第64話 殴り込み1
「頼むよ! 毎日生きた心地がしないんだ! 召喚する配下もそうだけど、罠とかどうしたらいいのか……」
『はっ! だからてめえは雑魚だってんだ。罠に頼ろうって時点で終わってるんだよ。いいぜ、そんなに俺様のダンジョンが見たいってんなら来いよ』
「凄い! 罠も使わずに侵入者を撃退しているなんて! そんなことが……」
『俺様くらいになりゃ簡単よ。ちょっと前に俺の部屋に人間が来た時もよぉ、ちょっと凄んでやったらすぐに逃げて行きやがったからな。まあ、お前には無理だろうがなぁ!』
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「今思い出しても腹が立つ」
俺はサラマンダーのブレンネルとの通信のやり取りを思い出していた。
扱いやすい奴で良かった。罠が無いという裏付けも簡単に取れたし。
というか部屋まで攻め込まれてるじゃねえかよ。
「気持ちは分かるけど、ここでその話は止めとこうよ。言葉は通じてないみたいだけど万が一があるしさ」
隣に立つエルーシアは苦笑いしながら俺を諫める。
俺たちは今、かねてより計画していた殴り込みに来ている。
前にリーゼの所に行ったときに検証した結果から考えると、俺がここでどんな発言をしてもそれがあいつに伝わることは無い。
俺は今までダンジョンマスター同士ならどんな時も言葉が通じると思っていたが違うようだ。学園に居た時とは違い、相手に対して話しかけるという意思が無いと翻訳されないということが分かった。この仕様は翻訳の指輪を装備していても同様だ。
「ここの名前付きと話すのはまずいのよね?」
リザが周囲の警戒をする中、ルカが確認のため聞いてくる。
「ああ、その場合は言葉が通じるみたいだから、そこをモニターで観られていたらあいつにも会話の内容が伝わるはずだ。けど許可取りの通信の時に簡単な変装もしておいたし、敢えて名乗らないでおけばたまたま言葉が通じる人間って思うだけで終わりになりそうな気はするけどな」
人間の声の聞き分けなんて出来ないだろうから「ん? この声はあの人間!?」とはならないだろう。俺が変装してても気が付かないような奴だし。
滞在DPが入らないから侵入者として違和感があるが、他にも侵入者が居るならそちらと区別がつかないので問題無い。転移したことで相手からしたらいきなり人間が現れることになるけど、この仕様のおかげで来たことが相手に分かり辛いので、転移石は俺の殴り込みという目的に非常に適したアイテムと言える。
「そろそろ動かぬカ? あまり時間が無いのだろウ?」
長髪黒髪の美青年になったリザが言う。
エンペルとはまた違った感じの歴戦な感じが出ている。
なぜどいつもこいつも人化すると恰好良くなるのか……
と、それは置いておこう。
「リザの言う通りだな」
予算の都合で1日用の石を使った。人数掛ける1000DPだからこれだけで4000DPも使っている。リナさんパーティで臨時収入があったとは言っても、なるべく効率的に動かないとな。
転移石の副次効果といえばいいのか、ありがたいことに転移先を選ぶ際に1階層の地図が表示されるので、当然ばっちり書き写してから来た。
地図を見ながら取り敢えず外の確認をするために入口に向かうことに。
侵入者の近くには転移できないが、幸い転移先にはかなり入口に近い部屋を選ぶことができたので歩けばすぐだ。人が少ない時間帯というよりは、単純に広いからだろうな。DPを罠に割いていないのだから広くできるのも頷ける。
「うん、全く見覚えが無いな」
入口から外に出て辺りを見回す。一応このダンジョンがどこにあるのかが分かれば今後何かに活用出来るかもと思い、遠くに見える山を見たもののそう甘くは無かった。
知らない場所である可能性のほうが遥かに高いのは分かっていたからこれは仕方がないと納得する。
冒険者とすれ違うことがあればそれとなく聞いてみてもいいかもしれないな。
「なんか変な臭いがするね」
「これは……火山が近いのか?」
エルーシアが言う通り何やら卵が腐ったような臭いがする。火山の近くではそんな臭いがすると以前に書物で読んだ気がする。
