5. 別れの後
理沙子と別れて2週間が経った。
ゴールデンウイークも終わり、これからはこれと言った長い連休もなく平凡な日常が続いて行く。そんなまったりとした雰囲気と同様に、理沙子と別れたことについても俺は落ち着いて冷静に受け止められていた。
あれから理沙子は俺の前に現れることもなく、連絡もしてこない。俺はそんな理沙子に感謝する思いだった。この分なら案外早い段階で友達としてもう一度会うこともできると思う。最も理沙子が望めばの話だが…。
でも問題はそちらではなく初恋の人との過去。最近はそのことにどう始末をつけるかということだけが悩みだ。だがグジグジ言っても始まらない。本来俺はこんな陰キャじゃない。シリアス放棄して楽にやろう……。
そんな事を想いつつぼんやり校門をくぐって歩いていると、バシッと背中に衝撃が走る。
……ってーんだよ!…何しやがる! 悩みを抱えた幼気な少年には優しくしろ。
そう思って振り向くと親友の沖田仁志が元気のいい顔で笑ってやがる。
こいつとは中学2年からの親友。こいつの特徴はね……イケメンでーす。しかも超がつくほど…。そんで身長も高い。
もう“死んでいいよー”って感じなんだけどなかなかくたばらない。
ただこいつは人格に問題ありおりはべり…。
真っすぐなのはいいが、融通が利かん、言いたいこと言い放題、気を遣うという文化を理解できない。故に友達が出来ない。 はっきり言ってバカでしょ?…こいつ。
だから一度「ざまぁ~」って言っておもっきり笑ってやった。そしたらね、こいつに一言言われた。
「そんな俺の親友ってお前だよな?…」……はいそうですが何か?
―――もーそろそろ親友やめていーかな? ……いいとも~!
そんな仁志は俺に近付いてきて開口一番。
「どうだ? 彼女に浮気されて別れてさ、もうそろそろ立ち直ったか?」
「………」
ね!… 聞いてくれたみんな? この気の遣わなさ… もうお前死んでいいよ、…マジで。
俺は理沙子が浮気したことは親友のこいつにしか言っていない。他の皆には性格が合わなかったからという理由にしてある。
それをこともあろうにみんなが往来する朝の校門付近で大きな声で言いやがって……マジ空気の読めなさパネェわ。
「こんなところで言うことではありません。ちょっとは場所ってもんを気にしてください、親友…」
「しょうがねーだろ、事実なんだし。それでどーなんだ? もう吹っ切れたのか?」
もうね……お前が訊いてこなけりゃもっと吹っ切れるよ。こいつと喋ると朝から血圧がヤバいことになる。
「もう全っ然大丈夫。何でもどーんとこいって感じだよ……」
実際は来ないで欲しいんだけどね……悔しいから言ってみた。どーせ来るわけねーべ? ば~~~か。
「そうか… だったら多分もう直ぐいい話が来るぞ。何か池田の奴がお前に紹介したい女の子がいるとか言ってて…」
や~め~て~~~! ごめんなさい謝ります。何でもします。今は紹介とか絶対無理。
「い、いや…… 別れたばっかりでそれは… ほれ、みんなにも何言われるかわかんねーし…」
「そんなことねーだろ?」
「そんなことあるの!」
ちょっとは世間の常識を勉強しろ親友。それに今彼女つくってもまた破局に向かってまっしぐらだよ。
「そーいう仁志はまだ彼女作らねーのか?」
それよりお前が彼女作れってんだよ。
「なかなかいい娘がいなくてな… ま、ぼちぼち探してるとこだよ」
と、言ってはいるが… 何となくつくらない理由は… 察してるんだけどね…。
今までに結構な数の女子から言い寄られてるのに全く見向きもしない。そこに俺も巻き込まれるし…。直接仁志に迫ってもそっけなく断られるから最近では女子が俺を利用しようとしてくる。まずは俺に近付いてそこから仁志に近付く2段構え。もう勝手にやってくれって感じ。どーせ無駄なのに。
「それよりさっさ教室に入ろーぜ」
朝から親友と臨界点ギリギリで沸騰しそうな会話を楽しみながら俺達はいつも通りに教室に入った。
教室に入り自分の席に向かうと……
「おっはよう、本郷く~ん」
これまたいつものように爽快な笑顔で俺に挨拶をしてくれるのは蝶野麗香さん。
俺の後ろの席の住人なのだが、彼女を簡単に紹介するとこうなる。
―――ぶっ飛び美少女
彼女の性格がぶっ飛んでいる訳ではない。彼女の美貌がぶっ飛んでいる。当然学年で断トツ1位の美少女。初めて見たとき見惚れるというよりも開いた口がふさがらなかった。
こんな人間いるんだ…… もはや人類の奇跡。偶然の賜物なんだろうけど、どんな確率?…って感じ。
ちなみにこのクラスにはもう一人もの凄い美少女がいる。その子の名前は高科恭子さん。
俺達と同じ中学出身なんだけど、当然中学ではトップレベルの美少女だった。はっきり言って俺は蝶野さんを見るまで高科さん以上の美少女を見たことがなかった。だが蝶野さんはこの高科さんをも軽く凌駕している。
