第1話 死んでからも大変
初投稿です。
基本は週2ペースを目標としていますが、明日中にもう2、3話投稿予定です。
次話以降は、もっとまともな時間に投稿します。18時前後の予定です。
週2とは言いつつも、休日や連休は頑張るつもりです。
ダンジョンものですので、説明しがちです。
7話くらいに肝となるシステムについて書けるといいな。
「ところで、今って何年の何日でしたっけ?」
情報収集のために訪れた最寄りの町、デサルトで衛兵をしている男性に尋ねた。
「女神歴728年の8月15日だ」
しばらく世間話をしていたおかげか特に怪しまれることもなく答えてくれた。
田舎から出てきたことにしたのも良かったのだろう、暦が適当な村は結構多いからな。
(あの日からはそんなに経っていないってわけか。学園で習った通りだな)
衛兵さんにお礼を言ってその場を後にする。
人は15歳の誕生日に『ギフト』と呼ばれる能力を授かる。
どんな『ギフト』をいくつ授かったのかを知るには、基本的には教会に行って鑑定してもらう必要がある。
俺は男爵家の嫡男だったので教会の人間を家に招く形をとっていた。
大通りを歩きながら俺は、俺が一度死んだあの日について思い出していた。
――――――――――
「なんと……こんなことが……」
「司祭様?」
司祭様は俺の問いかけには答えず近くの助祭様と父に何事かを耳打ちした。そして父と司祭様は小さく頷き合う。
慌てた様子でその場を後にする助祭様を横目に俺は再び問いかけた。
「あの、私のギフトに何か?」
鑑定の儀の前に見せていた穏やかな表情は消え、汚いものでも見るかのような目つきで俺を見ると、司祭様は俺から距離を取るように移動する。
そして、たくさんの足音が近づいてきたかと思うと、扉が勢いよく開いて教会所属の騎士団が数名、応接間に入ってきた。
異常事態に戸惑っている俺に、騎士の口から衝撃の事実が告げられた。
「人類の敵を生かしておくわけにはいかんのだ、悪く思うなよ」
「人類の敵? それは一体どういうことですか?」
俺を取り囲む騎士たちを見まわしつつ、代表と思われる騎士の人に問う。
「貴様の授かったギフトはな、『ダンジョンマスター』なのだ。ダンジョンは人類の敵、貴様も男爵家の嫡男ならば常識として知っておろう?」
ダンジョン――数多くの魔物や罠が存在している場所だ。
とても危険な場所ではあるが、中で手に入る珍しい財宝を求めて多くの冒険者達が危険を省みず、世界各地にあるダンジョンの探索に挑んでいる。
それだけであれば問題は無いのだが、時折ダンジョンは暴走と呼ばれる現象を起こす。ダンジョンから無数の魔物が溢れ出し、近隣の村や街を襲う現象のことだ。
大昔にはダンジョンの暴走によって小国が滅んだこともあるらしい。
これは長く放置されたダンジョンに多いらしい。
暴走で大切な人を失った人々がいつしか集まって出来た団体それが――教会。
世界中に神殿や支部を持ち、ダンジョンを攻略することを至上目標としている集団。
攻略者の確保のため、ギフトを鑑定するギフトを持つ人間を司祭として大量に抱えている。
男爵家の嫡男として生まれた俺はそのあたりの知識は勉強した。
騎士の言うように教会にとっては敵なのは分かる。
一方で、ダンジョンから得られる魔物の素材や財宝などの資源はとても魅力的なので、教会と対立している国や領主も珍しくない。
「そんな! そのギフトが悪いと決まったわけでは無いでしょう!? どのようなギフトかも分からないのに!」
剣を抜き今にも切りかからんと構える騎士の説得を試みる。
「何かあってからでは遅いのだ。貴様一人の命のために、多くの人々の命を危険にさらすわけにはいかん」
「ならば! ギフトの能力を使わない、これでいいでしょう?」
