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66. 内なる想い…Ⅱ



「よし。それじゃ次はこの問題をやってみて…」

「うん。やってみる」


 美月は元気な声で返事をすると、勢いよくペンを走らせ問題に取り掛かった。

勉強を開始してもう結構な時間が経つのだが、問題を解くコツをつかめてきたのか疲れた様子を見せることもなく、意気揚々と問題に取り組んでいる。


………スタートとしては申し分なしって感じだな。

目標に向かって歩き始めたばかりだが、十分な手応えを感じる。



 俺は頑張っている美月の様子を傍らで静かに見守っていた。

だが、ふとした拍子にあることに気付いた俺は、それを確かめるかのように、窓から見える景色に視線を移した。


―――そっか。そういやもうすっかり夏なんだな。


 時計の針は7時を指しているのだが、未だに夕日がその存在感を示している。

夏を感じさせるこの風景。俺は暫し呆然とその風景を愛でていた。


 やっぱ夏はいい。空は明るく、陽気で解放された気分になる。

さて、もう一つの夏の風情を愛でるとするか…。


 俺は視線を元に戻した。



 視線を戻した俺の眼に映るのは、成長ざかりの立派な果実。

胸元がガバガバのユル~いTシャツから、果実の姿がダダ漏れてくる。その果実は薄いピンクの生地により優しく包み込まれているのだが、その様子が一層果実の魅力を引き立てている。


 夏は人々の心を開放する。そして女子の胸元も開放する。


   『 目に青葉 山ホトトギス 生おっぱい 』 by 修二。


―――うむ、やはり夏はいい。


 夏の到来を告げるこの風景… 俺は感慨を覚えつつ、ただ静かにその風景を愛でた。 有り体な表現をするとガン見した。


 しっかし、薄いピンクのブラを選ぶとは… 美月もなかなか良いセンスしてやがる。


……すっかり大人になりやがって。

きっとこの可愛い下着も美月がよ~く考えて気に入ったものを選んだ結果なのだろう。


 そんな所に気を回すようになったってことは…… 美月はもう立派な女の子なんだよな。これもやっぱ好きな男が出来たから?……それは間違いないだろう。うん。



 心身共に成長を遂げていく美月。

それを見て嬉しく思う反面、ちょっとだけ寂しさを感じてしまう所もある。

こうやって美月の傍で過ごす時間も、この先は無くなってしまうのかもしれない。


 だが、今そんな事を考えてもそれは詮無き事。

悔いが残らないように、今やれること、やるべきことを精一杯やるしかない。


 よし、やるか。

俺は気合を入れなおし、意識を集中させて見つめた。


―――Tシャツの隙間から見えてくる美月のおっぱいを。


 見るなら今しかない。

美月に彼氏が出来ちゃったら流石にこれはできない。俺にもそれくらいの良識はある。




「……うじ、も~う、修二!」

「―――ん? どーした?」


 つい集中し過ぎた俺。気付けば美月がこちらを向いて俺を呼んでいる。


「問題解けたよ。これで合ってる?」

「うむ、どれどれ…」


 ふぅ~む…… よしよし。間違いはない。ちゃんと理解できているな。


「よし、大丈夫だ。答えは合ってるぞ」

「ほんと? やったぁ~!」


 明るい笑顔で嬉しそうに燥ぐ美月。

よしよし、良い感じだ。教えたこともきちんと理解できているようだし、何よりやる気が十分感じられる。



「そんじゃ、きりもいいし、そろそろ晩御飯にするか」


 時刻はもう7時をとうに過ぎている。

なので俺は美月に晩御飯を食べに行こうと誘った。

だが……


「―――あのさ、修二」


 美月は急に表情を変えると、真剣な眼差しで俺を見つめ、椅子から立とうとしない。


「どうした? 美月」


 美月の様子が急変したことに驚いた俺は、思わず美月にそう尋ねた。



「私さ、……ずっと気になってたことがあるんだけど」


「な、なんだ?」


「正直に言っていい?」


「あ、ああ い、いいぞ…」


「修二も必ず正直に答えてね。嘘や誤魔化しは無しで…」


「う、うん。わかった。 修二君ウソつかない…」


 さっきまでの笑顔は何処へやら。今の美月は刺すような鋭い視線で俺を睨んでいる。しかも「正直に答えて」という言葉に強烈な圧力を加えてる。だから俺も思わず「うん」と可愛く答えちゃった。



 あ~あ、俺の人生……オワタ。

勘のいい俺には美月が何を言わんとしているのかが分かる。


 しっかし、正直に答えろって言うけどさ… 正直に言ったら許してくれるの?


