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第44話 お嬢様

今日は1話です。

「俺がリ……じゃなくて、エリザベスさんと出会ったのはエルーシアのことを知る半年程前だったか」


 思わず立ち上がったものの長くなるので座り直しつつ俺は続ける。


「学園で俺が物置みたいな所で生活してたってのは言ったよな?」

「それは聞きましたけど……」


 ルカにストーカー呼ばわりされた時の俺の説明をこっそり聞いていたらしいが、あの時は所々端折ったし、知られて困ることでもないのでこのダンジョンに戻って来るときにエルーシアにも話した。


「そう言ってたね。で、アルド君さ、何か言いかけたよね。『リ』って何?」


 見逃して貰えなかったか……


「それは……今はあまり重要でないというか、誤解が深まりそうと言うか……」

「そんな言い方されたらもっと気になります!」


 ソフィーがずいっと顔を近づけて訊いてくる。


『なぜ女性が絡むとマスターはこうも……教会を相手にする時のマスターはどこへ行ったのやら……』


 エンペルが俺だけに念話で言ってくる。お前も興味津々か!


「別に隠すようなことじゃないから話すのは話すよ……けど順を追う必要があるから先ずは落ち着いて、ね?」

「分かりました……まずは聞きます」


 姿勢を正すソフィー。分かってくれたようでなによりだ。


「じゃあ続けるぞ。当時はとにかく睡眠不足だったから、授業が休講の日にまとめて寝て凌いでいたんだけど、他の連中がそれに気が付いたらしくてさ、わざわざ俺の部屋の近くに来て自主練の名目で騒ぎ出したんだよ。暇な奴らだろ?」

「それは……酷いね……」


 ずっと嫌がらせはあったが編入して半年くらいのその頃がピークだったな。


「だから俺も場所を変えることにしたんだ。戦闘が大好きな連中が来なくて、万が一場所が知られても騒がれない、というより騒げない場所にな」

「資料室みたいな所ですか? 薬師ギルドにもあるような」

「正解。邪魔される心配無いだろ?」

「確かにそこなら騒いだら怒られるね。あたしも資料室には行ったことないや」


 ダンジョンに関することや、様々な種族に関することが書かれた本が多かった。文字を使う種族用に同じ内容でそれぞれ違う文字の本が置いてあるとはいえ、内容はほとんどそれだけだからそれほど広くは無かった。

 入ってすぐの読書スペースには4人掛けのテーブルが1つと、奥の方に1人用の机が3席だけ。人型の生徒向けの資料室だからそれで十分なのだろう。

 水棲の種族用の資料室はどんな感じか少し気になったけど、行ったことないなら聞いてもしょうがないか。


「じゃあ、そこでそのエリザベスさんという方と知り合いになったんですか?」

「そういうこと。ある日俺が――」


 俺は当時のことを思い出しながら話す。



――――――――――



 物音に気が付いて目を覚ます。


(薄暗い……もう夕方か)


 試しに来てみた資料室。

 その奥で見つけた机に突っ伏して寝ていたせいで体が多少痛むが、それでもいつもよりは断然快適に過ごせた。いい場所を見つけた。この時間ならば自室に戻ってもいいだろう。連中は常に全力だからこの時間になると疲れるのか休むのは早い。


(ダンジョンマスターになれば眠らなくて良くなるとか、想像が付かないな)


 伸びをしてから席を立ち、机に積んでいた本の山を抱えて近くの棚を目指す。誰かに見つかった時用に持って来ておいた本を戻さないといけない。

 人型向けの部屋ではあるが、人間向けの本など無いので適当にごそっと抜いて持ってきた。言葉は通じるのに読めないとは変な気もするが、読むくらいなら寝るしむしろ都合がいい。


 棚に本を戻し終え入口に向かう。入口が1か所なのは微妙だな。


 そんなことを考えながら立ち並ぶ本棚の間を抜けると、入口側の机に座って本を読んでいる少女とその後ろに控えて立っている執事のような男性が目に入り、思わず立ち止まる。


(そういえば音がしたな。まいったな……何を言われるか)


