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白龍凛と黄龍静

「お久しぶりですね静さん」


 突然の来訪を装って来たつもりでしょうが、貴女が来る事は()()()()から事前に聞いていたのよ。

 まあ、そんなのはどうでも良い。

 しかし何故今日にしたの?


「そうね、50年振りかしら凛さん?」


 私の名を言いながら、暢気な素振りで茶に手を伸ばす。

 全く変わらない、その態度に騙されるもんですか。


「51年振りですわよ()()静様」


「まあ」


 旧姓で返すと黄龍静の顔色が僅かに変わる。

 昔の名前は忌々しい記憶なんだろうか?


「なんですか?」


「いいえ、その名前は...」


 動揺を隠す様に茶を一口啜る。

 目に力が籠って来たわね、良いわよ、来なさい。


「ごめんなさい、玄武家は失くなったんでした。

 一人娘の貴女が黄龍家に嫁いでね」


「...仕方ないじゃない」


「何がかしら?

 あの人に何も言わず、黄龍家と見合いをした事かしら?

 それとも突然大学を辞めて黄龍家に嫁いだ事?」


 さて、静はどう返すのかしら?


「先代が借金したからよ!

 このままじゃ、白龍家や朱雀家、青龍家にまで迷惑が掛かる、だから私は...」


 静は呻く様に言うが、そんな事は知っていた。

 私が言いたいのはそこじゃない。


「どうして私に黙っていたの?

 借金?そんな先代が借りた金なんか白龍家や朱雀家に言えば良かったのよ!

 実際金額なんか知れてたのに」


「...言えない」


「何が?」


「言える訳無いじゃない!

 4家筆頭の玄武家が借金まみれで先代が私を黄龍家に渡したなんて!

 それに凛!」


「何でしょう?」


 何だ、私に何を言いたいの?


「貴女こそ、どうしてあの方と結ばれ無かったのよ?

 私が居なくなって、晴れて付き合える筈だったのに。

 どうして別の人と見合いしたの!?」


 それか、言いたくないわ。


「それは...」


「はっきり言ったらどうなんですか?」


 口ごもる私にここぞとばかり突っ込む静、本当に彼女は変わらない。

 黙っていたら話が進まない、なら言いますよ。


「断られたからに決まってるでしょ!」


「...嘘」


 私の言葉に固まった静。

 だから言いたくなかったのに。


「あの人は静、貴女に想いを寄せていたのよ?

 突然貴女が何も言わないで見合いして、大学を去ったんでしょ!

 私と付き合える?

 そんな人じゃないのは貴女が誰より知っていたでしょ!」


 苦い記憶、51年前の失恋か。


「...ごめんなさい」


 静は項垂れ私を見る。

 本当に変わらない、一人よがりで、自分勝手な女。


「でも彼と結ばれなくて私も見合いした。

 それは悪い結果じゃなかったわ。

 主人は良い人だったし、先に逝ってしまいましたがね」


「そうね、私も」


 お茶を啜りながら顔を見合せる。

 彼女も黄龍家に嫁ぎ、決して蔑ろにされた訳じゃない。

 元々優秀な彼女が辣腕を奮い、黄龍家を今の隆盛に導いたのは誰もが認める所。


「で、今日は?」


 早く終わらせよう。

 こんな再会は望んで無かったし。


「伽羅殿に」


「ん?」


「どうして2人も見合いさせたの?

 朱雀や青龍に悪いと思わなかった?」


「それか」


「『それか』ですって!?」


 静は怒りを滲ませる。

 さっきまで項垂れてた癖に。


「確かに見合いはさせました。

 しかし、それは孫の為でもあり、朱雀(優里)さんと青龍(明日美)さんの為でもあったの」


「そんなのあるわけ...」

「あるの!」


 静の言葉を遮る。

 普段では考えられない無作法、しかし止める事は出来ない。


「彼女達はそれぞれ問題を抱えてました。

 優里さんは屑な男に騙され、明日美さんは自分の両親が起こした不義理に」


「でも、それは...」


 詳しく聞かない所を見ると彼女達の事を調べたんだろう。


「...伽羅殿はそれで良いの?」


 次は伽羅の事か。


「伽羅は孤独だったの」


「孤独?」


 理解できないだろう。

 しかし分かって貰わないと。


「あんな天使が学校に居てご覧なさい、みんなの餌食になるのは明白でしょ?

 実際、伽羅は腫れ物扱いだった。

 手は出されないけど、いつも一人よ、学校でも、塾でも、習い事でもね」


「...そんな」


 絶句してるけど、理解は出来てるな。


「安奈が伽羅を護ってくれてましたが、それは彼女の幸せには繋がらない」


「安奈?」


「伽羅の妹です」


「ああ」


 静は納得顔、どうやら白龍サイドも調べ上げたのだろう。


「優里さんと明日美さんに出会って伽羅は嬉しそうに毎日を過ごせてます。

 ようやく安寧の時を送れてるんですから」


「それって朱雀さんや青龍さんに残酷じゃありませんか」


「残酷?」


「そうでしょ?

 伽羅殿は一人、結局どちらかは選らばれないんですから」


「そうね」


「そうねって、凛、貴女は!」


 凄い気迫ね、完全に優里さん達と自分の孫を混同してるわ


「私達、不幸だった?」


「凛、何を?」


「私達があの人を想って、結ばれなかったのは不幸な記憶かしら?」


「....」


 苦い記憶だけど、決して不幸じゃなかった。

 だって人に恋した記憶は無駄じゃない。

 だから息子の婚約者(青龍明日香)が婚約を破棄して好きな人と結ばれたいとの申し出を反対出来なかった。


「だから貴女も(黄龍由美)を北陵大学に入れたのでしょ?」


 静は何も言わず、私を見ます。

 懐かしいです、あの人への想いを語り合った頃を思いだして...


「凛、お互い歳を取りましたね」


「72歳ですから」


「貴女はそうですが、私は71です」


「静が早生まれなだけでしょ!」


 何を言うのだ!


「変わらないわね、凛は」


「なんの事かしら?」


「冷静を装ってもダメよ」


「...ぐ」


 静め、したり顔を...


「由美は良い娘でしょ?」


「そうね」


 由美さんが私と会ってるのも知ってるのか。


「あの子を...由美をお願いします。私は頻繁に来られませんから」


「...静」


 涙を浮かべた静、私は...私は...


「なーんてね」


「は?」


 伸ばした手を軽く握った静は笑顔を浮かべ...


「今連絡が来たわ、伽羅殿、合格おめでとう」


「へ?」


 何で知ってるの?

 まだ発表は1時間後で、今伽羅は優里さん達と合格発表に...


「貴女、学校に!?」


「関係者を甘く見て貰っちゃ困るわ」


「静!!」


 静の腕に巻かれていた時計に伽羅合格と表示されていた。

 なんだあの時計は!?

 せっかく喜びを優里さん達と分かち合いたかったのに!!


『貴女に伽羅は会わせませんからね!』


こうして伽羅の大学生活は始まるのでした。


おしまい。


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― 新着の感想 ―
[一言] やはりババアVSババア。 まあ色々有った訳ですね。 この2人の思い人の血筋も多分もう出て来てるんだろうな。案外、主人公の母とかか。
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