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75. 恋する資格…Ⅵ



「あ、本郷君。ごめんね、待たせちゃって」


「いいや全然。それよかお菓子でも買っていこーぜ…」


 ここは佐藤の家に程近い場所にあるコンビニ。佐藤の指示通り、俺はこのコンビニに到着すると佐藤に迎えを頼む電話を入れた。


 佐藤が住んでいる街に俺が足を踏み入れるのは初めて。だから全く土地勘など無いのだが、ナビのおかげで俺はすんなり待ち合わせ場所であるこのコンビニに辿り着くことが出来た。


 夜の分を見越して、かなり多めにお菓子を買い込んだ俺と佐藤はそのまま家に向かって歩き始める。そして歩くこと数分、閑静な住宅街の中にひときわ立派な戸建ての家が視界に入ってきた。



「ここが僕んちだよ。さぁ、どうぞどうぞ…」


 佐藤にせかされる感じで、俺は初めて佐藤家を訪問することになった。

立派な門をくぐり、綺麗に剪定された庭木を眺めながら歩いていくと、やがて大きな扉が目の前に現れる。佐藤はその扉を開け放つと、「どうぞ、中に入って、本郷君」…そう言っていつもの笑顔で俺を玄関の中へと招き入れた。


 中に入ると広々とした空間に出迎えられる。床は大理石、その先に小さな石段があり、そこで靴を脱ぐといった感じになっているのだが、大人四人がゆうに並べるぐらいのスペースがある。少しだけ辺りを見回すと、棚に置かれた立派な彫刻や高そうな壺が目に入ってくる。


 少し圧倒された気分になりながら靴を脱ぎ、家に上がると、奥からパタパタとスリッパで歩く足音が近づいてきた。



「まあまあ、いらっしゃいませ。いつも忠司がお世話になっております。忠司の母で奈美恵なみえと申します」


「は、初めまして。僕は佐藤君のクラスメイトで本郷修二といいます」


「こちらこそ初めまして、本郷君。噂はかねがね忠司から訊かされております。なんでも明るくって凄く楽しい方で、忠司のことを気に掛けていつも親切にして頂いているとか… 忠司の母として本当に感謝いたしております」


「い、いいえそんな… 恐縮です」


「うふふ… 今日はどうぞゆっくりしていってくださいね。夕食は張り切って作らせて頂きますので…」


「そ、そんな… お気遣いなく…」


「母さん、もういいでしょ? さ、本郷君 僕の部屋に行こう…」


「それでは… 今日はお世話になります」


 佐藤の母さんに挨拶を済ませた俺は、佐藤に案内されるがままに一緒に階段を上って部屋へと向かった。



 あのさ、加賀美… 本当はこんなこと言いたくはないのだがな……


―――ごめん、諦めろ。


 もうね、ムリムリ。次元というか住む世界が違い過ぎてお話にならない。


 この家といい佐藤の母さんといい、気品に満ち溢れたこの感じ。

間違いない。佐藤は上級市民のご子息だ。


 世紀末でヒャッハーって感じなお前とはどう頑張ったとこで接点が見つからない。王子様がガラスの靴をもって探し求めるのは可憐で清楚なシンデレラだ。間違ってもガラの悪いキャバ嬢ではない。


………い、いかんいかん

余りの衝撃につい正直な感想を吐露してしまった。


 だ、大丈夫だ、加賀美。心配するな。愛は国境を超える。たとえ異世界の住人だろうが愛さえあれば何とか……何とかなる! ような気がする! かもしれない! ……なったらいいのにね?(希望的観測)




「さあ本郷君入って… ここが僕の部屋だよ」

「お、おう……」


 佐藤は自分の部屋に到着すると思いっきり扉を開け放ち、俺にその全貌を披露した。



………ごめんね、まどかちゃん。 やっぱムリ。諦めて。


 大きさは俺の部屋の倍以上はあろうか。広々とした空間に、見るからに安価では無さそうなベッドや机などの調度品が配置されている。本棚や勉強机なども本格的な木を使用したもので作られており、そこから放たれる重厚な光沢は良質を感じさせる。全体的に上品にまとまっていて落ち着きを感じさせる佐藤の部屋。流石に佐藤だ……思わずそう納得させられた。