 見たところ人間のようだけど、学園ここにいる以上は違うのだろう。

 薄暗い中、照明の魔道具も点けずに本を読んでいる姿は本来異様だが、暗くてもちゃんと見える種族なんだろうとすぐに思えるようになったのは喜ぶべきことなのだろうか……


 薄暗くても分かるほどの透き通るような白い肌……といえば聞こえはいいかもしれないが、ちょっと白過ぎるような。チラりとこちらを一瞥し、すぐに手元の本に視線を戻すところを見るに、どうやら「無関心」派のようだ。

 とりあえず文句を言われる訳ではなさそうなので一安心だ。

 紫色のロングの髪に一瞬見えた赤い瞳、仕立ての良さそうなドレスを着ているのもあってまるで良くできた人形のような印象を受ける。元貴族の俺が言うのもなんだが、お嬢様って感じだ。後ろの男性の感じからしても間違い無いだろう。


(魔界にも身分とかがあるのか……)


 しばらく突っ立って見ていたのが良くなかった。


「用が済んだのなら出て行ったらどうかしら?」


 思っていたよりも艶のある声で文句を言われてしまった。

 椅子に座ってはいるが足がギリギリ床に着いていないほど小柄な子だったから少し意外だったが、顔を上げこちらを見る少女の切れ長の目にはむしろよく合っているのかもしれない。改めてみるとかなり整った顔立ちだな。


「何とか言いなさい。聞こえているでしょう?」


 まずい。せっかくの「無関心」派が「嫌い」派になってしまう。


「あ、ああ。お邪魔をしてしまって、申し訳ありませんでした」


 見た感じだけど、家柄は俺の実家の男爵家よりは向こうの方が確実に上だろう。所属している国が違うから一概に言えないが下手に出ておいて間違いない。

 そう思いそれなりに丁寧に謝罪する。


「別に。邪魔ではないわ。こちらこそ起こしてしまったからお互い様ね」

「いや、そんなことは……失礼しますっ!」


 そんなことは無い――そう言おうとした所で、俺を見る執事さんの視線が我慢できないレベルで怖くなって来たのでその日は慌てて逃げ出すことにした。



 次の休講日。


(あの子は今日も来るのだろうか?)


 可愛かったからまた会いたい――ではなく単純に執事さんが怖い。

 魔界の住人の年齢なんてよく分からないが執事にしてはかなり若い感じだった、相当出来る人なんだろうか。完全に悪い虫を見るような目だったな……


(いや、今日も来るとは限らないし。だとしてもあの子とは一言も話さずに離脱すればあの執事さんも文句ないだろ)


 俺は自らを奮い立たせて資料室に向かい再び寝た。せっかく見つけた睡眠スポットを手放すわけには行かない。


 そして先日と同じように夕方に目覚めた俺。

 同じく物音がしたので行くと、案の定2人の姿があった。

 予定通りに会釈だけをして去ろうとした時。


「待ちなさい」


 待てと言われて待つ奴が居るか!


「はい。何でしょうか」


 居ました。


「あなた、人間なのよね?」

「え、ええ。そうですね」


 いや、そんなことよりもさ……俺は執事さんの方をチラチラと伺って返事をする。そんな俺に気が付いた彼女はため息を吐き執事さんに向かって言った。


「それはやめなさいと言っているでしょ? 少し下がっていなさい」

「申し訳ございません……」


 下がっちゃうのかよ……もっと頑張ってくれよ。それはそれで困るけども。


「ごめんなさいね。悪い男ではないのよ」

「はい。もちろんです!」

「何よそれ。私はエリザベスよ。あなたは?」


 無駄に元気よく同意する俺にくすりと笑いながら自己紹介をされた。


「アルドといいます」

「そう。よろしくね」

「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」

「引き留めてごめんなさい。今日はもう行っていいわ」


 許可が出たのでとっとと逃げ出す俺。


(何だったんだ、一体……)


 上級貴族? の考えることはよく分からん。

 最後に見せた花が咲いたような笑顔を思い出しながら俺は自室へと急いだ。

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