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70. 恋する資格…Ⅰ



 蝶野さんと成績の話で盛り上がっていると、1時限目開始の予冷が鳴った。


 俺は椅子の向きを元へ戻して授業の準備に取り掛かろうとしたのだが… ふと隣の席にいる佐藤の姿が目に入ってきた。


 頬杖をつきながら視線を宙に漂わせている佐藤。一見、ぼんやりとしている風に見えるが、時折ニタニタと気色の悪い笑みを浮かべては何かを思い出して悦に浸っている。はっきり言ってかなりキショい。


 客観的に言って怪しさ100点満点。これほどおかしな様子の佐藤など俺は見たことが無い。もはや気にするなって言う方がムリ。だから俺は暫く佐藤の様子を窺っていた。


 じっと佐藤を注視する俺。するとその気配に気づいたのか、佐藤はチラッと俺の方に視線を向けた。


 俺と佐藤の視線が交わる。すると佐藤はニコッと微笑み、直ぐに視線を切ってぼんやりと彷徨かなたの方を見つめながら、「ふふふっ…」って感じで薄ら笑いを浮かべた。



佐藤……逝ったのか?


 俺の脳裏にはその言葉が咄嗟に浮かんだ。

期末テストのプレッシャーに加えて連日の常軌を逸したこの暑さ。確かにいつ逝ってもおかしくはない。だが、あれだけ常識人だった佐藤がいきなりぶっ壊れるなんて俺には想像し難い。


いったいどーしたんだ、佐藤?……俺は数舜考え込んだ。



―――ピッキーン!


 瞬間、俺の脳裏に閃光が走る。

………そうか、そーいうことなのか、佐藤。


 奴の態度を見ていて俺は気が付いた。あの態度が意味するもの、それはズバリ「かまってちゃん」だ。奴にはきっと大声で自慢したいような出来事があったに違いない。だからそれを自慢したくってウズウズしている……そんな感じか。


 佐藤の性格は控えめで大人しい。だから自慢話を周囲にひけらかすってことが奴には出来ない。ならどうするか?……明らかに浮かれた様子をわざと周りに見せつければいい。そうすれば…


「どーしたんだ? なんか嬉しい事でもあったのか?」

……きっと誰かがこの言葉を掛けてくる。そこで、


「えっ? どうして?」

……と軽くすっとぼけてからの、


「わ、分かっちゃった? えへへ… 実はね…………」

……なぁ~んて感じで自慢話を披露する。



 まったく、奥ゆかしいというかヘタレというか…実に佐藤らしいぜ。そんな回りくどい方法なんて使わなくても普通に自慢話を周りにたれ流せばいいものを。だが安心しろ、佐藤。お前のその気持ち、親友である修二君がしっかり受け取った。次の休み時間にでもお前の自慢話を全て訊いてやるからな。遠慮せずに何でも言ってこい。




 やがて1時限目の授業が始まり、いつものように授業は進んでいく。

俺は授業そっちのけで佐藤の様子をチラチラと観察していたのだが、佐藤は授業中も終始締まりのない緩み切った表情でぼんやりと授業を受けていた。


 そして1時限目の授業も終わり休み時間となる。



「おい、佐藤…」

「ん? どーしたの? ほんご…ウゲェェェエッ!」


 佐藤の名前を呼びながら華麗に肩パンを決めた俺は、すかさずヘッドロックをかまして佐藤の首を締め上げる。そして一言…


「お前、なんか良いことあったんだろ? 全部話しやがれ…」


 俺は佐藤の望む言葉を掛けてやった。

俺が無理やり話を聞き出そうとしているこの状況、これなら佐藤も仕方なくって感じで話を切り出せる筈だ。さあ、自慢話をしてこい佐藤。今だけはマウントとって高飛車に演説ぶっこいても俺は許してやるぞ。


「………」


 おかしい。これだけ舞台を整えてやったというのに佐藤は何も言ってこない。


 俺は不思議に思い、ちょいと佐藤の様子を窺ってみた。するとあることに気付く。―――佐藤くん、息してる?


 今は真夏だというのに佐藤の首からやたらと冷気を感じてしまう。冷たい汗と書いて冷汗か。昔の人は上手く言ったもんだ。



「………ブ、ブファアッ!… な、何すんだよ、本郷君!」


 慌てて腕の力を緩めると、生き返った佐藤はガチギレた様相で俺のことを睨みつけた。そこで俺は新たな発見に至る。


……へ~え、佐藤ってキレるとこんな表情するんだ。わ~い。(反省)


 仕方ないんで形式上だけ佐藤に謝罪。(でもぼくは決して悪くない)

