみません! メガネがないと私、なにも見えなくて……ごめんなさい、ぶつかってしまって。

妹:あ、うん、いいんだけど……

メガネ少女:本当に、ごめんなさい……って、ああ! 時間! それじゃ失礼します!

妹:うーん、なんだったんだか……あ、で、お兄ちゃん、何の話だっけ?

兄:ギャルゲー体質……

妹:そうそう、それ。それって何なの?

兄:まさか……春菜が……?

妹:ちょっ、ちょっと、お兄ちゃん? どうしたの?

兄:ギャルゲー体質……それはギャルゲープレイヤー全員が求める境地。運命はねじ曲げられ、あらゆるタイプのヒロインを引き寄せる。どこでも、どんなときでも、女の子に出会うべくして出会い、好感度は上がるべくして上がるという……まさに伝説の体質……。

妹:お兄ちゃん……私はもうお兄ちゃんの趣味には何も言わない。言っても無駄だって分かってるし。でも、現実と妄想の境界が分からなくなったら、人間おしまいだよ?

兄:妄想じゃないって! 本当にあるんだ! 現に春菜、二回も女の子とぶつかったじゃないか!

妹:いや、通学途中で女の子とぶつかるくらい、そんなに珍しくもないでしょ?

兄:それが珍しくなかったら日本中の不登校問題は解決してるよ!

妹:そんな大げさな……

兄:くそっ! 本当なら俺が受け取るはずだったのに! なんで春菜がもらっちゃうんだよ!

妹:何? あたしがもらうって、何を……

金持ち少女:どいてくださいましーっ! きゃあっ!

妹:痛っ!

金持ち少女:ああっ、申し訳ありません、庶民のかた! こちら、お詫びの百万円です、どうぞ!

妹:え……ええっ?!

金持ち少女:それでは、わたくし急いでいるので! ごめんあそばせ!

妹:ちょっ、ちょっと待って! ええ……なんなの、あの子……

兄:ほらな? これがギャルゲー体質なんだよ。ギャルゲーみたいなことがどんどん起きるんだ。

妹:そ、そんな非現実的な話あるわけが……

兄:ぽんと百万円もらっておいて非現実的とか言うのか?

妹:そ、それは確かにそうだけど……どうしよう、このお金。

兄:あの子に返すべきだな

妹:やっぱりそう思う?

兄:ああ。そのお金を返せばさっきのお嬢様は驚き、人の価値基準はお金が全てではないことを知り、春菜に興味を引かれる。そしてお金以上に大切なものがあることを知り、好感度が上がり、執事の目を盗んで一緒に町で庶民の遊びをしたりハンバーガーを食べたり、やがて仲良くなった二人は文化祭の夜か修学旅行の夜かクリスマスの夜かに……

妹:あたし、真剣な話をしてるんだけど?

兄:俺だって、めちゃくちゃ真剣に喋ってるよ!

妹:こんなお金、あたしだって返したいけど……でも、どこの誰かも分からないのに。

兄:それは大丈夫。絶対すぐにまた会える。

妹:なんで言い切れるの?

兄:まぁ……学校に行けば分かると思うぞ。

       

妹:(M)そして、一時間後。私は自分の教室を飛び出し、兄の教室へ飛び込んだ。

妹:お、お兄ちゃん!

兄:やっぱり、いたか。

妹:いたよ! 三人とも! 三人ともたまたま同じ日にたまたま同じ学校に転校してきて、たまたま同じクラスに配属されて、たまたまあいていたあたしの席の右と左と前に座ることになったの!

兄:どうだ? これでさすがに信じただろ?

妹:……くっ。さすがにここまでありえない出来事が重なったらね……

兄:あーあ。三人の美少女転校生に囲まれる学園生活かー。くそっ、うらやましい……!

妹:お兄ちゃん……今までずっとこんなゲームを楽しそうにやってたわけ? 朝っぱらから三人とぶつかって、それが全員同じクラスの転入生? 馬鹿じゃないの?

兄:いや、さすがに三人転入生ってのはギャルゲーにもないぞ? この次はもっとポジションを分担してくると思う。先輩とか後輩とか女教師とか。

妹:ちょっ、ちょっと! まさかもっと出てくるっていうの!? もう三人もいるのに?!

