センチネルズ オブ ワールド後編
「速く向かおう、市民を守らくては」
「どうやって向かうんだ?」
「勿論この船でだ」
グレイの問いかけにそう答えると、クリスは操舵室に向かう。
暫くするとクリスは戻って来て。
「燃料が無い」
とだけ言った。
「他の船を確かめている時間も、燃料を補充している時間も無いぞ」
ヒビキがそう言う。
なら、俺は自分に出来る事をしよう。
「ヒビキ、俺の全速力で飛ばせばその島まではどの位だ?」
「大体一分位だが、まさか」
ヒビキは俺が何をしようとしてるか察したようだ。
「皆、船内に入っててくれ」
「何をする気だ?」
俺はクリスの問いかけに答える。
「全速力でこの船を押す、クリスは目的地までの指示を頼む」
「わかった」
俺はジェットを起動し、船の背後に周り込んで船のへりに手を掛けた。
「準備okだ」
『こっちも準備出来た、いつでも行けるぞ』
クリスからの応答を聞き、最大出力でジェットを噴射する。
船はあっという間に加速し、凄まじい水しぶきをあげながら進み始めた。
バトロックとブレイクの協力であっという間に目的地の島に到着する。
「着いたぞ、急いで市民の救出を」
バトロックの指示で俺達は救出活動に向かおうとするが、ブレイクは酷くフラついていた。
「どうした?」
バトロックが問いかける。
「済まない、エネルギー切れだ」
どうやら海中からの脱出と、船を動かしたせいでエネルギーが尽きたようだ。
俺は自分の能力の使い時だと思った。
最初は信用出来なかったが今は解る、最初から何も発言していないシドウはともかくとして、こいつらは信用出来る。
アキレスは俺達を見捨てていつでも逃げられた筈なのにそうせず、俺達を助けた。
カイウスは自らのエネルギーを使い果たしてでも誰かを守る為に俺達を島に届けた。
ヒビキや、バトロックは非能力者でありながら俺達能力者と同じレベルで戦えるように努力している事が分かる。
「待ってろ」
俺はカイウスの背中に手を当てる。
「何をする気だ?」
「バトロック、俺の能力を知ってるだろ?」
それだけで彼は理解出来たようだ。
俺の腕は光を発し、エネルギーをカイウスの身体にチャージする。
直ぐにカイウスは起き上がり、身体の調子を確かめるように手足を動かす。
「グレイ、ありがとう。皆、救出活動に向かおう」
どうやらエネルギーチャージは成功したようだ。
「待て、全員で向かう必要は無い。怪物共を食い止める役割も必要だ」
そう言ったのはウェインだった。
「一理ある、俺とアキレス、後ヒビキの三人で救出活動を行う事にしよう。残りの三人は」
「任せろ」
唐突にシドウが口を開く。
「お前達は背中を預けるにふさわしい。それに、俺だけが能力を見せないのはおかしいからな」
「わかった、アキレス頼む」
バトロックがそう言うと、アキレスは二人を抱えてどこかに走り去った。
「やるか」
ブレイクがそう言ったのを合図に、俺達は怪物に向かって走り出した。
俺はクリスとヒビキの二人を救出部隊本部に運び、要救助者を探しに出る。
道中出くわした怪物は、海洋生物を継ぎ接ぎしたような姿をしていた。
「気持ち悪」
誰に聞かれるでも無くそう呟く。
突如として、海岸の方から雷鳴が聞こえた。
気になるが今はそれ所じゃ無い。
要救助者を見つけ次第、迅速かつ丁寧に本部に運ぶ。
本部はクリスとセンチネルの救助部隊が守っているから、俺は救助に専念できるのだ。
俺はウイングスーツで空から要救助者を探していた、下ではアキレスがもの凄い速度で街中を駆け回っている。
この島は避暑地として有名で、かつ例のプラントに最も近い位置にある為に、とにかく人が多い。
