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第69話 世界の敵

「何かで塞がなくていいんですか?」


 裏口の出口であるほら穴を見ながらソフィーが聞いてくる。


「そうしたいのはやまやまなんだけどさ、それはダメなんだ」

「それも例のルールですか?」


 町に向かって移動を開始しつつ話を続ける。


「ああ、出入口はある程度の大きさが必要でさ、そのうえ塞ぐとか隠すとかして空気の通りが悪くなるようなことをするのもダメなんだよ。前に窒息するって例えで話したけど、それでいくと普通はどこかが開いていればいいと思うだろ、だけど不思議なことに数を増やしたとしてもそれは変わらないんだ」


 2つ以上の入口を作っても、最初のような局地的な地震は起こらない。だから人間達に入口が増えたことを知られることは無いが、その姿を隠すことが出来ないのでたとえ見つかりにくいような場所を選んだとしてもいつかは見つかる。


「土砂崩れとかが起きて塞がったらどうするんですか? すぐに撤去しないと死んじゃうんじゃ?」

「いや、ところがそうはならないんだ。ダンジョンはその土地の地盤を安定化する役目があるみたいでさ、ダンジョンの周りは大地が絡む災害はまず発生しなくなるんだ。それに入口は不思議な力で守られてて、仮に嵐で大木が入口に向かって倒れても、見えない力に弾かれて塞がることは無い……って話だ」


 そう学園では教わった。


「ええ!? 災害が起きなくなるって凄いじゃないですか!」

「それだけじゃないぞ? 他にも凄い役割があるんだ」

「他にもですか?」

「ああ、もうちょっと進めば分かり易いかな」


 そしてしばらく歩くと見慣れた場所に出る。


「あ! あそこ、元からあった入口ですよね?」

「ああ、裏口は近すぎず遠すぎずの場所にしたからな。それでソフィー、久しぶりに外に出てみて何か気が付かないか?」

「え? うーん……なんでしょうか?」


 悩みながら辺りを見回す彼女。


(少し難しかったか。久しぶりにここを見る彼女なら、と思ったんだけど)


 少しヒントを出そう。


「ソフィーが店をやっていた時、何かが足りなくて困ってたよな」


「あ! そんな……」


 目を見開いて驚くソフィー。


「緑ですよ! アルドさん! 薬草がここも……あっ! あっちにも」


 見つけた薬草に駆け寄ってしゃがみ込むソフィーは嬉しそうだ。


「そう。ダンジョンは周囲の土を元気にするんだよ」


 地脈からDPを得ている――と聞くと悪いものの印象があるけど、得られるDPはごく一部で、実際は吸い上げているというよりはその流れを調整してそれを周囲に還元しているというのが正しい……らしい。


「え? だったらこの辺りの土地が痩せているのって……」

「どこかの誰かさん達がこの大陸のダンジョンを根こそぎ潰してきた成果だな」

「そうだとしたら教会は……」

「人類の――いや、この世に生きる全ての者の敵だ」

「そんな……」


 まあ、奴らに言わせればこうして土地が荒れるのもダンジョンのせいになっているんだろう。実際ダンジョンを攻略した後にはその土地は荒れるんだから、ダンジョンが何かしらの悪いモノを残した――とかなんとか言えばそれっぽくはなる。


「でも! ここにこうやって証拠があるんですから、それならそうと説明すれば分かってもらえるんじゃ?」

「どうだろうな……下っ端は説得できたとしても上がな。俺の感じた印象だとあの組織は上と下の思惑は全く違うからさ、下の者はダンジョン憎しだけど上の者はそうじゃない。せっかく築き上げた正義・・の立場を手放すとは思えない。それに……」


