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第39話 噂の偉い人

今日は2話です。

1話目。

 遠目に騎士たちを見つけた俺たち。

 見つからない距離のところに隠れてルカさんのモニターと地図で状況を確認。

 この位置からならボスルームまで走れば2分弱といったところか。


 騎士達はボスルーム手前の部屋とその前の部屋の2つに分かれて休憩を取っている。足首程まで水が溜まっている場所が多いが、その場所を避けて腰を下ろして談笑している。音声も拾っているので状況が分かった。しばらく前から魔物の湧きが止まったことでダンジョンの力が尽きかけていると思っているのか上機嫌だ。


『ここを攻略すればまた聖騎士に近づける』

『ああ、町中の酒樽を空にしねえと』

『ボツリーヌ! 聖都に戻ったら結婚しような!』

『ちょっと! レジオネス! こんなところでやめてよ。もうっ!』


 2つの部屋は声が届く距離にあるため時折声を掛け合っている。

 なるほど。ボス攻略組のヒーラーさんと手前の部屋の男はカップルらしい。

 周りの騎士達公認なのか他の騎士も祝福している。ヒーラーさんの顔が真っ赤になっているから、返事はきっと良いものになるのだろう。


(残念だがお前らは聖都には戻れない。同じ所には送ってやるけどな)


 物語の悪役みたいなことを考えつつ様子を見ながら色々と仕込む。


「ルカさん、エルーシアの様子はどう?」

「かなり緊張しているわ。私が話しかけても上の空よ」


 まあそうだろう。一応作戦は伝わっているはずなのであとはタイミングを見計らって実行するだけだ。


「連中の合わせてこちらも動く。ルカさんは悪いけどしばらくは隠れていてくれ」

「分かったわ」


 俺たち寄り位置に居る騎士達のパーティには負傷させたという2名が居た。予想通りの布陣だ。

 回復魔法を使えるメンバーや回復薬を前線に集中した結果だろう。命に別状が無い状態まで回復しているようだから当然の判断と言える。攻略してからゆっくり治療すれば良いだけだからな。


 ダンジョンの余力が無くなったと思っている騎士達は長めの休憩を取っているが、そのおかげでこちらも戦力は整った。魔物も近くに存在できる数には限りがあるものの、リザードマン3体が元の持ち場を離れて合流してくれた。通常召喚の魔物だし騎士達にとってはそれほど脅威では無いが俺たちにとっては心強い援軍だ。


 30分程待った時、いよいよ動きがあったので俺たちも動き出した。

 手前の騎士達の一人が声を掛け移動を開始。合わせて能力向上バフ魔法を掛け直し終わった前線の騎士達はボスルームに入っていった。



 早めに動いていたこともあって1分ほどでボスルーム前に到着。

 ボス攻略組と入れ替わりで警戒していた騎士達に声を掛ける。


「やっと追いつきました。皆さんお疲れ様です」


 例の偉い人設定で行く。


「貴様ら……傭兵か? なぜここにいる? 入口には見張が居たはずだが」


 彼氏君が訝しげな顔で聞いてくる。この落差。さっきのにやけ顔を見た後だから大変微笑ましい。


「なぜって、司祭さんから聞いてるでしょう? 訳あってダンジョンマスターを殺されると困るのですよ。サルモン氏……でしたか、彼から手紙を預かっています。何度も同じ説明は面倒ですのでまずは確認を」


 サルモンの名を聞いて警戒が緩んだ彼氏君に近付いて手紙を渡す。

 こんなこともあろうかと入口で名乗り合った時に念のため書かせておいた。お偉いさんだと思っていた彼は快く書いてくれた。例のあれ・・である。


 手紙を読んだ騎士の顔色が変わる。


「まさか、あなたが噂の……」


 噂のってことはもしかして噂になるような奴が他に居るってことか? それなら入口の彼らの反応も納得だ。そんな奴には出会いたくないが……

 いや、今はそれどころじゃない。

 なるべく早くボスルームに入ってしまわないといけない。先にこいつらを始末してからと思ったけど、リザードマン達が来てくれたし任せることにする。


 他の騎士達が手紙を回覧しているが待たずに彼氏君と話す。


「他の皆さんは既にその中ですか……困りましたね。少々疲れますが私も入るしかないでしょうか」


 教会の指示を無視してしまったと思い始めている騎士達に俺は続ける。


「私は今から入りますが問題ありませんね? ああ、勿論皆さんはこちらで休んでいて下さって結構ですよ。負傷者もいらっしゃるようですし」


 良かったら使って欲しいと言いつつ薬の瓶を人数分手渡す。怪我人用の回復薬と魔力回復薬の瓶を渡した。どうせ入口で貰っておいた瓶だ。元は彼らの物なので懐は痛まないし、今は信用を得ないといけないのでいい顔をしておく。


