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90. 美月の憂鬱…Ⅱ




「ええっ! そ、そんな… ひ、酷い。 美月の裏切りもの~!!!」


 小百合さん絶叫。


 いや…… 私は何も裏切ってなんかいないからね? 勝手に勘違いしたのは小百合なんだからね? そもそも―――私に好きな男子がいたらなんで裏切り者になるわけ? 



 壮絶な勘違いをして一人で悦に入っていた小百合。

私はそんな小百合の暴走を止めるために最終手段を使用してしまった。



「―――ゴメンね、小百合。私には好きな男子がいるの」


 本当は小百合にも隠しておきたかったんだけど、この状況ではそうもいっていられない。



 だが、当然というか最初はそれを信じようとしなかった小百合。だから私は思い切ってその人物の名前を小百合に明かした。



「―――そっか。 なら… 本当なんだね……」


 その人物の名を訊いて一発で納得した小百合。


………あれ? なんで? どーして?



 小百合が納得してくれたのは嬉しいのだけれど…… なんだろう、あっさり納得されるとこっちが納得できないんですけど? ってか、微妙にイラっと来るのは何故?



「でも、修二先輩か…… 確かに美月が惚れちゃってもおかしくないよね…」


 そう言って納得した様子で首を縦に振る小百合。



 私が? 修二に? 惚れてる?―――はぁああ???


 確かにおっしゃる通りでございます、はい。

でもズバリ指摘されるとこんなにムカつくのはなぜ? やっぱかつては宿敵ともの関係だったことが原因?



「すっごく残念だけど、でも仕方ないよね。相手が修二先輩ならどーせ私なんか敵わないし。それに修二先輩ならきっと美月の事を大事にしてくれるんだろーし…」


 割とさっぱりした表情で小百合は淡々と私に向かってそう言ってきた。



 中学に入学して直ぐに仲良くなった私と小百合。

だから私の様子を気遣ってちょくちょく私達の教室に顔を見せていた修二の事を小百合はよく知っている。それに修二は彼女に裏切られてからというもの私やお兄ぃと一緒にいる時間が多くなった。だから必然的に小百合とも顔なじみとなり、普通に話をする関係にもなっていた。


 そんな小百合が修二の事を語るのは理解できるんだけど……ちょっと褒めすぎやしませんか?




 その時の私にあったのは修二へのほのかな想いって感じ。

だから小百合の言葉を聞いても私にはどこか釈然としない部分があった。



「納得してくれたのは有難いんだけど… 小百合はどーしてそんなに修二の事を褒めるの? ちょっと過大評価じゃない?っていうか……」


「クスッ… だって。……修二先輩は本当に美月の事を想ってるんだもん」


「―――どーいうこと?」


 修二が私の事を大切にしてくれているのは分かってる。でも、どーして小百合がそれをここまで……



「私ね、修二先輩が卒業するときに頼まれたんだ。『美月とこれからも仲良くしてやって欲しい。本当に頼むね、小百合ちゃん』って…」



「………」



「私はその時の修二先輩の顔を今でも覚えてる。凄く優しくて、温かそうで、……美月の事を想ってる気持ちが凄く伝わってきちゃった。 ほんと、修二先輩って良いよね。私だって思わず惚れちゃいそうになったもん…」



「だからさ、そんな修二先輩に美月が惚れちゃうのも十分納得って感じかな」


「………」


「あれ? どーしちゃったの? 美月……」


「―――う、ううん。なんでも…」



 私は小百合から顔を逸らせた。そして、平静を装いつつ小さな声でそう呟いた。



―――やっぱり、……修二だ。



 温かい感情で心が満たされていくのを感じる。そして、修二を抱きしめたい気持ちでいっぱいになる。


 大好きなお兄ぃがいて、そのおかげで修二と出会えて……


―――私は本当に幸せ者だ。




「でも… だったらさ、美月…… 頑張って修二先輩と結ばれなきゃね」


「えっ? でも小百合は……」


「私は良いの。美月に振り向いてもらえなくても美月の傍で居れたらそれでいい。それよりも私は美月に幸せになってもらいたい。それに相手が修二先輩なら私だって応援したいって思っちゃうし」


「ご、ごめんね、小百合。ほんとに……」


「いいのいいの、気にしない! それで、どーなの? 修二先輩とは?」


「う、うん… 今はまだこれと言って何も……」


「も~う! 美月ったら。そんなことやってたら誰かにサラッと持ってかれちゃうよ? その証拠に先輩には二人目の彼女もあっさりできたでしょ?」


「………た、確かに」


「うん、仕方ない。ここは私に任せて。どーやって修二先輩にアピールすればいいか……私が考えてあげるから。私の「あざとさ」もしっかり伝授してあげるから頑張るんだよ、美月!」


「う、うん。頑張ってみる!」


「よしよしその調子。絶対私が二人をくっつけてあげるからね!」


 わぁ~い♡

ありがとうね、小百合。ほんと恩に着ちゃう……ちゃう……ちゃう?



―――ちゃうちゃう全っ然ちっがーう!!!



 いやいやいやいや違うでしょって?

何で私が応援されてるわけ? 私は確か応援する方の立場だった筈よね?





―◇―◇―◇―





「ねえ小百合、小百合には本当にいないの? ちょっといいかなぁ~って思う男子とか?」


「いいかなぁ~って思う男子……ねえぇ~」


「そうそう。例えばほら、ユウ………」


「うん、いない!(キッパリ)」


「………さいですか」



 私はなんとか話を本題の方へと移していった。

私と修二の事よりも今はユウとの約束の方が大事だ。幸い小百合には好きな「男子」はいない。なら小百合には悪いが私の事は諦めて貰い、ユウと付き合って「真っ当な人生」を歩んでほしいと私は思う。



「ねえ美月、よく『名は体を表す』って言うでしょ? 私はつくづくそれは本当なんだって思っちゃう」


「―――どういうこと?」


「私はやっぱり『小山内 小百合』なんだよね……」


 小百合はそう言ってどこか虚ろな表情で私を見る。



 はて? 「名は体を表す」……何のこと?


