漫画家ドルマのぼやき
「あー、くそ。やってられねーよ……」
戦時中のある国における、ある建物の中の一室で。
紙を載せた机を前にし、手にはペンを持ってそんなぼやきを口にする男がいた。名前はドルマという。
ドルマは国の命令で、戦意高揚のための漫画を書かされている。
しかし、最近はそのことに嫌気がさしていた。
なぜなら彼は元々、女を題材にいやらしい絵と話を書くのが趣味の男だからである。表と裏の名義を使い分けており、当然そういったいわゆるエロ漫画は裏の名義でやっていた。
戦意高揚のための漫画を書かされるようになってからは、そっちの裏稼業のほうに割ける時間はなかったため、さすがにそろそろ自分の趣味に没頭したいという気持ちが大きくなっていたのである。
そしてドルマの気分を陰鬱とさせていたもう一つの理由は、この戦争がいつまでも終わりそうにないことだ。
つまり、下手をすると自分は未来永劫、気がのらない漫画を書き続けないといけない。今も国から与えられた一室にほぼ軟禁されているような状態だ。
国力的にも戦力的にも敵国よりこちらの方が有利であり、順当に行けばこちらが勝つはずの戦争だった。
しかし、その未来予測を覆す強大な存在が交戦中の敵国にいた。信じられないことだがそれはたった一人の女の将軍だった。名前はシルディールといい、敵国においては姫将軍という愛称で呼ばれている。
その姫将軍がどれくらい強いかというと、剣一本であっさりと巨大な生物であるドラゴンを倒してしまうほどである。
さらには飛んでくる大砲の弾すら剣で一刀両断したという武勇伝があり、シルディールが現れた戦場ではこちらの兵士も我先にと逃げまどい、勝負にならないのだ。
他の戦場では優位に立っても、結局シルディールのせいでその勝ち分が帳消しにされてしまう。
シルディールさえいなければこの戦争にはあっさり勝利できて、自分もこのつまらない役目から解放されるはずなのに……とドルマは心の中でののしった。
それと同時に妄想の中でさんざんシルディールを辱める。その顔も姿もすでにこの国で知らぬものはない。敵国においては子どもはもちろん、赤子までその顔を知っているかもしれないほどの英雄だ。
本当に、シルディールさえいなければ……。
……と歯ぎしりしていたドルマの脳裏に、その時絶好のアイディアが閃いた。
戦いを勝利に導き、さらに自分の欲求をも満たせる一挙両得の考え。
ドルマはその思いつきに膝を打ち、さっそく上司に進言しようと部屋を出た。