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9. 蝶野さんⅣ



「やっぱり自分勝手な思い込みを相手に向けたらだめだよね……」


 多分これがヤ○ーで答えたら選ばれるベストアンサーだろ?…… もう無理、頭から煙が出そう…。

それに……俺が自分で言った言葉が思いっきり自分に突き刺さってる。もう特大のブーメランもいいとこ。


まーよくこんなに自分のことを棚に上げて偉そうに言うわって感じ…。 どの口が言う?…はいこの口です。何かさっきからさ、おれ自傷行為やってる感ハンパないんっすけど…。




 俺があと一発のパンチでKOされる寸前まで追い込まれたとき、ようやく注文した品がテーブルに置かれた。ケーキを見た蝶野さんは一気に表情を変えて幸せの笑顔に大変身。 いや~、ケーキって……ホント凄いっすね。


 俺がどんな技使っても無理と思えた蝶野さんのご機嫌取りを一瞬で成し遂げた。 ブラボー!



「ま、続きは食べてからということで…」


「うん、食べるね~ ふふふ…ああ~幸せ~~」



 満面の笑みでおいしそうにケーキを食べる蝶野さん。俺はこの間に精神力をチャージ。

さっきはヤバかった。蝶野さんの元彼の話なのに、何故か俺が攻め立てられている感がハンパなかった。俺にも心当たりのあることがも~うあるわあるわ……



 目の前で幸せそうにケーキを頬張る蝶野さん。彼女の外見は誰もが見惚れる程美しい。だけど彼女はただ美しい女の子であるだけではなく、自分というものをしっかりと持っている強い人だ。彼女がどうして周りの人を引き寄せるのかその理由が分かるような気がした。


―――蝶野さんになら…


 この人になら全てを話しても大丈夫だろう。

そして俺が知りたかった事に対する答えがもしかしたら分かるのかも……そんな気がする。



「はぁ~ッ 美味しかった。本郷くん! ごちそうさま~ えへへ…」


「どーいたしまして…」


 ケーキを食べ終えすっかりご満悦の蝶野さん。もう顔はにっこにこで幸せいっぱいって感じ。

あ、ほっぺにショコラが…… 私に任せて下さりませ。このベロにて今すぐ綺麗に…(妄想)



「う~~ん、……大満足…」


ふむ、大天使様は満足なされた。いざ本題に移らせていただきませう……


「さてさて… 食べ終わったことだし、…本郷くん…」


―――待ってました。いざご相談を……


「あ、あのさ……実はおれ………」



「帰ろっか?」


「そうですね、帰りましょうか~…… ってダメでしょ!…」


「ウフフ… 冗談よ…」


 大天使様、真顔で冗談言うのやめてください…。 本気と書いてマジで切れますよ?

家政婦おれはちゃんと見てましたよ…… 冗談と言いつつ鞄に手をかけてたの…。



「それじゃあ……どんなことか聞かせて?」


 ニコリと微笑んで彼女は両腕をテーブルの上に置き、少し上体を前のめりにさせて話を聞く態勢に…。


 まず最初に俺はこれから喋る話が理沙子の事ではない旨を説明し、中学時代の恋愛話であると断りを入れてから話し始めた。



 初恋の人と付き合うようになり、どのような過程を経ていったか、何故別れたのか、そして今だに消えないトラウマについて……。



 一通り俺の話を聞き終えると、蝶野さんは直ぐにある感想を述べた。ただその感想は……俺の心に衝撃を与えることになる。



「本郷君も恋愛で苦労してるんだね…。……でも、話を聞いていてちょと不思議に思うんだけど…」


「どういうところが?」


「だってね、さほど好きでも無かった彼女のことをどうしてそこまで引き摺るのかなって?…」


―――何言ってんの?……蝶野さん…


「ちょっと待って、蝶野さん…。お、俺はさっき説明したよね? 初恋の人で凄く愛していたって……」


「本郷君ってさ、……そんなに大事な人を簡単に他の男の子にあげちゃうんだ?」


「あ、あげてなんか…… 彼女が勝手に………」


「彼女は他の男の子とキスしてた。……でもそのことを本郷君に知られて彼女は必死に謝ってたんだよね? 別れたくないって言ってたんだよね? それを本郷君は全て無視したんでしょ?」


「―――ああ、そうしたよ」


「それってもうその彼女を放棄したってことだよね? キスしてた相手の男の所にでも行けって感じで?」


「…………」


「だから言ってるんだけどな…… その程度のもんだったんでしょって……」


「そんなことない! おれは本当にあいつのことが好きだった……」


「……やっぱりおかしいよね? 私だったらそんなに好きになった人を簡単に手放したりしないけど。しかも彼女は謝ってきて許して欲しいって言ってるんだから十分その男の子から奪い返せるよね?…」


