これって俺が悪いのか?
「おはようございます。不動くん、朝ですよ。今日もいい天気です」
可愛らしい声で、俺は目を覚ました。
眠たい目を開けると、そこには桃色の髪をした美少女が俺を覗き込んでいた。
あれ? これなんだ? 朝は美少女が起こしてくれる? あ、そうか、こんな都合がいい話はない。これは夢だな。
ってことはもしかして、俺だけがオキナドライブを使えるとかいうのも夢かぁ、まあそりゃそうだよな。そんなはずはないし。よかった、これで普通の高校生に戻れるんだな。
あれ? でも目の前にいるこの困惑気味の顔した子は白神さんだよな。白神さんに起こされてるこれが夢で? オキナドライブの話も夢?
あれ、こんがらがってきたな。こういう時はあれだ。頬っぺたを引っ張ってみるといいってよく言うよな。
というわけで、俺は何を思ったか、白神さんの頬っぺたを引っ張ってみた。
明らかに彼女は困惑の表情を浮かべている。
「ひゃにしゅるんでひゅか? ひゅどうくん」
「あれ? 夢じゃない?」
どうやら白神さんは感覚があるらしい。
「引っ張るなら自分の頬っぺたを引っ張ってください!」
「いてててて」
逆に俺の頬っぺたを引っ張られてしまった。
痛い。ってことはこれは現実か。
まあ、よかったような残念なような。
「早く顔を洗ってきてください。寝ぼけてるようなので」
「はい……」
俺は言われるがまま、顔を洗いに行った。
その後、俺は白神さんと別の時間に部屋を出て――他の生徒に同じ部屋だとバレたら大変なことになりそうなので――食堂で朝ご飯を食べた後、教室へと向かった。
今日も昨日と同じような座学が続いたが、四時間目はオキナドライブを使用する実技授業だった。俺たちは運動場へと集められた。みんなジャージに着替えている。
ちなみに実技授業の担当も水戸先生らしい。今のところ、歴史と体育と実技が水戸先生の担当だ。
「いいか、中等部では一部を除き、本物のオキナドライブを使用したことのあるものはいないはずだ。これは、使い方を誤れば人を殺すことにもなる兵器だ。それを意識しながら、この授業に励め」
俺たちが練習用に用意されたのは、白い両刃の剣だった。クラス全員分ある。
この剣はドイツによって量産化に成功した最初の現代版オキナドライブであり、作成者の名前から『グレーテ』シリーズと呼ばれている。こいつはその第二世代らしいので、グレーテⅡというらしい。
「それぞれ位置につけ。よし、早乙女、皆を代表してお前がやれ。まずは皮膚で柄に触れず、服越しで柄を握ってみろ。どうだ、早乙女」
ジャージの袖を引っ張って柄を握っている早乙女さんは全く持ち上がらないグレーテに驚いていた。
俺も最初あんな感じだったな。
「も、持ち上がりませーーん!」
「よし、もうやめていいぞ。では次に直で柄を握ってみろ」
早乙女さんが柄を握ると電子音が鳴り響いた。
『オキナドライブ起動中。テストモードです。起動完了』
「早乙女、どうなった」
「はい! 全然重くないです!!」
早乙女さんは軽々しくグレーテを持ち上げている。
傍から見ているとマジックのような印象を受ける。
「よし、お前らもやってみろ」
そう先生に言われて、俺たちもやってみる。
俺も例外にもれず、服越しで触れると持ち上げられなかったが、直に触れるとオキナドライブが起動した。
『オキナドライブ、起動中。ユーザー00、特殊シーケンスに入ります。起動完了』
なんか俺だけ電子音声の内容が違う気がするんですが……。
まあいいか。気にしたって俺にわかるわけないし。
「よし、皆起動したな。次は絶対領域について目で見て覚えてもらう。不動、絶対領域とはなんだ?」
おっと、いきなりの指名だ。
「え、ええと、ライフの身体を覆う不可視のシールドです! 通常武器では破壊できません」
「うむ、あそこに疑似的に再現した絶対領域で覆った甲冑がある。お前ら、CzPhoneはセットアップしてあるな? してないアホウは隣のやつのを見てろ。いいか、カメラをハイスピードモードに設定して、甲冑を撮影しろ」
みんなポケットとかに入れていたスマホを取り出して、言われた通りに甲冑を撮影する。
すると、隣にいた子がこそこそと俺のほうへと寄ってきた。
「あの、不動くん、私スマホ忘れちゃったから見せてっ★」
この子は確か、出席番号一番の朝顔さん。あれ? でもさっき休憩中にスマホいじってたような。
まぁいいか、やけに俺との物理的距離が近い気がするけど、目が悪いのかな。
「よく見てろ」
バン! という銃声が鳴り響いた。きゃあという女生徒の悲鳴と、俺のうおっという野太い悲鳴がシンクロした。ちなみに朝顔さんは俺の腕を抱きしめてきた。なんで?
