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ハグ

 モニターには、俺の顔写真の下に「WIN」と書かれていた。

 観客席にいるクラスメイト達が拍手して俺を讃えてくれる。


「すごーい! 不動君!」

「私感動しちゃったなーー!!」

「イケメンプラス優秀ってそれなんて乙女ゲー?」


 こんな褒められたのは初めてだけど、それにしても疲れた。体が動かない。


「いたた……。あーあ、負けちゃったよ」


 倒れていたオリビアが起き上がって、俺の方へと歩いてきた。俺と違って動けないなんて事は無さそうだ。


「やるね。不動幸村。私の完敗だ」


 彼女は、俺に握手を求めてきた。

 けど俺はどうも防具が重くって動けない。

 体力が無いからエネルギーも無いんだろうな。


「悪いけど、体が動かん」

「仕方ないな」


 全く動けない俺は、オリビアに手を貸してもらって防具を脱いだ。彼女もリフレクションを解除して体操服に戻る。

 ようやっと立ち上がることができた。


「良い試合だったよ。悪かった、挑発して」


 あまりにもあっさりと、オリビアは謝罪した。

 俺は呆気に取られてしまった。


「い、いや……俺ももう気にしてないよ」

「そうか。じゃあ仲直りのハグだな」

「えっ?」


 俺が反応するや否や、オリビアが俺を抱きしめる。

 ふわっとした甘い匂いが俺の鼻に届いた。それがオリビアの髪の匂いだと気づいた。なんで、汗をかいてるハズなのに、こんなに良い匂いがするんだ? 同じ人間か?


 俺は現状が理解できず、宙に浮いた両腕を石像のように固まらせていた。

 自分の腹筋のあたりに、柔らかい何かが当たっている。こ、これは、まさか、お、おっ、おっぱい!?

 ちょっと待ってくれ、待ってください。俺はここで死ぬのか?


「どうした? 幸村、何故私にハグを返してくれない」

「えっ? い、いや、その」


 オリビアは、上目遣いで俺を抱きしめながらそう言った。俺は意味がわからないまま石になっている腕を、オリビアの腰に回した。

 心臓の音がうるさい。

 すると何故か彼女は不意に俺の胸元あたりの匂いを嗅ぎはじめた。


「幸村、お前からは強いオスの匂いがするな。良い匂いだ」

「お、おい。ちょっと待って」


 このままだとまずい感じがする! 主に俺の理性が。

 それにしても心臓の音がうるさい。いや、待てよ? これ俺の心臓だけじゃない。オリビアもだ。

 まさかオリビア、恥ずかしがってんのか?


「お、おい、オリビア。お前照れてんのか?」


 俺がそう言うと、オリビアはハグをやめて俺から離れた。


「H、HAHAHA! 何を言ってるのか。チェリーはこれくらいでドーヨーしちゃってさ! こんなのUSAじゃフツーだよフツー!」

「いや、でもオリビア顔真っ赤だけど」

「シャラップ!!」


 オリビアは、俺に指差してそう言うと、


「もう帰る! 危ない危ない……ミイラ取りがミイラになるところだった」


 と言って試合場から去っていった。どういう意味だかさっぱりわからない。

 少しして白神さんが俺の元へとやってきた。


「いやー!! 興奮しました!! 凄いですよ幸村くん!!!」


 キラキラした目で白神さんは俺を見ていた。

 少年少女の目をしている。


「い、いやぁ、運が良かったかな。それより、白神さん、俺の事幸村って」

「あ、ああ、あー!! す、すみません。ついうっかり」

「いや全然良いよ! むしろ嬉しい。俺自分の名前好きだから」

「そ、そうですか? じゃ、じゃあこれからもそうやって呼びます……!」

「うん! じゃあ俺も白神さんのこと柚子さん? ちゃん? って呼んで良いか?」

「呼び捨てで! 柚子! で!! お願いします!!」


 何故か凄い勢いでそう言われた。


「お、おう、わかった。じゃ、じゃあ、柚子」

「はい! ふふ……勝てたのは私のおかげですね! 幸村くん!」

「それは本当にそうだけど……オリビアが剣じゃなくて銃だと知った時にはどうしようかと」

「いやぁ、あれには私もびっくりしました」


 俺たちは、その後も他愛ない会話をした。

 その後少し休憩して、俺はクラスメイト達から褒めてもらったりしつつ、シャワールームへと向かった。シャワーで全身が濡れていく中で、ようやく俺は勝利の実感が湧いてきた。


 正直言ってなんで勝てたのかよくわからない。間違いないのはオリビアが俺を舐めてたからだろう。

 さっぱりして、俺は夜風に当たりながら寮へと戻った。部屋に入って柚子と何か喋った気もするけど、あまりにも眠すぎて意識が落ちるようにして寝た。


【評価のおねがい】


「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新がんばって!」


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