「で、でも……だったら何で裏切ったり…」


「今から話すことを冷静に考えてね……本郷君…」



 彼女はそう言って真剣な眼を俺に向けた。さっきまで浮かべていた微笑みは今はもう全くない。

それから彼女はゆっくりと話し出す。まるで昔ばなしでもするかのように…。


◇ ◇


 ある男の子と女の子がいました。

その二人は長い時間をかけてお互いを理解していき、お互いに惹かれ合っていきました。


 やがて二人は付き合うようになり、互いに相手が好きなのは自分であると信じ込むようになりました。最初は不安になり相手の気持ちを確かめることもありましたが、やがてその必要も無いと安心し始めました。


 そこへ悪い男が現れました。その男は仲睦まじくしているカップルの彼女をみて、あまりの可愛さに奪い取って自分のモノにしてやろうと考えました。悪い男は言葉巧みにその女の子に近寄り、彼氏への不満を煽っていきます。


 そして自分は優しい人、頼りになる人を演じます。そんな彼女の危機に彼氏は全く気付いてません。何故なら彼氏はお互いに愛し合ってると信じ切って、彼女の様子に注意を払わなくなっていたからです。


 そうして彼女の心は少しずつ悪い男の方へと傾いて行きます。深い愛情があればそんなことは無い……そう思う人もいますが、実際にはより身近にいる人の影響は強いものです。悪い男はそれをよく知っているので、出来るだけ彼女の近くに居ようと工夫してきます。


 やがて悪い男は少しだけその彼女の心を掴むことができました。でもまだまだその彼女の心は彼氏の方を向いてます。そこで悪い男は次の手段に出ます。少しでも彼女に隙があれば彼女の体を狙っていき、一気にその彼氏から奪ってやろうと行動に出ます。そうして彼女の隙をついて悪い男はとうとう彼女の唇を奪いました。


 更にその時、悪い男にとって幸運なことに彼氏がその現場を目撃していました。その彼氏は彼女の言うことを何も訊かずに彼女を捨て去りました。そして彼女は寂しく一人ぼっちになってしまいました。


 悪い男にとってはまさに天恵。なんと最も邪魔だった彼氏が自ら消えていなくなってくれました。彼女の心はまだまだ彼氏の方を向いていたのに、彼女を簡単に捨ててくれました。おかげで狙っていた彼女は今なら容易く騙せる状態。もうやりたい放題です。



さて問題です。


―――いったい誰が一番得をしたでしょうか???


―――そして、いったい誰が一番損をしたでしょうか???


◇ ◇


 さっきから鼓動が早くなりすぎて耳鳴りしている。身体の芯から熱がとめどなく出てきて熱い。体をじっとさせてるのが辛い。


 怒りが沸々と湧き起っている。話してるのが蝶野さんじゃなかったら俺はもうとっくに殴りかかっている。もう思いっきり叫びたい気分だった。何もかもが嫌になってきた。


俺の感情が憎悪で乱れ切っていたその時に蝶野さんは言った。



「本郷君、……この話の最後はね、彼氏の心は傷つき砕け、彼女の心は悲しみの海に沈んでね、悪い男だけが一人で笑ってる… こんな終わり方なの……」


「でも一つだけ救いっていうか…… 本郷君がその彼女に復讐しようって思わなかったことだけがまだ良かったのかもね。そこで本郷君が彼女に復讐してたら彼女は終わりだったね。もう落ちるとこまで落ちていくって感じかな…。もし本郷君が彼女に復讐してたんだったら私は明日からあなたと口を利かなかったけどね……」


「それとね、本郷君…… その悪い男の始末はしたの? 一番の原因よ?…その人が。だいたい彼氏がいるのを知ってて彼女に近付くってろくな男じゃないよね?… 本郷君はそんな男に彼女を投げ捨てたんだね…」


「だから言ったでしょ?… 本郷君はその彼女を愛してなかったんだって…。私だったら本当に愛する人をそんな悪い奴になんか絶対に渡さない。意地でも奪い返しに行く。戦ってでも取り返しに行くけどね…」



死にたい…… 本当にそう思った。


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[一言] この論理だと、本当に愛しているのであれば、浮気した当人が謝って元サヤを望むなら、常に許容しなければならない、浮気はされた側と、唆した側が悪く、浮気をして裏切った当人は悪くない、ということにな…
[良い点] ストーリーが特徴的で面白いです [一言] 彼氏が別の女とキスしてたら別れようってなる女の人多いと思うんだけどどうなんだろうな 蝶野さんのアドバイスはあくまで彼女の意見であって答えではないと…
[良い点] 続きが気になります! [気になる点] 蝶野さんの話は理解できます。 かなり色々な人生経験積んでないと、そこまでの考えは出てこない気がしますね。。 ただ、蝶野さんの言っていることは、すべて…
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