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第49話 お礼をしないと

 『見学用転移石』


 ――ダンジョン運営開始から一定期間最下位であった者限定の『順位特典』。通信機能の解放とともに使用可能。同窓のダンジョンマスターに通信にて承認を得た場合に限り使用可能であ――


 と説明を一通り読んだが……


「いきなり馬鹿にされたんだが……怒っていいか?」

「あはは……」


 苦笑いするエルーシア。ついにカタログからもいじめを受けるのか俺は。


「でも、学園は卒業したんですよね? なのにまだ順位とかあるんですか?」

「あるみたいだな……」


 ソフィーの疑問も尤もだ。評価方法には未だに納得はしてないが、学園在学時ならともかくダンジョン運営開始からというのが気になる。

 そもそも、2つのダンジョンの力を合わせた結果とはいえ、教会の勢力を退けた俺を最下位扱いなんて納得がいかない。出来て数年経つダンジョンならまだしも、ようやく2ヶ月が経とうとしている時期での成果なんだから、むしろ一番貢献していると言っても過言ではないと思っている程だ。


「どういう評価方法なんだろうねー」

「さあな。最下位なんだから他所を見て勉強しろってことなんだろうが」

「それなりにDPが必要ってのが優しくないですよね」


 この石は文字通り他所のダンジョンに見学に行ける。

 だが、出すのにそれなりのDPが必要な上に時間制限付き。1日用で1000DP、1週間で5000DPだ。

 期間が長い物だとちょっとお得ではあるのだが、最下位で困ってるんだからそこは無料でいいだろうに。もっと期間が長いものもあるが当分はそんなに長くダンジョンを留守にする気にはならないな。


「マスター、通信の機能と関係があるのではないでしょうか? 説明にもそのようなことが書かれていました。お試しになっては?」

「そうだな、少し試してみるか」


 ハジメの提案通りにカタログを操作して通信の機能を呼び出すと、覚えのある名前が並んだ一覧が表示された。

 それぞれのダンジョンマスターの名前の前と後に数字が書かれている。


「最初のが順位で最後のは階層数か……上に行けば行くほど階層数の数字が大きいってことは、階層数で順位を判断しているってことか?」


 呟きながら一覧を確認する。

 俺の名前はもちろん一番下。次がコボルトのシュナイダー君で階層数は4になっている。まあ……彼なら納得だな。俺が居たから最下位を免れただけで、人間の中じゃゴブリンと並んで雑魚扱いされている種族の一つだしな。もちろん俺ももっと早い段階でコボルトは召喚出来るようになっていたけど、同窓にいた種族は何となく避けている。学園に居た同級生達とは別の個体だから気にしないでいいことは頭では分かっているのだが。


 俺の順位が46位になっている。元々50名のところに俺が編入して51名になったと聞いていた。それが46位ということは……


「4つのダンジョンがすでに攻略されたってことか……」

「エルーシアちゃんを抜いて考えたらそうですよね」

「あたしの名前が無くなってるもんね」

「マスターのように他のダンジョンのコアを破壊した者が他に居る可能性も無いとは言いきれませんが……」


 ハジメが言う通りその可能性もあるか……


「どうかな……あたしは歩けなかったからなおさらだけどさ、普通ダンジョンの外に出ようなんて思わないよ」

「そういうもんか?」

「うん。だって学園から暴走スタンピードのせいで立場が悪くなったって聞かされてるんだよ? こっちで生活している子たちがたくさん居るのは知ってるから、出歩いても問題無いとは分かってても、みんな外に出るのは何となく避けてたと思う」


 彼女が言うように、長い年月の中それぞれ何らかの理由でダンジョン外に住み着いた種族もたくさん居る。現在、冒険者達が生活の糧にしているのがその末裔達で、人間の間では魔物って呼ばれているという訳だな。

 俺は人間だからなんの気負いもなく外出することが出来たけど、魔物達からするとそういう感じなのか。


 他の所に行ってコアを壊してやろうなんて考える奴がそうそう居るとは思えないから、ハジメが指摘した可能性については気にしなくてもいいか。俺だってやりたくてやったんじゃなくて完全に事故だったし。


 とにかく最低でも4つのダンジョンが既に攻略されたという事実は心に留めておいたほうがいいだろう。聖騎士達が手柄を求めて他の大陸に行っているとキースさんが言っていたが、こうして見てみるとよく分かるな。

 ここが一番攻撃が激しいと思っていたが……他の大陸も危険さは変わらないのかもしれない。

 教会がこの大陸のダンジョンを攻略し尽くしていたのが俺にとってはかえって良かったというのは何とも皮肉なことだ。担任教員にもしも会うことがあったら一言礼を言ってやってもいいかもしれないな。


