表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/121

99. 交差する刻…Ⅲ



「ちょっとぉ~ まだ決まんないの~?」「絶対可愛いやつなんだよね?」「もーう、早く決めてよ! 彼氏だって楽しみにしてるんだから!」「ほんっと、使えないよね?…こいつらって」


「 「誠に申し訳ございませーん!」 」


 深々と頭を下げる俺と森田。

……なんでやねん? ねえねえ何かおかしくない? どーしてこうなった?



 文化祭まであと2週間。


 放課後になり、打ち合わせを行っている俺と森田に近付いてきては、罵声を浴びせて立ち去っていくクラスの女子達。当初の計画は完全に破綻した。俺と森田は完全に主導権を奪われ、今や単なる雑用係になり果てている。


 何たる体たらく……なのだが、こーなった原因の全ては俺にある。

俺は蝶野さんのパワーを過小評価し過ぎていた。やはりというか、カースト頂点の実力は伊達じゃない。



 文化祭に関しての打ち合わせとなったLHR。

俺はそこでこの計画を成功させるために芝居を打った。その内容は俺と森田の提案に対して蝶野さんに賛同の意見を述べてもらうというもの。ま、簡単に言えばヤラセを仕組んだわけ。


 「うちのクラスはメイド喫茶にしませんか?」…森田が最初にそう提案する。そこですかさず俺が皆に意見を求める。だが、求めたところで誰も何も言わない。そんなの百も承知。そこで俺はある人物を指名して意見を求める。……これがシナリオ。



「蝶野さん、この企画をどう思います?」


 なぁ~んて感じでぬけぬけと彼女に意見を求める俺。ま、返ってくる答えなんか初めっから知ってるんだけどね。


 もう心の中ではガッツポーズ。蝶野さんを攻略した意味はここにあり。彼女が積極的に賛同すれば、それに異議を唱える者などこのクラスで現れる筈も無し。



「えっと… 皆さん、文化祭を楽しめるのは多分今年が最後だと思います。だったら最後は思いっきり楽しいものにしませんか? メイド喫茶ってちょっと非日常的で楽し気な雰囲気あるし… 私はこの企画ならきっとクラスの皆で盛り上がることが出来ると思います…」


 本当に見事な演説。さすが蝶野さんって感じだった。

お陰でクラス全体の意識があっという間に一つに纏まり、誰もが彼女の意見に賛同し始めた。


 その様子に思わずにんまりとする俺と森田。

大成功!…これで俺達のやりたい放題。って思っていた。てか、思いますよね? 普通。



 だが、走り出した彼女は止まらない。


「クラス全員で力を合わせて一緒にやりませんか? そして、思い出に残る文化祭にしましょう! 私も協力は惜しみません! メイド役だって喜んで引き受けます!」


「「「 おぉぉおおおおおお~お!!!」」」



 教室に巻き起こる絶叫の嵐。男子は勿論の事、女子までもう完全にノリノリって状態に。


「蝶野さんの意見に大賛成!!!」

「俺もなんだって協力する!」

「麗香がやるなら私もメイドになる!」

「あ、なら私も! 私だってやってみたい!」


 蝶野さんの演説に感銘を受けて同調しまくる皆さん。その熱気たるやギレンの演説を遥かに凌駕するものだった。はっきり言って彼女が総帥になれば、きっとジオンは連邦を倒すことが出来るだろうって思う。


 こーなればどーなるか? まぁお察しって感じでして。


 『 主役は蝶野 』……そして実行委員の俺と森田は完全に空気。


 クラスの皆は忠誠を誓う……蝶野さんへ。

クラスの皆は好き勝手な要望を押し付ける……俺と森田へ。




 そのような状態で、文化祭に向けた準備が始まっていった。


 当初の計画は完璧に破綻。権力を失った俺と森田はただの下僕になり下がった。だが、その代わりと言っては何だがクラスメイトの協力は異常な盛り上がりを見せることとなった。部屋を装飾する段ボールを勝手に用意してきては色を塗ったり文字を書いたり… また、備品の調達や小物の買い出し、さては料理自慢の女子連中がお茶菓子としてクッキーを焼くことになったりなどなど…。日を追うごとに計画は現実味を帯びていき、それを意識し始めたクラスメイト達は更に活気を呈するように変わっていった。


