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剣はペンよりも強いぞ?

 ドルマは今何が起きているのか分からなかった。


 先ほど覚醒したのだが、体が動かせない。椅子らしきものに座っているようだが、どうやら背もたれごと体を後ろ手に縛られているようだ。足も同様に椅子ごと拘束されており、立ち上がることもできない。


 目もさきほどから開けてはいるものの、視界は暗くてほとんど何も見通せなかった。


「もごごご」


 言葉を発しようとしたが、くぐもった声がこぼれるだけだった。どうやら口に猿ぐつわをかまされているらしい。


 そんなドルマの正面から、鼻で笑うような気配が漏れてきた。目をこらしてみると、どうやら誰かがそこにいるようである。


「……やあ。はじめまして、ドルマどの」


 その言葉とともに、とつぜん部屋の中にあかりが灯った。ややあってその明るさになれたドルマの目に、一人の女性の姿が映る。


 自分が散々漫画のページに描いた、散々漫画の中で凌辱した、あの姫将軍シルディールが目の前にいた。粗末な木製の椅子に片膝を立てて座り、こちらを見ている。


 その表情は、ネズミ捕りの罠にかかったネズミを今から水の中に沈めようとする子どものような、無邪気な笑みを湛えているように思えた。


 ドルマの瞳は恐怖で見開かれた。体も小刻みに震えだす。猿ぐつわをかまされていなかったら、きっとドルマの歯は恐怖でカチカチと鳴ったことだろう。


 そんなドルマを満足げに眺めながら、シルディールは椅子に片膝を立てたまま頬杖をついて口上を続ける。


「よくご存じかとは思うが、一応自己紹介しておこう。将軍シルディールだ……おっと。そういえば今は違うのだった……元、将軍のシルディールだ……もっとも? もはや私がかつて所属していた国はこの地上に存在しないわけだが……」


 そう喋りつつ立ち上がると、シルディールは腰に下げている剣を鞘から抜いた。そして逆手に持って上段に構える。その表情からはすでに笑みが消えていた。


「お前たちの……いや、お前のせいでなあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


「ごおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 激情と共にシルディールは手に持つ剣をドルマの太ももに思いきり突き立てた。声にならない悲鳴をあげるとともに縛られて身動きの取れない状態でのたうつドルマ。


 それを見たシルディールが今度は哄笑する。


「あはははははははっ……!! すまない……! つい……! 私も喜びで興奮を抑えられないみたいだ……!! くくくくくくくっ……!!」


 ひとしきり笑った後、ふう、と息を吸い込むシルディール。


 そしてふたたび笑みを浮かべた。先ほどの様に狂気を感じさせるものではなく、女神のような慈愛に満ちた笑みを。


「それでは回復してやろう」


「!?」


 剣を引き抜いたシルディールが魔法の言葉をささやくと、たちまちドルマに穿たれた深い傷が治っていく。


「ああ、この魔法を使ったのはいつ以来だろう……そうだ……あの時私は……訓練で怪我をしたケインを癒すためにこの魔法を……」


 先ほどまでの笑顔は突如消え、今では虚ろな視線で宙を見ながらぶつぶつとつぶやくシルディール。


「ケイン……なぜだ……私はお前のことを弟のように思っていた……お前だって以前、私を尊敬していると言ってくれたじゃないか……それなのに、なぜ私に対してあんな軽蔑するような視線を向けたのだ……」


 虚ろにさまよう瞳がやがてドルマを捉えた。とたんに、先ほどまで心ここにあらずといった感じだったその目に激情の火が灯る。


「そうだ……!! こいつだ……!! こいつのせいだ……!! こいつが!! こいつが!! こいつがあああああああああああああ!!!!!!」


「ごおっ……!! ぎっ……!! おごあっ……!! ぐっ……!! ごあおあああああああああおあああおあああ!!」


 怒りと共にシルディールが何度も剣の切っ先をドルマの体に突き刺し、そのたびにドルマは猿ぐつわの奥からくぐもった悲鳴を上げ続ける。


 はあはあと息を切らし、ようやく落ち着いたシルディール。その顔にはふたたび優しげな笑みが戻っていた。


「ああ、すまない。これ以上やっては血が流れ過ぎてしまうな。今回復してやるぞ」


 間もなく、魔法によってドルマの傷がすべて癒され、出血も綺麗に止まる。


 普段ならば慈愛を感じさせる癒しの力であったが、今のドルマにとっては残酷な悪魔の力としか思えないものであった。


「安心しろ。お前を死なせはしないぞ、ドルマ」


 その宣言は、どんな死刑宣告よりも恐ろしいものであった。ドルマの顔は涙と鼻水とよだれとでぐしょぐしょになり、ズボンは流れた血液と股間から溢れる液体とで水浸しになっていた。


 そんなドルマに、シルディールは顔を寄せてささやいた。


「なあ……ドルマよ……剣はペンよりも強いぞ?」


 シルディールは言葉と共に笑う。それは今まで誰も見たことがないであろう、かつて姫将軍と呼ばれた彼女に最もふさわしくない醜悪な笑みであった。


      ――終わり――

これにて完結となります。

最終話まで読んでいただきありがとうございました。

タイトルを含めて色々とアレな作品になったとは思いますが、なぜか筆がのってあっさり書きあがってしまいましたので、勢いに任せて投稿しました。

評価ポイントや感想等をいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短いながら起承転結がしっかりされてて読みやすい作品でした 自業自得 この言葉がよく分かるいい物語です ただ個人的には剣よりペンの方が強くあって欲しい とか 主人公は国の指示もあったのに とか…
[一言] 途中まで面白くなりそうな気配だったのに、オチがつまらない。もっというと、シルディールが簡単にドルマのところに辿りついた(ように見える)点もダメな感じに拍車をかけてます。
[一言] 酷い話だったが面白かったです。 やっぱリアルに存在する人をモデルにしてはいけない(戒め)
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