第76話 もてなしのシャンデリア
有志によって少しづつ整備されつつあるダンジョンへの道。
ほとんど獣道だった頃に比べて随分歩きやすくなった。
「道案内か……分かれ道でも増やしておくかな」
独り言を言いながらその道を1人で戻る。
来るときは一緒だったソフィーは居ない。
彼女は結局ダリアさんの家に泊まることになった。
『いっぱい練習しておきますね!』
とのこと。
表向きだけだろうけど以前のように振舞ってくれていることに今は甘えておく。
彼女が言う通りDPで出せる薬草以外の薬の素材もいつの間にか随分増えたので、数日は困らないほどの量を渡してある。薬師ギルドの設備も使わせて貰えるということで、普段は作らない薬の調合を試すと言っていた。
(俺も頑張らないと)
先を考えて出来ることを頑張ろうとする彼女に負けていられない。
(ダンジョンの名前すら付かないまま終わりたくないしな)
いつまでもデサルトのダンジョンじゃなんだし、エルーシアの所の『水精の祠』みたいないい感じの名前が欲しい。嫌々始めざるを得なかったダンジョンマスターだけど、こうして数か月経つとそれなりに愛着も沸く。
(この件が済んだらゲアートさん達にそれとなく言ってみようか)
そんなことを考えているうちに入口に到着したのでそのままに中に入る。
『おかえりなさいませ』
早速ハジメが声を掛けてくれる。
『ちょっと確認も兼ねてこちらから入る。何か変わったことは?』
裏口を使っても良かったが今は無性に歩きたい気分だからな。
『想定通りいつもより冒険者が多いくらいですね』
『そうか。分かった』
短いやり取りをしつつ先に進む。
そして壁面に利用規約が書かれたやや長めの通路を抜けると、今ではエントランスと呼んでいるその部屋にたどり着く。
ここは冒険者達をおもてなしするためにやや豪華に改装済みだ。
これはリーゼのダンジョンを参考にした。
中央の床には赤い絨毯を敷き、脇の方には何かの打ち合わせをしたいパーティのための椅子とテーブルも用意した。今は2パーティ分しかないし木製なので徐々にいいものにしていこうと思っている。
そして10メートルの高さに設定した天井には大きめのシャンデリアを下げてみた。これはかつてお邪魔したことがある隣の伯爵家の物をイメージした。間接照明と言えばいいのだろうか、光源は隠れていて直接は見えないものの、施された装飾と鏡が光を反射して結構明るい。それから放たれる青白い光が入ってきた人達を優しく照らしていて、なかなかいい出来に仕上がったと思う。
カスタムトラップでの作品だ。これのいいところは完成品がイメージ通りに仕上がるところだな。絵心や装飾の知識が無くても想像さえ出来ればそれなりに仕上げてくれるからな。普通に家具としてのシャンデリアもカタログには記載されているが、罠としての機能を一切持たせなければ良心的なDPと魔素の消費で作れるので、どうせ用意するのならこちらの方にしようとなった。
エントランスの打ち合わせスペースでたむろしていた数名の冒険者に軽く手を上げて挨拶しつつ先に進む。
1階層はもともとFランク向けで設計してあるためこの先はそれほど変化は無い。
比較的奥の方に来るとそこそこ冒険者の姿を見かける。
採掘ポイントを3か所増設したので、採掘しては周辺で魔物狩り、そして鉱石が再び出現した頃にまた採掘、といった感じで利用してくれている。
採掘ポイントについては利用者に対しては少ないかと思ったけど、荷物が嵩張るため1つのパーティが独占するということは今のところ起きていないので、これくらいが丁度なのかもしれない。
続けて2階層へと降りる。
好きな属性エリアに行ける『選択の間』。
この部屋は元々各エリアに繋がっている構造上、他の場所への通路が多かったが最近になってさらに選択肢が増えた。
新たに増えたのは通路ではなく扉。その扉の前にも数名の冒険者が居る。
やはりここも人気だな。
