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68. 内なる想い…Ⅳ



「さて、こんなもんで大丈夫だろ。いよいよ明日で最後だ、頑張って来いよ」


「……うん。大丈夫。自信はあるよ!」


「んじゃ、俺も自分の勉強するか…。美月は早く寝るんだぞ」


「クスッ… はぁ~い」


「じゃあな」




「―――あっ、……修二っ」


「ん? どーした?」


「―――その…… ありがとうね…」


「どうした?…美月。らしくもない。 それに言っとくが、期末が終わったって受験勉強は続くんだぞ?」


「そ、そーだよね。まだまだずっと続くんだよね……。 よし、まだまだ頑張んないと。 えへへへ…」


「ま、とにかく明日は頑張ってこい。まずはそこからだ」


「うふふ… そーだね。これからもよろしくね、修二!」


「頼まれんでもちゃんとやるよ。それじゃな……」



 修二はそう言い残すと、後ろ手を振りながら部屋を出て行った。パタンと小さな音がすると、廊下をゆっくりと歩くスリッパの音が聞こえはじめる。



 私は部屋を去る修二の背中を笑顔で見送った。だが、扉が閉まる音と共にその背中は私の視界から消えてしまう。今の私の瞳には、見飽きるほどに見覚えのある部屋の扉だけが映っている。


 ほんの少し前まで私の眼の前にあった修二の背中はもうどこにも無い。それでも私は一歩も動かず、ただ眼の前にあるその風景をぼんやりと見つめ続けている。


………いったい何をやってるの?


 頭の中の誰かが不思議そうに尋ねてくる。


………なんだか寂しくって。もうちょっとだけ…いい?


 もう一人の誰かが、ちょっと照れ臭そうにそう答える。



 高揚を覚えれば、やがてその反動が押し寄せる。

そのような経験は幾度となく体験したことがある。まだ小さかった頃、お兄ぃに手を引かれながら家族で行った花火大会。家を出発するときは期待に胸を膨らませ、何もかもが楽しく感じられた。だが、花火も終わり、家路に就く頃には何処か寂しさを感じていた思い出がある。


 今、私が感じているのはそれとよく似ているような気もする。楽しみにしていた時間が終わりを迎えると、心の中にはどうしても寂しさというものが生まれてくるものだ。それは何度も経験しているからよく分かっている。


 でも、去りゆく影に思わず手を伸ばしたくなる、そんな衝動を覚える寂しさなんて、私は今まであまり経験したことが無いように思う。


クスクスッ……

やっぱ私は甘えん坊だ。ダメだな。


 滅多に会えないのならともかく、数日も経てば修二は私の元にやってくる。明日から数日間は修二のテストが残っているので会えないが、次に来る日も決まっている。その次も、さらにその次も…。私の受験が終わるまで、二人だけで一緒に過ごせる時間は確約されている。


 これほど恵まれた環境が与えられている私なのだから、感謝こそすれ寂しいなんて我儘を口にしちゃ駄目だ。「次は土曜日に来るよ」……修二はそう言っていた。なら私はその日を待っていればいい。ただ待っていれば間違いなく修二は私の元にやってくる。だから今日の別れの寂しさは、次に会える日の楽しみで書き消せばいい。 だって私の大好きな人はこう言ってくれたのだから。……


―――彼女もつくらずに最後まできっち一緒にいてやる!


 彼女でもない私に対して、修二は恋人以上の待遇を私に与えてくれた。だから私は何も心配することなど無い。何の不安を感じる必要もない。ただ目標に向かって全力で進んでいけば良い。





 クスクス… でも、本当に夢みたい。


「美月、言っておくが俺は受験が終わるまでお前の面倒を見るんだぞ? 彼女なんてつくってる場合じゃねーだろ? 最後まできっちり一緒にいてやっから何も心配するな!」


 最初、修二の言葉を聞いた時、思わず夢でも見てるんじゃないかと思っちゃった。だって私が悩みに悩んでいた問題を修二は事も無げに解決しちゃったんだから。しかもたった数秒でね。だから最初は嬉しさを感じるよりも意識が飛んじゃって私はただただ茫然って感じだった。


 でも、ようやくそれが現実だと把握できてきた私は大慌て。

……い、急いで契約書にサインさせねば! 言質をとれれば私の勝ち! あともう少しで契約が成立する。



「ならさ、約束してくれる? さっき修二が言ったこと、絶対守るって…」


「ああ、約束してやる」


 契約成立!!!