あまりに極端すぎる結論に呆れながらも提案する。
教会の人間は総じてこうだからな、ダンジョンが絡むと人の話を聞かないんだ。
「父上もそれでいいですよね? 公表するときは『剣術』とでもすればよいでしょう。それならば多少の心得はありますし、ここに居る皆が黙っていれば済む話です」
これなら教会寄りの思想を持つ父も納得だろうと、これまでずっと黙っていた父に確認する。だが、父の口から意外な言葉が返ってきた。
「ならん! そもそもダンジョンに関りがあるギフトの時点で駄目なのだ! 大司教殿に合わせる顔が無いだろうが! なんと説明するのだ! この恥さらしが!」
豹変した父の言葉ですべてを悟った。
この場に居ない大司教が出てくるということ、その意味に。
「そんなに……献金が大事ですか……」
領地の経営が上手くいっていないのはわかっていたが、ここまでとはな。
――――――――――
結局、隙を突いて囲みを突破して何とか自室まで逃げたものの、その場で力尽きてしまったらしい。
何とか内側から鍵を閉めた所までは覚えているが、あの傷では助からないはずだ。
部屋の直前で激痛とともに急に腹から剣が生えたんだからな。
(剣を投げるとか反則だろ)
俺にとっては約3年前のあの日を思い出し、イライラしながら通りを歩き続ける。
あの場にいた連中に仕返しをしないことには俺の気が済まない。
「そのためには、とにかく生き延びないと」
でなければこの3年間耐えた意味がない。
あの日死んだはずの俺はそれまで暮らしていた所とは全く別の場所で目が覚めた。学園の門の近くで倒れていたところを学長に助けられたらしい。
その学長が言うには人間たちが言うところの魔界と呼ばれる場所だとか。
医務室のベッドで目を覚ましてから、カーテン越しでの会話しかしていないのでどんな人かもわからないし、そもそも人じゃないかもしれない、魔界だしどんな姿をしているやら。声は女性っぽい感じだったが。
行く宛てもなかったし手続きは済んでいると言われたので、仕方なく学園で世話になることになった。
運がいいのか悪いのか、ダンジョンマスターを養成する学園だったし。
おそらくは俺のギフトに関係があるのだろう。
学園での生活はそれはそれは酷いものだった。いっそあのまま死んでいれば良かったと何度も考えた。
なぜなら――学園には様々な種族の生徒が在籍しているが、その中でも人間は自分ただ一人。
しかも戦闘能力を評価するというふざけた評価方法のせいで成績は常に最下位。
火炎ブレスを吐ける奴やら、爪で金属を引き裂ける奴らとかがうじゃうじゃ居る中でどうしろというのか。
おかげで『無能』『最弱』と言われ、嫌がらせをされることも多かった。
その嫌がらせの最たるものが俺が赴任することになったこの土地だ。
卒業後は人間界でダンジョンを経営するのが仕事になるのだが、俺が担当することになったところ、それがセントランド大陸北部。
俺が暮らしていた大陸の隣の大陸で、天気が良ければ見える距離に有る。
実家もその大陸の南側に位置しているため、海を渡ることができれば里帰りが実現するかもしれないな。
ありがたいことに担任教師の計らいで実家の近くを選んで頂いたのだ。
『知ってると思うが、この大陸の南部にはあの教団の大神殿があるな。やりがいがありそうなところで良かったな?』
特殊な編入をしたせいで学長のお気に入りと勘違いされたのか、生徒たちだけじゃなく教師からも特別扱いだ。
こうしてめでたくダンジョンマスターの天敵の本拠地がある大陸に赴任する運びとなったわけだ。
(殺されたりイジメられたり、我ながら忙しい人生だ)
そんなことを考えているうちに目的の建物にたどり着いた。
「ここが、冒険者ギルドか……なんだかんだ初めてだな」
そう呟きながら、俺はその建物に足を踏み入れた。