故に要救助者の数も多くなるのだ。
こうして空から見ると、建ち並ぶビルの屋上から救助を求めている者を多く見つける事が出来る。
そういった救助者に対して、本部に救助ヘリを要請する事で対応している。
海岸の方に雷が落ちる、岳斗だろう、彼はまさに雷神のごとき強さを持っている。俺は非能力者だが、彼は能力者の中でも最強クラスである事は容易に想像できる。
「さて、と」
もう少しで救助完了だ、リストに漏れが無ければの話しだが。
「ツバサ、もう一踏ん張りだ」
『はい!』
次から次にやって来る海洋生物キメラを部隊と協力して倒して行く。
基本的にはマシンガンで撃退しているが、それでも接近して来る奴がいる訳で、そういった奴はナイフで処理する。
単調だがミスの許されない作業が続く、こういう事には慣れてるが、何せ相手の見た目がグロテスクだ、魚頭を吹き飛ばすたびに気が滅入りそうになる。
隣の隊員の顔はヘルメットで見えないが、多分酷い顔をしている事だろう。
次々と救助者が運ばれて来る中、俺は速く終わってくれと祈りながら、ひたすらマシンガンを撃ち続けた。
俺は仲間の為に本気で戦う事にした。
腰の剣を抜き、紫電を纏わせる。
落雷で二人を驚いてこちらを見るが、直ぐに迫り来る怪物との戦いに戻って行く。
俺は全身から電気を放出しながら、敵の多い場所に向かう。
俺は電撃を放つ、一瞬で怪物は何体も消し炭になる。
俺達は出来るだけ海から来る怪物を食い止める。
しかし数は増える一方できりがない。
段々と倒し切れずに市内へと侵入して行く数も増えていき。
「クソッ、数が多すぎる」
「全くだ、きりがないな」
「クリスからの連絡は未だか!」
その時。
『避難完了だ、街の中央に集まれ』
バトロックからの連絡だ、避難完了、つまり市内で全力で戦える。
「行くぞ!」
俺達は集合場所に向かった。
俺達三人が集合場所に到着すると、すでにアキレスがいた。
次にジープに乗ったクリスが、上空からウイングスーツを着たヒビキが来た。
これで六人全員が集合場所に到着した、同時に四方から怪物が迫って来るのが見える。
「俺達に矛先が移ったって訳か」
「なら返り討ちにしてやろうぜ」
シドウの言葉にアキレスがそう返す。
「同感だ。それにオーシャンマスターの野郎も出て来るかもしれないからな」
とクリス。
そして俺達は、迫り来る怪物の波にそれぞれのやり方で怪物を倒す為に向かって行く。
俺は左腕をブラスターに、右腕をレーザーブレードにして斬って撃つを繰り返しながら次々と怪物を倒す。
酷い臭いと醜い見た目に怯みそうになるが、それでも攻撃の手を止める事はしない。
雷鳴が聞こえる、俺とは逆に向かったシドウはどうだろうか。
次々と雷を落としながら迫り来る怪物を紫電を纏った剣で薙ぎ倒す。
どんなに数が多くとも、無限という事は無い筈だ。
「俺は、最強だ!」
ジャンプ、着地の瞬間に電気を放出する。
蹴散らし、焼き尽くす、雷電をもって敵を倒す。
突如、海面が盛り上がり巨大な怪物が出現する。
「空飛ぶ鯨か、面白い!」
俺は空飛ぶ怪物に向かって駆け出した。
上空から怪物に向かってサブマシンガンで銃弾をばら蒔く。
「ツバサ、後どれだけ敵がいる?!」
『はい!沢山います!この先に能力者反応ありです』
「わかった。皆聞こえるか、今俺がいる先に奴がいるぞ」
『わかった、俺が行く。おい誰か頼めるか?一緒に行ってくれ』
『ウェイン、俺が行こう』
『俺も行く』
「わかった、アキレス、グレイ、バトロック、三人で行ってくれ。俺達が道を開く」
俺はカイウスを向かえに行く。
「カイウス」
「何だ?」
