水戸城調査
「さて、お前ら。今日は東京大学の方々にご無礼の無いように注意しろよ」
リニア新幹線とバスを使ってあっという間に茨城県にある水戸城に着いた俺たち。
水戸先生は、なんだか一昔前の探検隊のようなハット帽を被りながら俺たちに喝を入れていた。案外形から入るタイプなのかな水戸先生。
ちなみに今日の調査には、俺と柚子とオリビア以外にも10人ほど学年問わずに生徒たちが集まっていた。
「まぁまぁ、水戸先生。そう畏まらず。皆さん、本日はよろしくお願いします。私が東京大学、オキナ考古学研究室の教授をやらしてもらってます、那須です」
そう言って那須教授はペコリと頭を下げた。人の良さそうな印象をうける。
だいたい40代くらいの肥満体型の男性だ。腹がベルトの上に乗っている。暑いのか自前の扇子でパタパタと顔を扇いでいた。
「さて、オキナ学園の皆さんから何か質問はありますか?」
「なぁ教授、水戸城っていうからお城があると思ったのによー、何だよこれ、周り学校だらけじゃねーか!! サムライどこだよ!?」
オリビアがめちゃくちゃがっかりそうな顔をしてそう叫んだ。
いつもなら俺もそうツッコむところだが、今回ばかりは俺も同じ気持ちだ。水戸城跡の周りは高校やら中学やらでいっぱいだ。
「はっはっは、元気な生徒さんですね。サムライはいないかもしれませんが、もしかしたらオキナドライブが見つかるかもしれませんよ」
「オキナドライブなんかよりサムライだよなー、サムライ、もしくはニンジャ!」
オリビアは侍と忍者にしか興味ないらしい。
教授が困ってそうなので俺が話題を変えるか。
「那須教授。オキナドライブがありそうな場所ってどうやって見つけるんですか?」
「ん? 君は、噂の世界初の男性、不動幸村くんだね?」
そう言って、那須教授は俺のことをじーっと見つめた。なんだか寒気がした。
「え、ええ」
「世界中のオキナ研究者が君のことを調べたがっているよ。君が学園の生徒じゃなければ、今頃君は研究所をたらい回しだろうね。くれぐれも気をつけることだ。ま、水戸先生が監視役なら心配はないでしょうが」
那須教授は、水戸先生を一瞥してそう言った。すると水戸先生は恐縮です、と言わんばかりに軽く頭を下げた。
やっぱり水戸先生って相当強いのかな?
「えーと、それで、そうそう。オキナドライブの発見方法だったね。実はこれは現代の技術ではまだまだ精度が悪くてね。オキナドライブが副次的に発生させている特殊な周波数をキャッチして、該当箇所を手当たり次第に調査しているんだ」
「特殊な周波数?」
「オキナ鉱石はどうやら水晶発振子のように、何かのきっかけで周波数を生み出しているんだが、いまいちまだよくわかっていないんだよ」
教授の話は、わかったようなわからないような……。まぁとりあえずその、特殊な周波数とやらが発生してる場所なら、オキナドライブがある可能性があるってことか。
「さて、では調査を開始しよう。当たり前だが勝手に地面を掘ったりしてはいかんよ。私が開発した、この『那須ダウジングペンデュラム』を使うのです」
那須教授と、研究室の生徒たちが懐から取り出したのは、水晶石のように透明な鎖のついたペンデュラム(振り子)だった。
う、胡散臭え……。ゴールドラッシュの時代かよ。
「このペンデュラムには、オキナドライブが発生する周波数を受け取ると、共振して震えるような仕掛けがしてあります。つまり、最も震える場所、そこにオキナドライブがあるはず」
うーむ、まぁ考え方はわかるけども本当にそんな上手くいくのかな。
「なんかメンドーだなー。この辺の土地を端から全部ブルドーザーとかショベルカーで掘り返せばいいんじゃないの?」
「大雑把な考えですね、オリビアさんは。城は壊しちゃ駄目ですよ」