 もし、佐藤と加賀美が付き合ったらさ、いずれはこの部屋で二人ボッチの時が……


 ないわぁ~ マジでないわぁ~

この空間の雰囲気と加賀美を合成することが俺にはどうしてもできない。



でも……そうだったんだな。


 冗談はさておき、俺は佐藤という人物を知ることが出来ていなかったんだなと痛感した。席は隣同士でいつもよく話す。それに気も合うので、俺は佐藤の事を理解できていると勝手に思い込んでいた。だが、佐藤がどのような環境で育ってきたのか、俺は何も知らない。それに俺だって自分の過去を佐藤に話したことも無い。こんなんでもはや親友だと思い込んでいた自分……まったく、呆れ返ってしまう。



 佐藤の部屋を見回しながらそんなことを思っていた俺。

だが、佐藤は嬉しそうに動き回り、俺が気付かぬうちにゲームの準備を整えていた。


「本郷君、見て見て… 始まるよ」


 部屋の真ん中に敷かれた大きなカーペット、その中央に位置するローテーブルの傍らに腰を下ろし、コントローラーを握って目の前の大きなTVを食い入るように見つめている佐藤。俺はそんな佐藤の隣に腰を下ろした。


「ほら、凄く奇麗でしょ? さすが最新版って感じだよね?」


 そういって眼を輝かせて画面を夢中で見つめる佐藤。俺は佐藤の言葉に従って同じように画面を見つめた。


 確かに映像は凄く綺麗だ。迫力も桁違いだし。だがな、佐藤、それは……


 ゲームが凄いんじゃなくてTVが凄いんじゃないのか?

何でこんなにでっかいTVが部屋にあんの? うちのリビングにあるやつより遥かにでかいぞ。しかも薄っぺらくて超高画質って感じだし。―――ねぇ佐藤くん、お願い。うちのTVと交換してちょーだい。



「さあ、始めるよ。まずは僕の腕前を見ててね…」


 俺の切なる願いを知る由もない佐藤はそう言うと、いつものにこやかな表情は一変し、戦闘モードの真剣な顔へと変貌した。


 FPSのバトルゲーム。簡単に説明すると複数人が参加可能な戦場での殺し合い。歴史的な戦闘シーンから舞台を選び、好きな国の隊員となり、勝利を目指してただひたすらドンパチやり合う。ただ、面白いのは兵器を選べる自由度が高く、史実にないような兵器を選択出来たりもする。ちなみに佐藤が選んだ舞台は第二次世界大戦におけるヨーロッパ戦線。選んだ国は連合国であるアメリカ合衆国。敵となるのは当然ナチスドイツって感じ。


「よし! 敵の狙撃兵を倒した!」


 佐藤は夢中になり戦場を駆け巡っている。

物陰に隠れ、状況をしっかりと把握し、隙をついては敵兵に銃弾を浴びせる。そしてすぐに移動。見ていて見事と思える程、行動は素早く判断は冷静かつ正確だ。この辺りは流石に佐藤と言ったところ。


 気が付けば俺は夢中で佐藤の戦闘を見守っていた。

大画面のTVに映し出されるド迫力の見事な映像。それにより戦場にいる臨場感が醸し出され、嫌でも気分は高揚させられる。


「佐藤、次は俺な! これが終わったら直ぐにやらせろ!」


 全てを忘れ、俺がゲームにのめりこんでいったのは言うまでもない。



 でもほんと、佐藤の言ってた通り。風景や建物、それに銃や戦車などのディテールが凄い。これなら奴が感動したのにも頷ける。よっし、今日はこのゲームをとことん堪能するぞ!オールナイトでバトルだ!


