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第53話 その頃の聖騎士

1話です。

「お疲れ様です。ルイーゼ隊長」


 枢機卿猊下への報告も済ませ、隊舎に入ると部下の女性隊員から声が掛かる。


 幼い頃に教会に引き取られて以来、住み慣れた隊舎のラウンジ。そこに並んだテーブルの1つで寛いでいる彼女の隣の席に着席した。

 この隊舎は別の隊も使っているから、本来ならもっと多くの人間が居るはずだが、今は他の大陸に出払っているので貸し切りだ。まあ、そうでなくても長年暮らしていると自然に使う場所、座る位置なんてのは決まってくるので指定席のようなものだが。こうしてこの席に座ると、帰ってきたという実感が得られる。


 今回自分が連れてきた少年もダンジョンへの復讐を誓っていた。生活が落ち着き次第聖騎士を目指し訓練の日々を過ごすことになる。

 こうやって若い子が来るのを何度も見てきたが、何度見ても妙な気分だ。仲間が増えて喜ばしいと言う者も居るが、その人にしても連れてきたあの子にしても、自分と同じように故郷を失うという悲しい出来事があったから今がある。そう考えると複雑な気持ちになる。


「1人か。他の皆は?」

「いつも通りです。各々自主練しているはずです。敷地内には居ると思います。予定通りなら今日か明日にはお戻りになると思っていましたので、遠出はしていないはずですね。呼びますか?」

「いや。そういう意味で言ったのではないから大丈夫だ」


 敷地内といっても大神殿内のことだろう? 勝手知る場所とはいえ広すぎて全員見つけ出すまでに数時間はかかるだろう。そんなことはさせられない。副隊長の彼女がいれば今日の所は十分だろう。


「留守の間皆には苦労を掛けたと思う。何か問題は無かっただろうか?」

「問題ありません。強いて言うなら隊長に問題有ですね。いつも言っていますけどもっと隊長らしくして下さって良いんですよ?」


 帰るなりこれだ。彼女はこう言ってくれるがどうにも落ち着かない。

 聖騎士隊は比較的年齢が近い者同士で編成されるが、自分は比較的若く隊長に任命された。そのおかげで部下は全員自分よりも歳がわずかに上だ。

 日々の研鑽が認められてありがたいと思う反面、こういった部下たちとの接し方においては困惑してしまう。

 今だってそれなりに意識した話し方をしてみたのだが、彼女にとってはまだ気に入らないらしい。


「そうは言うがな……それを好ましく思わない者もいるじゃないか」

「あんなのは放っておけばいいんです、先を越されて僻んでるだけですから」


 隊の部下の1人の男の顔を思い浮かべる。彼は隊では最年長で私よりは5歳ほど年上ということもあってか、若くして隊長になった私のことを快く思っていない。同じ隊の男性隊員に私のことを「女の癖に――」と愚痴っているということは聞いている。

 今の所は私の指示に反発するようなことは無いので、彼女の言う通り気にしなければいいのだろう。そもそも聖騎士として選ばれるくらいなのだからそのような行動をする者ではないが。


「分かっているが……せめて女だけで組めたらと思うよ」

「本当そうですよね。でも我々が派遣されるような所って奴等・・が居る可能性が高いですからね。出来立てのダンジョンばかりならそれでいいんですけど」


 それなりの規模のダンジョンではインキュバスやサキュバスといった特定の性別を魅了してくる魔物が出現することがある。その場合メンバーが男女どちらかに偏っていると相手次第では詰んでしまう。そうした事態を防ぐために基本的に部隊は男女混合で編成される。それは従騎士隊も例外ではない。

 冒険者達はあまり気にしていないが、私でも知っているような有名なパーティはちゃんと心得ているのでメンバーは男女を揃えている。


「出来立てか。そういえばあの司祭に頼まれていたな」

「司祭? どこの司祭にです?」

「デサルトの教会だ。うーん、先程の報告の際にお伝えしておくべきだった」


 猊下にはメリア君の労働環境については忘れず伝えたというのに……司祭の要望については抜け落ちていたな。


「司祭が聖騎士に頼み事ですか?」

「ああ。ダンジョンを攻略して欲しいと言われたよ」

「あの辺りは確か、ダンジョンが2つ出来たんでしたっけ。でも従騎士隊が向かったはずです、戦力としては十分では?」

「司祭の事情・・だよ」

「ああ、そういうことですか」


 私の言い方で彼女は大体を察したのか肩をすくめ呆れている。


「でも伝え忘れたってことは、もしかして乗り気ですか?」

「いや、ダンジョンは無くなっているだろうから心配していない。でも、別件で気になることがあるから、それと絡めて出撃の申請をしてみようか」


 猊下のあの反応を見ると、デサルト教会の増員の件は問題なく動いて頂けると思うし、その人材の護衛も兼ねてということならば申請も通りそうだ。


「隊で行くんですか?」

「嫌ならまた私だけで行くが……」

「いやいや! 連れてって下さい。聖都は暮らしやすいですけど、正直言って滅茶苦茶暇です。何よりダンジョンがあるかもしれないなら行かない手はないです!」

「それならその方向で話をしてみよう。1日に何度もお時間を取らせる訳には行かないし、日を改める必要はありそうだが」


 そうと決まればもう一度大神殿に行って面会の申し込みだけはしておこう。


「どちらへ?」


 おもむろに席を立つ私を見上げながらの質問に返事をする。


「大神殿だ。申し込みだけしておく。もうしばらくはここに居るだろうか?」

「はい。そのつもりですよ」

「だったら丁度いい。面会時間がいつになるか分からないが結果次第で皆を集めてもらうかもしれない」

「分かりました。お待ちしています」

「助かる。その後だけど悪いが今日は休ませてもらうとするよ」

「ええ、長旅でお疲れでしょうし。是非そうして下さい」




 その翌日の夕方。

 面会の結果を隊のメンバーを集めて伝えた。


「――というわけで、デサルトまでは教会の職員の護衛。その後は北の大陸にあるダンジョンの攻略のためハーフェンより海を渡る。出発は増員の者達が集まり次第になるから2週間後位だろうとのことだ。正確な日にちは追って知らせる」


 護衛だけでなく北の大陸のダンジョン攻略も命じられたのは意外だった。流石は猊下、離れた大陸のダンジョンの情報も集めておられるなんて。

 メンバーの顔を見ながら伝えると、副隊長から質疑が上がる。


「そのダンジョンの特徴や属性などの情報はありますか?」

「報告によると遺跡型で闇属性寄りだそうだ。そのため神殿が保管している光属性装備の使用の許可が出ている。一覧を回覧するので希望の物があれば各自申請しておいて欲しい。当然普段の装備とは使い勝手が違うだろうから、出発までに習熟を怠らぬよう努めてくれ」

「もう一つお聞きします。途中にデサルトやハーフェンにダンジョンが確認されていましたが、こちらへの対応はどうなるのでしょうか?」


 聞かなくても昨日話したから彼女は知っているが、その上で敢えてのこの質問は他のメンバーへの配慮だろう。


「従騎士隊が既に派遣されていることは知っての通りだ。まずあり得ないとは思うがもしも苦戦しているとなれば、時間が許す限り手を貸すこともあり得る。確認されているダンジョンはどちらも出来て間もないダンジョンだ、攻略にはそれぞれ半日も掛からないため、ちょっとした寄り道だと思ってくれ」


 他に質問が無いようなので今日は解散とし出発の日に備えることにした。

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