 クラス単位でのイベント以外にも当然と言うか各部活による出し物だってある。特に文化部系はその名の通り文化祭に重きを置いている。だからそれらに属している生徒にとっては二足の草鞋を履く状態になるのだが、その誰もがクラスへの協力を惜しまなかった。


 着々と進んでいく準備作業。お陰で喫茶としてのお店作りは問題なく順調に進展していった。だが、最重要となるメイドの衣装、ここだけが全く決まらなかった。



「安っぽいのは嫌!」「こっちの方が絶対良い!」


 好き勝手のたまう女子連中。しまいにはレンタル衣装の店を勝手に調べて来ては好き勝手にリクエストを押し付けてくる始末。値段 = クオリティー これは世の中の真理。当然だが細部に凝った衣装ほどそのレンタル料は高額になっていく。


「お、おい… ヤバいぞ修二」

「んなこと分かってら!」


 電卓を叩く指が震える。俺と森田の顔色は程よく青に染まる。

結局、女子とは何とか話し合い(という名の罵倒合戦)を経て衣装は決まったのだが、はっきり言ってよほどの売り上げを出さないと大赤字が確定って感じに。


―――これって既に詰んでね?


 負債を抱えて倒産する会社社長の気持ちが良く分かる。

もうね、目に見えないプレッシャーが半端ないの。朝起きた瞬間に絶望感が襲ってくる毎日って感じ。


 でも、ま、いっか。いざとなれば天井からロープを吊るせばいいんだから。えへへ…。




 それからも日々準備は着実に進められていった。俺と森田は当然の如く毎日居残り。だが、蝶野さんや恭子、それに忠司や仁志もほぼ毎日手伝ってくれた。それもあってか大勢のクラスメイトが毎日入れ替わりながら参加するようになり、お陰で放課後は毎日がお祭り状態って感じになっていった。


………まあ、これはこれで


 なかなかどうして良いもんだ。

賑わいを見せる教室の風景を見てそう思う。すっかり雑用係に落ちぶれてしまったのだが、纏まりを見せる今のクラスの雰囲気を見てると、多少の苦労も些末なことに感じられる。



 ま、何にせよ言い出しっぺは俺と森田だ。

なんでこうなったのかはよう分からんが、俺と森田にはこのイベントを完遂させる義務がある。もうすぐ始まる文化祭…こーなったら盛大な花火を打ち上げて大成功を飾ってやろうじゃないの。







 そうして迎えた文化祭前日の午後。


 教室内の装飾はすべて完了した。

黒板には美術部の連中がチョークで描いた中世ヨーロッパのお城の風景。その出来栄えは本当に見事と言えるものであり、見慣れた教室の様子を別世界のものに変化させている。教室の床一面に敷き詰められたダークレッドのカーペット。机を2つ合わせ、その上に白のテーブルクロスが掛けられた客席。客観的に見ても雰囲気は申し分がない。


 教室の後方はパーテーションで区切られ喫茶の準備が行える部屋となっているが、こちらの方も準備万端だ。それに担当となった者たちも練習に余念がなく、手慣れた感じで作業を続けていた。


………いよいよ明日から始まる。


 ちょっとワクワクするような、妙な不安を感じるような… でも、やり切ったという変な充実感もあるような。計画当初からは随分と予想外の事ばかりとなってしまったが、この結果を目にするとこれで良かったのかとも思う。




 やがて、作業終了のタイムリミットまであと1時間という頃合いになって全ての準備が完了した。今や教室のどこを見回してみても普段の面影は欠片もない。俺達の教室は誰の目から見ても良さげな雰囲気を持つ喫茶店へと変貌を遂げていた。


