34. 恭子と二人でⅢ
列車に乗り込んで目指すは大型スーパーが存在する隣町。列車で10分の旅でござる。あれから恭子はすこぶる上機嫌。電車の中でもウッキウキってな感じで…。
まーなんにせよ上機嫌ってのは有難い。暗黒闘気を隣で漂わせられるよりはよっぽどましだ。
やがて列車は目的の駅に到着し、そこからてくてくと二人並んで歩いていくと、程なく目的の大型スーパーに到着した。すると先程まで緩い感じだった恭子の態度は変化していき、歩く速度も徐々に早くなっていく。
スーパーの中に入り目的のフロアに到着すると、いきなり俺の手を引いて走り出す恭子。
「あ~、結構人がいっぱいだ。急がなくっちゃ… 修二も急いで…」
不意に繋いだ恭子の手……正直言ってドキッとした。 子供の頃繋いでいた手とは明らかに違う。
何年ぶり?… 最後に繋いだのはもう忘れるぐらい前の気がする。でもなぜだろう…… 繋いだ手の感覚はまるで違うのに、どうしてこうも懐かしく感じるのだろうか…。
恭子に手を引かれて、早足で向かって行った先には恭子のお目当ての服屋さんがあった。所謂夏のバーゲンセール。しかも始まったばかりなので、若い女の子が沢山集まりお店屋さんは活況を呈している。
「よかったぁ~ まだいっぱい残ってる…」
そう言ってほっと一安心した恭子。
すると落ち着いたのか、ようやく自分がしっかりと握りしめているものに気付いたようで……
ぱっと手を離し、ちょっと下を向きながらほんのり顔を赤らめて、
「ご、ごめんね… いきなり引っ張ってきちゃって…」
羞恥を色に浮かべながら、気恥ずかしそうに恭子は小さな声で言った。
ちょっと他人行儀な恥じらいを見せる恭子を見ると、やはり感じてしまう。
―――俺たちはもう子供じゃないんだな…って。
子供の頃には気にも留めなかった当たり前の事が、今では互いに意識してしまう。
少しだけ離れたように感じる二人の距離……
だがそれを寂しいとは思わない。互いに大人へと変わりゆく様を感じると、なんだかそれが面映ゆく思える。
つい昔の癖を出してしまう子供の時のような恭子、しかし直ぐにそれを恥じらう大人になった恭子、そして……
「わぁ~ 可愛い服がいっぱいある…… ちょっと見てくるね~…」
少女のように目を輝かせながら無邪気に服を選びに行った恭子……
昔と今が混在している彼女……俺の知っている恭子、そして知らない恭子、…その両方を見せられ戸惑いを感じるのだが、どちらを見ても俺の心が惹かれることに変わりがないのは何故なんだろうか…。
離れていた時間は平静を与え、見えていなかった素晴らしいものの在処を俺に指し示す。
―――お前が得たかったもの、探していたものは直ぐ傍にあったんだ…と。
そうか、…そうだったんだ。やっとわかったよ。もう俺は迷わない。
………素直に手を伸ばせばいいんだ…
その手を掴み、手繰り寄せ、そしてもう二度と離さない。
俺と恭子の二人なら、きっと真実の愛を育むことができ…………
「ちょっと修二! どっちがいいか選ぶの手伝ってよー!」
「―――あ~い…」
あんまり暇だったんで、「俺と恭子の恋物語」って感じのラノベを妄想してたら恭子に連行された。
しっかしラノベ作家というのも凄いもんだ。今まで深く考えもしなかったけど、よくあんなセリフを思いつくよな。俺だったら自分が書いたあんなセリフを他人が読むって考えただけでも軽く死ねるぞ。あんたらスゲーよ。 ある意味尊敬の念を禁じ得ないわ。
その後は恭子に引きずりまわされて、あちらへ行ったり、こちらへ行ったり……
以前から思っていたのだが、レディースの店舗ってなんでこんなに多いの? しかも種類も豊富だし…。
やっぱ女の子はそれだけオシャレに興味があるってことですかね。 恭子の目の色も変わっちゃってるし。
だけど…… 恭子ってこんな感じなんだ。
実は何を隠そう恭子と一緒にお買い物なんて初めての体験。中学1年の時に俺に彼女ができたんで、こんな風に一緒に買い物に出掛けることなんて今まで一度もなかった。楽しそうに洋服を選ぶ姿を初めてみたが、なんだか普段より元気があって生き生きとしている感じがする。
そんな恭子の様子をぼんやり眺めていたら…
「ねえねえ修二… これとこれ、どっちが可愛いと思う?」
にっこり笑顔で微笑みながら楽しそうに訊いてくる恭子。
そんなの決まってるだろ?… 恭子が一番可愛いって♡ キャッ…つい本音が…。
言っておきますけど冗談……ですからね。(白目)
さてさて、真面目に考えよう。どっちが恭子に似合うかな……
「ん~ん… そうだな…… 右の方がかわ………」
「ああッ! いいの見つけた! こんなのあるんだぁ~… これにしよっと…」
「………。」
「どーしたの? 修二……」
「―――決まったんだ……良かったね……」
こんなもんすわ、俺の存在なんて…(涙)
ある程度服も買ったので、そろそろ満足したかと思っていたのだが、急に何かを思い出したかのように恭子がソワソワとし始める。俺の顔をちらちらと見ては視線を逸らしたりと、落ち着きのない恭子の様子を見ていて、あることに気付いた。
「おれさ、ちょっと買いたいものがあるから… 恭子はまだこの辺で買い物してる?」
「う、うん。私はもうちょっとこの辺でぶらぶらしてる…」
「それじゃ、買い物終わったら連絡くれるか?」
「わかった… 連絡するね…」