 俺が言い淀んだのを心配してか薬草から目を離して立ち上がるソフィー。


「それに?」

「元はと言えばこっちが悪いのは事実なんだ。暴走スタンピードなんてやり方で侵入者の気を引こうとしたのがそもそもの間違いだったんだよ」


 一体、何百年、あるいは何千年前からこの世の仕組みがこうなっているのかは分からないけど、これだけは確実に言える。


「そう……ですよね。なんでそんなやり方にしたんでしょうか……」

「それは分からなかった。学園で色々調べたけどサッパリだ。まあ、そんな訳もあって俺はここで死ぬわけにはいかないんだよ。この土地で暮らす人々の為に、なんてな」

「もうっ。なんですか、それ」

「いや、ごめんごめん。せっかくのお出掛けなのに真面目な話になっちゃったからさ。情報収集なんてさっさと終わらせて、どっかで飯でも食おう」


 俺がそう言うと彼女はふふと笑いつつ。


「はい。そうですね」


 と笑顔を見せてくれた。


「じゃあ、行こうか。この時間なら丁度いいはずなんだ」


 こうして俺たちは最初の目的地に向かった。



――――――――――



「珍しいこともあるもんだ……」


 しばらくして教会を訪れた俺たちの目に飛び込んできたのは、メリアさんと一緒に教会前の掃除に励む司祭の男性の姿だった。

 確かあのエリアは教会の人間じゃない掃除出来ないんだったか。

 初めて見る人だけど服装から見ても間違いないだろう。


(あの司祭も教会の人間だもんな。おかしなことではないが……)


「邪魔だな。メリアさんにだけ話を聞ければいいのに」

「なるほど。あれがメリア……さんなんですね」


 緊張しているのかソフィーの表情が険しい。

 ソフィーに軽く状況を説明する。


「じゃあ、いつもと違うということですね……それならやっぱり」

「そういうことなんだろうな。仕方ない、行ってみるか」


 ギフトを鑑定するだけの男だ。怖れる必要は無い。

 一応メリアさんと司祭の距離が空いたタイミングで突撃する。


「おはよう。メリアさん」

「アルド君。おはよう。えと、そっちの人はパーティの人?」

「おはようございます。ソフィーって言います。アルドさんとは家族みたいなものです」


 ソフィーさん!? いや、協力者だし間違っては無いけども。


「えっ? そ、そうなんだ……」


 メリアさんも困惑しているじゃないか。


「あー、えー、あっちの人って司祭様だよね、何かあった?」

「えっとね、この前のルイーゼ様覚えてる?」

「ああ。この前の聖騎士様だよね」

「うん。もうすぐそのルイーゼ様の隊が任務でここに来るからそれでかな」


 と聞いたところで、こちらの視線に気が付いた司祭のおっさんがこちらに向かってくるのが見えたが、まだいいだろう。


「へ、へぇ。その、もうすぐっていつか分かる? あと任務ってのは」

「ごめんね。詳しくは言えないんだけど、アルド君達みたいな冒険者さんには嫌な話だと思う。ってここまで言ったら分かっちゃうよね」

「あぁ、そうなんだ……」


 分かってはいたけど、実際に聞くと辛いものがあるな。

 そうこうしているうちに司祭がすぐそこまで来た。


「君たちはメリア君のお友達かね?」

「あ……えと」


 セリフこそ普通だけど、この人も教会関係者にありがちな冒険者嫌いらしく、あまり近づきたくないのかちょっと遠いところから話しかけてくる。


「おはようございます、司祭様。以前メリアさんにお世話になったので、今日はその時のお礼を言いに来たんです。ですよね、メリアさん?」

「えっ……は、はい。そうなんです」

「ふむ。それはお役に立てたようで何より。しかし、その……なんだ」

「ああ、すみません。朝のお勤めの途中なんですよね。用も済みましたので我々はもう失礼します」

「ん、ああ。気を使わせてしまって済まないね。今週は来客があるものでね。しかし来週ならば大丈夫だろうから、是非気軽に教会を訪ねてくれたまえ。困ったことがあれば相談に乗れるやもしれぬしな」


 思っていたより普通な対応に拍子抜けしたものの何とかその場を後にする。

 聖騎士隊の来る時期については分からなかったが、来ることは分かったので良しとする。ハジメが言う通り明日か今日の夕方だと思っておけば間違いないだろう。


 教会から十分離れたところで軽く息を吐く。


「ふう。じゃあ次だな」


 俺たちは次の目的地である薬師ギルドに向かった。

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