 全ての作業が終わったことを確認した俺は、クラスの全員を教室に呼び集めた。そして、注意事項や明日からの分担作業の説明などを語り始めた。


 予め用意しておいた紙をクラス全員に配布してから順番に説明を始める。先ずは生徒会、風紀委員からの注意事項。そして次は明日からの運営について…。


 真面目な顔して各自に明日の指示を伝える俺。それを神妙な面持ちで聴きながら黙って頷くクラスメイト達。はっきり言って、居心地悪いったらありゃしない。罵声を浴びせられる日常を過ごしてきたせいか、黙って頷かれるとそれはそれで恐怖を感じてしまう。



 やがて必要な指示も全て伝達し終えた。すると肩の力が抜けたのか、教室にはいつものざわめきが戻ってくる。表情を緩めながら談笑を始めるクラスメイトの皆さま。ようやく完成にこぎつけた安堵に喜びを感じながらも、その表情には疲れた感じが滲み出ていた。



………さて、そんな皆様にはプレゼント。


 皆の努力に報いるには、はっきり言ってこれしかない!



「ちょっとみんな聞いてくれ…」


 ざわつく教室に大きな俺の声が響き渡る。


「お話はこれでお終いなんだが… これから皆に見せたいものがある」


 その言葉と共に教室の扉に向かう俺。少しだけ扉を開くと、廊下で待機していた森田に目配せをした。


「では皆さん! 主役の登場です!」


 その言葉と共にゆっくりと開かれていく教室の扉。

扉が全て開き終わると、やがて可憐な衣装を纏った少女たちが一歩二歩と歩みを進めてくる。見覚えのある顔が進んでいく。だが、その顔は記憶にあるものとはどこか異なるように見えてしまう。気品のある衣装を纏い、物静かに歩を進める彼女達の姿は美しく、そしてとても幻想的だった。


 眼の前を進んでいく彼女達の姿を見て、ただ固唾をのんで黙って見守るクラスメイト達。驚きの表情を見せながらも言葉を漏らす者は誰もいない。妙な静寂に包まれる教室。そのような中、やがて5名のメイド達は黒板の前に粛々と居並んだ。


 整列を確認した後に合図を送る俺。それを受け取った彼女。


 少しして……



「「「「「 いらっしゃいませ、ご主人様 」」」」」



 恥じらいを見せる可憐なメイド達による合唱の声が教室に響き渡った。


 水を打ったように静まり返った教室。だが、その静寂は大きな歓声によって直ぐに破られることとなった。


「「「うぉおおおおお~!!!」」」


 校舎中に響き渡らんってぐらいの歓声が上がる。

四方から上がる称賛の声。クラス全員のテンションは一気に最高潮へ。興奮の坩堝と化した教室は異様な雰囲気に飲み込まれていった。


 だが、そのような雰囲気に動揺することもなく、中心にいた彼女は他のメイド達に微笑を投げかける。視線を交わした5人の少女。やがて彼女が半歩前に出ると、教室は再び沈黙に包まれた。


 左右を見やり、息を合わせる5人の少女達。


「「「「「 かしこまりました。ご主人様 」」」」」


 スカートの袖を両手でつまみ、それを少しだけ引き上げると同時に軽くこうべを垂れる可憐なメイド達。


―――おっし完璧!


 予想をはるかに超える出来。衣装も所作も文句なし!