だが佐藤はまるで殺人鬼シリアルキラーを見るような眼で俺のことをジトっと見ている。まったく、失礼な奴だ。親友の事をそんな眼で見てはいけませんっての。


が、しかし……


「佐藤、朝からどーしたんだよ? 何だか妙に浮かれちゃって…」


 俺のこの言葉を聞いた瞬間、佐藤の表情は一変した。

怒りの感情は何処へやら。一気に先程までのユルユルな表情に変貌する。



「えっ? なんのこと?」


 すっとぼけているが顔面はやたらとニヤついている。

ほんと、素直になればいいのに。仕方ない、茶番に付き合うか。


「隠すなって。なんか良い事あったんだろ? 気になるから俺に教えろよ」


「あはは… やっぱ分かっちゃう? あのね、実は……あったんだよね。凄い事が…」



 俺の苦労のおかげでようやく佐藤は話し出した。佐藤はさっきよりも嬉しそうに相好を崩している。俺はそんな佐藤に気を回してじっくりと自慢話を訊いてやることにした。


「しっかし本当に嬉しそうだな。それってさ、どれくらい良い事だったんだ?」


 ここは敢えて答えを急がずに、遠回りしながらじっくり感想を述べさせてやる。これぞ気遣いってやつだ。


「う~ん、そうだね… 世界観が一変したって感じかな…」


 佐藤は何かを思い出しながら凄く嬉しそうにそう答えた。

だが、答え終わると佐藤は虚ろな表情で宙を見つめながら時折不敵な笑みを浮かべる。なんだかやたらと余裕に満ち溢れたそんな態度を見せられた俺は、本気で佐藤の話が気になりだした。



「あのさ、佐藤……世界観がどう変わったんだ?」


「なんて言えばいいんだろ? 百聞は一見に如かずって感じかな。初めての体験だったんだけどさ、思ってたのとは全く違ったって感じ。あれ程素晴らしいものだなんて思いもしなかった。あれを1度でも経験したらさ、もはや2次元の世界になんて戻れないね…」


 そう言い終えると佐藤は恍惚の笑みを浮かべた。


…………。



 ん? あれ? おっかしいな~。

ぼく、なんだか感じちゃいけないものをひしひしと感じちゃってるんだけど…。


 あのさ、初めての体験ってなぁ~に? それにどうしてそんなに幸せそうなの? もしかしてさ、初体験って………やっぱアレ?



 い、いやいやいやそれは無い。断じてない。考え過ぎだ。

聖人君子である佐藤が欲望に負けて加賀美の肉体をむさぼることなど考えられん。確かに加賀美の身体はガチでエロい。だが佐藤は今までエロの誘惑にも耐えてきたはずだ。それがいきなり「やっちゃいました(てへぺろ)」なんて有り得る訳がない。


 きっと俺の勘違いだ、うん。そもそも佐藤の言葉が紛らわしいのが悪い。

よし、この質問をぶつけてみよう。結構際どいが、事の真意を確かめるならばこれが一番いい。



「さ、佐藤くん。あのさ、初体験の感想を率直に述べて欲しーな…」


 俺は佐藤に質問を投げかけた。震えるようなか細い声で…。



「感想? 普通に『最高!』だったよ。やり終えた後の充実感は半端ないって感じだったね」



 経験者語る……そう言わんばかりに佐藤は余裕の笑みを浮かべながら豪快にそう言いやがったこんちきしょうめ!


……………。


 佐藤の返答を聞いた俺が心肺停止に陥ったことは言うまでもない。



 だ、ダメだ、息が出来ない。ショックがでかすぎて脳汁が噴水のように噴き出してる。それに…想像してはいけないモノが脳裏に浮かんできちまう。


―――♪ 佐藤くんと加賀美さんがむっぎば~たけぇ~ 全裸でちゅっちゅちゅっちゅ いい~じゃな~いか~ ♪―――



 俺の精神は強烈な負荷により崩壊を遂げた。

だが、佐藤が次に放った一言で俺は完全に息の根を止められるのであった。



「あのさ、本郷君も僕と一緒にやってみない? 実は本郷君を誘おうと思ってたんだよね…」



―――ささささささ3P!!! 驚愕のマルチプレー!!!


 思わず口から心臓が出そうになった。余りにも衝撃的過ぎる言葉に俺の脳は活動限界を超える。



「絶対に本郷君も感動すると思うよ。僕が保証する」


◆▽※〇§Щ◎★□〒〆@♀×♂=♡♡♡ !!!

(BAN不可避の内容です。皆様のご想像にお任せします)



「だからさ、今日学校終わったらうちに来ない? 一緒にやってみようよ…」


「さ、さ、さ、佐藤… お、おま、おま………」



「も~う最高だよ。この前買ったFPSのバトルゲーム。なんたってグラフィックが凄いんだよね。限りなく3Dって感じで。あれをやったらもうアニメみたいな普通の2Dゲームなんてやれないよ。武器だって豊富だし迫力も満点だし、それに勝利したときの充実感は半端ないよ、ほんとに…」


「………FPSのゲーム???」



「そうそう。ほら、前に本郷君に言ってたでしょ? 最新版のFPSが出たって…」


「ああ、アレね。―――」



 俺は正気を取り戻した。どーやら俺は「アレ♡」と「アレ」を勘違いしていたみたい。


ったく、脅かすんじゃねーよ。どーせそんなことだろって思ってたよ。ふん!

