学生自治会の人々。
「朱雀優里と青龍明日美、両名が来ました」
「通しなさい」
北陵大学内にある自治会室、今日は2人に事情聴取をしなくてはいけない、先日のオープンキャンパスでの事を。
「「失礼します」」
扉が開き2人が頭を下げる。
室内には20名を越える執行役員が居るにも関わらず、2人は全く動じる事なく私達を見ている。
流石は朱雀家と青龍家の令嬢といったところか、場馴れしている。
「今日は呼び出してすまない、まあ座ってくれ」
「「ありがとうございます」」
2人を席に座らせる。
役員達が周りを取り囲む格好になるが仕方あるまい。
「先ずは自己紹介と行こう。
北陵大学、学生自治会の会長を務めている法学部3年の黄龍由美だ」
「法学部1年の朱雀優里です」
「同じく経済学部の青龍明日美と申します」
軽く頭を下げる2人、堂々としたものだ。
「今日はどういった用件でしょう?」
他の役員達の自己紹介が終わり、口を開いたのは朱雀さん。
噂には聞いていたが、その容貌は美しい。
綺麗に整えられた長い髪、薄く引かれた化粧、派手さは無いが清楚な服はきっと高価なブランドなんだろう。
横に居る青龍さんも小柄な身体だが、その姿は凛としており、朱雀さんとタイプこそ違え、やはり美しい。
役員達も見とれている、まあ仕方ない。
彼女達は何かと目立つ存在だから。
「単刀直入に聞こう、先日のオープンキャンパスでの事がSNSで拡散されてね」
私はタブレットを2人の前に差し出す。
そこには[北陵大学に天使降臨!]
そんなタイトルと数枚の写真画像が映っていた。
「こんな...いつの間に」
「嘘...」
2人は画像を見て固まっている。
先程までの態度と別人だ。
「こんな物もあるぞ」
タブレットを操作して別の画像に変える。
そこには[天使が食べるオムライス!]
[北陵大学の学食でお互いに食べ会う2人の美少女]そんなタイトルと、青龍さんと1人の幼女が笑顔でオムライスを食べ合う動画が流れていた。
「ちよっと明日美さん、伽羅ちゃんと何してたの」
「あ、いやこれはね...」
朱雀さんは怒りを滲ませるが、
「後こんなのも」
「な!?」
「優里さん!」
次に映ったのは幼女が飲む飲み物に自分のストローを挿し込み、笑顔で吸う朱雀さんの画像だった。
「これは、その...」
真っ赤顔で何やら話し込む2人だが、こんな寸劇を見る為に呼び出した訳では無い。
「これらの映像がSNS上に拡散されてね、ちょっと不味い事になってるんだよ」
「「不味い事?」」
「ああ」
2人に現在起きている事を説明する。
画像を見た部外者達が北陵大学に侵入を試みたり、当学生が幼女を探す為、学内を徘徊したりしている事態になっている事を。
「問題の画像は削除してるんだが」
「拡散は収まらないのですか」
「うむ」
許可なくオープンキャンパスの撮影は禁止されているが、それでも多少の違反行為は毎年起こる。
しかし今年はその反響が大き過ぎたのだ、削除してもなかなか追い付かない。
「あ、伽羅ちゃん」
「伽羅様...素敵」
2人は私の話を他所にタブレットの映像に釘付け、そんな事をする為に見せた訳では無い。
「返しなさい」
「あ、もう少し」
「良い所なのに」
「駄目です」
取り上げたタブレットには幼女が男の手を払い退ける動画が映っていた。
このタブレットは私物なんだから、保存した画像が消えたら大変だ。
「この子供は何者だ?
動きに全く隙が無いのだが」
1人の役員が2人に聞いた。彼は空手部部長だったな。
「白龍伽羅ちゃん(様)です」
2人はそう声を合わせるが、意味が分からない。
いや白龍、どこかで聞いたかな?
「その伽羅さんは、君たちどちらかの妹か何かか?」
「違います!」
そんなに声を合わせなくてもいいのたが。
「親戚か何かかな?」
「「婚約者です!」」
「「「「「「は?」」」」」」
2人の言葉に室内は静まる、私も開いた口が...
「貴女達は百合...」
「「違います!!」」
別の役員が真っ赤な顔で、って何を言ってるの?
「彼は18歳の男の子です!」
「....嘘?」
何を言ってるの?
18歳?いやいやどう見ても12、3歳だ。
で、男?こんな可愛い容姿の男が居るものか!
居たら私の理想その物じゃないか!
「会長?」
「す、すまん」
副会長に肩を叩かれ我に返れた。
完全に意識が跳んでいたよ。
「その...彼女は18歳と言う事はだね、我が校の受験生なのか?」
私の隣に座っていた男性が聞いた。
彼は北陵大学の職員、学校からここに派遣されていんだ、忘れてたよ。
「そうです、後、伽羅さんは男です」
「そ、そうか....」
職員は何か考えている。
「やはり不味いな」
「「不味い?」」
2人の声に私も被る、何が不味いのか?
「安全上だよ、彼女...いや彼が当校に来たらだね、騒乱が起きないかと心配なんだ」
「...そこは、警備員を増員して」
「そんなに警備費をいきなり増額出来ないんだ」
朱雀さんの言葉を職員は却下する。
何か有っては学校の責任になるからね、でも問題はそこではない。
「朱雀さん、青龍さん」
「...はい」
「彼の...伽羅さんの合格率は?」
「はい?」
分からないのか!
「だから、合格率だ!模試は受けてるだろ!」
「は、はいC判定です」
「...そうか」
合格率50パーセント、ボーダーラインだな。
「私達も応援します」
「「はい?」」
「黄龍君、何を...」
職員は私に視線を送るが、もう止まらない。
「彼を何としても北陵大学に合格させなさい!
我が校の、誇りに掛けて!」
「...いや、警備費が」
まだ、言うか!
「そんな物、私の家が出します!
黄龍コンツェルンがね!」
言いたく無いのだが私の実家は結構な富豪。
学校にも顔が利く。
当主のお婆様に頼めば、絶対に出すだろう。
「わ、私も出します!」
「俺の家も!」
役員達が次々立ち上がる、彼等の家も資産家なのだ。
「こうなるよね」
「まあね、途中から覚悟したわ」
何やら2人はため息をしているが、
「貴女達!」
「「はい!」」
「ぼやぼやしてないで、早く行きなさい」
「行くとは?」
「伽羅さんの勉強に決まってるでしょ!」
「「分かりました!」」
慌てて自治会室を出る2人の背中に祈った。
『頼んだよ、私の未来は貴女達にかかっているのだから』