兄:三人で済むわけないだろ。少なくともあと五人は出てくるぞ。

妹:ぐっ……とりあえず、ちょっと保健室で休んでくる……

兄:保健室?

妹:うん、どうせいま授業受けても頭入らないし。

兄:保健室か……いいけど、気をつけろよ。

妹:はぁ? 保健室で何を気をつけることが……気をつけることが……あるわけね!? ギャルゲーの保健室では!

兄:そうだな……普通なら、エロい保険医がエッチな身体検査で無理やり服を脱がせてくるか、または病弱少女がパンツを見せながらベッドで眠っているか……あ、部活でケガしたボーイッシュ少女がちょうど服を着替えてるところかも。普通に考えるなら、そんな感じかな。

妹:何なの、ギャルゲー世界の学校ってのは! 学校来たなら勉強しなさいよ!

兄:そんなこと俺に言われても。

妹:……あたし、帰る。

兄:あ、帰るのか?

妹:今のこの学校にいても学ぶことは何もなさそうだもん。

兄:そっか。でも帰り道……。

妹:分かってるよ! 何? 帰り道には何が出てくるわけ? 裸の女が抱きついてくるとか?

兄:いや、そんなあからさまなのはないぞ。

妹:保健室でパンツで着替えも充分あからさまだと思うけど……とにかく、ちゃんと教えて。これ以上変な知り合いを増やしたくないの。

兄:わかった。えーと、知り合いを増やしたくないってことは、ゲームの逆を選ぶわけだから……とりあえず困ってる人がいても絶対に助けるな。道に迷ったとか空腹で動けないとか落し物とか探し物とか、全部無視しろ。あと人とは、ぶつかるなよ。曲がり角だけじゃなくて上も注意しろ。もしかしたら天界から足を滑らせた天使とか、空飛ぶ修行中の魔女っ子とか、抜け忍として追われてる忍者少女とか、そういうのが落ちてくるかもしれないから。分かったか?

妹:なんか……頭痛くなってきた……

      

(放課後)

        

兄:ふぅー、やっと学校終わった……春菜は大丈夫かな。ただいまー。

メイド少女:おかえりなさいませ。

兄:……え?

メイド少女:ああ、お嬢様の兄上さまですね? はじめまして。私、メイド専門学校から来ました。この家が卒業試験会場に選ばれまして。これからご奉仕させていただきますね。

兄:は、はぁ、どうも……うおおおお、春菜!

妹:お兄ちゃん! あーもう、遅いよ!

兄:おい、見たか! メイドさんだぞ、メイドさん!

妹:わかってるよ! そんなことよりっ! もうたくさんなの、あたしは! 元に戻して! この馬鹿げた体質を治してよ!

兄:いいじゃないか、このままでも。春菜だって家事手伝わなくてもよくなるんだぞ?

妹:冗談じゃないよ。あんな格好の女の子が家を出入りするなんて。ご近所に何て説明するつもり?

兄:そのときは正直に、妹がギャルゲー体質になりましたって答えるよ。

妹:お兄ちゃん、それを他人に言ったらぶっ殺すからね!?

兄:わかったよ……じゃあちょっとネットで調べるから待ってろ。

妹:うん、お願い……あ、話は変わるけど、お兄ちゃんって猫は好きだっけ?

兄:んー、普通だけど……なんで?

妹:さっき、帰り道に捨て猫がいてさー。かわいそうだから拾ってきちゃって。よかったら家で飼いたいんだけど……ちょっと。どうしたの?

兄:春菜……これ以上、ヒロイン増やしたくないって言ってたくせに、どうしてそう余計なことするんだよ。

妹:は? だって、猫はいいでしょ? ただの動物で、別に人間じゃないんだから……

猫少女:ご主人さまあーっ!

妹:なああっ? だ、誰よ、あんた! どっから入ったの!

猫少女:何言ってますにゃっ! ご主人様が連れてきてくれたにゃ。ご主人様。さっきはボクを拾ってくれて本当にありがとにゃっ!

妹:おっ、お兄ちゃん!? なんなの、これ!?

