センチネルズ オブ ワールド前編
男の背中が見える。
「今日は何処へ行く?って撮るなよ」
「良いだろ、旅の記録だ」
姿は無く、声だけが聞こえる。
「そうかよ、別に良いけど」
ふと、男が窓の方を向くとこう言った。
「なぁ、あれ見えるか?」
「ああ、なんだあれ。人か?」
視点は移り海上に立つ人影が映し出される。
次の瞬間、人影が両腕を挙げると、海面が盛り上がった。
「ヤバいぞ、逃げろ」
誰かがそういった瞬間、轟音と共に画面にひどいノイズが走り、そしてブラックアウトした。
「以上が、回収したビデオカメラの映像です。現在、あれは沈黙していますが、いつ動き出すかわからない状況です」
「わかった」
「どうしますか?エリック長官」
「決まっている、世界を守るんだ。その為に準備してきたんだからな」
「では」
「ああ、彼らを召集しろ。世界を守るぞ」
俺ことカイウスはカレンと共にショッピングセンターを訪れていた。
新しい家とアップグレードされて人間そっくりになった身体を手に入れ、俺とカレンは平和な日常を送っていた。
勿論センチネル所属になった事で発生する諸々の業務をこなしながらだが。
「カレン、そろそろ昼食にしないか?」
「うん、私も今ちょうどそう言おうと思ってたんだ」
「そうか、何処へ行く?」
「そうだなぁ、じゃあ」
その時、俺の携帯の着信音が鳴る。
携帯を確認すると、エリック長官からだった。
「ごめん、長官から電話」
「わかった」
俺は電話の通話ボタンを押す。
「はい、カイウスです」
『カイウス、休んでいる所悪いんだが緊急事態だ、至急作戦会議室まで来てくれ』
「分かりました、直ぐ行きます」
俺は携帯をポケットにしまう。
「ごめん、長官が緊急事態だから直ぐ来てくれって」
「わかった、緊急事態ならしょうがないよ。気を付けてね」
「うん、じゃあ行って来る」
俺はセンチネル本部に向かって駆け出した。
作戦会議室に到着すると先客がいた。
ブルーのシャツにジーンズの男だった。
「よっ、俺アキレス。宜しく」
男、アキレスは立ち上がり、自己紹介をする。
「カイウスだ、宜しく」
俺も自己紹介をする。
「カイウスか、良い名前だ。宜しく」
「なんだ、俺が一番じゃ無かったか」
突如として背後から聞こえる声。
振り返るとそこには大人の魅力溢れるオジサンが立っていた。
ライダースジャケットを羽織り、全身ブラックに身を包む。左手にぶら下げている酒瓶が彼の良さを更に引き立てている。
彼は酒をあおると、自己紹介をした。
「グレイ・オルセイだ、宜しく頼む」
「わかった、俺は」
「知ってる、お前がブレイクでそっちのがアキレスだ」
「聞こえてたか」
「ああ」
「二人はどんな能力を持ってるんだ?」
と俺は訪ねる。
「俺は・・・」
アキレスが自分の能力を紹介しようとした時、長官が部屋に入って来た。
長官の後ろから、クリスとヒビキ、そして前に資料で見たシドウガクトの三人が入って来た。
長官が話し出す。
「早速だが本題だ。一週間前、海上プラント「オーシャンキャッスル」の沈没事故があっただろう」
そのニュースは記憶に新しい、一週間経った今でもどの局でもひっきりなしにやっている程の事件だ。
「確か原因不明だとか」
俺がそう言うと長官は。
「ああ、一般にはそう伝えてある」
「というと」
アキレスがそう言う。
「これは能力者によるテロ行為だ」
長官がそう言うとホログラムで写真が映し出される。
如何にも海の男といった様な風体の男だ。