彼女達の姿を見ただけで、全ての客が満足できるだろうって確信した。


 お披露目が終わり、5人の中心で満面の笑みを浮かべる蝶野さん。その左横で、羞恥の色を浮かべながら微笑む恭子。5人とも最高に可愛いメイドに仕上がっている。文句のつけようなどない。


………だが、まあなんといいますか。


 蝶野さんと恭子はやはり別格。

二人を見てると本当に現実世界を忘れてしまいそうになる。



 さて、5人のメイドが着ている衣装はといいますと…。


 ウエストでしっかりと絞られ、そこから足元までゆったりと広がりを見せていく黒のワンピース。肩の部分は膨らみを持つが腕に向かってキュッと細くなり、その先端は白いカフスに繋がる。そして首元にはやや大きめの白い襟。また、ワンピースの上には定番ともいえる白のエプロンをつけているのだが、肩についてる大きなフリルや腰の後でギュッと結ばれた大きな蝶々結びが如何にもって雰囲気を醸し出している。後は当然というか、頭にはフリルの付いたカチューシャを装着。


 所謂クラッシックメイドの定番と言える衣装だが、細部のデザインにも工夫が施されており、厳かな感じと可愛さが両立されている見事なものだ。女子連中が理想を追い求めただけあって、流石にと思ってしまうほど素晴らしい。


―――いやほんとに凄いわ。


 可愛さも。お値段も。お値段も。お値段も。


………でも、ま、なんとかなるべ。


 メイド達を見て自信を持った。

これならボッタくり蔵の値段を設定しても文句言ってくる客はいねーだろ。後で料金表を書き変えないといかんな。


 なんかちょっとだけ安心できた。これなら我が社は倒産を免れるかもしれん。


 ホッと一安心した俺。クラスの皆がカメラ小僧になって撮影に没頭している中、俺はもう一つの仕事に取り掛かることに。




 盛り上がりを見せる教室で、全く同調を示さない異端児に向かって俺は歩みを進めた。


「どうだ、仁志? 恭子を見て惚れ直しただろ?」


「直す? そんな必要なんかないだろ?」


「はいはいそーっすか…」


 ほんと、こいつの感情ってどこにあんの?って感じ。しかもぬけぬけと鉄面皮のまま惚れてること完全肯定しやがって。 だが、今はそれよりも倒産回避に専念せねば。



「しっかし、恭子も頑張ってるよな。クラスのために……」


「ああ、そうだな」


「なら… お前も頑張んないとな…」


「何企んでる、修二?」


「まーまー いいから。 おーい、森田く~ん」


「は~い。呼びましたか? 修二くん」


「ちゅーわけで、仁志はこれ着て受付やってくれる?」


 俺は森田から受け取った衣装を仁志の前に差し出した。にっこり笑顔で。



「―――やるわけねーだろ」


「そんなこと言わないでマジお願い。ほんとマジで!」


「俺はやらん!」


 チッ! 恭子で釣れなかったか。 しゃーない、次の手段だ!



「あ~あ… 俺って美月のために結構頑張ってるんだけどなぁ~。仁志がやらねーから…」


「………ったく、分かったよ! やりゃいいんだろ!」


「え? やってくれんの? マ・ジ・で?(激ウザ)」


「ああやってやるよ。 だがな修二……」


「なぁ~に? 仁志くん(激笑顔)」



「お前もやれ」


「………へーい」



 あ~あ… 道連れにされちまった。

だが、これは止む無し。自分を犠牲にしてでも仁志を引き込むことにでっかい意義がある。


 俺が仁志に見せたのは執事の衣装。

仁志が執事姿を披露すれば100名程度の客 (女子)が確約されるらしい。(森田君の裏調査により判明した事実)


 俺の計算上、この100名の客をGETできれば我が社の倒産を回避できる可能性が高い。背に腹は代えられないと言うが、ほんとそれ。今の俺は金のためなら平気で悪魔にだって魂売ってやる。


 だが、どーせ魂売るなら多いに越したことは無いよね?



「なあ森田…」


「あ? どーした?」


「「 お前もやれ!」」


 や~だ~ 仁志くんと息ぴったり。普通にハモっちゃったぁ~♡



 そー言う訳でわがクラスのメイド喫茶には、超イケメン執事と微妙な羊が二匹追加されることになりましたとさ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