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41. 想い…Ⅱ



 家に帰って部屋に入ると、私は制服もそのままにベッドに転がった。そう言えば…… 


 ベッドの傍のこの辺り、…そこに修二は座って私の事を看ていてくれた。

そしてベッドの端には修二に貰ったぬいぐるみが置いてあり、私に温もりを与えてくれている。あの頃からは想像すらできなかった今の日々…… 私は今、本当に幸せだ。


―――「二度と俺に話しかけるな!!」


 あの言葉を聞いた時、大切な幼馴染を失ったと思った。本当に悲しかった。

関係が細くなっていても私にとって修二はやはり大切な幼馴染。修二以上に私の事を理解してくれる人など誰もいない。


 だから悲しかった。 ……でも、実際には悲しみ以上のものが私の心の中にあった。辛い思い出など忘れればいい、離れていった人の事などいつかは忘れることもできる。必死にそう考えようとした。時間が経てばいつかは……


そうして時間は経っていった。……


 その結果、私はようやく気付いた。自分にとって修二とはどのような存在だったのかを…。 それに気付いて私は絶望した。失ったものの大きさがあまりのも大きすぎて、私の心は空っぽになった。



 はっきり言って自分を馬鹿だと思った。なぜもっと早くそれに気付けなかった?… 気付いていればいくらでもやりようはあったのに……。 こんな状況になって今から何ができる? もう一度修二に会って話をして……無理だ。


―――もう一度、あの言葉を修二に言われたら、……私はもう立ち直れない…。


 もう何も戻らない、なにもできない……仕方がないんだと思うしかない…。



 何もかも心から抜け落ち、心が空洞になっていた。だけどそんな時に、予想だにしていなかったことが起こる。


 いきなりの修二からの連絡…… はっきり言って驚いた。全く思ってもいなかった。そしてもっと驚いたのは……電話の向こうの修二が、一番優しかった頃に戻っていたこと。


―――どうして? 私は何もやっていない。何の努力もしていない。


 まるで悪夢から目覚めた時のように、全ての状況が変化した。失ったと思っていたものが、最良の形で戻ってきた。


 はっきり言って信じられなかった。そんなことが起こるなんて夢でさえ思えない。だけど修二は私に語りかける…あの優しかった頃の喋り方そのままに…。


 何が起こったのかは分からない。理由なんてわからない。でも全てどうでもいい。これが全て現実であるのなら私はそれだけでいい。もしこれが神の思し召しというのなら、私はいくらでも神に祈りを捧げる。


 そうして修二との関係を戻すことができた。再び修二と笑いあって話せるようになった。そして気付いた。 


………修二は変わったな…って。


 普段の態度は何も変わっていない。だけどたった一つだけ、昔と全く異なっている。

修二が私を見る眼差し……それは以前のものでは無い。私への想いが強く伝わってくる。それがどういう意味を成すのかは分からない。 友情?…幼馴染への親愛?…それとも身内に向ける情愛?…


―――それとも……愛する人への恋慕?


 今はまだ何もわからない。でもそれでいい。修二が私に深い想いを持ってくれているならそれで……。



 私の気持ちははっきりとしている。もう悩んだり迷うこともない。

私は修二を選んだ。 …ううん、もうずっと前から選んでいた。理由なんて語り尽くせない程ある。だから後悔することも考えられない。


 絶対に上手くいくなんて甘い考えもない。もし叶わなかったとしてもそれは仕方がない。今の私はそうしたいと思うからそうするだけ。何もしないで後悔なんてもうしたくはない。


 全てを失ったと絶望していたところに、いきなり幸運が舞い込んできた。そして私の大好きな人は、私に優しくしてくれている。大切にしてくれている。


 だったら直ぐにでももう一歩先に進むべきかもしれないんだけど、今の私にはこれで十分。今はこの幸運をじっと感じていたい。それにこれ以上一気に状況が変わることに、私自身がついていけないかもって思う。


 今は何の憂いもない。悲しいことなど何一つない。逆に嬉しいことが沢山ある。これで幸せを感じなかったら贅沢。




 でも、いつまでもこのままっていう訳にはいかないし、私もそんなつもりはない。

今の修二ならきっと…… そう思うこともある。私から修二を求めれば、修二もそれに応えてくれそうな気がする。


 でも……どうしても拭い切れない疑念が私の中にあり、それがいつも私を引き留める。


―――どうして修二は自ら私の元を離れていったの?


 中学に入ってから明らかに修二は私と距離をとるようになった。少しづつ、少しづつ…修二は私から離れ、そして初めての彼女と付き合った。好きな女の子ができたから私から離れた…そう思えれば楽なんだろうけど、そうではない。その前から修二は私と距離を取り始めていた。これが意味するものは?……


 いったい何故? 私はもしかして修二に嫌われていた?… もしそうであるなら、私が今思っている修二の気持ちもとんだ見当違いってこと?… その疑念が私の頭から離れない。考えるのがすごく怖い。



 だから今は慎重になりたい。次に二人が離れれば多分、二度と戻ることが無いだろうということは嫌でも感じている。それに…修二の様子を見ていても、昔のように誰か他に好きな女の子をつくって、私の前から消えることも今は無いように思える。