「こいつはエルヴィス・リスト、環境テロリストだ。水を操る能力を持ち、オーシャンマスターを名乗っている。各地で潜水艦や空母を鎮めて回り、その残骸を陸上に放棄している。その目的は美しい海を取り戻す為だそうだ。今まで各国の海軍が秘密裏に動いていたが成果無し、奴に挑んだ事で保有戦力の半分を失った国だってある。そして今回の一件でついに民間人に被害が及び、初めて死者も出た。そしてやっと我々の出番と言う訳だ」
「質問良いか?」
「大丈夫だオルセイ、なんだ?」
「それだけ派手にやっといて、今まで民間人への被害は無かったのか?今まで死者は出てなかったのか?」
それは俺も気になっていた所だ。
「ああ、今まで奴は残骸は全て軍の施設にまとめて放棄していた。乗組員も生存の上で全員帰って来ていた」
「なるほど、わかった」
「俺からも良いか?」
アキレスだ。
「大丈夫だ」
「何故今頃になって俺達の出番なんだ?知っていたんなら未然に防げた筈だ」
「隠蔽だ」
長官は苦い顔をしてそう言う。
「奴ら軍は今頃になってリストの情報を渡して来た。被害の発生を未然に防ぐのがセンチネルの役割だと言うのに。後手に回っては意味が無いじゃないか」
長官は、エリックはとても悔しそうな表情になる。でも長官は直ぐに元の長官らしいキリッとした表情になる。
「もう質問はないか?なら任務の説明をする。任務は簡単だ、カイウス・ブレイク、アキレス・ウェイン、グレイ・オルセイ、クリストファー・バトロック、アサギリヒビキ、シドウガクト、君たち六人で、オーシャンマスターを倒せ!まずアサギリとブレイクの二人が上空から侵入して偵察、その後残りの四人が突入しろ。現在奴は海上プラントに潜伏している。出発は一時間後だ。以上だ」
そう言うと長官は部屋から退出する。
「まぁそう言う訳だ。戦闘服に着替えよう」
クリスはそう言うと、部屋を出て行く。
俺は取り敢えずクリスに着いていく事にした。
俺は執務室に戻ると、ソファーにぐったりと座り込む。
リーダーらしく常に振る舞おうと気張っている俺だが、さすがに限界だ。
「お疲れ、エリック」
向かいに座って居る彼女がそう言う。
「さすがに限界だ、こうも立て続けにヤバい案件が続くとは思わなかった」
「そうね、ロイとサマーズが別任務で抜けてるこのタイミングでこれだもの」
「岳斗を残しておいて良かったよ」
段々と眠気が強くなって来る。
「すまん、少し寝る。いつも通り頼む」
「わかったわ、お休みなさい」
そう言うと彼女は手を複雑に動かす、すると彼女の姿が俺に変わる。
それを確認すると、俺は深い眠りに落ちた。
クリスに着いていった先は、アキレスとグレイの名前が書いてある包みと、いくつかの個室がある部屋だった。
「二人はそれぞれの個室に入って着替えてくれ」
アキレスは自分の包みを持ってさっさと個室に入る。
「ブレイクはどうする?」
「俺はこのままで良い」
「そうか」
そう言うと、グレイは個室に入っていった。
続いてクリスとシドウも室内に入って行く。
「ヒビキ、あんたは着替え無いのか?」
「うん、君と同じく必要無いから」
「そうか」
暫くすると、全員が個室から出てきた。
クリスはフード付きのロングコートを着ていた、いくつかの武器が内側に見える。
紫藤は腰に長剣を差し、硬質素材で出来た薄いアーマーを全身に纏っている。
グレイは紫藤と同じような装備だ、違う点は腰に長剣が無く、代わりに投げて使うのであろう鎖付きのナイフがある事だろうか。
アキレスは動き易さ重視と言ったデザインをしている、頭には何故かゴーグルを付けていた。
ちなみに色は全員黒だ。
「さて、行くか」
クリスはそう言うと、俺達を連れて滑走路に向かう。
いよいよ最初の任務だ、俺達は待機していた飛行機に乗り込み、オーシャンマスターが居る海上プラントに向かった。
偉大なる海を、私は守らなければならない。
もうその為なら手段を選んでいられなくなった。