「さっきからずっと美月ちゃんのおっぱいガン見しちゃってましたぁ~ てへへ…」


 許すわけないよね?

お兄ちゃんはそれをよく知ってる。



「―――あのね、修二」


「………」


「正直に答えてね…」


「………」

(注意:無視している訳ではありません。怖くて声が出ないだけです。あしからず)


「本当にいいの?」


「……………へっ?」



「本当に私の受験が終わるまで、私の傍についててくれるの?」



「―――そんなもん」


「そんなもん?… なに?」


「あたり前に決まってんだろ…」


「ホントに?! 絶対?!」


「ああ、約束する。最後までお前の面倒をきっちり見てやる」


「やったぁ~! 修二だぁああ~い好き!」



 美月はそう叫ぶなり、俺の腰に思いっきりしがみついてきた。

俺の腰に両腕を回してグイグイ締め付けて、お腹のあたりに顔を擦り付けてくる。


 本当に嬉しそうな顔をしながら思いっきり甘えてくる美月。

俺はそんな美月の頭を優しく撫でながら、心の中で呟いた。


………ありがとう、美月。

俺を現世に留めてくれて。



 鬼気迫った美月の表情を見た時、俺は瞬時に悟った。


―――新たな人生の始まりか。


 異世界行きの片道切符、それを美月に渡された俺は新たな世界に向けて旅立つことになるのだろう。



 俺の脳裏には一抹の不安がよぎる。


―――どうしよう… 転生したらスライムだったら。


 スライムだけは絶対やだ。だってさ、せっかく異世界の美少女と出会っても手を出せないんだぞ?―――だって手がないんだから。なんなら足までないし…。 どうせ転生するならおら勇者がいい。勇者になってチート技かましてブイブイいわしたる。


 だが全ては杞憂に終わった。俺は明日の朝日を現世で浴びることが出来る。

生きてるって素晴らしい。命に対する尊厳を改めて認識する想いだ。



………でもさ、いったい美月はどうした?

美月の鉄拳制裁を食らわずに済んで助かったのはよいのだが、美月は未だに俺を抱きしめながら甘えている。甘えてくるのはいつもの事なんだけど……今日はちっとばかし長すぎるような気が。


「美月、甘えるのもいいがそろそろお腹も減っただろ? ご飯食べに行こーぜ」


 甘えてくれるのは嬉しいのだが、早く晩御飯を食べてもう少し勉強を進めねばならない。そう思った俺は美月の頭をポンと叩くと、美月から離れて一階のリビングに向かおうとした。だが、……