(実はパニをクッてました、ええ本当に。未だに動悸が治まりませんってば)



「ねえ、本郷君。今日一緒にやらない? 放課後うちにおいでよ」

「そんなもん―――行くに決まってんだろ!」


「あははは… そー言うと思ったよ」



 それから俺達はゲーム談議で大いに盛り上がった。

佐藤と話していると本当に楽しい。同じ趣味を共有しているってのも当然あるが、それ以上に何処か俺と同じ匂いがするというか、シンパシーを感じるところがある。偶然席が隣同士になってからの付き合いだが、俺はもはやこいつの事を親友だと思っている。


 佐藤との楽しい会話で俺の意識は高揚していた。

はっきり言って放課後が待ち遠しい。なんなら早退もありかも。そんな感じで浮かれながら楽しく話していたのだが……何かが心に引っかかる。それに違和感とでもいうか、さっきから妙な感覚を覚える。



 なんかおかしいような気が。………でも、いっか。



 ちょっと変な気もするが、きっと気のせいだろう。

俺は楽しそうに話しかけてくる佐藤に意識を戻し、休み時間が終わるまで佐藤と楽しく語り合った。




―◇―◇―◇―




 やがて、待ちに待った放課後がやってきた。




「こほん… それでは、これから打ち上げ会を行いまぁ~す! みんなお疲れさま~!」


「「「お疲れ~!」」」



………なんでやねん。

なんで俺と佐藤が打ち上げ会にいるわけ? ねぇちょっとこれって酷すぎない?





 話は遡ることお昼休み。


 俺は弁当を食い終えると早々に、仁志と森田と別れて佐藤の近くの席に腰を下ろした。ちなみに俺の席には恭子が座っている。


 俺と佐藤は放課後に開催されるゲーム大会のことで大盛り上がり。

だが、昼休みもそろそろ終わりが近付いてきた頃、蝶野さんに別れを告げた恭子が自分の席に戻る途中、俺の横を通り過ぎるときに無言で何かを俺に渡してきた。


 どーした? 恭子……


 俺は渡されたものを確認する。そして戦慄を覚える。――なにしてくれんの、恭子?


 俺が恭子から手渡されたもの、それは「俺のスマホ」だった。それを目にした俺はもうビックリ。



 全く意味が分からん。だが、だが、……嫌な予感が沸々と湧いてくる。

俺は慌ててスマホの電源を入れる。するとラインに着信があった。しかも2件。



『放課後、打ち上げ会だからね。場所とメンバーは前と同じ。遅れないように!』

―――by 蝶野たん


『 修二が参加するって言ったら仁志君もOKだって。良かったね、修二 』

―――by 恭子たん



「どーしたの、本郷君。がっくり肩を落としちゃって……」

「………佐藤、ちょっと自分のスマホを見てみ」

「え? どーして? なんかあるの?…」


 佐藤は不思議そうにしながら自分のスマホの電源を入れる。


「分かったか?」

「あははは… 納得」


 佐藤のスマホにも当然って感じでお誘いという名の「強制動員命令」、いわゆる「赤紙」が来ていた。



 お昼休み、どうやら二人の天使は密談を交わしていたみたい。

そこで交わされた密約により、俺達平民は有無を言わさず参加させられることが決定したようだ。


 恭子が俺の人権を無視するのはよく分かる。そんなの今に始まったこっちゃない。だが、である。蝶野さんがそこに乗っかって来るのは問題だ。このままいったら傀儡のひもを握る人物が二人になっちまう。それはさすがに勘弁だ。



「まあ、仕方ないよ本郷君。今日は打ち上げ会に参加ってことで。 そうだ! ならゲーム大会は夏休みが始まってからにしようか? だったらうちに泊まり込んでゆっくりゲームが出来るよ?」


 佐藤、お前ってやつは……

なんていい子なんでしょうほんとに。も~うだいちゅき♡



 そんな感じで俺と佐藤はゲーム大会を諦めて、天使達の悪だくみに強制参加させられている。



 ま、蝶野さんや恭子が騒ぎたいというのなら、それに付き合うのもやぶさかでは無いんですけどね。仕方ないから今日は黙って天使様達をねぎらうことにするか。まったく、やれやれって感じだ。


 始まってしまったものはしょうがない。こうなりゃその分楽しんでやる。そう気を取り直して俺は仁志や佐藤と楽しく会話を楽しみ始めた。……のだが、



―――やっぱおかしい。なにかがしっくりこない。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 作者様、感想を初めて書き込ませて頂く者です。 もしかして高校編だけで無く、大学編や社会人編も ある感じですかね?自分は美月ちゃんと最後 結ばれるかなと予想してます。 [一言] 高校編で…
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