9話
中庭でのアフタヌーンティー中。
主にはロサという薔薇が由来となっている名がある。
私は、主としか言っていないが、生前はロサ様とたくさん呼ばれたんだろう。
薔薇が好きな主は死神になった後でも変わらない。
屋敷の前には薔薇の花があるし、服にも薔薇をモチーフにされた物が多かった。
そんな主が、死神で新しい名前を貰っていることに驚いた。
こんなに自分の名前を愛しているはずの主が、新しい名前を欲したことに怒りを感じた。
正しくは、そうせざるをおえなかった背景に怒りを感じた。
「どうしたら主の正体が分かるのかしら」
今のところわからないのは、この城がどうやって主を殺したか。主は何者だったのか。
「意図的に隠されているとしか思えない証拠のなさだった」
セクがうつむきながら言う。
「あの白い狼が見つかれば、何かわかるかもしれないのに……」
そう呟いた瞬間。空気が変わるのを感じた。
私たちは一気に警戒する。この空気この気配、強い。
「お前たち、セクとデケムか?」
警戒した先から現れたのは、白い癖のある長髪に白い服のいかにも精霊の王のような人間だった。
「誰だお前は」
私は警戒するあまり、デケムの男の声で言った。
いや、彼の前では主の姿を保つだけでも精一杯だった。
「俺は、ゼロ。ロサと契約してた聖獣だよ」
ロサと契約していた。ということは主の部屋の写真にあった白い狼がまさかゼロというわけか?
すると、あまりにも警戒している2人を見たゼロは指を鳴らし、白い狼、まさに主の隣にいたやつになった。
『どうだ?これで納得したか?』
全く同じの狼を見て、私たちは驚きを隠せなかった。
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再び人間の姿になったゼロとアフタヌーンティーを楽しむことになった。
結界をさらに強固して。
「なぜ、ここに?」
いろいろなことを聞きたいが、まずはそれからだ。
「俺を呼ぶ声が聞こえた。昨日から城がやけに騒がしいと思ったら、まさかお前たちがいるとはな。見たところ、聖獣ではなく悪魔に堕ちたようだな。あの女のせいか」
「僕たちが……聖獣?」
今の自分は、主の姿になれてはいない。まるで元の姿に戻れとゼロに命令されているようだ。
自分の声は主に変化する前に使っていた男の声。
姿も、白い緩い長袖に白いゆったりとしたズボン。髪でさえも薄い水色の短髪に戻っている。
主になりすます前の姿に強制的に戻された感じだ。
それよりも。
僕たちは今、悪魔だ。
まさか生きていた頃聖獣だったなんて……
「やっぱり、生きていた頃の記憶がないのか」
「そうです。主、ロサ様も生前の記憶はありません」
その言葉を聞いたゼロは、俯いた。
「そうか……だから俺のことも分からないんだな」
「ああ、あんたのことはこの城に来て初めて知ったんだ。あの写真立てで」
「ロサはあの写真立てをいつも大切に見ていたな……」
「なあ、あんたは主が死んだ理由分かる?」
僕はもうここにいることに嫌気がさしていた。
ゼロは主を懐かしむだけで、肝心のことは何一つ言わない。
僕にはゼロが主を助けられなかった聖獣という意識がある。
見てるだけで腹立たしい。
渋い顔をするゼロ。
「正確には、分からない。俺は動けなかったから」
「はぁ?どういうこと」
「あの日は、その前の日から異変は起きていたんだ」