柚子はオリビアが本当に壊すんじゃないかと危惧しているみたいだ。
流石にそれはせんだろ。
と、いうわけでオキナドライブ調査が開始された。てっきり散り散りになって探すのかと思ったが、水戸先生が、
「不動、私から絶対に離れるな」
とイケメンなことを言ってきたので、俺は先生と二人で調査することになった。ちなみに柚子とオリビアは、楽しそうにソロでダウジング調査をしに行った。
先生はペンデュラムを使うわけではなく、ダウジングしている俺の後ろからジーッと俺を見ているだけだ。
めちゃくちゃ緊張するんだけど。
1番恥ずかしかったのは、トイレに行く時だ。
「先生、ちょっとトイレに」
「わかった」
「え? な、何ついてきてんですか? ここ男子トイレですよ!?」
「不測の事態があってからでは遅い。はやく、出せ。臭すぎる」
「そ、そんな見られながらだと出ないっすよ……」
まさかの男子トイレまでついてくるとは。
周りの観光客のおじさんたちが恥ずかしそうに小便器の限界ギリギリまで進んで、股間を隠していた。
先生は汚物を見るようにして、それを見ていた。
まぁ、そんなこともありながら、俺はいろいろ調査していた。そして、見つからずに2時間くらいが経過したのち、場所は江戸時代の学校、『弘道館』へ。
最初にもらったパンフレットに書いていたが、ここはあの有名な徳川慶喜も学んだらしい、由緒正しき学校のようだ。
何かありそうだ、という事で那須教授含めて多くの人がダウジングしていた。
「こんだけの人がやってたらここには無さそうだな〜」
「諦めずに探せ、不動。ちなみに我が校の人間がオリジナルを発見した場合、その所有権は我が校にある。勿論我が校にとってはとてつもない利益だ。もし見つけでもしたら、お前には今以上の特別待遇が与えられるだろうな。もちろんこの調査の参加をもぎ取った私にも恩恵が出る」
「へぇー水戸先生にも?」
「そうだ。だから張り切って見つけてくれ。もし見つけたらなんでも言うことを聞いてやろう」
「え……な、なんでも……ですか?」
ゴクリ……思わず俺は生唾を飲み込んだ。
見たら怒られるってわかっているのに、水戸先生の豊満なバストに目が行ってしまった。
水戸先生、そ、そんなことを軽々しく言わない方が……。
「どこを見ている」
「いてっ」
デコピンされた。
「まったく……むっつりスケベだなお前は」
「す、すんません」
「ふ、まぁいい。さっさと探せ」
思ったより怒られなかったな。なんか先生割と楽しそうだし。結構アウトドアが好きなんかな?
無駄話をしながらも弘道館の中でダウジング。今のところ全く反応せず。これただのスピリチュアルグッズなんじゃねーの?
そんなことを思っていたその時、俺のペンデュラムが反応した!
俺のペンデュラムっていうと下ネタみたいだな……。まぁそれはともかく、ぐるぐると振り子が周り始めたのだ。
「えっ、は、反応しました!? 反応してますよね? これ水戸先生!」
「あ、ああ。これは反応してるな、思いっきり」
反応したのは、弘道館の中、『尊攘』と大きく書かれた掛け軸がある部屋だった。その部屋の正に掛け軸の真下でペンデュラムが暴れまくっている。
「な、那須教授ー!」
俺は外でダウジングしていた那須教授を呼んだ。教授は俺の声に気づいて、向かってきたが、俺のペンデュラムの暴れように腰を抜かしそうになっていた。
「ば、馬鹿な。ここはさっき私も探したのに!」
そんなこと言われても反応してるしな……。
「あ、あれ? 私のペンデュラムだと反応しないぞ?」
那須教授が自分のペンデュラムを近づけても全く反応しなかった。俺のは相変わらずぶんぶん回っている。
那須教授が俺のペンデュラムを使ってみると、途端にペンデュラムは反応しなくなった。逆に俺が教授のを使うと、反応する。
つまりこれは……?