「おい美月、何してる?」


 どーいう訳か美月は椅子に座ったまま動こうとしない。

それにさっきまでの笑顔とは打って変わって、妙に曇った表情をしている。

不思議と言うかなんというか… 今日の美月はよー分からん。


 全く意味が分からない俺は暫し立ち止まったまま、黙って美月を見つめていた。すると、…



「……あのね、修二」


 ちょっと重々しい口調で美月が喋りはじめる。


「一つだけ気になることがあるんだけど… 聞いていい?」


「ああ、いいよ」


「修二ってさ、気になるって言うか…… 付き合おうかなって思ってたりする女の子って…いる?」


「………はぁ?」



 急に真剣な顔になって何を聞いてきたかと思いきや……ったく。思わず変なところから声が出ちまった。そんなん聞いてどーするって感じなんだが。


 やたらと真面目な美月の表情。揶揄っているのではないってことは理解できる。だから真面目に答えようとは思うのだが、質問の意図が読めない。


「う~む… 要はあれか? 彼女になりそうな女友達がいるのかって……そー言うことか?」


「―――う、うん」


 何となくって感じで美月に尋ねてみると、どうやら正解だったようで、美月はコクンと頷いた。


 俺の彼女になってくれそうな女の友達か…。

そんな人がもしいるのであれば……俺に教えて欲しい。24時間いつでも待ってます。



「別にそんな女の子はいないし… それに彼女が出来る予定も全くないけど…。 なんでそんなこと聞くんだ?」


「……だってさ、もしそんな人がいたらその人に悪いでしょ? なんか修二を奪っちゃう感じになっちゃって…」


 なるほど。そー言うことか。

美月の言葉を聞いて何となく質問の真意が掴めた。


 これから先、俺の時間をかなり奪ってしまうことになる美月。だから美月はもし俺にそんな女の子がいたら、その人に悪いと思ってしまったのだろう。


 そっか。美月は美月なりに、俺や他の人に対して気を遣ってるんだな。

成長したな…美月。お兄ちゃんマジ感動!



 ちょっと申し訳なさそうな顔をしながら、小さくなってこちらをチラチラと見てくる美月を見ると、何だか無性に可愛く思えてくる。本当に嬉しいってか幸せだ。こんな兄想いの妹を持てるなんて。


 安心しろ、美月。自慢じゃないが俺に浮いた話なんて1ミリもない。

今現在、俺に彼女が出来る確率なんてロト6を一発で引き当てるぐらいのもんだ。


 だから俺はこの有り余る自由時間をお前のために存分に使ってやる。お兄ちゃんがしっかりと最後まで面倒を見てやるからな。


 よし、ここは兄想いの優しい妹を安心させてやろうではないか。



「美月、そんな心配など無用だ。自慢じゃないが俺はモテたことが無い。だから彼女も普通にできない。何も気にするな…」


 むふふ… あのさ、なんか俺ってカッコ良くね?

妹を安心させるために堂々とこんなことを言ってのけるなんてさ。


 だがこれは気休めの言葉などではない。吐いた言葉は全てウソ偽りのない真実だ。自信を持って言える!……あれ? 自信をもって? 言っていいの?


 ちょっとだけ切なくなった。



「………ほんとに? でもさ……」


 俺の明快なる答えを聞いたはずの美月なのだが、何だかそれでも納得できないご様子。俺の身を切るような自虐ネタを無駄にするんじゃない。


「どうした? 何でも言ってみろ」


 こうなったら完璧に納得させてやる。さあ何でも言って来い、美月。



「例えばだけどね、修二の事を秘かに好きだと思っている女の子がいたりとか……」

「大丈夫だ。それは無い。過去17年間の実績が物語っている」


「もしかしたら急に運命の人が現れたりとか……」

「それも無い。俺の運命はもうとっくに擦り切れてる」


「急にモテ期が来たりとか……」

「残念だが生まれてからずっと氷河期だ。しかも全球凍結レベルのやつ…」


「あとは………」


 あぁ~~~あっ、もう! イライラする!



