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23. 中間テストⅢ



 蝶野さんと別れてから家に帰りついた俺は、直ぐに部屋に入り鞄をその辺に放り投げてベッドにバサッと倒れ込んだ。


 家に帰る途中からある事を考え始めて、その答えがぼんやりと浮かんできたような気がする。

蝶野さんは言っていた。 ……私は見た目にこだわらない。

そして……多分恭子もそうだろうと思う。


はっきり言って一番見た目にこだわっていたのは俺だったんだろうな…。



 中学に入って、その美しさから注目を集めるようになった恭子。黙っていても周りから人は集まってくる。そして俺は考えた、……自分はそんな恭子の傍で胸を張って居ることのできる存在なのかと…。


 自信が無い、不安だ、……そんな気持ちがだんだん恭子の傍で居ることを躊躇わせる。

二人で一緒に居ると必ず比べられてしまう。見合ってないと言われるのが嫌だ…。


 だから恭子の傍から離れて距離をとる。離れていれば比べられることも無い。

本当は傍で居たかったのにそうせざるを得ない状況になったこと… それに俺は腹を立てて、何かのせいにして、自分を納得させようとしていたんだろう。



 でも今日の蝶野さんの話を訊いて、あの時の恭子の態度を思い出してみて…… 恭子はそんなことを何も気にして無かったんだろうと思う。


 恭子が気にしないのなら周りが何を言おうと気にする必要はない。……今の俺ならそれは理解できる。

だけど中学になって、初めて異性を気にし始める時期となったあの時はそう思えなかった。



 結局俺は一人相撲を取って勝手に恭子の傍から離れていっただけ…。

あの時の俺は見た目ばかりを気にしていたんだ…。



 もしあの時、何も気にせず恭子の傍で居続けたのなら……今とは大きく異なる状況となっているのは間違いない。そうであれば初恋の人と恋に落ちることも無かった、……いや、初恋の相手自体が変わっていただろうな…。




 ま、昔のことはもうどうでもいいか…。

ようやく恭子との幼馴染の関係を戻すことができたんだ。


 もう昔みたいにしみったれた考えなんかすまい。恭子の傍でも堂々としてやる。

こんな美人の幼馴染がいて羨ましいだろって自慢してやろう。特別仲がいいことを見せつけてや………


―――仲いいってことでいいんだよね?…俺達って。 …恭子たん?