「火山ねぇ、聞いたことあるかも。良い場所を選べたんだね。いいなあ」
学園では大まかな場所の希望が出せたっけか、成績順だったから俺には関係無い話だったが。
そういえばエルーシアも俺と同じセントランド大陸だったけど、成績が悪かったんだろうか? 成績が悪い生徒については把握していたつもりだ。それから考えると彼女は特別成績が悪いなんてことは無いと思っていたけど……
今までなんとなく聞かずにきたけど戻ったら聞いてみようかな。いや、やめておいたほうがいいか、ちょっと悲しそうな顔をしているもんな。
「土地的に火の魔素が得やすい場所だな。あいつらしい」
結局表情には気が付かない振りをするしか無かった。
「そう? 皆そうすると思うけど?」
「あいつは種族特典で常に火の魔素が得られるだろ。だったら火には困らないから、あえて別の場所を選ぶってことも考えるけどな」
「んー、それは考えたことなかった。自分の強みが生かせなくなったら嫌だし、やるのは勇気が要るなぁ」
基本的に何かしらの属性を持つ彼女達はそう感じるのか。
「確かに中途半端にはなるかもしれないけど、例えばそうだな……こことは逆に雪山にダンジョンがあったとして」
「うんうん」
「冒険者は当然厚着をして挑むはずだよな?」
「まあ、ダンジョンも寒いと思うよね」
「そこに火の魔物や暑い階層があったとしたら?」
「そりゃ脱げば――あっ! 荷物が増える!」
「その通り」
俺はニヤリとしながら答える。
俺のダンジョンのように日帰りで気軽に稼いで貰おうなんて作りのダンジョンはまず無いと言って良い。
普通は何日も探索する前提で準備をするから冒険者の荷物は多くなる。
食料もそうだけど水だけでもかなりの重さになる。魔法で水を出せるパーティならまだマシだけど、基本的に魔力は温存するものだから持ってくるパーティがほとんどだ。でなければ魔力回復薬を常備しないといけないが、良いものはその分値が張る。
そのうえ寝具や換えの装備も用意するとなると荷物持ちを雇うことを検討しないといけないが、パーティは人数制限があるのでそれも厳しい。
ダンジョンに吸収されることを考えたら一度どこかに置いておくことも出来ず、持ってきたものは全て持ち歩くことが要求されるので、荷物が増えることは冒険者に対してはかなりの嫌がらせになる。
(荷物が消えない、を売りにした預かり所を作ってもいいかもな)
いいことを思いついたな。メモっておこう。
「じゃあ、あの通路もそのため?」
「ちょっと違うけどあれはあれで嫌がらせの一種だな」
エルーシアが言っているのは、リナさんパーティ事件の時に活躍した落とし穴の先に用意した通路のことだろう。
温度を高く設定した長めの通路の先に逆に寒い通路を用意しただけの簡単設計。魔物を召喚せずに比較的少ないDPと魔素で作れたので、そこそこ気に入っている仕掛けだ。出来れば風を吹かせたかったけど風の魔素が少ないため断念した。
ある寒い日の実家での剣の稽古の後、冷たい風が吹いたことから着想を得た。
「汗をかいた後に寒い風に当たるとな……泣きそうになるんだよ」
「そ、そうなんだ」
人魚の彼女には想像が付きにくいかもしれないが、人間は魔物に比べて温度変化に弱い生き物だ。まだその通路は活躍はしていないけど、こういったことで地味に体力を削るのも重要だと思う。
そんな時、ふと横を見ると髪を梳いているルカが目に入る。
「すまん、また話し込んでたな」
「あら? もうちょっと話してていいわよ? 今からソフィーさんみたく三つ編みを試そうと思ってたから」
「う……悪かったよ」
「ルカちゃん……相当暇だったんだね。ごめんね」
魔物達に暇とかの概念はあるのか分からない。本当に気にしていないのかもしれないが……
「いや、本当に悪かったよ」
「本当にいいのに。ねえリザ?」
「うム、マスターが良いなら我々は構わヌ」
まあ無関係な話じゃ無かった訳だし今後気を付けるということで。
「よし! じゃあ行くか!」
「そうだね!」
若干足早にダンジョン内に戻ることにした。
37話時点で見えていたはずの罠が
今は見えない事についての説明を57話に追加しました。