「美月、言っておくが俺は受験が終わるまでお前の面倒を見るんだぞ? 彼女なんてつくってる場合じゃねーだろ? 最後まできっちり一緒にいてやっから何も心配するな!」


 どーだ美月? 参ったか? ちょっとは兄の言うことを信じろってんだ。



「うん。……分かった!」


 さっきまで不安げだった美月の表情、そこにぱっと笑顔の花が咲いた。



「信じる……修二の言葉。 修二は受験が終わるまでずっと一緒にいてくれるって…」


「そうだ。最初っからそう言ってるだろ?」


「ならさ、約束してくれる? さっき修二が言ったこと、絶対守るって…」


「ああ、約束してやる」


「やったぁ~!」



 美月は余程嬉しかったのか、大きな声を上げるとモーレツな勢いで俺の背中にダイブを決め込んだ。思いっきり背後から俺を抱きしめ、背中にスリスリと顔を押し当てている。


 背中には先程鑑賞していたあの果実の感触。それにこれぞ妹といったこの甘えっぷり。そんな美月にお兄ちゃんもうメロメロ。 美月、今なら何でも好きなの買ってやるぞ。



「修二、約束だよ。絶対守ってね」

「ああ、任せとけ」


 背中越しに聞こえてくる元気な声。

張りのあるその声は俺を幸せな気分にさせてくれる。


 今では俺を本当の兄のように慕ってくれる美月。そんな美月のためならこれくらいの約束なんて守って当然だ。



「よっし! 約束してくれたんでスッキリできたし… 晩御飯食べに行こ!…修二」


 美月はそう言うと俺の右腕に絡みつき、俺を引っ張るような感じで元気よく歩き出す。



………全く、どうなってんだか。

晴れたり曇ったり、せわしなく様子を変える美月の態度を見てると不思議でしょうがない。



「でもさ、私ってどーしてこうもツイてるんだろうなぁ~ えへへ…」

「そうか? そんなにツイてるのか?」


「うん。だって修二の方から家庭教師をやるって言ってきてくれたし」

「いやでもな、あんまり期待されても困るぞ。俺にそこまで力があるかどうかは分からんし…」


「いーのいーの。修二が来てくれたことに意味があるんだから」

「そーなの?」


「そうそう。なんせタイミングもバッチりだし…。まさに鴨ネギ………」

「………カモネギ?」


「ううん、何でもない。気にしないで。それよりご飯ご飯!」


 いつになく陽気な美月はそう言うと、グイグイ俺の腕を引っ張って歩みを早める。やがてリビングの前まで来ると、急に振り向き、笑顔で俺に話し掛けてきた。



「あのさ、修二。約束は絶対だよ」

「分かってるって」


 何を今さらって感じ。念を押されなくても大丈夫だっつーの。

だが、それでも美月は話を続けてくる。


「もし修二が約束を破ったらね……」

「破ったら? なんだ?」


「修二を『 ヴァルハラ 』に送っちゃうからね。えへっ…」

「ヴァルハラ???」


「まーまーいいから。それよりご飯食べよ」


 そう言って美月は俺の手を引くと、リビングの扉を開けて食卓へと俺を連れて行った。美月はさっきからずっと上機嫌なままなのだが、何故だろう?……さっきから妙な悪寒がする。



―◇―◇―◇―



 美月と一緒に食事を終え、その後少しだけ美月の勉強を見た俺は、やれやれといった感じで仁志の部屋に戻ってきた。


 仁志に美月の様子などを一通り説明した俺は、自分の勉強に取り掛かることに…。



………そう言えば。

美月が何だか訳の分からない言葉を言っていたことを思い出す。


―――ヴァルハラ?


 何となくスマホを出してその言葉を検索。するとすぐにヒット。



―――『 ヴァルハラ 』―――


 北欧神話における主神オーディンの宮殿。古代の言葉で戦死者の館という意味を持つ。ワルキューレによって選別された戦士の魂が集う場所である。―――死者の館???


 ってことはあれか?………

ヴァルハラに送られるってことはだな、約束を破ったら俺は戦死者の仲間入りを果たすってことですか?


 えっ? ちょっとどーなっての美月ちゃん?

お前はガチで俺を異世界に送り出すつもり? やだ、マジで怖いんだけど…。


 確かに俺は勇者にはなりたいとはいったがな、既に死んでいる勇者になってどーする? 魂だけ勇者の仲間入りしても何にも意味ねーだろ?



 だが、まあいい。

俺が約束を破ることなど考えられない。よって異世界に送られることもないだろう。


………ま、これもある意味勉強か。


 俺は賢くなった。今後は不用意に約束なんて絶対にしない。破ったら異世界送りのルールなんて… どんなけ縛りのきいたルールなの? そもそも約束になぜ命を賭けねばならん?


 これからはスマホを肌身離さず持ち歩こう。

知らない言葉が出てくればまず検索する、それが自分の命を救うことになる。


 スマホは神なり!―――俺の格言にまた1ページ。


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