第32話 苦言
本日1話のみです。
「もう一度聞きますが、本当に聖騎士が居ると知らなかったんですよね?」
「本当ですって……すごく怖かったんですから。知ってたら行きませんでした」
なんでも、昨日の夕方に入ってきたばかりの情報だったらしく、キースさんは何とか動向を探るべく色々動いていたらしい。
女性の冒険者を手伝いのご婦人達に紛れ込ませる計画が進んでいたとのこと。
聖騎士と話したことは俺の剣以外のことは全て伝えた。ダンジョンに対して今すぐ何かする訳では無いと聞いてキースさんも安心していた。
「これ以上無いタイミングで更に情報もしっかり引き出してくるなんて。疑いたくもなりますよ。準備した時間を返して下さい」
やっぱりか。この感じならダンジョンとのやり取り以外にもっとたくさん仕事を抱えていそうだ。ちゃんと休めているのだろうか?
「蓋を開けてみたらお前の一人勝ち。最後なんて互いに手なんか振っちゃって。他の玉砕してる連中にそのうち刺されんぞ?」
「そうですかね? 聖騎士が普通に対応してたから警戒が解けただけだと思ってるんですけど」
「そりゃそうだろうが、それにしたってすげぇことだぞ? 聖騎士なんて基本的に冒険者のことは下に見てるからな」
確かに、別の仕事を探せとは言われたな。
「それは我々にも非があります。アルドは同年代と比べると落ち着いていますから。彼女達の中の我々に対する評価とは違っていたのでしょう」
「それはそうすけどね。あいつら二言目には口説きますから。相手によって対応を変えればいいだけなんすけど」
「俺だってそうですよ。とりあえず丁寧に話しとけばいいと思ってるだけですから。他の皆の押しの強さは羨ましい時があります」
実際、受付のお姉さんには他人行儀で寂しいと言われたこともあるくらいだ。
「あいつらは自分のせいだと思わないからな。2人目ともなれば変に恨む奴も出てくるだろうよ。薬屋のお嬢ちゃんが居なくなってお前も辛いのは分るが、しばらく大人しくしといた方がいいぞ」
2人目? って思ったけど、1人目はソフィーのことか。言われてみれば引っ越しを提案したのはロスさんだったな。
「薬屋ですか。それで思い出しましたが薬師ギルドが何やら傭兵の募集をしているようですね。あそこの上層、特に副ギルドマスターは教会と親しいですから、こちらに依頼しないのは分かりますが少々気になりますね。アルドには次はそっちを探ってもらいましょうか」
「腕の見せ所だな。キースさんを出し抜く程の実力だから大丈夫だろ?」
2人とも冗談めかして言ってくる。俺をなんだと思ってるんだ。
「報酬次第ですかねぇ」
「ふふ、言いますね。やるなら冒険者は警戒されてますから注意ですよ?」
「そんな助言したら本当にやりそうな気がするんすけど……」
「だったら変装しないとですね。経費で落ちます?」
「乗り気かよ!?」
「いや、流石にやりませんよ。多分良く思われてませんから」
薬師ギルドの副ギルドマスターのスホルとの出来事を話す。変装でも見破られてしまうかもしれない。
「それならやめておいたほうがいいかもしれませんね」
残念そうに話すキースさん。もしかして冗談じゃなかったのか?
場も暖まってきたので本題を切り出すか。
「そういえばダンジョンとのやり取り? ってやってるんですか?」
「やっていますよ。何度か手紙で」
「結局手紙案で行くことにしたんですね。話通じるんですか?」
何度か……ね。
実際には2往復もしていないけど、流石に本当のことは言わないか。
俺も知らない体だからお互い様だけど。
「大丈夫そうですよ。今しばらくは信頼関係を築いていくことになるでしょう。従騎士隊の動きを考えると時間はありませんが、焦りは禁物ですね」
「俺たちは今まで通りでいいんですよね?」
「構いませんよ。むしろ強い冒険者に来て欲しいそうなので、アルドも修行がてらにもっと通ってあげて下さい」
その後もやり取りに興味津々な若手を演じていたが、昼前になった頃に次の予定があるそうなのでお開きになった。聞きたいことも大体聞けたので問題なく解散。
結局キースさんに奢って貰った形になってしまった。淀みない動きで会計をされたのでそういうところ見習いたい。
――――――――――
「ああ、聖騎士様。お疲れさまです」
挨拶してくる数名の女性にこちらも会釈で返す。ここの教会が雇っているご近所の方達ということらしいが、明らかに作業量の振り分けがおかしい。
(この通路にこんなに人は要らないだろうに)
司祭の居住エリアの通路を歩きつつ、今朝出会った冒険者の少年の言っていた言葉を思い出す。
この規模の教会に2人しか派遣していない大神殿側にそもそも問題があるが、ここの責任者の考え方にも問題がありそうだ。
他所の、ましてや冒険者の少年にすらおかしいと思われているようではな。同じように教団に所属する人間としては到底許容できるものではない。
司祭の執務室の扉をノックする。いつも思うが執務とは何なのか。月1でギフトの鑑定をするための男にこれほどの部屋を宛がう必要があるだろうか?