ソロ用とパーティ用で用意した2つの扉。今はパーティ用しか利用者はいないみたいだな。
扉の上部には『使用中』という文字が書かれたぼんやり光る石板。
しばらくすると、その石板の光が消えて中から冒険者が出てくる。
「ふう、危なかった」
「悪い皆、支援のタイミングが遅れた」
「いや、俺たちの位置取りも悪かったさ」
などと口にしながら1つのパーティが出てくる。
そして彼らと入れ替わるようにしてまた別のパーティが扉の前に移動する。
「次は俺達が行くぜ」
「リザードマンで!」
『修練の間』と名付けたその扉の先では、このダンジョンに出現する魔物と戦うことが出来るようになっている。扉の脇に設けた小さい穴に向かって、戦いたい魔物の種族を言えばその魔物が扉の先に現れるという仕組み。
任意の魔物とは言っても近くの壁に書いてある一覧から選んでもらう。これは骸骨将軍やミノタウロス、リーダーリザードマンといった、重要な役割をしている魔物は選べないようするためだ。
今のところパーティの場合は人数に応じて、ソロの場合は3体まで同時に魔物が出現するということにしている。
仕組みといってもこちらはカスタムトラップでもなんでも無く、翻訳の指輪を装備したゴブリンが小さい穴の向こうに居るので、そのゴブリンが待機中の魔物達に指示を出してスタンバイするだけだが。
扉は内側から鍵が掛けられる様になっているので、他の冒険者の邪魔が入るという心配も無い。
ここが人気の理由は、『修練の間』では魔物達は手加減して戦うことになっているので命が保証されているからだ。戦いにはなるから多少の怪我はする可能性があるものの、命の危険が無い状態で修行が出来るというのは大きい。
デメリットととしては、この部屋の魔物は魔石を含めてアイテムを一切ドロップしないのと、命がけの戦闘では無いのでレベルアップの効率が落ちるということ。
これは魔物一覧の横にある使用方法を書いた石板にちゃんと記載してある。
もちろん、人間はレベルの概念を知らないのでその辺りはぼかしてある。
冒険者にも好評だが、これにはこちらの魔物達も喜んでいる。
特にブイが飛び上って喜んでくれた。前にブイに約束した部屋だから尚更だろう。
俺のダンジョンはほぼ全員が名前付きであるため徐々にではあるが全体のレベルが上がっているが、巡回ルートによっては冒険者とあまり戦う機会がない魔物も居る。そんな者達でも、この部屋のシフトに入れば他の魔物との差を埋めることが出来るという訳だ。
全体の底上げをするために作った。運用を開始してまだ数日ではあるがかなりの好感触だ。
(茶番を演じた甲斐があったな)
最初は魔物が手加減をするという謳い文句に対して懐疑的な冒険者ばかりだった。
当然だ。そんなことを言って実は……という可能性を考えないとしたらむしろそいつが心配になる。
遠巻きに眺めるだけの冒険者達の背中を押すために考えたのはサクラだ。人化の状態のゴブリン達に冒険者の振りをさせ無事に出てくる姿を彼らに見せた。
『お、おい! お前ら、大丈夫だったのか?』
『ああ、危ない瞬間もあったけど、そんなときは魔物達の動きが悪くなるんだ』
『いやぁ! 凄いぜこの部屋! 俺たちは今後もどんどん利用するぜ!』
『ここで修行して強くなるんだ!』
『そうなのか……よ、よし! 俺たちも入ってみようぜ!』
と、こんな感じ。
俺の演技指導を見ていたソフィーは微妙な顔をしていたが、上手くいっている様なので良しとする。
冒険者向けエリアの変更や追加はこんなところか。
あとは牛頭の扉から先だが、あそこから先は防衛用の通路が続くだけだから結構長いんだよな。歩きたい気分でなくなった今となってはただ長いだけの通路だ。
(大きいダンジョンのマスターは移動どうしてるんだろ? いや、俺みたいにウロウロしないからいいのか……)
そんなことを思いつつ、その場を他の冒険者に見られないようにこっそり離れ、牛頭の扉からコアルームへ戻ることにした。