恭子の返事を訊いて俺は一人で別のフロアへと向かった。
下着とか買いたかったんだろ?… 恭子の様子を見てて何となくわかった。
理沙子と何度も買い物に出かけたことがあるんで、あの態度を見ると何となく察しが付く。
それに俺には買いたいものがあるのも事実だし…。
それから暫くして、スマホに連絡が入り再び恭子と合流する。
「修二の買い物は終わったの?」
「ああ、目的のものは買ったよ」
「だったらお昼にしようか。 私もうお腹ペコペコ…」
「俺も腹が減って死にそうだ」
時刻は午後の2時過ぎ… 昼食というには遅すぎる時間。
腹ペコの二人は近くにあった適当なお店に入り、とっとと注文を済ませると、ぐったりとしながら食事が来るのを待った。
少し経って待望のお昼御飯が運ばれてくると、二人して無言で食べ始める。
あっという間に食事を平らげると、ようやくちょっと落ち着いったって感じになり、元気も少し回復。
この後どうするのかと思い、恭子に尋ねようと思って視線を向けると、食事を終えてもまだぐったりとしている恭子の姿が目に留まった。
―――朝から散々動き回って買い物に熱中してたからさすがに疲れたか…
「恭子、大丈夫か?」
「……うん、大丈夫…」
「もう少し休んでから行くか?」
「ううん、ご飯も食べたし…元気になったから…」
「そっか… なら行こうか?」
「そーだね… さぁ~、次はどこに行こうかなぁ~…」
それから店屋を出て表に出ると、これからどこへ向かおうかという話になった。
「あのね、次は小物とか売ってるお店をぶらぶらしたいんだけど……」
「……そうだな……」
…………
「……し、修二… どーしたの?… いきなり…」
「恭子… 今日はもう帰るぞ…」
俺は繋いでいる恭子の手を引っ張り、歩き始めた。
ちょっと様子がおかしいと思い、いきなり恭子の手を握ってみたのだが……
恭子の手はしっとりとしていた。… 潤っているんじゃなくて汗をかいている。
さっきから恭子の表情を見ていて何となくわかった。 ……恭子は体の調子が良くないんだなって。
「ちょ、ちょっと… 修二、なんなの? まだ行きたいお店も……」
「とにかく今日はもう帰ろう…」
「どーしてよ?」
「だって……お前、調子悪いんだろ?…」
「―――そ、そんなこと……」
「本当か?……」
微笑みで誤魔化そうとしている恭子の顔を俺はじっと見つめた。俺と目が合った恭子は、徐々にその視線を下げていく。
「いいから、……帰るぞ……」
「……で、でも………」
「買い物ならいつでも好きな時に付き合ってやるから… 今日は帰ろ?……恭子」
「―――うん…」
元気をなくし項垂れるように俯いている恭子。
だが先程から握っている手は、温かいというより熱いという感覚しかしない。
―――もう少し早く気付くべきだった…。
恭子には悪いがこれ以上具合が悪くなる前に早く家に連れて帰りたい。
子供のころ、恭子は二人で遊んでいるときに体調が悪くなっても、絶対にそれを口に出さなかった。そして次の日にはぶっ倒れて学校を休んだりってことも…。
だから俺はいつも恭子の顔色を窺うようになった。機嫌を探るのではなく、体調を探るために…。
意地っ張りというか強情というか… 絶対に自分から辛いと言わない所は今も変わってないみたいだ。
それから直ぐに駅に向かい、俺達は家路についたが、恭子の体調は悪くなる一方だった。
少し遅くなったとはいえ本当に気付けて良かった。
―――まだ昔の感覚が残っていたおかげだな…。
電車を降りて駅の近くのコンビニで冷えピタやスポーツドリンクを買い込んで恭子の家に向かっていく。恭子は俺と腕を組んで、俺に凭れ掛かるような感じでふらふらと歩いている。
―――もう少しで恭子の家、何とか帰ってこれたな……
そう思っていると、恭子は少し寂しげな表情を俺に向けてぽつりと呟いた。
「今日はお父さんとお母さんがいないんだ…。二人で出かけて夜まで帰ってこないの…」
そっか… ならしょーがない。
「だったら俺が暫く看病してやるよ…」
「……いいの?…修二…」
「あたり前だろ?… 恭子を一人に出来るわけないだろーが…」
「―――うん…そうだね、……修二って……そうだったよね……」
「いいから早く家に入ろう…」
それから恭子の家に入ると、恭子を部屋に送って着替えをさせ、それが終わるとベッドに寝かしつける。それから俺は恭子が寝ているベッドの傍に腰を下ろし、火照った顔をしてぐったりといった感じで寝ている恭子の様子をただ眺めていた。
「大丈夫か?… 恭子」
「うん。横になったら少し楽になった…」
「そっか。のどが渇いたりしたら直ぐに言えよ…」
「うん、ありがとう……」
「……ねえ、修二……」
「ん、どした?」
「……もう少し傍でいてくれるんだよね?…」
「ああ、いるよ。暫く傍にいるから安心して寝ろ……」
「よかった……」
そう言うと恭子は安堵したようにゆっくりと瞼を閉じて眠りについていった。
恭子が寝たのを見届けると、俺も少し落ち着いたのか辺りの様子が見えてきた。
―――恭子の部屋か…最後に来たのはいつだったのか…
俺の目に映った恭子の部屋の風景、それは昔とは随分異なるものだった。
ようやくお盆休みに入りました。(涙)
これから少しの間は更新を早めにできそうに……思います。
最後までお付き合い願えるよう、今後もよろしくお願いします。




