裸とお風呂
とりあえず、俺は平謝りして、なんとか許してもらい、部屋の隅っこで彼女が着替え終わるのを待っていた。
「い、いいですよ」
白神さんがそう言ったので、俺は振り返る。すると寝巻き姿になった彼女がそこにいた。
「これは、いったいどういうことなんです。何故不動くんが私と同室に?」
「さ、さぁ」
十中八九、静香さんの悪ふざけだと思うけど。
「何かの間違いだと思うので明日、先生に掛け合ってみましょう」
「明日? 今日じゃなくて?」
「もう夜ですし、今日は無理ですよ」
「じゃあ今日は俺もこの部屋で寝るって事?」
「あ……そ、そうなりますね」
白神さん、気づいてなかったのか。
頬を赤らめて恥ずかしそうに俯いている。
まぁベッドは二つあるし、間に仕切りもある。
俺が心を無にすれば問題ないはずだ。
「え、えーと、そうだ。俺シャワー浴びてきていい?」
「あ、は、はい。どうぞ」
俺はなんだかこの空気から逃げ出したくて、浴室へと駆け込んだ。
そして、シャワーを浴びて髪と身体を洗い終わった後に、ミスに気づく。
やべぇ! タオルと替えの服を浴室に持ってくるの忘れた!!
ど、どうしよう。
いやどうしようっていっても選択肢は二つしかないしな。
①全裸のまま着替えとタオルを取りにいく
②白神さんにとってきてもらう
①は最悪捕まる。まぁ全裸は既に見られてるけど……。やっぱり②しかないか……。
俺は、浴室から顔だけ出して、白神さんに頼むことにした。
「し、白神さん。悪いんだけどタオルと俺の着替えを持ってきてくれない?」
「え、えっ? タオルと、着替え……? 着替えってその、し、下着もですか?」
「え……そ、そうだね」
「わ、わかりました……これもまた、試練ですね……!」
何やらよくわからない意気込みをしていたが、どうやらとってきてくれるようだ。
よかったよかった。
♦︎
一方、依頼を受けた白神柚子は、心臓を爆発させそうになりながら、幸村のキャリーケースを開けようとしていた。
「だ、大丈夫です。大丈夫ですよ柚子。落ち着いていけば殿方の下着も女性のものと同じようなものです」
何やら独り言を言いながら、キャリーケースを開けた柚子は、震える手で幸村の服を取り出した。
そして、彼女はついにパンツを発見した!!
「こ、これが不動くんの、ぱ、パンツですか……」
(わ、私はいったい何をしてるのでしょうか。そもそも一昨日会ったばかりの殿方の全裸を既に見ていて、更にその方のパンツを手で取るなんて……わ、私はもう駄目かもしれません、お母さん)
幸村のパンツはボクサーパンツだった。
彼女は服とタオルを脇に抱えパンツを手でつまむようにしながら、浴室へと急いだ。
「ふ、不動くん!! も、持ってきました!」
「あ、ありがとう」
幸村は、腕だけを扉から出して着替えとタオルを回収しようとしたが、何と間違えたのか柚子の服を引っ張ってしまった。
「きゃあっ!?」
「えっ?」
その結果何が起きたのか。
引っ張られた柚子はそのまま浴室へと突入し、全裸の幸村へと覆い被さるような形になった。
「い、いてててて……」
幸村は、痛みによって何が起きたのかまだ理解できていない。
一方柚子は、幸村がクッションになっていたので、ダメージを受けず現状を理解していた。
(と、殿方の身体って硬いんですね……それに、とても良い匂いがします……)
「……じゃなくて!! ご、ごめんなさい失礼しましたさようならぁぁぁ!!」
柚子は脱兎の如くその場から逃げ出した。
♦︎
い、いやぁ……大変な1日だった。
着替えて、購買で買っといたパンを食べた後、歯を磨き、ようやく俺は就寝できる状態まで持っていけた。
隣のベッドを見ると、ちらちらとこちらを見る白神さんの姿がある。
「あ、あの……ごめん。変なもん見せて」
「い、いや変なところは流石に見てないですよ!? そこは自重しました!」
「えっ?」
「えっ?」
一瞬変な空気になった。
「あっ、えーと、とにかくですね。わ、私は気にしてません」
「そ、そうか。それはよかった。あれ、それって、今日配られた特殊なスマホ?」
俺は白神さんが真っ黒なスマホを持っているのを見て、そう言った。今日の帰りのホームルームで配られたんだよな。
実は、この学園では自前のスマホは禁止されている。学園で支給されるスマホを各自使うことになっている。
このスマホは、SNSや動画サイトを見る分には、普通のスマホと同じように使えるが、発信する側として使うにはかなり規制が厳しい。
まず発信する単語や音声は全てAIによって記録されており、学園の機密に関わることだと判明すれば即座に通信遮断の上、良くて停学、普通は退学処分にされるらしい。
ちなみに中等部では、これより型の古いスマホが使われている。
「ええ、そうです。CzPhoneです。水戸先生が今日中にセットアップを終わらせとけって言ってたじゃないですか」
「あ、そういえばそうだ。じゃあ俺もやらないと」
俺はカバンからシズフォンを取り出した。
初期設定は起動して10分ほどで終わった。
その後、画面の指示に従ってセットアップを行なっていく。何やら良くわからんアプリを次々に入れていき、20分くらいで完了した。
「やっと終わったーー」
「結構面倒でしたね」
「ま、これで普通のスマホと同じように使えるんだろ? トイッターとかリンスタグラムとか。レインとか」
ちなみにトイッターとリンスタグラムはSNSアプリ。
レインはメッセージ交換アプリだ。
「そうですね。AIの監視下ですけど」
「人間じゃないなら俺はいいかな。あ、そういえば、ルームメイトとは連絡先を交換しとけって言われてたな。白神さん、交換しよう」
「えっ、あ、そうですね。ど、どうぞ。電話番号とレインのIDです、お納めください」
おずおずと献上されたスマホを受け取り、俺は自分のスマホに情報を登録した。
俺の方から電話とレインを送って、白神さんにも登録してもらう。
「は、初めて家族以外の殿方とレインをしました……」
「え? なんて?」
「い、いえいえ!」
何故か白神さんはキラキラした目で自身のスマホを眺めていた。
俺たちはその後も他愛ない会話をしながら眠りについた。
……かのように俺は見せかけたが、眠れるわけねえええええ!
俺は隣ですぅすぅと寝息を立てている白神さんを意識しないように、必死で別のことを考えていて気付いた。
別にパンツとか持ってきてもらわなくてもタオルだけよかったのでは? それ巻いて自分で服取りに行けばいいし……ま、まぁいいか。
【評価のおねがい】
「面白い!」
「続きが気になる!」
「更新がんばって!」
と思ってくださったら、
広告下↓の【☆☆☆☆☆】からポイントを入れて応援して下さると嬉しいです!