「二人で上空から攻撃するぞ」
「わかった」
俺とカイウスは飛び立つ。
上空からブラスターと銃弾の波状攻撃を仕掛ける。
三人が奴の元へ行く為の道を開く為だ。一瞬、怪物の山の中に道が見える、直ぐに何かがその中を駆け抜けて行った。
怪物の波を抜けた先は広場になっていた。
少し窪地になっていて、水が張ってある。どうやら噴水広場だったようだ。
その中央にオーシャンマスターは、エルヴィス・リストは立っていた。
オーストラリア形の顔立ち、白いロングコート、余裕を感じさせる表情で、彼はそこにいた。
グレイがエネルギーをチャージしたナイフを投げる。
しかしそれは水柱によって防がれる、地面に落ちたナイフから放出されたエネルギーが激しい衝撃波は放つ。
次にバトロックが銃弾を放つ、がこれも防がれる。しかしバトロックはその隙を付いてナイフでエルヴィスに斬りかかる、しかしバトロックは凄まじい水流によって壁に叩き付けられてしまう。
そのままバトロックは気絶する。
グレイはナイフを回収するために鎖を引く、が何と水が鎖に絡みつき、そのまま鎖を引き込んだ。
「なっ」
グレイはバランスを崩し倒れ込む、そしてグレイもまた水流によって
身体を飛ばされて地面に叩きつけられ、先ほどまで自分が使っていた鎖で身動きが取れなくなった。
俺は戦闘不能になった二人を安全な所まで運び、エルヴィスに戦闘を仕掛ける。
いくら万能に水を使う事が出来ても、捉える事が出来ない相手には無力な筈だ。
俺はエルヴィスに近づいて、一発、続いて後ろに回り込み二発目、続いてもう一発。
行けるぞ、そう思った時だった。
水流、気付いた時にはもう遅く、激しい水流に俺の足は捉えられる。
エルヴィスは自らを中心に水流を作り出す事で、俺を攻略したのだ。
先の二人と同じように、俺は身体を激しく打つ。
「あがっ」
全速力で走っていた所を転ばされたのだ、全身を尋常じゃ無い痛みが襲う。
クソッ、これで終わりか。
そう思った時、助けは来た。
怪物の身体が突如崩れて海洋生物の死骸の山となった。
巨大な怪物に向かっていた岳斗が戸惑っているのが見える。
『オーシャンマスターを倒したのか』
『ならば確認に向かおう』
「わかった」
俺達三人はエルヴィスの現在地に向かう。
そこには地面に倒れ伏すアキレスと、水を纏ったエルヴィスがいた。
俺はウイングを分離する。
「ツバサ、アキレスを安全な場所へ」
『分かりました、ヒビキはどうするんですか?』
「こいつを倒す」
ツバサは何も言わず、ウイング部分のアームを使ってアキレスを運んで行った。
「非能力者が二人と、能力者が一人か。良いだろう、かかって来るが良い」
言われ無くともそのつもりだ。
俺は両腕のショックウェーブガントレットを起動する。
そしてエルヴィスに殴りかかる、俺の身体は水流によって流され壁に激突する。
岳斗がエルヴィスに雷を落とす。
これはかなり応えたようだ、よろけて倒れそうになったが直ぐに持ち直して水を操り岳斗を拘束する。
岳斗は電気で対抗するが、どれだけ電気を出してもエルヴィスへのダメージは無いようだ。
「無駄だ、今お前を拘束している水は俺の身体の何処にも触れて無い」
背後からカイウスがブラスターで攻撃する。
エネルギー弾はエルヴィスの背中に当たり、エルヴィスはカイウスに対しても水を操って攻撃する。
「水を何とかしない限り勝ち目は無いか」
何か良い方法は無いかと、水を避けながら考える。
その時、岳斗が全力で電気を放出し、身体を拘束していた水を蒸発させた。
カイウスも水に対して出力を上げたブラスターを撃ち、蒸発させる事で攻撃から身を守っているようだ。
