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6話

「私の名前は、カイン・ルフーツと申します。あなたはロサ・サンクトゥス様ですか?」

ああそうか。

今の主はルイーナ・ロサ・サンクトゥスだ。

ルイーナが消えている。

それはこの死神業界だからだろう。

死神は前世で人に蔑ろにされた者がなると言われている。

前世で名前を呼ばれていた者は、名前を言われただけで狂う時もあった。だから、ほとんどの死神には新しく名前が与えられる。

主もそうだったのか……

「ええ、ロサ・サンクトゥスです。ですが、それ以外が分からなくて……この地もこの服にも見覚えがないのです」

「記憶が無くなっているのですか……ならば殿下とのあれも……」

「殿下?」

「いえ、なんでもございません。ここでは夜になれば魔物も出るので危険です。ですから、お城に来てはいかがですか?ロサ様は分からないかもしれませんが、私たちはずっと貴女を探していました。なので安全なところにお連れしたいのです」

殿下がいるのは城ではないか。そこが本当に安全なのか定かではない。

でも、城にこそ鍵があるはず。

主の謎を解く鍵が。

「分かりました。お願いします……セク」

「……ふっ。早いね」

オドオドとしていた騎士が、余裕の笑みを浮かべた。

彼が私を見つけた時点でもう彼は死んだも同然だった。

彼は私たちの完全なる手足になるだろう。

「なんかわかった?」

「いや。僕は人間の記憶は読めないから」

「そう。じゃあ城に行きましょう」

「はい、こちらです」

セクの魂は下に沈みまた騎士が上がった。


密かに私は、笑みをこぼした。



⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎



城についた。

その城は、正直言えば全く見たことがなかった。

白く広く大きい城。

直線状に広がる街並みは、懐かしさが皆無だった。

降り立った時、感じる違和感の空気。

それだけは感じた。

つまりこの城は私を歓迎していない。

まるで、この城だけは私の正体に気付いているようだ。


しかし、張ってある結界はすごく薄い。

これで悪魔からの侵入を守れると思ったのか。

聖女というのは、国全体に結界を張っているのが当たり前だと思っていた。

こんな城しか包めない結界が私たちの力より強いと思ってもらっては笑うだけだ。

すんなりと城の中に入り、周りを見る。

細かい装飾、綺麗な赤い絨毯。メイドや執事は驚きを隠せない顔で見ているが、なんとなく察している。


私はこの城では死んでいることになっているんだ。


実際に、主は死んでいる。


極論をすれば、この城に殺されたのだろうか。


だから、まるで死人を見るかのような目をしている。

「さあ、こちらです」

そう騎士が告げ、通された部屋は、

すごく主が好きそうな部屋だ。

きっと、前世の主の部屋だったところだろう。

ベッドもドレッサーも櫛一つにしても主が好きそうだ。


この部屋は、主のものだ。


そう考えるだけで胸が温かくなる。


「ロサ様」

不意に女性の声がして振り返る。

そこにいたのは金髪ミディアムの女性。

メイド服を着ているところから侍女の1人だろう。

「わたくしのこと、ご存知ありませんか?」

無表情にそう言う。

「ごめんなさい。自分の名前以外分からなくて」

定型文を出すと、彼女は俯いた。

覚えていないことがそんなに辛いのだろうか?

「そう……ですか」

一瞬、笑った気がした。

でも上げた顔は無表情で分からなかった。

「わたくしの名前は、メリッサ・アウムールです。ロサ様がここにいた時は、わたくしがお付きの侍女をしておりました。これからよろしくお願いいたします」

しっかり礼をしたメリッサは、どこか嬉しそうだった。

少し、踏み込んでみよう。

「ねえメリッサ。貴女は私が、今までどうなってると思ってた?」

「と、言いますと?」

「例えば、死んでいたと思っていた。とか」

その瞬間、メリッサの表情が一瞬揺れた。

少しの沈黙。メリッサはどう答えようか迷っているようだ。

「……確かに。わたくしは、ロサ様が亡くなっていると聞きました。森の奥深くで亡くなっているのを見た。と……」

森深く……森の奥深くと聞くと、私たちが暮らしている屋敷しか思い浮かばない。

「亡くなっているのを見たの?誰が?」

「……アルフレッド殿下、です」

小さく、ぼそっと言う声。

「その王子はこの城にいる?」

「いえ、おりません。ただ今隣国に出かけております」

「そう……ありがとうメリッサ」

「いえ。では、夕食の時にお呼びいたします」

メリッサの出ていく姿を見終えて、私は右手を前に出し、下に向けて唱える。

『我が下僕である蜘蛛の子達。アルフレッド殿下の情報。そして主であるロサ・サンクトゥスの情報を集めよ』

すると手のひらから10匹の蜘蛛がわさわさと出る。

地面につくと見えなくなり、透過の魔法を使ったことがわかる。

私にも悪魔は召喚できる。

どれもあの貧弱な結界では負けることがないほどの悪魔だ。

これで私が無駄に移動しなくて済む。

心の中にいる主という生贄に時間はない。

いっそのこと全員殺したい。

でも、主は望んでいない。

関係ない人間は殺したくはない。


メリッサ……あの人間は味方だろうか?

結局一つ質問されてそれまでだ。

人間は私を見て嬉しそうだった。

少なくとも前世の主の味方だったのだろう。

生かしておく方がいいかもしれない。

まあ、セクが来たらでいいか。


私はそんなことを考えていたらある物に目が行った。


それは主が写っている写真。

主がこの城の中庭らしきところで1匹の狼と写っている写真だ。


と、人間は思うはずだろう。



だが、私が見た時衝撃が走った。



なぜなら私もセクもみんな写ってるからだ。

1から10の召喚魔達が主の周りにしっかりくっつきたくて頬をギューと押している。

みんな獣の姿だ。

私も元は狐。

主の頭の上に乗って占領している。

セクはカメレオンの姿で主の腕に絡みついている。

みんな、幸せそうだ。

私たちは、前世から一緒だったのか……?




じゃあ、この白い狼は誰?




1から10いる召喚魔の中で狼はいない。

それに、この狼は普通の人でも見えるほど力を持っている。

私たちは普通の人間には認識されていないけど、狼だけは認識されていたようだ。

それが狼を忘れた理由に繋がるかもしれない。


「一体この城は、主に何をしたの……」


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