俺は本当に全てを忘れた。(てへっ)―――



 やがて佐藤のバトルは終了し、いよいよ俺が戦場に赴くことに。


「よし、俺の出番だな」

「本郷君やる気十分だね」


「もち。俺の実力を見せてやる!」

「そー言えば本郷君はどの国で戦うの?」


「そんなもん決まってる! 大日本帝国一択だ!」

「へぇ~え。それでどこと戦うの?」


「それも当然決まってる。悪の枢軸ナチスドイツとコミュニスト(共産主義者)の巣窟であるソ連だ!」


「………」



「あのさ、本郷君…」

「ん? どうした?」


「残念だけど… そーいうのやって無いから」

「はぁ? なんで?」


「あのね、日本も立派な枢軸国の一員だよ? 同盟国と戦ってどーするの? それにソ連を相手に戦うのも難易度が高いって。最後はシベリアに抑留されちゃうよ…」


「はん! なに臆病なこと言ってやがる。大和魂はなんだって可能にするんだ!」


「……魂とかいいからさ、もっと物理的に考えようよ…」


「大丈夫だ、心配するな。大日本帝国には究極の必殺技がある…」


「どんな?…」


「万歳突撃!!!」


「いやそれもう玉砕してるでしょ? 全滅してるよね?」


「そんなの気にしなくていい。最終的には必ず大日本帝国の勝利で終わるのだ」


「どうして?」


「だってこっちには『大本営発表』って裏技があるんだから…」


「…………」



「理解できたか、佐藤?」

「―――うんわかったもー何も言わない」



 そんな訳で……いざ出陣!

佐藤が言ったようにドイツとソ連を両方敵に回す設定は無かったため、俺は渋々アメリカを相手に戦うことに。


 佐藤をまねて、俺は物陰に隠れながら狙撃の瞬間を待つ。

そして、―――バァーン! 見事に一発でヘッドショットを決めた。


 クククッ…お前、運が悪かったな。俺に狙われるなんて…。

なんせ俺は伝説のスナイパー「デューク本郷」なのだから。


「フッ… 弾は一発あればいい…」


「………いや、弾は無限に必要だからね? ってか周り全て敵だらけでしょ? 早く隠れないと」



 いちいちうるさい佐藤め。俺は今、A級スナイパーの気分なんだ。ちょっとは余韻に浸らせろ。 だが、佐藤の言う通りまだまだ敵の数は多い。ここはもう一度物陰に潜んで好機を待つか。よし、あの壁の裏に潜むとしよう。


 俺は右奥にあった壁の後に素早く駆け込む。そして慎重に辺りを見回した。


………よしよし、敵に気付かれていない。

それに敵が近寄ってくる様子もない。いい場所を見つけた。さ~て、次はどいつを始末してや………


―――チュッ ドォオオオ~ン―――


 俺の姿は一瞬で画面から蒸発した。

ってか、俺の居た場所全てが跡形もなく消えてなくなってる。



「あ、本郷君。言い忘れてたけどね、敵戦車の主砲は強力だから。戦車見つけたら急いで逃げた方が良いよ…」


「………みたいだな。すげー実感できたわ」


 それから俺がムキになってゲームに熱中したことは言うまでも無いほど言うまでもない。




 やがて夕食時となり、俺は佐藤家の皆様と食卓を囲うこととなった。


 俺が佐藤の家を訪問したのはこれが初めて。しかもいきなりのお泊りコース。そう言ったこともあり、さすがの俺も少し恐縮していた。……のだが、数分後には学校での出来事や佐藤との日常などの話を俺は饒舌になって語っていた。


 佐藤の事を俺は人格者と認めていたが、その両親はそれに輪をかけた感じである。初対面としての社交辞令、息子の友人だから、……そう言ったものを一切感じさせない優しさや温もりをもって俺に接してくれている。それを素直に感じさせられるので、俺はいつの間にか普段の自分に戻り、思うことを思うがままに語ってしまったのだろう。


 食事を終えた時、初対面で流石にこれは失礼だったと感じ、自省する思いになっていたのだが…


「本郷君は忠司から訊いていた通りの人物だね。君の明るさは本当に素晴らしい。お陰様で私達も楽しいときを過ごすことが出来たよ。これからは気兼ねなく遊びに来てください。私も今日の話の続きを楽しみにしてるのでね…」


 佐藤の父さんは優し気な視線を俺に向け、微笑みながらそう言ってくれた。



 なんて言えばいいのか、上手い言葉が見つからない。

佐藤の父さんが掛けてくれた言葉には真心が籠ってるというか、はっきりとした温かさを感じる。


 これぞ真の人格者というのであろうか。

心にゆとりを持ち、他者を慈しむその様子に偽善を感じさせる部分は欠片も無い。


 本当に素晴らしい佐藤の両親。優しさが身体から滲み出ているような感じで、佐藤に対しても深い愛情を注いでいるのが見て取れた。無課金放置プレイからの「何とかなるべ」って感じで俺を育ててきたうちの両親と比較すること自体がおこがましいとさえ感じられる。