これだ。
俺は二人にエルヴィスに聞こえ無いように通信機を使って作戦を伝える。
「岳斗、カイウス」
『何だ?』
『どうした?』
「作戦を思いついた、協力してくれ」
『わかった』
『良いぜ』
「道を作ってくれ、今から奴を殴りに行く」
『『了解した』』
二人の頼もしい返事を聴き、俺はエルヴィスに向かって走り出す。
「どうした、守るだけか。所詮は人間、偉大なる海の前では無力よな」
「偉そうな口叩いてんじゃねぇ!偉大なる海だか何だか知らねぇが、てめえも俺たちと同じ人間だろうが!」
岳斗が雷をいくつも落とし、水を蒸発させる。
一歩一歩確実に、エルヴィスに近づいて行く。
蛇のようにうねりながら俺に近づいて来る水を、岳斗とカイウスが蒸発させる。
「非能力者が、私に勝てると思うなぁ!」
津波のように押し寄せて来る水。不味い、これは避けきれない。
突如目の前に何かが降って来て、水から俺の身体を守った。
『遅くなりました!』
「ツバサ!」
俺のウイングスーツのウイング部分を動かしていたツバサがウイングを盾にして守ってくれたのだ。
俺の足元が水に浸かり始める。すかさず俺はジャンプし、同時に飛び上がったウイングと合体する。
そのまま空を飛び、エルヴィスに接近する。近付けば近付く程、水の量が多くなり、ついにウイングを捉えられてしまった。
ウイングを分離して、地上に降りる。
後少しだ。
『エネルギー切れだ』
突如カイウスから通信が入る。エネルギー切れ、つまりブラスターを使用する事は出来ない。
『まだだ』
この声は。
『俺達がいる』
グレイからの通信。
カイウスの背中に両手を当てているグレイの姿が見える。エネルギーチャージを受けたカイウスはエネルギー弾で水を蒸発させる事を再開した。
「何っ」
エルヴィスの両腕が突然後ろに向く、アキレスが鎖で両腕を拘束したのだ、良く見るとバトロックと二人で鎖を引いていた。
水の勢いが落ちる。
俺とエルヴィスの距離が縮まる。
「何故だ」エルヴィスが呟く。
「何故お前達は、諦めなかった」
そんな事は決まってる。
「世界を守る為だ、諦められるかよ」
俺の拳がエルヴィスの顔面にめり込む、ガントレットから伝わる衝撃が脳を揺らし、エルヴィスは気絶し倒れた。
「終わった」
安堵のあまりその場にへたり込む。
バトロックがエルヴィスに拘束具を着ける。
「後の事は任せて、帰るか」
皆はバトロックの言葉に頷いた。
センチネル能力犯罪者収容場に俺は訪れてていた。
ここはその名の通り、能力犯罪者を収容する為の施設だ。
俺は今日、ある能力者に会うためにここを訪れた。
彼のいる独房の面会室に入り、椅子に座ると、彼が仕切りの向こう側に現れた。
「さて、エルヴィス・リストだね」
「そうだ」
「私はエリックだ。君に質問しに来た」
「何でも答えるよ」
「何故こんな事を?」
「わからない」
「というと?」
「記憶が一部抜け落ちている。あんな事は私の本意では無いのに、ある日突然あんな事ばかり考えるようになって。その前の記憶が無い」
「そうか」
それを聞いて、この一件はある能力者の仕業だと私は確信した。
「もう一つ質問だ、君は世界を守る為に戦えるか?」
「勿論」
即答だった。
「海を守る為なら、私はこの命を賭けて戦う」
「わかった、いずれ君の出番が来る。それまで待っていてくれ」
それだけ言って、俺は収容場を後にした。
私の計画が、一つ失敗した。
エルヴィスという能力者の心を操り、人類を滅ぼす計画だった。
「まあ良い、まだ手はある」
全ては醜い人類を滅ぼす為。
私は次の計画の為に、まだセンチネルが把握していない能力者を探し始めた。