兄:だから言っただろ……そりゃ猫を拾ったらこうなるよ、普通。

妹:猫を拾ってもこうならないわよ、普通!

メイド少女:お嬢様! 先ほどの大声は一体……きゃあっ! お嬢様が猫耳つけた女の子と抱き合っている! 何してるんですか、お嬢様! 不潔です!

妹:不潔とかエロいとか、あんたらにだけは言われたくないわ! とにかく二人とも部屋から出てって!

メイド少女:で、でもですね……お嬢様宛に宅急便が届いてるのですけど。

妹:宅急便? 何?

メイド少女:とても大きな段ボール箱が一個です。どこだかの懸賞センターからの一等当選賞品だそうで。賞品名の欄には『美少女型アンドロイド』と……。

妹:風呂に沈めといてっ!

メイド少女:ええっ!?

妹:お兄ちゃん! わかったでしょ!? このままじゃどんどん増え続ける! 早く解決策を調べて!

兄:お、おう。じゃあ、ちょっと待ってろ。

妹:早くしてね! これ以上、変なやつらが増えないうちに!

       

妹:そして、一時間後……

        

幽霊少女:わらわは千年間ずっとそなたのような人間を探しておったのじゃ。わらわの姿を見ることができて、わらわを成仏させてくれる人間を。恥ずかしながらわらわは『でぇと』というのをしたことがない。それが心残りで現世への未練を断ち切れなくなったわらわは……。

妹:はい、ストップ。そこまで。続きはあとで聞くから列に並んで。えーと……最後尾はどこー?

王女:わたくしですわっ!

妹:あっそう。んじゃ、幽霊さん。あの人の後ろについてて。順番になったら話聞いてあげるから。

王女:お、お待ちなさい! 幽霊ですって? 私の背中に変なものよこさないでくださいませんか!

妹:文句があるなら出ていきなさいよ。窓から無断で入ってきた不法侵入犯のくせに。

王女:く……っ! まったく、こんなことなら王室から家出なんてするんじゃありませんでしたわ!

妹:じゃあ、帰りなよ……

王女:大体、お茶の一つも出てこないなんて、どういうことですの! あまりに無作法ですわよ!

妹:どっかにメイドがいるはずでしょ。お茶は彼女に頼んで。

科学者少女:いや、それは無理というものだろう。あのメイドさんは、闇組織に追われ命からがら逃げのびたけどとうとうこの家の庭で力尽きてしまったという殺し屋少女のケガを看病中じゃないか。

妹:ああ、そうだったね……。

科学者少女:それよりも早く私の研究所に来てくれないか? 私の開発したロボットに唯一適合できた君が来てくれないと宇宙人たちの侵略が……。

妹:あ~、はいはい。だから話は順番がきてから聞くってば。

王女:ちょっと! それでわたくしのお茶はどうなりますの!?

妹:こんな何十人もいるんだから、誰かお茶くらい入れられるでしょ……

ロボット少女:マスター。ヨロシケレバ、私がお茶を入レマス。

妹:あ、いいの? じゃあ、お願い。ありがとね。

ロボット少女:アリガトウ……感謝の言葉……目から水が……コレが涙……?

妹:……うん、何でもいいから。さっさと入れてきて。あー、疲れた……

兄:お疲れ。

妹:もう一回聞くけど……お兄ちゃん、こんなゲームを楽しそうにやってたわけ? 一時間、家にいるだけで、女の子が三十人以上押しかけてくるようなゲームを?

兄:言っとくけど、お前は全国のギャルゲープレイヤーが夢見る理想郷にいるんだからな?

妹:知らないよ! だったらお兄ちゃんに代わってあげるよ!

兄:俺だってめちゃくちゃ代わりたいよ!

妹:はぁ……で? 解決策は見つかったの?

兄:ああ。歴代のギャルゲーキングの話を調べてみた。いいか? これは、ゲームだ。

兄:確かに現実化してるけど、その基本はギャルゲー。ゲームなんだ。クリアすることで終了する。

妹:ギャルゲーをクリア……って何をすればいいの? あいつらを全員やっつけるとか?