「周波数が、不動くんの体内を介して共振しているとでもいうのか……?」
教授は唸り始めたが、長くなりそうなので、中断させ、とにかくこの部屋の下を調査できるように関係者の人たちに協力をあおいだ。
水戸城の管理者から許可をもらい、床を丁寧に切り取っていく。さらにその下の地面も掘っていくと、硬い蓋のようなものにぶつかった。
そのマンホールのような蓋をどけると、そこに現れたのは、人一人入れる程度の地下道だった。
「み、水戸城にこんな空間が……」
辺りは騒然としていた。とにかく発言者である俺と、保護者の水戸先生、そして那須教授が地下に降りていく。
木のはしごを降りて、スマホの明かりで辺りを見てみると、奥行きはほとんどなく、すぐに行き止まりになっていた。
ただし、その行き止まりには、たった一振りの『刀』が刀掛けに置かれており、その背後には昔の人が書いたらしき、看板というか立て札というかそんな感じのものが置いてあった。
「き、教授、まさかこれは……」
俺は思わずそう聞いた。
「あ、ああ……オ、オリジナルかもしれん……」
教授の声は震えていた。
教授は刀の元へと近づいて、刀を持とうとしたが、持ち上がらないのか数ミリ程度しか動いていなかった。
「だ、駄目だ。持ち上がらん。水戸先生、お願いします」
「ええ」
水戸先生が刀を持つと、ひょいっと持ち上がった。
「確定だ。こ、これはオキナドライブなのは間違いない」
教授はその後、立て札の方へと視線を向けた。
大河ドラマとかでよく見るくずし文字で書いてあって全然読めん。
「教授、なんて書いてあるんです?」
「えーとだな……時系列で直すと……
『慶喜様との鷹狩の際に、奇妙な刀を見つけた。小さな祠に奉ってあったその刀は、誰が持とうとしても全く動かず、怪力自慢の家人ですら少し浮かせるだけで精一杯だった。
と、いうのにそれを面白がって見ていた村の女どもが試すと、なんと持ち上がったのだ。男では持つことも出来ぬ奇妙な刀、こんな噂が広がれば、水戸藩士の名折れであると斉昭公に叱責されるが必定。そうなる前に隠すことにしたのだが、慶喜様に止められてしまった。
慶喜様は、誰にも持ち上げられぬというのは縁起が良いと仰って、弘道館の下に埋めることを提案された。
また、慶喜様は、刀に名をつけられた。
名は、『久遠』
幾数年先、この刀と共に、城がある事を祈る。
藤田東湖』
……そんな感じの事が書かれています」
うーむ、歴史を感じるなぁ。
斉昭公っていうのは、徳川慶喜の父である、徳川斉昭のことだろう。
藤田東湖は、斉昭公の側近の人物だったはず。
「それにしても、こんな大事そうなもの持っていくの気が引けません?」
なんか城から持って行かない方がいいような気が……。
「それは違うぞ不動。幕末、国を憂いた侍達は外敵から国を守るために戦った。今私たちはLAIHという未曾有の外敵に襲われている。国の為に使えるなら彼らも本望だろう」
水戸先生がそう言った。
そう言われたら、そうか。
「それにしてもこのドライブ、肝心の鞘から刀身が抜けん……」
水戸先生は刀を鞘から出そうとしているが、接着剤でくっつけたかのように抜けない。
「へー、俺も触りたいです」
「ほら」
俺の手にドライブが渡り、いつものように電子音声が流れた後、何かが解錠する様に『カチン』と刀から音が鳴った。
すると、刀の鍔に埋め込まれている四つのオキナ鉱石が青白く点滅した。
「不動に、反応している……?」
水戸先生がそう呟いた。
俺はおもむろに、刀を鞘から引き抜いた。すると、刀は抵抗することなく、その美しい刀身を俺たちの前に現した。
「う、美しい……」
那須教授がよだれを出しながらそう言った。正直言って気色悪い。
妖しく、薄い紫で照らされる刃紋。濡れているかのように滑らかなその刀身はその切れ味を物語っている。
刀に、吸い込まれてしまいそうだ……。
俺は怪我をする前に、鞘に納めた。
「何故不動だけ抜けるのかわからんが……では那須教授、このオキナドライブは弊学園預かりとさせていただきますので。研究に必要な際は、学園経由で手続きをお願いします」
「はぁ〜、わかりました」
心底残念そうなため息をついた那須教授。そりゃあそうだよな。
ちなみにあとで聞いた話だが、教授達が俺たちを同行させる事のメリットは、学園に保管されているオリジナルへの研究交渉がし易くなることらしい。
まぁ世界中が借りたがってるから、かなりいい条件だろう。
というわけで、オリジナルを発見した俺たちは地上へと戻った。
発見したオリジナルをオリビアと柚子に見せようとした瞬間、空から轟音と共に黒い物体が落下してきた。
「うわっ!!? な、なんだよ! おい!!」
驚きながらも、俺たちは落下地点の方へと視線をやる。
土埃を巻き上げながら姿を現したのは、LAIH。
「――見つけてくれて、ありがとう」
LAIHは奇妙なほどに丁寧にお辞儀をした後に、俺の持つ刀を指差してそう言った。
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