「司祭殿。私だ、ルイーゼだ。少し良いだろうか?」
これさえなければ教団はもっと素晴らしい組織だと思う。過度な装飾が施された扉を眺めながら待っていると、慌てたような様子で司祭が顔を出した。
「おお、ルイーゼ殿。その……もう出立されたはずでは?」
そんなに私の存在が嫌か。
「同行者がぐずってな……昼前には出るから心配は無用だ」
「そうでございましたか。いや、昨日お着きになったばかりですからな。むしろあの子のためにももう少しゆっくりされては? ぐずられたのならなおさらです」
私の発言で察したか?
慌てて気遣うようなことを言うなら少しは隠せばいいものを。
「お心遣い感謝する。しかし、あの子のためにも必要なことだからな。一日でも早いほうが良いのでね」
北の大陸で起きた暴走で滅んだ村の生存者だ。体が小さいから魔物も見落とすのだろう、発見されるのは大抵子供だ。こうして心に傷を負った子供を聖都に護送するのも大切な役目だ。
南の町は厳しくとも手前の野営地ならば間に合うだろうし、従騎士隊ほどではないが護衛も居るので問題無い。
怖いのは魔物よりもむしろ盗賊などの人間だ。まあ、そのために私のように聖騎士が同行しているのだが。
司祭に続いて部屋に入り応接用の椅子に対面で座る。
「そうですか……では私にどういった何か御用で?」
「メリア君の件だ」
「彼女が何か失礼でも?」
部下に落ち度があって監督責任でも問われると思っているのか。いっそしっかり監督してくれればこのようなこと言わなくて済むのだが。
「そういうわけではない。貴殿は毎朝彼女が掃除をしているのは知っているな? 近隣の住民から問い合わせがあったのだ。1人で大変ではないかとな。念押しするが彼女が言ったわけではないぞ」
「それは私も心を痛めていますが、ルイーゼ殿もご存じのように正面の掃除はしきたりですからな、どうにも……」
「貴殿が手伝えば良いだろう。貴殿も教会の人間だ、心など痛めている暇があるなら手を動かせば良い」
「それが、私は付き合いなどで会合も多く、お恥ずかしい限りですが早朝の業務は年齢的にも辛いのです……それにルイーゼ殿のような聖騎士の方には理解し難いでしょうが、そういった会の出席もここのような辺境では重要な業務でして」
私のような小娘に言われて腹が立っているのか貧乏揺すりを始めたな。
付き合いという言い分も解るが、沢山の方々が手伝いに来てくださっているのだから近隣の評価こそ大切にするべきだろう。それに各ギルドには大神殿から多額の金が流れているはずだ。それこそ辺境の司祭程度が気を回すことでは無い。年齢のせいにしているが、その付き合いとやらで得られた体型のせいだろう。
先ほど廊下ですれ違った薬師ギルドの人間もその付き合いの関係者か。
(まあいい、一応フォローはしておくか)
「私も聖都に行ったら増員してもらえるよう掛け合ってみる。せめて毎日とは言わないが、たまにでも手伝ってみればどうかな、それだけでも随分違うはずだ」
「それは……そうですな。検討しましょう」
不承不承といった様子だが私も忙しい。今はこれが限界だ。
「そ、それはそうと。例の件お願い致しますぞ」
「貴殿の手違いで順番が後回しになってしまったダンジョンの件か? 後回しではあるが従騎士隊が居るのなら問題無い。そんなことで貴殿が職を追われるなどと、心配のし過ぎだ」
「い、いや。それは誤解で。私のことはともかく。住民に何かあってからでは遅いですから念のためにとお願いした次第で……」
いかんな。こういう人間を見るとつい嫌味になってしまうのは治さないと。
「まあ、今回の件もあるし戻ってくる件は構わない。一応隊の皆も連れてくる、これで良いのだろう? その頃にはダンジョンは無くなっているだろうが、無駄足になることを願うよ」
戻って来る頃にはこの男の態度も改まっていることを祈りつつ部屋を後にした。
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