兄:何てこと言うんだ、お前は。

兄:あのヒロインたちの中から誰か一人を選べ。そうすればエンディングとなり、ギャルゲー体質は消滅して、出てきたヒロインたちもいなくなる。春菜が選んだヒロイン一人をのぞいて。

妹:待って! その選んだ子はその後どうなるの?!

兄:そりゃ一生春菜のそばで幸せに暮らすんだよ。ギャルゲーってそういうものだろ。

妹:いやいやいや! そんなの冗談じゃないってば! 誰も選ばないわけにはいかないの!?

兄:うーん……一応そういうエンディングもある。誰とも結ばれない、いわゆるバッドエンド。

妹:ああ、あたし、それでいいよ。そうすればこの状況も終わるんだね?

兄:いや、でもバッドエンドっていうのは……

魔王少女:勇者ぁぁーっ!

妹:うわあっ!

魔王少女:ふははははは! ようやく見つけたぞ、勇者よ! この魔王の顔、忘れたとは言わせぬぞ!

妹:あー、待って。今、大事な話をしてるとこだから。廊下で待っててくれる?

魔王少女:待つだと? これ以上、待てるものか! 貴様に封印されて二百年間もこのときを待ち続けてきたのだからな!

妹:あのさ、説明するのも馬鹿馬鹿しいけど……二百年前はあたし産まれてないわよ?

魔王少女:くくくっ……我は忘れぬぞ。貴様が何度生まれ変わろうとも、憎き貴様の魂の匂い、忘れるものか!

妹:わかったわかった……いろいろ話もあるんでしょうけど、とにかく後にして。

魔王少女:本当に記憶がないのか? まぁ、いい。どちらにせよ、貴様を殺すことに変わりはないのだからな。わが宿敵よ、さらばだ……いでよ、灼熱魔王剣……!

兄:やめろっ!

魔王少女:うわっ! な、なにをする、はなせ! このただの人間ふぜいが!

兄:春菜! 早く逃げろ! このままじゃバッドエンドだ!

妹:え、バッドエンドなら、それでいいんだけど。あたしは誰も選びたくないし。

兄:何言ってるんだ! 死にたいのかっ?

妹:し、死ぬって、そんな大げさな……。

兄:死ぬんだよっ! ギャルゲーで主人公が死ぬのは珍しくも何ともない! 最もよくあるバッドエンドの一つなんだ!

妹:は……はああっ!? だ、だって、ギャルゲーでしょ!? 女の子といちゃいちゃしたりパンツのぞいたりする、そんな能天気なゲームなんでしょ?

兄:いちゃいちゃしたり、パンツのぞいたり、死んだりする! それがギャルゲーなんだ!

妹:ギャルゲー、頭おかしいよ!

魔王少女:ええい、はなせ!

兄:うわああっ!

妹:お兄ちゃん!

兄:ご、ごめん、春菜……守りきれなくて……

妹:そんな! 謝らなくていいよ!

兄:そもそも俺がギャルゲーばっかしてたからこんなことになって、ごめん……

妹:そんな! ……いや、それは確かにちょっと謝ってほしいけど! しっかりして、お兄ちゃん!

兄:ぐっ……(気絶)

妹:お兄ちゃん!

魔王少女:くくく……、そう騒ぐでない。安心するがよい。すぐに二人とも地獄へと送ってやろうぞ。

妹:あ、あんた、よくも……っ!

妹:分かったわ……やってやるわよ。どうしても決着をつけたいというのなら……。

妹:これだけは絶対にやりたくなかったけど……最後の手段よ!

妹:全員集合―っ! こいつを倒してくれたら、その子を『選ぶ』わよっ!

メイド少女:ええええっ!?

猫少女:にゃあああっ!?

王女:なんですって!?

メイド少女:お、お嬢様! 今の言葉、本当ですかっ?

猫少女:こいつにゃっ? こいつをやっつけたら、恋人になってくれるにゃっ?

ロボット少女:ターゲット確認。戦闘モードニ移行シマス。

科学者少女:私の開発した筋肉増強剤の力を見るがいい!

王女:わたくしだって幼少の頃から武術はたしなんでおりますわ!

幽霊少女:わらわの千年の怨念の力で呪い殺してくれようぞ!

