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55. 変化…Ⅷ



「ところで、どうなんだ? 俺の話は参考になったのか?」


 背中にピッタリとくっついてる美月の温もりを感じながら、まったりした雰囲気で美月にやんわりと尋ねてみた。


 後ろから羽交い絞めされるように、美月に抱き着かれている今の俺。

傍から見ればまるで恋人同士に見えるかもなんだけどね、俺と美月にとっては別に珍しいってことでもない。死を厭わないような俺の努力の結果、今や俺と美月の関係はそこいら辺の兄妹をはるかに凌駕しているからだ。


虚仮こけの一念岩をも通す」・・・昔の人はいいことを言ったもんだ。俺の“虚仮”としての強い一念は、美月の拒絶という岩盤をも突き崩してしまった。やっぱおれってスゲーやつ? おれの虚仮パワー最強!って感じ。


………ところでさ、“虚仮”ってどーいう意味? 誰かおせーて。


 俺が虚仮って文字を後でググってみようと思っていたら、美月の腕の力はさらに強まった。結構グイグイ来てる。


 どれくらいのグイグイかというと、朝8時10分の通学電車ぐらいって感じ。……8時10分の電車はマジでやべー。前にいる奴のリュックが俺を殺しにくる。俺の鳩尾みぞおちにめり込んで息の根を止めようとしやがる。



 それはさておき、美月は抱きしめる力を強めると、


「……うん。参考…ってか修二の話を聞けて良かった。すっごくね…」


 弾むような元気な声でそう答えた。そして俺の背中に顔をスリスリって感じで擦り付けてる。


萌えちゃった。普通に。―――


 やっぱええのう。…妹ってやつは。

後ろから抱き着かれて甘えられるなんてね、シスコンにとったら悶絶必死のシチュ。これをされると何でも許せちゃうって気になる。―――さっきベッドから蹴落とされたこともね。


 背中に感じる甘えん坊で無邪気な妹の幼さ、そして柔らかくって暖かな温もり。正に至福のひと時ですわ。


 それにさ、今日は何だかいつもより美月を感じるんだよね……

本当に感じる。

感じる、感じるとき、感じれば、―――察しろ。


「み、美月… こっちへおいで」


 そう言って俺は自分の太ももをぱんぱんと叩く。


「どーしたの?」


 美月はちょいと首を傾げて不思議そうにしていたが、大好きな膝枕を無償提供されたとあって、大喜びで俺の太ももに飛びつくと、頭をのせて猫のように丸くなって寝そべった。


「どしたの修二…… 珍しい」


ちょっと怪訝な様子で俺を見る美月。


「たまにはこうやってまったり妹と話すのもよかんべ…」


 そう言いながら優しく美月の頭を撫でてやる。

喜んですりすりと俺のももに頭を擦り付ける美月。甘えさせてくれんなら理由なんて知ったこっちゃねーって感じでこの状況を満喫していなさる。


「えへへ… 優しい修二って大~好き」


「あたり前だろ? 俺はお前にとって最良の兄なんだぞ……」



―――どの口が言う!?

はい、自分でツッコんでおきました。取り敢えず…。


 やばかった。マジで。

感じた。ええ本当に感じましたとも。もうビンビンになるくらい…。


―――美月ちゃん、ちゃんとブラぐらい着けよーね。


 もうね、ダメだってダメだってダメだってぇ~~!!! お前は兄を殺す気か?

なに?…あの柔らかさ。 マジやばい、ガチやばい、ゲロやばい……

あんなの初めて。この世に生まれてきたことに思わず感謝したわ。


 もう夏に差し掛かった季節である今日この頃。

ゆえに俺と美月は二人ともシャツ1枚の薄着ってやつでして…。

さっきまで俺の背中と美月の生おっぱいを隔てていたのは薄っぺらい布切れがたった2枚……


 そんな状況で背中に伝わってきたあの感触。


―――すげーよ! やっぱ生の破壊力パネェわ。


 しかも美月が「私のナマを喰らってみろ!」と言わんばかりに思いっきり抱き着いてくるもんだからさ、堪能するを通り越して安楽死しそうになっちまった。


 あれをあと1分喰らってたら俺は間違いなくニヤつきながら異世界に旅立ってたぞ。


 だが美月、本当に成長したね。……おっぱい。

お兄ちゃんガチ感動。あっ、やばい…涙出てきた。



 未だ鮮明に残るあの感触。もうニヤついちゃって鼻の下がキリンさん状態。

だがこんな姿を美月に見せることなんて絶対にできない。妹のおっぱいで興奮している兄の姿なんて、ギャルゲの世界では普通だが現実世界ではただのイカれた変態野郎。


 落ち着け、おれ……。

―――はいムリ。


 しゃーない。適当に話を振って意識を変えよう。


「……ところでさ、美月。お前の気になる奴ってさ、どんなの?」


 はっきり言って聞きたくも無いのだが、ショック療法もかねてこの話題を選んだ。大事な妹をかっさらおうとしている不埒なヤローの話なんて聞いても面白くもないが、この興奮をおさめるにはちょーどいいって感じ。


