白龍安奈の話。
「今日はどうしたのです?」
本家の大広間にお婆様が現れた。
久し振りに会う祖母を前に、私の緊張は自然と高まる。
「安奈?」
言葉が出ない私にお婆様は小首を傾げる。
おかしい、こんな仕草をする人では無かったはず。
「本日は突然の訪問に関わらず、お時間を頂き...」
「その様な挨拶は不要です、貴女は私の孫ではありませんか」
「お婆様?」
やっぱりおかしいよ。
前回会った時、挨拶が終わるまで無言で鋭い視線を向けられたのに。
「優里さんと明日美さんの事ですか?」
「は、はい」
先にお婆様から言われてしまった。
でも朱雀さんや青龍さんじゃないんだ、名前で親しげに呼ぶとは。
これは何かある、きっと伽羅...兄さん絡みだ。
「どうして兄さんの勉強に2人を寄越したのですか?」
『兄さん』なんて久し振りに言ったよ。
「何です、それだけの事ですか」
「それだけ?」
お婆様は呆れた顔をするが、私には一大事なのだ。
「この1ヶ月間、あの2人は交代で家に来るんですよ?
いくら兄さんの勉強を見る為とはいえ、少しやりすぎでは無いでしょうか?」
「それが?」
全く驚いた様子が無い、知ってたのか。
「ふむ」
お婆様は静かに急須を取り出す、優雅な所作で2つの湯呑みにお茶を淹れ、1つを私に差し出した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
先程から口がカラカラなのを気づいていたんだ。
お婆様の淹れてくれたお茶、静かに口を着けた。
「優里さん達は言ってました、伽羅の勉強方法は間違っていると」
「間違ってる?」
「ええ『インプットばかりでアウトプットがされてない、ノートのつけ方にも問題がある』と、まあ私にはよく分かりませんでしたが」
「そんな事を?」
逐一報告していたのか。
2人共真剣にやっていたんだ、てっきり兄さんの部屋でデレデレしてるとばかり思っていた。
「安奈、貴女は伽羅の勉強方法が間違っている事を知ってましたね」
「それは...」
視線が私に突き刺さる、確信してるって事か。
「何か言いたい事は?」
「...ありません」
視線を逸らして頷くしかない。
その通りなのだ、兄さんの勉強法は間違っているとずっと前から気づいていた。
「伽羅は塾に行ってないので仕方ありませんね」
「はい」
兄さんは塾や予備校には行ってない、いや断られたんだ。
『他の生徒が集中出来なくなるから』と、理由は分かる。
「かといって家庭教師もダメ」
「...そうです」
家庭教師は昔から何人か雇った。
みんな直ぐに辞めてしまった、とてもじゃないが理性が持たないと言って。
「優里さんや明日美さんは違います、あの2人は真剣に伽羅の事を考え、勉強を見てくれてます」
「...でも」
それは兄さんの傍に居たいからでしょ?
お婆様に気に入られて、兄さんと結婚したいからだけじゃないか。
「貴女は少し距離を持ちなさい」
「え?」
お婆様。言葉の意味が分からないよ、距離って?
「伽羅とです、貴女は伽羅に構いすぎです」
「まさか?」
私が兄さんを構いすぎ?
だって兄さんは天然で、私が見てないと危なくて心配なだけだよ。
「そういう事です」
諭す様に言うけど、納得出来ない。
「安奈、貴女は一生伽羅につきまとう気ですか?
結婚もせず、行きたい学校にも行かず、それを伽羅が望むとでも?」
「...そんな事」
何故?どうしてお婆ちゃん、そんな事言うの...
「伽羅は天使です、可愛いく無垢で、誰もが魅了される事でしょう。
それは私が祖母だから言うのではありません」
お婆ちゃんうっとりしてるね、いくら何でも誉めすぎでしょ?
「そして安奈、貴女も私の大切な孫です。
貴女の幸せを望むからこそ、伽羅と適度な距離を取るべきなのです、正しい距離をね」
「...はい」
お婆ちゃんの言葉は私を心配してくれてと分かるけど、そんなに兄さんと近かったかな?
兄さんに近づく女達を追い払ったり...たまに男も居たな。
兄さんと一緒の高校に行くため、学校のレベルを下げたりしたぐらいだけど。
「後は優里さんと明日美さんに任せなさい、あの2人なら大丈夫です」
そうかな、お婆ちゃんはどうしてそこまで優里さんや明日美さんを?
「朱雀家の事とか?」
「そんな物どうでも良いです」
即答だ、青龍家や白龍家とか全く関係ないのか。
「安奈も見合いしますか?」
「お断りします」
とんでもない事を言うお婆ちゃん。
その瞳はとても楽しそうで何も言えない。
でも本当に優里さんと明日美さんを見直したよ。
「それじゃ安奈も勉強を見て貰いなさい」
「それもお断りします!」