33. 恭子と二人でⅡ
「こんにちは~ 本郷ですけど…」
インターホンを押して挨拶をすると……ガチャリと扉が開く音がして…
「―――しゅ~う~じ~?」
扉から恭子の顔が半分だけ出てきた。
朝っぱらからホラーな演出はやめなさいってば。 ……漏れちゃったでしょ。
昨日の件もあるんでちょっと緊張していたところにこの演出… 本物の恐怖ってやつを感じる。
「ちょっと待ってて…」…そう言い残すと扉は締まり、ドタドタという音がして、暫くするともう一度扉が開く。
「……い、行こっか…」
ちょっとぎこちない感じで、扉からそろりと身を出してきた恭子。
あれ?…不思議だ。昨日あれだけ怒りを露わにしていたのに妙に大人しいぞ…。天気予報がはずれた?
『 恭子の天気予報 』……予報士:本郷修二君
本日の恭子ちゃん → 豪雨または暴風雨……所により局地的な激オコ雷に注意!
……こんな感じだったのに。
―――そうか…機嫌はマシになっている。…ならば。
ここで一気に機嫌を取って昨日のことを忘れて貰おう。そうすれば今日も平和な一日が過ごせる。
そうと決まれば実効あるのみ……
―――まずはじっと黙って恭子を見つめる……
「―――ど、どうしたの、修二… 黙っちゃったりして…」
―――そしてワザと間をおいてからの……
「………へぇ~え… ピンクのカーディガンか… 凄く可愛いね…よく似合ってるよ…」
「へっ?… そ、そう?… 似合ってる?…」
―――よし、つかみはOK。この調子で……
「ああ、恭子にぴったりって感じだね… 女の子らしくって可愛いよ…」
「えへへ… そっかな~…」
ちょっと肩を竦めながらも可愛く照れている恭子。只今ご機嫌急上昇中↑
―――さぁ~、もう一声行ってみましょう!
「スカートの色とも良く合ってるし… やっぱり恭子はセンスがいいね…」
「……そ、そんなに褒めないでよ~ もぅ~ …恥ずかしいじゃない…」
ナイスおれ。 恭子の表情はもうゆっるゆる。
―――最後に仕上げを決めますか…
「恭子みたいな可愛い子が俺の幼馴染でよかったよ…」
「……し、修二ったら……もうっ……」
恭子のお顔は耳まで真っ赤っか。顔から湯気が出てる。
だが幸せそうな顔をして天使のように優しく微笑んでいる恭子…。
よし、これで完全に仕上がった。…天使モードの恭子の完成だ。
これぞ幼馴染のなせる業。恭子の弱点を知り尽くしている俺のみが使用できるスキルでござる。
相変わらず恭子はドストレートな誉め言葉にめっぽう弱い。
―――よくも抜け抜けとまぁ~こんなこっ恥ずかしいセリフを吐けるなこの外道!…
……と、お思いの方もおられるでしょうが、機嫌の悪い恭子がどれ程恐ろしいか…。
それを体験させられるぐらいなら俺はいくらでも卑屈になってやる。
「それじゃ、行こうか…」
「うん!」
すっかり上機嫌となった恭子。
二人並んで駅に向かって歩いている最中も、ニコニコ笑顔で話しに花を咲かせている。
そうして足取りも軽くルンルンといった感じで俺の隣を歩く恭子だったが、そう言えばって感じで何かを思い出したかのようにいきなり話題を変えて尋ねてきた。
「昨日ってさ、結局何をしてたの… 修二…」
「昨日は映画を観に行ってたんだよ…」
「映画?… ゲーセンとかじゃなく?」
「ああ。蝶野さんが観たい映画があるって言うんで一緒に…」
「…………」
あれ?… なんで固まってるの?…恭子ちゃん。
そーいや恭子に言ってなかったよな。昨日一緒に遊びに行った相手が蝶野さんだって…。
昨日恭子がラインでグジグジ色んな事を訊いてきたときは、面倒いから全部“友達と遊びに”って感じで答えてたんだっけ?
