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第3話 調査隊と教会

「じゃあ、攻略はしないんですか?」

「ああ、さっきも言ったがもったいないだろ? この辺りは土地も痩せてるしな、俺たち冒険者ギルドとしては大歓迎よ」


 なんと心強い言葉だろうか。もう一回言って欲しいくらいだ。


「そういえばゲアートさんってギルドの人なんですか?」


 受付の奥から出てきたし職員なのか? でも探索に参加するって言ってたしな。


「俺か? 俺は一応ギルド所属の冒険者だ、いろいろ引き受けてたせいで職員みたいなこともしてるがな。膝をやっちまってからは特にな。こう見えて元Aランクなんだぞ」


 いや、見た目通りですけど。

 Aランクか、すごいな。俺の居た大陸じゃ数える程しか居なかったはずだが。


「俺でもダンジョンの捜索隊に参加できますかね?」

「それなりの実力が無きゃ難しいな、あと一か月で急成長してくれれば口添えしてやってもいいがな、新人に大怪我でもされたら教会の連中がうるさいしな」


 当たり前だけどこの町にも教会はちゃんとある。


「この町にもありますよね、教会。小さいですけど」

「ああ、この町は辺境だからな。司祭のおっさんと若い侍祭のお嬢ちゃんの二人だけだ」

「教会がこの辺りをそんなに重要視してないってことですか?」

「あくまで他と比べてだな。怪我人が出てダンジョンが危ないとなったら連中、すぐにでも本部から人を呼ぶだろうな。そうなったら俺達でも手が出せねぇ。他所の大陸ならまだしも、聖都に近いギルドの幹部はほとんどが教会の言いなりだ」


 残念な父親の顔が浮かんだ。この大陸は貴族が居ないから、もっとやりたい放題なんだろうな。


「まだ応援は呼んでないってことですか? 教会にしてはむしろ変ですけど……」


 俺が聞くとゲアートさんは不敵な笑みを浮かべた。


「先日な。聖都に向かう馬車が謎の武装集団・・・・・・に襲われたらしい、幸いなことに人に犠牲は出なかったようだが、賊は荷物の一部を奪って逃走した。その荷物には聖都への手紙も含まれていたっていう噂だぜ。物騒な世の中になったもんだ」


 うわぁ。


「それは怖いですねぇ」


 もうアニキって呼んだほうがいいかもしれない。


「まあ、その手紙の内容もまずは報告だけっていう噂だし、届いていたところでいきなり攻略隊が来ることは無いだろうけどな。まあ、こういうことはこの大陸の辺境ではよくあることだな。にもかかわらず、一通しか用意していない奴が迂闊ってもんよ」


 色々と真っ黒な発言ではあるが俺としては非常に心強い。

 これでかなり気が楽になったな。


「そういうことなら、急いで腕を磨かなくても良さそうですね」


 教会に攻略される前にダンジョンに入ってみたい若者という設定で話をしているからこう言っておく。


「そうだな、しばらくは例の武装集団が怖いからな」


 こうなると保護期間がむしろ厄介だな。


 地震発生から約一か月間は何やら不思議な結界が作用しているようで、ダンジョンは絶対に見つからないし、部外者も入れないようになっている。そのため学園ではこの期間を保護期間と呼んでいて、基本的・・・にはその間にダンジョンを整えることができるようになっている。


 人間たちはそこまでは知らないものの経験的にそのことを知っているので、一か月は時間を置いてから捜索を始めるというのが慣例になっている。


 一見して優しい仕組みであるが、これもギルドと教会の関係を考えると都合が悪い。

 保護期間はダンジョンマスターが希望すれば早めに解除することが出来る。

 ダンジョンは侵入者が多ければ多いほど、そしてその強さが強ければ強いほど成長する。

 教会がもたついてる隙に冒険者を入れることができれば、良いスタートが切れるのだが、その場合だと俺がダンジョン内に居ても不自然じゃない状態じゃないとまずい。

 初心者がケガしないようにしているのに、お前なんで居るの? ってなるからだ。


 つまり基本通りに保護期間の一か月間はおとなしくしているしかないってことになる。

 地脈からの収入が期待できない以上は、何とか人を入れられないかと思ったが、それはさすがに厳しいみたいだな。


 ゲアートさんが言ったようにこの辺りは土地が痩せている。

 ダンジョンが成長するために必要な魔力、これを学園ではDPと呼んでいた。

 このDPを得る方法は主に3つある。

 1つは侵入者から滞在時間に応じて得る方法、2つ目はダンジョンの広さに比例して地脈から得る方法で、当然、肥沃で作物がよく育つ土地ほどこの地脈による収入も多くなる傾向がある。


 だから、保護期間中はとにかく広さに重きを置いてダンジョンを作れば、その分得になる。

 これについては、同級生たちのほとんどは気が付いていないんだよな、考えればわかることなんだが。

 一応俺も最初の頃は歩み寄ろうとしていた。教員も言わなかったし気が付いて無いようだったから、話の種として説明してやったんだが。彼らとしては自慢の爪やら牙やらがあるから、そんな小細工は要らないと一蹴された。


 まあ、比例するとは言ってもある程度の広さになったら今度はその広さ自体を維持するのにDPが使われるらしく、増加量は頭打ちになるらしいが。

 それは何十階層もあるダンジョンの話だし今は気にしなくていい。


 ダンジョンを出る前に、支給されたDP全てを使って部屋をできるだけ大きくしてきたが、この数時間の間に一体どれほど溜まっているのやら。


 その後もダンジョンの調査では何を調べるのか等を色々聞いているうちに、日も傾いてきたので一旦お開きに。いつでも聞きに来ていいとのことなので、今後もちょくちょく聞きに来ようと思う。


 今日得られた情報で方針は決まったとはいえDPが溜まらないと何も出来ないので、しばらく新人冒険者として活動してもいいかもしれない。少しでも金を稼げたらDPの足しにできるかもしれないしな。


 これがDPを得る方法の3つ目、ダンジョンの外の物をダンジョンに吸収させる方法だ。

 なんでもいいわけでなく色々と条件があるが、分かりやすいのが金目の物だな。

 極端な話、お金そのものでもDPに変換できる。

 一番は強い生物の死体だから、強い冒険者を何とか殺害してダンジョンに装備ごと吸収させるのが手っ取り早いのだが、現状それは不可能だ。


 せっかく町まで来たことだし帰る前に依頼書が貼られている掲示板でも眺めよう。この時間から依頼を受けても仕方がないので眺めるだけにしておく。


 元々ダンジョンが無い土地だったせいもあってかそんなに数が無い。薬草や茸などの採取とか、日用品の素材となる獣系の魔物の革とかが中心だった。このあたりで取れる種類に限られているようだ。


『出てくる魔物によってはあの掲示板一つじゃ足りなくなるかもな。そうなってくれればいいんだが』


 と、ゲアートさんが言ってたのでゆくゆくはこの掲示板の内容で、出現する魔物の種類を調整できたらいいなと思っている。気の早い話ではあるけれど。

 そろそろいい時間なので今日のところは切り上げてダンジョンに帰ることにした。

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[一言] 滞在時間 30メートル 1ハーブ = 移動時間
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