 彼女の名前は「小山内 小百合」


 小山内 → 幼い。……うむ、確かに小百合は幼く見える。

 小百合 → 「小」さな「百合」と書いて小百合。



―――小柄で幼く小さくて愛らしい彼女は「百合」である。



 なるほど納得。 座布団3枚あげる。



 いやそーいうのいいから。

そんなこと言ったら全国にいる「小百合」さんはどーなっちゃうのよ?



「あ、あのね、小百合… 私と小百合は一番の親友。それはこれからも変わらない。だけど私は修二を恋人にしたいと思ってる。だからさ、小百合も素敵な男子を見つけて恋をして欲しいって思うの……」


「う~ん そ~ねぇ~」


「ほ、ほら… 私達の近くで言えばユウだっているじゃない? 結構なイケメンだし、スポーツマンだし、それにユウはとっても優しいし……」


「ん~ん… ユウかぁ~」


「そうそう。ユウ…」


「確かに良いよね。人間的に言ったらユウは好きだし……」


「そ、そう?! ならさ、…………」



「でも残念。ユウが女の子なら良かったのにね♡」


「―――左様でございますか」




 そんな訳で、私の作戦は大失敗に終わった。

しかもこの事実をユウに伝えるなんてとてもじゃないができない。



「ゴメンね、ユウ。小百合の好きな人って私なんだってぇ~。ざぁ~んねん♡」


 言える訳無いよね? こんなこと。

だから私はユウに奮起してもらおうと考えた。



「小百合には特別好きな男子はいない。だから頑張って、ユウ!」


 私はその言葉をユウに伝えた。

何処か心苦しい部分もあるが……私は噓は言ってない! 小百合に好きな「男子」がいないことは確かなんだから!(詐欺)


 でもユウなら一縷の望みはある。

小百合が男子に興味を示すようになれば彼氏になれる第一候補はユウなのだから。



 だが、そこから私の苦労は始まった。

ユウからは相談の電話がたびたび私の元に来る。その度に私は苦しい気持ちでユウの相談を受けることとなる。


………そう言えば。


 修二が私に「好きな男子」が出来たと勘違いしたのもユウからの電話の時だった。


 私の部屋で目の前に修二がいる状況。そこにユウから相談の電話が掛かってくる。………まさに最悪の状況。


「百合」問題を解決するためにユウを励ます私……


 そんな姿を修二に見せることなんて出来る訳がない。しかも、もしこの問題が修二にバレたのなら、きっと奴はこんなことを言うに違いない。



『 ぎゃはははははははははは~ み、美月、勘弁してくれ。お前は俺を笑いで殺す気か? 「ブラコン」の次は「百合」って…。 クククッ…お前はどんなけ「禁断の恋」が好きなんだよ? マジウケる~! だ、ダメだ。もうお腹限界。ぎゃはははははははははは~』



 あ、ヤバい。

想像しただけで殺意が芽生えてきちゃった。


 修二にこんな事バレるぐらいなら「好きな男子が出来た」と勘違いしてもらっていた方が良い。「好きだと言ってきた女子が現れた」……こんな事実を知られるよりは千倍マシだ。



 私はそれから今に至るまでずっとこの問題を抱えている。



 私と修二の関係は至って良好。

いえ、それどころか最高って感じ。なんせ私の受験が終わるまで修二は私の専属家庭教師になってくれたのだから。しかもその間は彼女をつくらないという特典のおまけつき。


 だから私は受験勉強に集中することが出来ている。

問題は小百合とユウの事だけ。




 でも私は受験が終わるまでにはそれを解決したいと思ってる。

修二のおかげで心にゆとりを持てている今の私。だから私は大切な友達のために努力を行いたい。順調にいけば私達3人は修二のいる高校に進学することになる。高校生になっても良い関係を続けるために、私は絶対に小百合を真っ当な道に戻してみせる!



 まあそんな決意を胸に秘め、私は小百合とユウを誘ってこの塾の特別講習に参加しているって感じです。


 塾に通いだしてから小百合とユウが二人で喋る機会も多くなった。

それに私が機転をきかせて二人だけの時間をつくるようにしているお陰なのか、小百合とユウの距離は前よりも縮まったような気もする。だから明るい未来も見えそうな気がしない訳でもない。………のだが、



 午前の授業が終了し、お昼休みとなった。

いつものように3人でお弁当を食べようと思って小百合の方を向くと、目を細めて可愛い表情をした小百合が誰かに手を振っている。小百合の視線を辿っていくと、行きついたその先はユウ。


「小百合、私ちょっとコンビニに用事あるから先にユウと食べ始めてて…」


「うん、わかった」


 見よ、この機転!

私はすかさずユウにチャンスを与える。


 それから私はコンビニでかなり無駄な時間を消費してから小百合たちの元へと戻ることに。


―――進展は?


 私はちょっとだけ期待に胸を膨らます。

そうして私が部屋に戻ってきて目にした風景、それは……



 真夏の外に放り出されて10分以上経過したアイスのようにドロドロに溶け切ったユウの顔だった。


「お、おかへり~ みふきちゃん。おしょかったね~」


―――このドヘタレ!!!


 塾の授業が終了した後、私はユウを連れ出して教育的指導(物理学で言う力学的なやつ)を行ったのは言うまでもない。




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