―――だったんだけどね…。


 修二から蝶野さんと映画に行った話を聞かされた時には、はっきり言って肝を冷やしちゃった。他の女の子と二人で出かけたこともさることながら、まさかの相手が蝶野さん…。


 修二は本当に上手だね。……私に絶望感を与えることが……。


 話を聞いた時にはもうビックリ。蝶野さんと付き合うことになっちゃったら……本当の絶望だ。私は逆立ちしても蝶野さんには絶対に勝てない。


 修二を好きになる女の子がいてもそれは仕方がない。その場合は恋敵として私も競争するつもりはある。但し極々一部の例外的な人を除いてね…。


 修二さ…よくそんなレアなものを一発で引き当ててくるよね。そんなに私の事が嫌いなの?… あの時は軽く眩暈なんか起こしちゃったんだけど…。修二は蝶野さんに特別な感情を持ってないっていったよね?… それに修二から蝶野さんの事情を聴いて納得はできたんだけど……。なんかちょっとモヤモヤしちゃう。… そんなことを思っていたら蝶野さんからのお誘い。


 「勿怪もっけの幸い」とは正にこのこと。二つ返事で快諾した。私は蝶野さんと直接話してみたかった。それに…修二と蝶野さんが話している様子も見て見たかった…。



 そして直接蝶野さんと話してみて感じた。……やっぱりこの人は凄いって。容姿なんて言うまでもなく、その人柄も文句のつけようがない。それに話していたらすっかり修二の事を忘れるぐらい、いつの間にか話に夢中になっちゃった。


 でもその後に修二と蝶野さんが会話している様子を見て、私の杞憂だということがはっきりと分かった。同じ女の目線から見ても、蝶野さんが修二に特別な恋愛感情を持っていないのは何となくわかった。


 それに……修二は本当に蝶野さんには恋愛感情を持っていない。これだけは自信を持って言える。


 私は知っている……修二が女の子を好きになったとき、その相手をどのように見つめるのか…。


―――その様子を私は修二の傍ではっきりと見たことがある。


 修二が蝶野さんを見る目はそのような感じではなかった。だから修二の言っていることに間違いはない。


 人を好きになるのも大変なことだ。私は今までこんな気持ちを感じたことなどなかった。凄く胸がときめいて息が苦しくなる。でも安心できると途端に幸せを感じちゃう。なんだか恋愛っていうものを初めて感じることができたような気がする。


 そんなこともあって、今の私は本当に幸せ。これ以上ないってぐらいに。


………私は修二が大好き。


 でもなぜなんだろう…たまに修二の頬をつねってやりたくなるこの衝動は…。


 それも恋なのかな?… こんど試しにやってみようかしら……。



◇………………◇



 沢山訊きたいことがあった。

クラスで最も噂となっているカップル、…私もクラスのみんなと同じようにちょっと興味を持っていた。


 何と言っても本当にお似合いというか、まるで撮影のために用意されたような美男美女のカップル。本当に少女漫画から飛び出してきたような感じがする。だから一度、高科さんとは話をしてみたいと思っていた。彼女は私も憧れるほど凛としたたたずまいで女の子らしく清々しい。


 そんなことを前から思っていたところに、本郷君と高科さんの意外な関係を知ることになって……。


 もう我慢できないよね?… こうなったら訊くしかない。そもそもネタを振ってきたのは高科さんの方だし…。


 だから私は打ち上げと称して高科さんと話す機会を設けた。

先ずは高科さんを誘うことから… だったんだけど、二人で喋ると本当に気が合っちゃった。思わず誘うのを忘れそうになるぐらい…。でも誘うと彼女は二つ返事で快諾してくれた。だから私はもう放課後が楽しみって感じに…。


 そしてお店に入ってみんなで歓談した後、二人でゆっくり喋れる時間がようやくやってきた。


「高科さん、ちょっと訊きにくい事なんだけどね、……訊いちゃっていいかな?」


「……え、ええ… かまわないけど…」


 それから沖田君とのことを根掘り葉掘りと色々訊いちゃった。

どうしてそんなに仲良くなったのか、今はどのような感じなのか、……それ以外にもいろいろと訊かせてもらった。


 でも高科さんはあまり何も隠す様子もなく、平然と訊かれたことに答えていた。ちょっと意外と思う感じもしたのだけれど、嘘を言っている様子は全くない。沖田君とは仲の良い友達。中学の時からの知り合い。そして、付き合っているわけではない…。


 多分彼女の言っていることは真実… それは何となくわかった。

……なるほどね…。 そうだったのかという感想。 以前本郷君に聞いた時と同じような内容だった。



―――さて、前置きはこの辺で十分かな?……



 ここからが本題。今までのはクラス全員の興味。ここからは私個人の興味を訊かせて貰おう。私が本当に高科さんに訊きたかったこと……それは、


「高科さん、本郷君とは幼馴染なんだよね?… 二人がまだ小さかった時のこととか…教えて欲しいな…」


 どうやって今の本郷君が形成されたのか…… そこに高科さんは大きく関わっているはず。


それが知りたい。……


 どうして本郷君はあんなにも律儀でしかも他人にあれほど思い遣りを持てるの?


―――私は今まであんな男の子を見たことが無い。


私はどうしてもそれを知りたい……。


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