だから私は自らの第二の能力を使用して、兵士を創りだした。
素材は人間のせいで死んだ海洋生物だ。
もう少しで準備は終わる、兵士が揃ったら陸上に攻め込もう。その時人類は、自らが犯して来た罪を精算するのだ。
それが今の私が、オーシャンマスターがやるべき事なのだから。
飛行機の中で、俺達はお互いの素性を話す事になった。
「俺から話そう」
最初はクリスだ。
「俺は所謂傭兵だった、様々なスキルを身に付けていたから依頼に困る事は無かったし、界隈ではそこそこ有名だった。長官はそんな俺に目を付けて、俺をスカウトした。以上だ」
クリスの話は、多分もっと複雑なんだろう。
多分彼は、今はこれ以上語る気は無いんだな。きっとその話は、とんでもなく長くなるから。
次はヒビキだ。
「俺はメカニックと戦闘要員としてセンチネルに所属してる。前にレイブンっていう能力者と戦って、それでスカウトされた。俺がどうやって戦うかは後でわかるよ、楽しみにしてな」
次はシドウだ。
「俺は何人かの能力者と行動を共にしていた。仲間全員の安全の保証と居場所の提供を条件に、俺はセンチネルに加わった。俺の能力は知っていると思うから説明は省く」
グレイの番。
「借金の帳消しだ、能力は物体にエネルギーを籠める能力だ」
それだけだった。
次はアキレス。
「俺は元ストリートレーサーで、レース中に事故って能力に目覚めた。役に立つ能力だから困った遠慮無く頼ってくれ、直ぐに解決するぜ」
俺の番。
「色々あって機械の身体になった、衣食住の提供を条件に幼なじみと一緒にこっちに来た」
皆がそうしてるように多くは語らない。
クリスとヒビキはお互いに信用があるのだろう、しかし俺達三人はま戦うお互いを知らないが故の不信がある。
だから多くは語らない。
アキレスは多分簡潔に済ませたいだけなんだろうが。
アキレスの能力は察しがつく、多分それは高速移動だ。だから速く済ませたいんだろう。元ストリートレーサーな事もあってスピードホリックなんだな。
「そろそろオーシャンキャッスル上空です、降下する二人は準備して下さい」
パイロットのその言葉を聞いて、俺とヒビキは扉の方へ向かう。
「さて、と。早速俺がどうやって戦うか見せよう」
そう言うとヒビキは装備を何も着けずに外へ飛び出したので、俺もカモフラージュを解除して飛び出した。
「ツバサ、出番だ」
『待ってました!』
外に飛び出した俺こと朝霧響はいつも通りに「翼」を呼び出すと、さっきまで乗っていた飛行機の下部のハッチが開き、俺の身体と同じくらいの大きさの翼が飛び出して来る。
翼は俺の背中にくっつくと、アーマーが展開し俺の身体を固定する、次に俺は腕は広げると、俺の腕は翼から展開したアーマーに覆われる。同様に脚もアーマーに覆われ、最後に俺の顔に高性能ヘルメットが装着される。
『ヒビキ、作戦開始だね』
「ああ、ツバサ、行くぞ」
俺はAIのツバサの言葉に応える、彼女は俺と幼なじみの二人で開発したサポートAIで、俺のウイングスーツの制動や、エネルギー残量のチェックをやってくれる頼れる娘だ。
上を見るとカイウスが同じように飛び出したのが見える。
『ヒビキ、あそこに着陸出来そう』
「わかった、カイウス聞こえるか?」
俺は無線でカイウスに連絡する。
「ああ、何だ?」
「着陸出来そうなポイントを見つけた、今からデータを送信する」
「わかった、しかしその翼は凄いな」
「この任務が終わったらゆっくり見せてやる」
俺は着陸ポイントに近づくと、ウイングを分離し着陸する。
「ツバサ、待機しててくれ」
『わかった、何かあった時は助けるね』
カイウスが俺の横に着陸。
「行こうか、ヒビキ」
「勿論」
俺達はキャッスル内部に侵入した。