 いや、と言うか――


「アルド君さ、結局この石どうするの?」


 俺がいいことを思いついたと同時にエルーシアが話しかけてくる。


「今はDPがきついから保留だな。でも是非使ってみたいとは思ってるよ。今ちょっと学園の担任について考えていたんだけどさ、よく考えたらお世話になった奴らが他にもたくさん居るからな。お礼・・を言いに行かないといけないだろ?」

「それはいい考えですね。それにマスターは冒険者でもありますから、何らおかしなことではないでしょう」


 女性陣はよく分かっていないようだけど、俺が不敵に笑いながら言ったのもあってハジメはその意図を理解してくれたようだ。

 こうなってくると最下位で良かったな。素晴らしい特典を貰ったものだ。


「意外だな。反対されるかと思ったが」

「マスターのレベルが上げられる可能性があります。それだけでも危険を冒すだけの価値があるかと」


 そう。

 町周辺での魔物の強さに期待できない以上は、遠征するしかないと思われていたけどこうなってくると話は別だ。エルーシアのところの魔物を倒してレベルが上がったことから考えると、他のダンジョンの魔物を倒せばレベルが上がると考えて間違いないだろう。俺がお礼・・を言う必要があるような奴らが運営するダンジョンの魔物をいくら倒したとしても、俺の心は痛まないだろうし。


 2人も俺たちの会話で意図に気が付いたようだ。


「ああ。そういうお礼ね……」

「でも……アルドさんってバレたらまずいんじゃ? 見学に行ってるんですしそんなこと出来るんでしょうか? それに危ないことはして欲しくないですし……ハジメさんだって心配じゃないんですか?」

「もちろん心配ではありますが、説明を見る限りでは数さえ用意出来れば複数で転移が出来ますので、エンペルやブイと共に赴けばさらに安全でしょう。エルーシア様のダンジョンの時の状況を聞くに、侵入者という立場であれば強い種族でも問題なく入ることが出来そうですし、理想はロインも連れて行って頂ければより安心なのですが」


 その布陣なら確かに安全だな。

 ミノタウロスのロインが居てくれれば安心だけどそうなるとここの守りが心配だから、実現したとしても当分先かな。


 俺のダンジョンと同様にどこに行ったとしてもダンジョンのルールがある。俺みたいに規約を掲示してない限り、強い魔物がいきなり出てくることはないだろうから、浅い階層から慣らしていけば問題無さそうだ。


 だけど――


「ソフィーの言う通り、問題はバレることなんだよな……まあ、バレたところで立場上の問題はなさそうだけど、承認を得ないと転移出来ないとなると、2回目を許可する奴なんて居ないだろうから1か所につき1回だけになるのか」


 初回は媚びへつらって頼めばいけるような気はしている。


「おそらくですがそれも問題無いでしょう。少し変装、そうですね……マスターも人化の指輪を装備して頂いて成長した姿になって頂くだけでも大丈夫かと」

「それだけでいいのか?」

「マスターが魔物の見分けがつきにくいように、我々からしてもそれは同じです。ですから少し変わっているだけでも問題無いかと」


 これにはエルーシアが反応した。


「そうかも。最初はアルド君だって気が付かなかったな。面識は無かったけど顔は見たことあったんだけどね」


 確かに気が付いていれば入った瞬間に真っ先に連絡してくれていたよな。


「正直申しますと私の場合は男か女か、あとは装備でしか人間の見分けがつきませんでした。最近はようやく見慣れてきたので分かりますが、他のダンジョンマスターの皆様が久しぶりに見る人間を見分けられるとは思えません。通信の時に行くことだけを伝えて正確な時間を言わなければただの侵入者としか思わないでしょう」


 俺も最初はそうだった。詳しく見ればみんな微妙に違うってことが分かるし、この微妙という表現も彼らからしたら全然違うと言うだろうし。


「そういうことなら安心だな。ダンジョンマスター相手なら翻訳は必要無いだろうし、人化と転移石がメンバー分あればいいのか」


 今の稼ぎなら1週間ほどで溜まるか。あんまりやるとダンジョンの拡張が疎かになるからそこは注意だな。


 思わぬところで新しい目標ができた。


 カタログの確認は一通り出来たので、残るは実際に『通信』してみるくらいか。


 俺は改めてカタログに表示された通信相手の一覧に目を落とし、その相手の名前を見つけるとその名前に触れるため指を伸ばした。

ようやく殴り込みに行く準備が整いました。

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