 こんな環境でしっかりと育てられれば………確かにそうなるよな。


 佐藤が何故あそこまで誰に対してでも優しいのか、その理由を垣間見たような気がした。両親の大きな愛に包まれ、なに不自由することもなく真っすぐに育てられれば、確かに佐藤のような人物が出来上がるのかもしれない。


 人が他者に対して親身になれるのは、何らかの好意があるからである……俺はそう考えていた。仁志や美月、それに恭子に対して俺が親身になれるのは、それぞれに特別な想いがあるからである。見返りもなく無条件に、誰に対しても親身になれるような人物、いわば博愛の精神を持つ者などはほぼこの世に存在しないと思っていた。


 だが、もしかしたら佐藤はガチの博愛主義者?……

なら加賀美に対して与えていた優しさはそこから来るもの?


 俺は今まで本気で佐藤の事を誤解していたのかもしれない。そんな気がしてきた。




 食事を終え、風呂を済ませた俺と佐藤は相も変わらずゲームに熱中していた。

時刻は既に夜の十時を超えようとしているのだが、二人とも眠気を覚えることなど全く無いといった感じである。


 夏休みも今日から始まるという事もあり、いつにもなく陽気で楽しげにしている佐藤。夢中になって敵を倒しているその様子からは心配や悩み事があるようには到底思えなかった。


………やはり佐藤は加賀美の事を気にしていない


 そう感じた。冷静に考えて、そうとしか思えなかった。

佐藤の本心を訊き出そうとしていた俺にとっては、暗に答えを与えられたような気分になり、何とも言えない感覚を覚えるばかりであった。




「あのさ、佐藤…… お前って、加賀美の事どー思ってんの?」


 もはや目的など無い。ただ不思議だからそう訊ねた。別にこれといった答えなど期待していない。


「え? どうしたの、急に?」


 俺からの不意の問いかけに、佐藤は驚きキョトンとしている。


「いや、何となく訊いてみたくなってな…」

「そう…なんだ」


「で、どーなんだ? 実際のところ…」

「加賀美さんは……凄く可愛いし、元気があって素晴らしい女の子だと思ってるよ」


「じゃあさ、好きか嫌いかで言えばどっちだ?」

「それは…好きに決まってるよ。嫌う理由が無いし…」


「でもさ、それって『人として』だろ?『女性として』じゃなくってさ…」


『まあ確かにその通り』……俺はそんな答えを予測していた。

佐藤の事だから少しオブラートに包んだような曖昧な答えを言ってくるかもしれん…そう思っていた。


 だが……


「そう言えばさ、こうやって本郷君と二人だけでゆっくり話す事って……今まで無かったよね?」


 佐藤から返ってきた言葉は俺の予想と全く異なっていた。ってか、予測すら不可能な言葉だった。いきなりそんな言葉を投げかけられた俺は、ただ反射的に答えるしかない。


「そ、そうだよな。確かに無かったよな…」


 俺がそう言い終えると、少し間をおいて、


「うん… 本郷君だから話すね。本当の気持ち…」


佐藤はそう言って真剣な眼差しを俺に向けてきた。そして…



「加賀美さんの事は本当に好きだよ… 全ての意味でね」



 誤魔化す言葉を一切交えず、佐藤ははっきりとそう言い切った。


「…………」


 俺は言葉に詰まった。

頭の中が混乱しまくって何を言っていいのか分からない。佐藤の言ってる言葉が真実なら、俺には言いたいことが沢山ある。だが、余りにも予想外の事ばかりでどの言葉から出せばいいのか考える余裕がない。


―――バァーン!


 画面から銃声が聞こえてきた。それと同時に佐藤がプレイしていた兵隊は地面に崩れ落ちる。だが、佐藤は俺を見つめたまま微動だにしない。やがて画面から轟音は消え去り、静かに結果だけが表示される。


 急に静まり返った佐藤の部屋。黙ったまま互いに見つめ合う俺と佐藤。



「佐藤…… ちょっと話さないか?」


 暫くして、俺はようやくその言葉を口にすることが出来た。



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