内部は思った以上に平和だった、あちこちが崩れているものの、トラップがある様子も無いし、当然ではあるが人の気配は全く無い。
「静かだな」
ヒビキがそう言った。
「ああ」
俺はそう返す。
「念のため外部からスキャンして見る。ツバサ、外部からスキャンしてくれ」
ヒビキはそう言うと、誰かに指示する。
暫くするとヒビキは。
「最下層に生命反応が一つ、それ以外の反応は無しだ」
と言った。
「残りのメンバーを呼ぼう」
「そうだな」
俺の提案をヒビキは了承した。
連絡してから暫くすると残りのメンバーがやって来る。
「行くぞ」
クリスがそう言って歩き出し、俺達はクリスに着いて行く。
下に降りる道は螺旋階段になっていた。
下に降りて行くにつれて、浸水が酷くなっているものだと思っていた。
しかし実際は全く浸水は無く、それどころか螺旋階段のどこにも死体や瓦礫は無い、綺麗過ぎる有り様だった。
「綺麗過ぎるな」
「ああ、まったくだ」
「もう一度スキャンして見る。ツバサ、もう一回頼む」
「誰だ?可愛い子か?」
「今度紹介するよアキレス。ん、結果が出た、変わらず生命反応一つだけだ」
そんなことを話しているうちに最下層に到着する。
「ここだ」
ヒビキが立ち止まった部屋には、水中観察室と書いてあった。
「水中観察室か、こんな用事じゃ無かったら良かったのにな」
今まであまり発言して来なかったシドウがそう呟いた。
「突入しよう」
俺はそう言って右腕のブラスターを起動し、スリーカウント数えて扉を吹き飛ばした。
カイウスが扉を吹き飛ばすと、アクリルガラスの壁をバックにしてエルヴィスが座ってこちらを見ていた。
「良くきたな、待っていたぞ」
「観念しろオーシャンマスター、お前一人ではどうする事も出来ないぞ!」
「それはどうかな?」
クリスの言葉に対しての、エルヴィスはそう返し、右腕を挙げる。
その動作を見て、俺は何かがおかしいと感じた、何故あんなに余裕そうなんだ?直ぐにその疑問は解消される、アクリルガラスにヒビが入り始めたのだ。
俺は素早く思考する、現在置は降りて来た道から考えて水深約十メートルだ、浸水が始まるとどれだけの時間が残されている?完全に水没するまでは一瞬の事だろう。
なら俺の能力である高速移動でも今の人数は助けられて四人だ。
誰を助けるか判断しろ、いや、決まってる。
この間約0.1秒。
俺はゴーグルを着けて駆け出す。
先ずはグレイとバトロックだ、二人を両脇に抱えて今来た道を全速力で戻る。船着き場に泊めてある比較的無事な船に二人を乗せ、またさっきの場所へ向かう。
さっきより浸水が酷くなっている。
俺は一旦停止しカイウスに。
「出来るだけ上に向かってくれ、君の身体なら水圧に耐えられる筈だ」
とだけ言って、ヒビキとガクトの二人を抱えて駆け出す。
さっきと同じように船に二人を乗せ、一息つく。
「アキレス、カイウスは?」
「大丈夫だ」
グレイの疑問に答えたのはヒビキだった。
「カイウスの身体は機械だ、ちょっとやそっとの衝撃じゃ傷一つつかないように出来てる。何より変な言い方かもだが今のカイウスの身体を作ったのは俺だ、頑丈さは熟知してる」
直後、水しぶきが上がり水面から何かが飛び出してこの吹き飛ばしたに着地した。
「死ぬかと思った」
カイウスだ、無事に帰って来たようだ。
直後、バトロックに通信が入った。
通信に出ると長官からだった。
「バトロック、近くの島に怪物を率いたオーシャンマスターが現れた、至急全員で向かってくれ」
通信が切れる。
「何だって?」
「近くの島に怪物を率いたオーシャンマスターが現れたそうだ」
俺は皆にそう伝える。
皆は驚いた顔になった。
「速く向かおう、市民を守らなくては」
俺は皆にそう言った。