「しっ、しかしボスルームの扉はもう閉まっていますので、その……」


 漆黒の扉と俺の顔を交互に見ながら気まずそうにしている。

 彼の言いたいことは分かる。


 ――ボスルームはどちらかが全滅するまで出られない――


 と、人間達は思っているが実は違う。

 ボスルームは単に行動範囲が制限された魔物が居る部屋だ。だからこそ召喚に必要なDPが下がる。そして大抵の場合は中の魔物に大幅な能力向上バフ効果が掛かる部屋をそうすることが多い。学園でも推奨しているから皆そうする。

 ただし、その部屋の効果を十全に発揮するためには部屋が閉め切られている必要がある。だから扉には自動で鍵がかかる物を選ぶのが普通だ。でないと、途中で別の魔物なり、侵入者が扉を出入りすると効果が切れたり中途半端になる。

 そのためここもその扉が使用されているので、本来なら決着がつくまで入ることは出来ない。


「問題ありませんよ。これは真似しないで下さいね」


 俺は扉に近付くと手をかざし呪文を唱えている振りをする。俺の合図をモニターで見ていたルカさんから指示を受けたスライムは挟まって・・・・いた体を変形させた。

 最初から完全に閉まっていなかった扉は簡単に開いた。

 ボスルームも含めたこの辺りは水溜まりが多い。扉も下部が水に浸かっている状態だったおかげでこの仕込みが可能だった。変形できないスライムの核はボスルーム側に入れておけば問題ないし、この後は水溜まりに紛れて隠れて貰えばいい。


「開いた……凄いですね!」

「すみませんが貴方は一緒に来て頂けますか? これは少々疲れるのでね。手を貸して頂きたい。中の皆さんにも説明して下さると助かります」

「はい! 喜んで!」


 彼氏さんが率先して中に入って行くので付いていく。


 突然の乱入者に中の全員がこちらを見て手を止め距離を取った。


 その隙に部屋の中を確認する。

 部屋の7割程が水場か水溜まりで普通の床が3割程。扉の部分を除いて部屋の周囲はある程度深くなっていて、水棲の魔物がここを通れば高速で移動が出来るようになっているみたいだ。部屋の奥の方の深くなっている場所とも繋がっていてそこにエルーシアが居る。水面から顔と三叉の矛が出ている。彼女の後ろにある陸地にはダンジョンコアが浮かんでいる。深い部分の距離は短いが他の魔物達を倒さないまま、彼女の攻撃を掻い潜ってコアに辿り着くのは困難だろう。


 部屋の中央に騎士が1人倒れている。生きた人間が近くにいると吸収出来ないから死体が残ったままだ。こちらはリーダーリザードマンが1体倒されていた。やはり早めに部屋に入って正解だったな。


 最後に入った俺は後ろ手で扉を完全に閉めた。これなら何とかなるだろう。

 俺やエンぺル達に効果は無いが、これでこの部屋の魔物達の能力はさらに上がることを考えればもう負けは無い。今度は完全に施錠されたので部屋の外の連中の増援も考えなくて良い。


「やあ皆さん。お手伝いに来ましたよ」

「レジオネス! そいつらは誰だ!? 一体どうやって入った!?」


 騎士の一人が魔物達の方を警戒しながら彼氏君に聞いてくる。やはり付いてきてもらって良かった。素性の分からない人間が一緒とはいえ仲間が居ればこういう対応になるだろうことは予想出来た。


 ここまで来たら小細工は要らない。


「ああ、この方はなんと――」


 説明を始めた彼氏君をよそに、俺はエンペルに合図を送った。

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