だからこのクラスだけ特別に大天使様と天使様ってな感じで天使が2名いる。
そんな蝶野さんだが、いたって気さくで優しい性格をしており、近所の席の人たちに満遍なく親切である。
それに喋りも上手でコミュ力は激高。いったいどこまで欲しがるんですかって感じ。
そんな蝶野さんは毎朝俺が席に着く時にはこうやって可愛く挨拶をしてくれる。ごっつぁんです。
普通美少女を相手にすると緊張して喋れなくなったり話しかけづらかったりするが、ここまで来るともう3周くらい回ってそんな感覚がなくなる。もはや次元が異なるので逆に俺としては話しやすい。そんな感じで今日もいつもの挨拶をかわし一日が始まっていく。
そしてあっッという間になんやかんやで午前の授業も終了。
待望の昼休み。俺は弁当を持って森田の席へと移動。仁志もここへやってくる。森田治、俺と1年、2年共に同じクラス。俺が高校に入って初めてできた友人で、俺と理沙子をくっつけたのもこの森田。ちなみに森田と理沙子は同じ中学出身でその時からの友達。
俺の席付近は大天使様のおかげで女子に占領され、仁志の席付近は天使様のせいでこれまた女子に占領される。仁志の席の前は天使様である高科さんの席。何で女子は美少女を中心に集まるのかその習性は謎である。おかげで俺と仁志は昼休みになると自分の席を追い出されるという羽目に。
俺と仁志は森田の席近くに集まり机をくっつけていつものように3人で弁当を食べ始めた。
食べ始めて暫くすると森田がおもむろに喋り始めた。
「やっぱ修二には理沙子は合わなかったかな… あいつちょっと気が強いし…」
森田は俺が理沙子と別れたことに色々と感じることがあるようで……
ま、自分がくっつけたカップルなのでそれも分からなくもないけどね…。
だからこいつには理沙子が浮気したことは絶対秘密。知るとこいつはかなり嫌な思いをすると思う。
俺が森田の言葉に頷き二人で喋っていると、横からいきなり暴言を吐くアホが約1名…
「けどしゃーねーよ。流石に修二も理沙子にうわき…………」
いとも簡単に浮気の事をバラそうとするアホ1名が空気読まずにしゃべり始める。
もうマジに死んでいーよ…お前。
「そうだ!!……ひとし~~~!! 玉子焼き好きだったよな???」
慌ててそのバカの口に大事な玉子焼きを突っ込む俺。
危ねーんだよこの馬鹿が! 浮気って言うな、森田にバレるだろーが! 理沙子が浮気したのは秘密だって言ってんだろ!
何をサラッと平気な顔して言いやがる?… もうマジでこいついや。 歩く地雷だわ、ホントに。
そして仁志の口封じのため、俺の貴重な玉子焼き1個をこいつの口に突っ込む羽目に。なんでやねん。(涙)
「最近は俺と理沙子で口喧嘩することも結構あったし……」
「ま、気が合わないならしょうがねーよな。確かに大ゲンカする前に別れた方がいいかも…」
森田は仁志の言葉に気付かなかった模様。セーフ。
「実際そんな感じだよ。最後に二人で話し合ったけどやっぱ合わないよねって感じで…」
「そっか、残念だったな。俺としては上手くいってほしかったけど仕方ないよな…」
「なんか悪いな、森田。せっかく紹介してもらったのに……」
「気にすんな。それにな、別れたお前にちょっと話もあるんだ。俺の彼女の友達にな、お前に興味があるって娘がいるらしくってさ…………」
仁志が朝に言っていたように、森田は俺のために新しい彼女を紹介しようと話しを始めた。
当然俺はそんなことを受けいれられる状態じゃない。
「―――も、森田… い、いきなり紹介ってのも…… そもそもどんな娘かも全く知らないし…」
「確かにそうだな。……そういや修二ってどんな娘がタイプだったっけ?」
「タイプも何も浮気さえしな……………」
ここで俺の大好きな親友がまた乱入……
「あああ~~、そうだなぁ~ やっぱり今度はちょっと大人しい娘がいいかなあ~~~」
またもや俺は大声で親友の発言をもみ消すことに……
うっせえんだよ、黙ってろ…仁志! もう二度と喋るな! も~う、誰かこいつを亜空間に飛ばして~。
だが森田の申し出をやんわりと断っておかねば…。
「森田…いろいろ気を遣わせて悪いな。でもさ、俺は理沙子のことが結構好きだったんだよね…… だからまだ暫くは他の女の子と付き合う気にはなれないっていうか…ね」
別れた理沙子のことがまだ好きだから他の女を見る気になれない…… うんうん、え~理由や、ほんまに。
「だったら理沙子とよりを戻すか?――いくらでも手伝うぞ?…」
ごめんなさいすみませんほんとゆるしてくださいおねがいしますなんでもします。
さっきの嘘ですから…。
もー勘弁して……マジで。
「い、いや、それはもう結論が出てるから…… それに今は一人がいいよ…俺は」
こんな感じで何故かこの日の昼食会では悪意のない友人1名と、悪意のない?…バカ1名のせいで散々な目にあった。