ツンデレ少女:べ、別にあんたのために戦うわけじゃないんだからね!

忍者少女:忍法! 影分身でござる!

魔王少女:なっ……ちょっ、貴様ら、ちょっと待つがよい。さすがに数が多すぎ……ぬわあああ!

妹:うわ……ぼっこぼっこにされてる……ちょっとかわいそうになるわね……って、そんな場合じゃない! お兄ちゃん! 大丈夫、お兄ちゃん!?

兄:うーん……

妹:よかった……気絶してるだけみたい……

妹:まったく……ゲームばっかりで弱っちいくせに、危ないことしちゃって……

妹:でも……昔からそうだったよね。

妹:あたしが困ってるときは、ちゃんといつだって助けにきてくれた……お兄ちゃん……

メイド少女:お嬢様! 片付けました!

妹:早っ! まだ1分もたってないのに!

メイド少女:さぁ! これでお嬢様は私のものです!

ツンデレ少女:べ、別にあんたを助けるために倒したわけじゃないんだからね!

猫少女:ご主人様! とどめはボクの必殺猫パンチでしたにゃっ!

忍者少女:拙者、もっと春菜どのと一緒にいたいでござる! にんにん!

妹:ちょっ、ちょっと待って! あの、あたしは誰も選ぶつもりは……!

メイド少女:は……? お嬢様……約束をやぶるつもりですか?

猫少女:ご主人様は……さっきボクたちが魔王を倒したのを見てなかったのかにゃ……?

忍者少女:忍びのおきて 約束をやぶる者には死あるのみでござる……

ロボット少女:ピー。戦闘モードに移行シマス……

妹:待って待って! そうじゃなくて! えーと、だから、その……

       

妹:(M)ああ、もうどうしよう! あたしは誰も選ぶつもりないし、下手なこと言ったら今度はあたしが袋叩きにされそうだし、頼みの綱のお兄ちゃんは気絶したままだし……

妹:(M)お兄ちゃん……

妹:(M)お兄ちゃん……っ!

        

妹:わかった……ちゃんと選ぶ……

妹:あたしが選ぶのは……。

妹:お兄ちゃんよ!

メイド少女:ええええっ!?

猫少女:にゃああああっ!?

王女:はあああああっ!?

メイド少女:な、何を言ってるんですか、お嬢様! それはさすがにアウトですよ! おかしいです!

妹:分かってるよ、おかしいってのは! お兄ちゃんは実の兄だし、そうでなくてもギャルゲーオタクで、半分引きこもりで、どうしようもないやつだけど……でも、生まれた時からずっと好きだったの! 文句あるのっ!?

メイド少女:……そ……そんなギャルゲーみたいな……

妹:お前らが言うなあっ!

          

         

兄:うーん……ん?

妹:あー、お兄ちゃん、起きた?

兄:え?

妹:ほら、早く準備して。学校に遅刻しちゃうよ?

兄:え? えーと……あれ? 魔王は? あと他のヒロインたちも……

妹:はあ? 何の話?

兄:何って……だから春菜がギャルゲー体質になって、それでうちにヒロインたちがたくさん押しかけてきて……

妹:……はぁ。あのねぇ。どんな夢を見てたか知らないけど、夢と現実の区別がつかなくなったらおしまいだよ?

兄:夢……? え、今までの全部……なんだー! 夢かよー!

妹:どうしたの?

兄:いや、すげー変な夢を見てさー。春菜がギャルゲー体質になって魔王とかいろんなヒロインがうちに……

妹:あー待って待って。もう時間ないよ? 魔王とかメイドさんとか猫耳少女の話は今度ゆっくり聞くから、早く準備して!

兄:あっ、やべえ! もうこんな時間か!

妹:まったく。ギャルゲーばっかりやってるから変な夢を見るんだよ。あーあ、お兄ちゃんの将来が心配。そんなんで一人でやっていけるの?

兄:いやー、めんぼくない。

妹:まぁ……その時は私が隣にいてあげるから別にいいんだけど……

兄:え?

妹:なっ、何でもない! ほら! 早くしないと学校に遅刻しちゃうよ! さっ、行こう、お兄ちゃん!


(終わり)

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