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円卓会議の場で

 シルディールの日常ががらりと変化したあの日から、しばらくの時が経った。


 今日は主だった地位の者たちが集まり、会議が行なわれる日であった。もちろんシルディールもこの会議に出席しなければならない。


 彼女が部屋に入った時、円卓に座る将軍たちが一斉にシルディールを見た。


 これまでは敬意、敵意、嫉妬といった様々な感情を持つ視線がシルディールにぶつけられていたが、今彼女に向けられているのは陰湿でねばつくような、おぞましく吐き気をもよおすものであった。


 シルディールはその視線に気付かないふりをして、何も言わずに席についた。ふと対面に座るマクシムと目が合う。


 この中でただひとり、マクシムだけがシルディールを気遣うような瞳で見つめていた。それだけが、シルディールにとってわずかな救いとなっていた。


「それでは会議を始めたいと思う」


 一人が会議の始まりを宣告するのとほぼ同時に、一人の男が手をあげた。


「少々、良いですかな?」


 この中で最年長であり、マクシム、シルディールと同格の権威がある将軍、ダムゴンドである。ダムゴンドは意味ありげな視線を円卓全体に投げかけ、最後はシルディールにその顔の向きを固定した。


「いま、我が国で大量に出回っている書物についてご存知かな? シルディール殿?」


 シルディールは口を閉ざして何も言わなかったが、その反応を特に気にすることなくダムゴンドはその場で少し腰をかがめる。そして机の下に置いていた袋を抱え上げると、その中に入っている大量の書物を円卓の上にぶちまけた。


 中からあふれ出たのはもちろんシルディールをモデルとして描かれている、いやらしい漫画の数々であった。


 シルディールは怒りと恥辱で顔を真っ赤にし、ダムゴンドを睨みつける。しかし、そんなことは意にも介さずにダムゴンドは喋り続けた。


「どうにも、司令部からシルディール将軍の現在の地位が不適なのではないかという意見も出ているようです。何しろ今は国民の間でも、シルディール将軍をやめさせろという怒りの声が多数上がっているようですからな」


(そ、そんな……!? 私はこの国と、この国の人々のためにずっと戦ってきたのだぞ……!?)


 シルディールが動揺して何も言えないのを良いことに、ダムゴンドは漫画をパラパラとめくりながらさらに口上を続ける。


「最近は体調が優れないという理由で出撃もしておられないようですが、まさか宿舎で兵士たち相手にこういったことをしておられるのではありますまいな?」


 ダムゴンドがシルディールに見せたページは、軍の兵士たちとシルディールをモデルとした女性とが、いかがわしい行為をしている箇所だった。


「ダムゴンド将軍! 失礼であろう!」


 ダムゴンドの発言にマクシムが席を立ち、激しく非難する。しかしその援護も予測していたのか、ダムゴンドは余裕たっぷりの表情でマクシムの方へと向き直った。


「聞いた話によると、マクシム将軍もこのような本を入手しておられるそうですが?」


「な、何を言っている!?」


 思いもよらぬダムゴンドの指摘にマクシムは動揺し、反論にもならない言葉を口にするのが精一杯だった。その姿を見たダムゴンドが勝利者の笑みと共に言い募る。


「なんでも、催眠状態にされた姫将軍を辱める内容の本をいくつも買いあさっているとか。いやはや、人の趣味というのは分からぬものですなあ」


「マ、マクシム……! き、貴様まで私をそんな目で見ていたのか……!?」


 目に涙を溜めこんだシルディールがついに声をあげ、怒りと嘆きをない交ぜにした眼差しをマクシムに向けた。マクシムは弁明しようと口を開く。


「ち、ちが……」


 しかし、彼ははっきり違うと言うことはできなかった。なぜなら、さきほどのダムゴンドの指摘は正しかったからである。


 そのことを理解したシルディールの心は、ついに壊れた。


「う、うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 シルディールは叫びとともに立ち上がると、そのまま走りだして部屋を抜け出す。あとにはうなだれるマクシムと、ダムゴンドをはじめとする男たちの嘲笑とが残された。






 ……その日の夜、シルディールは祖国から姿を消した……。

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