でもこの恭子の驚き様は何なの?… ハト豆顔って言うか…こんな恭子の顔を見るのは初めて。
「どうかしたのか? 恭子…」
「―――えっ? い、いえ…」
驚いた様子で急に立ち止まりボーっとしていた恭子。だが少ししてから、ぎこちない表情をして尋ねてきた。
「し、修二ってさ… 蝶野さんと仲いいんだね… いつから?…」
「別にそこまで特別仲がいいってわけじゃないよ。俺の席の周りはみんな普通より仲がいいし…」
「……そうなの?」
「そーだよ。たまに皆で寄り道したりもあるしね…」
俺の席は隣人に恵まれており、みんな普通以上に仲が良い。そしてたまに蝶野さんが音頭をとって皆で学校帰りに何処かのお店に寄ることもある。だから休憩時間なんかもみんなで楽しく雑談したりってこともしばしば。
「でも、……どうして蝶野さんと?…」
「中間テストの勉強でかなりお世話になっちゃって… そんでそのお礼ってことで映画を奢ってあげたって感じ…」
「ふぅ~ん… そうだったんだ…。 でも……そっか……だから…」
俺の言葉を訊いて一人でぶつくさと言いながら何かを納得している恭子。そんな恭子を不思議に思っていると…
「一緒に勉強したときにあれだけ練習問題を解くことができたのって、蝶野さんのおかげなんだ…」
「そーいうこと。俺一人じゃ絶対無理。 テストやばいって思ったから彼女に頼んだんだよ…」
「……そう…なんだ」
さっきまでの元気が嘘のように無くなり、何か解せないといった恭子の表情。確かに俺と蝶野さんの組合せに違和感を覚えるのは普通だろうが、どーしてお前の元気が無くなる? おかしくね?…
―――もしかして……勘違いしてる? いや、多分そうだろう。
どこか元気を無くし、寂しげで、哀れみを纏った悲しそうなその表情……
それが意味するもの、それは……
無謀な恋に突き進もうとするバカな幼馴染を憐れんでいる? ヤッちまってるよこいつ……って思ってる?
どーしよ? そんな悲しい目で見ないでよ恭子たん… おいらも悲しくなっちゃう。
あのね、流石の俺でも蝶野さんに恋するような無謀な真似はしないんだからね?… 違うんだからね。
おれ、現実を見れる男の子。ドリーマーじゃないんだから…。中二病も完治してるし。
「あ、あのさ…恭子 勘違いしてないよな? 俺と蝶野さんは普通の友達だからね?…」
「―――そうなの?」
あ~っ、もうっ! 絶対信じてないでしょ?… その悲しい眼をするのやめてってば。
こうなったら仕方ない。あまり言わない方がいいんだろうけどあの事を話そう。
「恭子、絶対他の人に言わないでね…。 実はさ、……………」
仕方がないので俺は蝶野さんの事情を説明した。
蝶野さんは以前の付き合いが原因で、今は彼氏をつくりたくない、誰とも付き合わないっていう事情。
「―――へっ? そ、そーなんだ。蝶野さんって……」
「そーなの。だからそんな事情を知っている俺が彼女に迫るわけないでしょ?」
「そーだよね… それは無いよね…」
ようやく納得してくれた様子の恭子。表情も和らぎ笑顔が少し戻ってきた。
マジでよかったよ。他の女の子にならいざ知らず、恭子に哀れみの表情で見られるのだけは勘弁。ガチで心が砕けちゃう。
「クスッ… そ~だよね~。 よくよく考えたら、“あの”蝶野さんが修二をまともに相手するなんて有り得ないって言うか…」
俺が蝶野さんに惚れているといったあらぬ疑いが晴れたせいか、恭子には先程までの明るい笑顔が戻り、楽しそうに笑っている。だが、勝手に想像されて変な哀れみの表情を向けられた俺にとっては迷惑極まりないって感じ。
だがまあ、誤解も解けて恭子も愉快って感じで笑ってるし… これで………なんて思っていると、
「……プッ…アハハハハ~ あ、あたしって……ホントばか…」
どったの?…恭子ちゃん。なにそんなにウケてるの?
それに『あたしって…ホントばか』…それって“恭子”じゃなくて“さやか”のセリフだぞ…。
「だって…プフッ…あの蝶野さんが…ププッ…修二のこと…キャハハハハハ~ ナイよね~ ウケるわ~…」
「―――あ、あのさ…恭子…」
「……な、なあ…に… ププッ… ムフフフ……」
―――いつまで笑ってんですか…恭子さん? もう十分でしょ…。
有り得ないのは重々承知でございますがね、ちょっと笑い過ぎじゃございませんこと?
男の子の心はね、繊細なガラス細工で出来てるんだからねこんちくしょう…。
「き、恭子… さっさ行くぞ!」
「……う、うん。プッ……」
路上での立ち話もやっと終了。ようやくこれから電車に乗っていざお買い物へ。
ちなみに今いるここは何処かというと、駅の真ん前だったりする。
さっきから俺たちが乗り込むはずの電車が何本も過ぎ去っているのはどーいうことなんだろうか?
仕方がないんで全て恭子のせいだということにしておこう。……




