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灰色のサイ  作者: 海月姫
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第1章 機会損失

 「ブラックスワン」、レバノン出身の経済学者ナシーム・ニコラス・タレブ氏が著書でタイトルにもした言葉で、市場において事前にほぼ予想不可能でありながらも、実際に起きた時のインパクトが大きいにも関わらず、後々には適当な理由付けされ予測可能だったと結論付けされる事象のことだ。元来、1697年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたことにより、それまでの鳥類学者の「白鳥は白い」という常識を大きく崩した出来事から名付けられた。

 一方で、市場において、高確率で存在し、大きな問題を引き起こすにも関わらず、軽視されてしまいがちな事象こそ、「灰色のサイ」だ。普段はおとなしい動物だが、一旦暴走し始めると爆発的な破壊力によって、誰も手を付けられなくなるということに由来している。

 1999年3月、長野県の岡谷工業高等学校、宮城県の古川商業高等学校が春の高校バレーで優勝を飾った。東京都の代々木体育館のセンターコート、夕方にフジテレビをみながらも、感動はない。全くない。交通事故に遭ったように偶々それをみたわけではなく、時間を事前に調べ観戦準備しながらも、茫然と眺めていた。巷では受験シーズンを終えた時期だが、私立鯉城東中学校は、中高一貫の男子校のためエスカレーター式で進学が決まっている。中学3年の夏、鯉城東中学校バレー部は、県ベスト8で1セットも取れず華々しく敗れた。対戦相手のライバル、野西中学も準決勝で敗れ、全国の切符を掴むことはできなかった。決勝で阿北中学に勝ち全国大会に出場した駅差南中学は、全国大会で健闘しベスト8に輝いたが、優勝することはなかった。春高の頂点、果てしなく遠い道程。毎日のように練習してきた中学時代、年末は30日まで年始は4日から合宿をしてきた。弱小中学ながら、プロも経験した名将監督が生涯をかけ育てたチームで、中学から初めてバレーボールにふれたメンバーで、中学2年時夏の新人戦では広島の頂点に立った。ただ、そこからメンバー全員170cm台と身長の伸び悩みと怪我、何よりもモチベーションや結束力の低下で伸び悩んだ。チームは県内では強豪校となったが、強豪校同士では競った試合をするも20点以降、勝ち切れなかった。この年、リベロ制という新しい制度も導入された。守備職人と言われるポジションで、サーブカットによるレシーブであるレセプション、スパイクをレシーブするディグ、そしてセッターの代わりにトスをあげる3つの役割を主に担う。リベロ制の導入で、それまで重宝されていたピンチサーバー、重要な場面でサーブを打つために交代してコートに入るサーブ職人とも言うべきポジションの役割は、薄らいだ。他の強豪校は、その制度に柔軟に対応できる程のメンバーを揃えていたが、部員7人の鯉城東中学ではそうもいかなった。敗因はあげてもきりがない、ただ敗退の事実は変わらない。また、敗退に悔恨の念もなかった。高校では新たな道を、別の活動に取り組もう。希将はそう思うのだった。その人に出逢うまでは。


 「希将さん、君がバレーボールをしないことによる機会損失はどのくらいだと思う。」


1999年4月、鯉城東高校入学時、新たに現代文科目の担当となった佐久間先生から言われた言葉だった。佐久間先生は、この年に鯉城東高校の現代文の教員となり、高校バレー部副顧問となっていた。顧問は中学との兼務で名将宮根先生で、宮根先生の肝いりで佐久間先生を招き入れていた。佐久間先生は、180cm程度でバレーボールをするには決して背が高いとは言えないが痩身で、顔の輪郭が小さくて丸い童顔で、一見すると人当たりの良さそうな雰囲気を醸し出しているが、実際は口数が少なくシャープな物言いで、どこか物静かゆえの怖さすらあった。年齢の割に目鼻立ちがすっきりしており、情熱に満ちた闘将の顧問、宮根先生とはまさに静と動の関係性だ。

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