水戸先生が懐に忍ばせていた拳銃で甲冑に向かって発砲したのだ。
一瞬のことだったから何が起きたのかわからないが、撮っていた動画を見返してみる。
すると、弾丸が甲冑に当たる前に透明な壁ようなものに押しつぶされていることがわかった。
「わかったか? その透明な壁が絶対領域だ。よし、では白神、甲冑を斬れ」
「はい」
呼ばれた白神さんは何も緊張することなく、剣を構えて、甲冑を袈裟斬りした。
すると見事に甲冑は真っ二つとなった。
「うむ、良い練度だ。つまりオキナドライブとは『このため』にあるんだ。お前ら、よくわかったな? では次は基礎体力の向上だ。ペアを組め」
水戸先生がそう言った途端、俺の周りには一斉に女子生徒が集まってきた。
「「「不動くん。私とペア組んでください!!!」」」
な、なんてこった。
なんでみんなそんな俺と組みたがるんだ。
こ、困った。この中から一人選ぶと角が立ちそうだし……。
そうだ。白神さんに助けてもらおう。
そう思って、白神さんに目を合わせてみたが、すぐにそっぽを向かれてしまった。な、なんで?
結局俺は、時間制でペアを変わるという最も疲れる選択をしてしまった。
と、そんな感じで実技の授業は終わり、放課後になって俺は誰にも見つからないように、自分の部屋へと帰った。もともとこの部屋は寮内でも裏口玄関からすぐの場所にあるからばれにくい。
部屋に入ると、既に白神さんがいた。
「あー、酷いぜ白神さん。実技の時俺の目くばせ無視したろー」
「女の子と腕を絡めて、あんなにデレデレしてる人が助けを求めてるようには見えませんでしたが?」
白神さんはジト目で俺のほうを見ながらそう言った。
「い、いやそれは無理やりというかなんというか……はい、スイマセン」
「さ、最初から言ってくれれば、私もペアを組んでもやぶさかでは、というか組んでほしいというか――」
ピロリン
俺のポケットから音が鳴った。音の正体はスマホだろう。
白神さんを見てみると、見てもいいですよ、って感じだったのでポケットから取り出してみると、レインのメッセージが来ていた。
メッセージ主は『朝顔紫苑』。えっ!? なんで!?
『やっほーー★ 紫苑ちゃんです。 不動くん、びっくりした?』
そんなメッセージが来ている。
ど、どうやって彼女は俺のIDを知ったんだ?
はっ! 後ろから殺気が!!
振り返ると、さっきまで目の前にいたはずの白神さんが、何故か俺の背後に回っていて、スマホを見ていた。これが俗にいうテレポーテーション!?
「朝顔さん、ですね。ふぅん。腕を絡めてたのも確か朝顔さんだった気がしますが? レイン交換しといて無理やり? 私は馬鹿にされてるんですか?」
白神さんはニコニコと笑っている。
ずっと笑顔なのが逆に怖い。
笑顔の奥に鬼が見える。
「い、いや、これは俺も交換した記憶が全くなくてですね」
「ふんっ。もう、知りません!」
白神さんを怒らせてしまったようだ。
くそう、これって俺が悪いのか?
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