 やったぁ~! 大成功。まさか本当にこんな約束が取り付けられるなんて思わなかった。も~う最高! 本当によかった…修二がおバカで。やっぱ私が見込んだおバカなだけなことはある。もーうほんと大好き!おバカ……じゃなくて修二。


 感動した私は思いっきり修二の背中を抱きしめた。

もう数えきれないぐらいに抱きしめたことのある背中。私の大好きな修二の背中…。何度抱きしめても心地よい。大きくって、温かくって、頼れる気がして。そしてなにより優しさが伝わってくる。


 私の手の中に修二はいる。今も、そしてこれからも…。私が受験を終えるまで、この状況が変わることは無い。修二が私の手の届かない所に行ってしまうことも絶対にない。


 私は修二の背中に顔を埋めながら、もう一度だけ聞いてみた。


「修二、約束だよ。絶対守ってね」


「ああ、任せとけ」


 修二は全く躊躇うことなく、自信満々にそう答えてくれた。


………ありがとう 修二。


 心の中でそっとそう呟き、抱きしめる腕に力を込めた。

修二の気持ちが伝わってくる。私への強い想いが伝わってくる。


 私はゆっくりと顔を横に向け、頬を背中に当てた。


 修二の背中を濡らす訳にはいかなかった。涙を流していることに気付かれたくなかった。私は甘えん坊の妹を装い、そのまま暫く修二の背中を抱きしめていた。泣き顔を笑顔に戻すにはもう少しだけ時間がかかる。……





 修二は正真正銘、筋金入りのバカだ。

修二にとって私はただの親友の妹。これが真実だ。確かに私は修二の事を本当の兄のように思っている。修二も私の事を本当の妹だと思っている。でもそれは互いの「想い」だけであり、客観的に他人である事実は変わらない。なのに修二はいとも容易く自分自身を私に与えてくれる。


 普通の人なら絶対に、そのようなものを簡単に他人に与えたりなどしない。自分の自由な時間、行動の制限、それらを与えるのは唯一の存在である恋人に対してだけ。修二はそれを当たり前のように私に与えてくれた。


 本当にバカが付くほど思い遣りが深い。それにバカが付くほど優しい。


―――でも私はそんなバカが大好きだ。



 バカが付くほど大きな修二の想い、私はそれを与えられた。ならば私はそれに応えなくてはいけない。二人の信頼関係を守らなければならない。だから私は決意した。


―――絶対に合格してみせる!


 最初からそれが目的だったんだけど、今では意味が異なる。私のためにではなく、私に全てを与えてくれた修二の期待に応えるために私は頑張る。それが新たな決意。


 何がなんでも合格する。修二の努力を決して無駄にしない。だから……私の恋はここで一時停止。意識の全てを受験に集中させ、絶対に勝利を勝ち取ってみせる。



 私に対する修二の想い、それは愛する妹に対するものだ。私を恋人だと思ってそのような愛情を向けてくれている訳ではない。だが、それを都合よく利用し、修二の意識をこちらに向けさせる……そう言ったことをやろうと思えばやれるのかもしれない。でも、私は絶対にそれだけはやりたくない。


 修二が妹として私に大きな愛を注いでくれるのなら、私はそれを妹として受け取らねばならない。それが二人の信頼関係。私は今まで築いてきた修二との絆をそんなことで穢したくはない。



 私の受験が終わるまで、修二は彼女をつくらない。それは私にも適用される。だから私は受験が終わるまで、今までと同じように修二の妹として行動する。だが、来年の3月を迎え受験が終われば、私と修二の契約も終了する。そこから、私の恋愛は再開する。


 私は無事受験に合格し、修二の後輩となる。そして妹としてではなく、後輩の一人の女子として修二にお願いをする。


―――もう一度、私の傍にいる契約をして欲しい。今度は無期限で…。



 クスッ… さてさて、私がそんなことを言い出したら修二はいったい何と答えるやら…。


………「は? 美月… 冗談だろ?」


 どーせこんな感じで答えるんだろうな。うふふ… ふざけんなって顔して真面目に取り合わない修二の顔が浮かんじゃう。


 でもね、残念なことに冗談では無いんですよ、修二君。美月ちゃんは本気なのですよ。笑って誤魔化そうとしてもね、美月ちゃんは絶対逃さないんだから! キャハハ…



 修二の事なら何でもお見通し。私には何でもわかっちゃう。この前だって私の予想がドンピシャ。自分でもビックリするぐらいだったもんね。


 でも、ほんとアレを選んで良かった。


………ピンクのブラ。


 あれ程修二が喜ぶなんて思いもしなかった。抜群の喰いつきだったよね? 買うとき結構迷ったんだけど大正解だったみたい…クスッ。さってと、そろそろ第二弾のお披露目と行きますか?今度はどれくらい喰いついてくるか楽しみ。



 でも、やっぱ修二は楽しい。

あれだけガン見しといてさ、バレてないって本気で思ってるんだもんね。私が呼び掛けても気付かずにガン見しているあの根性はある意味凄いと思っちゃう。よっぽど好きなんだね、私のおっぱい。


 世の中の基本はギブ&テイク。修二が私に与えてくれるものに対して、私もそれなりの対価を支払わなければいけない。そう思って用意したんだけど……思いのほか修二が気に入ってくれてなによりだ。(キャハハハ!)

 



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