「―――へっへっへ~… 修二は気になる?」


 俺の太腿の上でゴロゴロしていた美月は、顔をグイっとこちらに向けるとそう言ってニタニタと笑っている。


……ったく、悪そうな顔しやがって…… だがそれが可愛い。うん。


 でもさ、折角の機会だ。ちょいとばっかしその男の事も訊いてみよっかな。


「気になるって……あたり前だろ? 美月は俺の妹のようなもんなんだから…」


「……妹かぁ~…… 妹ねぇ~…」


 なんだか不思議な表情をしている美月。だから思わず…


「どした?」

って言葉も出ちまうってもんで。


「ううん、なんでもなーい。えへへ…」


 凄く上機嫌な美月。誤魔化していることを隠そうともしないで俺を揶揄うようにそう言った。


 やっぱり恋の力ってやつですかね?… これほど幸せそうに笑う美月を俺は初めて見た気がする。


「そういや美月、お前の相談ってもういいの? 他には無いのか?」


 思い出したって感じで俺は美月にそう尋ねた。美月から受けた質問はあれっきり。たった一つで事足りるの? まだ何かあんだろ?……そう思ってお気楽に尋ねた。深い意味もなく…。


「―――大丈夫。もう何も悩むことなんてない。修二の話を聞いてはっきりと分かった」


 さっきまで目を細めて無邪気に笑っていた顔はそこになかった。


 しっかりと俺の眼を見据えてそう言った美月の顔は、確かに迷いの欠片も感じさせないものだ。


大人になったな。―――


 それを実感した。美月は自分の意思でしっかりと考えている、それが分かる。仁志や俺に甘えてばかりだった美月に、一人で何かをやろうとしている姿を見せられると、全ては変化していくものだという当たり前の法則を改めて実感させられる思いがした。



 感慨に耽るとはまさに……。 美月は変わったんだな―――


………じゃあ、俺は?


 美月の変化に当てられ、思わず自分を振り返ってしまった。


―――俺はあれからどれくらい変化することができたんだろうか…


 どうなんだろう。今の俺は本当に全てを清算出来ているのだろうか……




「………うじ、…も~う、修二ったらッ!」


「―――どした?」


 気付けば美月にどやされてた。

さっきまで初恋の事を話していたせいか、時折意識がぼんやりしてしまう時がある。


「あのさ、修二… 実はもう一つだけ訊きたいことがあったんだ。……訊いていい?」


「ああ、いいぞ」


「……修二が今望むものは何? 修二だったら彼女に何を望む?」


 生き生きとした表情でそう訊いてきた美月。どーいった理由でそんなことが訊きたいのかは分からんが、なんだか凄く興味ありって感じだ。


 俺は少しぼーっとしていたせいもあり、何も考えることなく本音を吐露するって感じで素直に答えた。


「俺か… 今の俺が彼女に望むとしたら… しっかりとした絆かな。互いの事をよく知り、よく理解して、互いに大切にし合えるような信頼関係を結べること……かな。時間はかかるとは思うけどね…」


 まあ一人の男としての参考意見ってことで。

だが、それを聞いた美月は間髪入れずに……


「―――修二は私を信頼できる?」


そう言ってきた。


 美月に「私を信頼できる?」なんて訊かれても答えなんかこれしかない。


「信頼できるに決まってんだろ?」


 何当たり前の事訊いてんのって感じ。そんなの訊く必要もねーだろ。


「うふふ… だよね。訊いた私が馬鹿だったわ。私だって修二の事は完璧に信頼してるもんね…」


 美月はそう言って一人でケラケラと楽しそうに笑った。


―――ま、好きな男が出来て人生バラ色なんだろうな……


 そう思った。

さっきから凄い上機嫌の美月。幸せいっぱいって感じで何だか艶っぽさまで感じてくる。


 良きこと良きこと…。妹の笑顔は兄にとって最高の癒し。

そんな感じで和んでいたら、


「ねえ修二……」


「どった?」


ふわっと美月が尋ねてきた。


「私ってさ、………修二にとって理想の女の子じゃない?」


「そーかもな。確かにお前となら今さら信頼関係築くまでもねーわな。もう完全に出来上がってるし…」


「でしょ? えへへ~ やっぱ私は修二にとって理想の女の子なんだ。そーいえば初めて会った時から私に夢中って感じだったもんね……修二って…」


 おいおい言ってろよ…って感じ。調子こいて好きなこと言ってくれちゃって。

出会った時から俺が美月に夢中だっただと? 


 はんッ!

前からずっと言ってんだろ? いい加減止めなさいってば。


………図星を突くの。


 何も言い返せなくなるようなことは言っちゃいけません。俺を身動き取れなくして殴るのをやめなさい。



 またいつもの弄りが始まった……そんな感じだった。

美月がこうやって俺を揶揄ってくるのなんてもはや平常運転。何らいつもと変わらない。



 だが、俺は大事なことに気付けなかった。

美月は好きな男の事を一言も語らなかった。本当に恋愛をしていたら、普通は相手の朧げな姿ぐらいは感じられるものだ。それが一切なかった。


 それに、美月はいったいどこを向いているのか……その先にある焦点は誰なのか。少し考えれば分かりそうなものだった。



 後から振り返って思う。

全てはここから始まった。美月の変化から全ては始まっていった。

だが、それは何も無かったところに、急に降って湧いたことではない。


 その下地となるものは既にあった。それらが美月の変化を合図にゆっくりと動きだしていった。


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