 などと考えていると… 恭子からの着信アリ。

学校ではあまり喋らないんで最近では夜に電話やラインで連絡を結構取りあっている。

電話で話す恭子はまだ小さかった時のような感じがして、なんだか懐かしくて話していてとても楽しい。



◇ ◇ ◇



 そして次の日、いよいよ今日から本格的なテスト勉強開始。

残り6日となったのでテストの日程に合わせて毎日ノルマをこなしていくことに…。


 朝教室に入って蝶野さんに会うと「勉強の予定表を作ってきたよ」と言われたので見せてもらうと、残りの日数でどの教科をどれぐらいやるのかしっかりと計画されていた。


 苦し紛れで突然頼んでみただけなのに、ここまで親身になって協力してくれる蝶野さんには本当に感謝。




 そして、あっッ…という間にその日の授業も終わりまして… 放課後。


「それじゃあ、図書室にいこっか…」


「―――お願いいたします…」


 放課後になると二人ともさっさと荷物をまとめて図書室に移動する準備を始めた。

教科書やノートを鞄にしまい込みそろそろ席を立とうかとしていると…。


「麗香~ お願い、一緒にテスト勉強しよう。 私に勉強教えて~…」


「あ、一緒に勉強するの? だったら俺も混ざりたい…」



 ってな感じで、蝶野さんの友達やらそのおまけやらが何処からともなく集まってきた。

さすが大天使様の蝶野さん。相変わらず大人気……なのだが。


「ご、ごめんね、……ちょっと先約があって…。また次のテストの時とかは一緒にやろうね…」


 蝶野さんはそう言って両手を合わせて申し訳ないといった感じでみんなにこうべを垂れる。


「あちゃ~ 先約がいたんだ。しょうがないな~…」


「本当にごめんね…」


 蝶野さんに丁重に断られた皆は残念といった感じで元気なくばらけていった。


「さてと、…本郷君、行こっか…」



 みんなが退散したのを確認すると蝶野さんはニコッと笑って俺に声を掛けてくれた……んだけどね…。

自分が悪い訳でもないのに俺のせいでみんなに謝っていた蝶野さん。それでいて笑顔で俺に声を掛けてくれる。


 それに俺が蝶野さんを勝手に独占しちゃったんで他の奴らにもちょっと申し訳ないような…。

そんな事を考えていると、昔恭子によく言われていたことを思い出した。


―――もっとしっかりしなさい…って。


 あの時はそう言われて腹が立ったが、今ならその言葉の意味がよく分かる。

誰かに頼ってばかりじゃ周りに迷惑をかけるだけ。


 それに比べて佐藤や蝶野さんは誰かに頼られる存在であり…。

そして頼まれればしっかりその責任を果たそうと頑張ってくれる。

加賀美が佐藤に惚れてんのもそのあたりが原因だろうということは何となくわかる。


―――俺も頼られる側の人間に…


 なるのはムリなんで、せめて頼らなくてもやっていける人間にならねば…。

取り敢えずこの小判ザメ体質だけは何とかしよう。




 それから二人で図書室に行き計画通りにテスト勉強を進めていった。

さすがに皆の希望である蝶野さんを独り占めして勉強を見て貰っているんで、俺も真面目に集中して教えて貰っていた。


 何事も集中すると時間の経つのも早いもので、あっという間にもうすぐ下校時間となる。

分かんない所を質問すると的確に答えを説明してくれた蝶野さんのお陰で勉強の方も超はかどるさんの状態だった。



 勉強も終えてやれやれ…。さあ帰ろうかと思ったが、暑くなってきた気温のせいもあり喉も乾く。


「蝶野さん、喉乾かない?…」


「そうだね、図書室も結構暑かったよね…」


そんな訳で学食の近くにある自販機へ向かう俺達。


「蝶野さんは何飲む?」

「同じでいいよ…」


 といった感じで二人ともコーラを片手にベンチに腰を掛けて一息ついた。


「はあ~ッ… 暑くなってきたら炭酸のシュワって感じが爽快だね…」


 コーラを一口ぐびっと飲み込むと、蝶野さんは爽やかな笑顔で心地よさそうにそう言った。

そんな彼女を横目に俺もコーラをぐびぐびと飲んで涼を得るととても清々しい気分になる。


 何かを一生懸命頑張った後に寛いでいるこのひと時は、やはりいつもより気分が良い。

これだけ勉強に集中できたのも蝶野さんのお陰…。本当に有難いと感謝の気持ちで一杯になる……のだが。


 少し疑問に思うこともある。

ここまで親身になってお世話してくれるのは本当に感謝なんだけど、俺からすれば蝶野さんにとって“なに得?”って感じがする。


 当然テストが終わればそれなりにお礼はしようと思っているが、どう考えても蝶野さんの苦労の方が大きい結果となってしまうだろう。よほどのドMでもない限り自らこんな苦労なんてしょい込まない。


「迷惑かけといてこんな事言うのもなんだけど、蝶野さんってさ、…どうしてここまで親切にしてくれんの?…」


いったいなんでだろ?… 不思議に思うからストレートに訊いてみると…。


「だって本郷君は私の大事な友達だからに決まってるでしょ…」


―――大事な友達か… 確かにそれならまあ…ね。


そう思ってちょっと納得していると、


「私も本郷君に前から訊きたいことがあったんだけど……」


「……なに?」


 蝶野さんもなにか思い出したかのように質問をしてきた。


「―――本郷君ってさ、女の子と喋り慣れてるっていうか… なんというか… 私と普通に仲良く喋ってくれるでしょ?」


「……そりゃ、まあ…そうだけど…」


それがどうしたの?… って感じの質問。 質問の意図がよく分からんと思っていると、


「それでいてね、別に私に気があるって訳でもないでしょ?…」


「確かにそう言う意図は持ってないよ…」


 正直言って蝶野さんを見て憧れるような気持ちはあるが、自分の彼女に…とは思ったことは無い。

それにプラスして今は彼女が欲しいと思う気持ちも無いけど…。


「―――なんかね、それが珍しいっていうか…… 私には有難いっていうか…。話しやすい仲の良い男の子の友達が出来て私には嬉しいんだよね… えへへ…」



 はぁぁ… その言葉を聞いて何となく口をポカンと開けてしまいそうになった俺。

そんな事の何が嬉しいの?… はっきり言ってそう思ってしまう。


「なかなか恋愛を抜きにした異性の友達って… ちょっと出来にくいっていうか……ね」


 男女間での友情?… ま、そう言われてみればそうかも…。特に蝶野さんみたいな美少女相手になると仲良くなったらちょっと期待しちゃったりとかって……ありうるよね。


 確かに言われてみれば俺はそういうの大丈夫っていうか、恭子とあれだけ仲良く一緒に居て別に何もなかったし…。


 俺はそう言うところでちょっと皆と違ってんのかな?…。 そう思って少し考えに耽っていると…


「でも本郷君ってどうしてこんなに話しやすいんだろうね?…」


にっこり笑顔で蝶野さんがそんなことを訊いてきた。



 まあ理由は簡単でして…。全て恭子のおかげって感じです、はい。

小さい頃からずっと恭子と一緒に居たおかげで俺には少なからず美少女への耐性はある。


 美少女を前にしてもそこまで緊張もしないし、普通に喋れるし…。

でも理由を蝶野さんに詳しく言ったところで説明が面倒だから適当な感じってことで…。


「俺には幼馴染の女の子がいて結構仲良かったんでね… そのせいじゃないかな?…」


「そっか、…だから女の子と話すのも慣れてるんだ。だったら納得…」


 蝶野さんは俺の回答に満足したのかすっきりとした表情になった。

さすがにその相手である幼馴染が蝶野さんともクラスメイトである恭子とまでは言えなかったんだけどね…。



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