22. 中間テストⅡ
蝶野さんに勉強を教えてもらうことを頼んでから2日後、ちょうど中間テストまであと一週間となりまして…。
取り敢えず勉強は放課後に図書室で行っていたが、今日は参考書を買おうということとなり、放課後は蝶野さんと一緒に本屋さんへ参っている次第…。
「英語とかは絶対に人気のある参考書とか買っといたほうがいいよ…」
本屋に着くなり蝶野さんはそう言って俺のために参考書を選び始めた。
流石は大天使様…… 下々(しもじも)への施しをしっかりやってくださる。
俺のために一生懸命参考書を選んでくれている蝶野さん……から俺はゆっくりとフェードアウトしていき…
趣味の本のコーナーへと歩みを進めていく。
折角本屋に来たのにここへ来ずにいづくんぞへ行かんと欲す。
漫画の単行本の最新刊、週刊誌の類、ゲーム攻略本などなど… 取り敢えず最新情報を調べてからついでに薄い本も。
初恋の人に裏切られてから一時期は現実世界から逃避して異世界に逃げ込んだ俺だが、「こんなチートがある訳ねーべ」という現実感を再認識して今は現実世界に舞い戻っている。
時間が経つのも忘れて色々と物色していた俺だが、流石にふと我に返る時もある。
そしてスマホを見ると……顔面真っ青。 ヤバすぎる時間が経過していたことに気付く。
……絶対怒ってるよね、…まさかの先に帰ったまでありうるな…
とりあえずさっきの参考書コーナーへそろりと戻ってゆ~っくり辺りを見回すと……。
蝶野さんはいた。しかも楽しそうな笑顔で…。凄いイケメンのおまけまでついて…。
楽しそうに何かを話している蝶野さん。お相手はいかにも勉強できそうなクール系のイケメン。
―――いやでもこれって… 凄くお似合いなんですけど…。
まるで少女漫画の一コマのようなその風景。
………「もう直ぐテストか…… でも、二人で協力すれば楽勝だよな」
………「うん、一緒に頑張ろうね。 あっ、そう言えばこの参考書がいいんだよ~」
なんてセリフが聞えてきそうな感じ。何処からともなくスポットライトを当てられて輝く二人…。
やっぱ美少女にはイケメンが良く似合う。蝶野さんもやっぱりああいうのがタイプなのかな?…
さて、…どうしよう…。
こんな雰囲気の二人の所へ話しかけに行くほど俺は野暮じゃない。場合によっちゃ俺が一人で退散までありうる。
邪魔するのも何だしな… そう思って本棚の陰から蝶野さんをチラ見していると…。
「ああ~、本郷君どこ行ってたのよ~」
蝶野さんは俺を見付けるとそのイケメンに軽く会釈をして俺の方へすたすたと歩み寄ってきた。
いきなり蝶野さんが去っていったのでそのイケメン君もしばし茫然と言った感じ…。
「もう、ずっと待ってたんだからね…」
ちょっと頬を膨らませて可愛く怒っている蝶野さん、……なんだけどさ、あのイケメン放って行っていいの?
「―――い、いや… ちょっと違うコーナーを見にいってたんだけど…。それよりあの人とはいいの?…」
もしかしたら中学の時の知り合い?… そんな気もしたんで話が盛り上がっていたんだったら俺一人で退散しようかと思っていたけれど、
「ああ、さっきの人?…」
「そう… もしかして知り合い?」
「うんん… 全ッ然知らない人だけど…」
へ?… 知らない人?… でもだったらなおさら俺って邪魔じゃね?
折角の出会いを俺が邪魔してる感がハンパない…。
「―――話はもういいの?」
「どうして? 別に話したいこともないし…」
あの凄く良さそうな雰囲気は何だったの?… それに俺から見ても知的なナイスイケメン。
ちょっとはトキメいたりとか無いの?… 俺はちょっとトキメいたぞ(キャッ…)
だが蝶野さんは何にも感じていない様子で、
「この参考書なんだけどね、人気があってこれが最後の一冊だったんだ。それでこの参考書をとろうとしたらあの人とブッキングしちゃって…。それで私に譲ってくれるようにお願いしてたの…」
楽しそうにあっさりとそう語った。
それってさ、ホントに少女漫画でよくあるシチュだよね?
美少女とイケメンの主人公がさ、偶然本屋で同じ本に手をかけて……お互い見つめ合って… ポッ…みたいな。
だが蝶野さんの表情にはそのような感情の欠片も感じられなかった。
「さっさと買っちゃってどっかで休もうか?…」
「―――そうですね…」
蝶野さんを放置プレイで置き去りにしていた申し訳なさも手伝って、俺は蝶野さんに指示されるがまま参考書を購入。そしてお礼もかねて本屋の隣にあったドーナッツ屋さんに蝶野さんをご招待した。
「本当に何個頼んでもいいの?」
そう言ってケースの中にあるドーナッツを嬉しそうに眺める蝶野さん。こういう時の蝶野さんって本当に無邪気でいつもにも増して可愛くなる。まるで幼い子供のよう…。
「それじゃあね…… これと、これと、あッ、これもお願い………」
本当に子供のようだ。子供のように……遠慮という文字を知らない…。
ってかよくこんなに食ってその体形維持できてるよね?…
一度服を脱がせて確認……したいといったら殺されるからやめておこう。
欲望の赴くままにドーナッツを選びドリンクを貰って開いている席へ二人で向かう。
結構本屋で長時間過ごしていたので、二人とも席に着くとやれやれといった感じでドーナツを頬張りゆったりと寛いでいた。
食べながらテストの事やクラス内での事などを楽しく話していたのだが、ふとさっきのことを思い出して訊いてみることに…。
「蝶野さんさ、さっき本屋で喋っていた人……ああいうイケメンってタイプじゃないの?…」
さっきのイケメン… 仁志みたいにクールな感じで尚且つ知的、かなり女子に人気がありそうだと思うんだけど…。
「あはは… 確かにイケメンだったよね。なんかいい人そうだったし…」
「だからさ、ちょっといいなとかって思わないの?…」
「思わないっていうか… 私はあの人の事を知らないし… そこまで特別に思うことも無いかな…」
俺的には結構意外な答え。ああいうタイプって万人受けすると思ってたんだけど…。
「私はどっちかっていうと相手がどんな人か理解できないと好きになったりは出来ないかな…」
「でもやっぱりイケメンの方がいいでしょ?」
やはり聞いてみたい。世に言うイケメン正義論について。イケメンは全てにおいて優遇されるのか?…
「あははは… 別にそこまでこだわらないよ。だってそんなことしたら選択範囲を自分で狭めちゃうだけでしょ? だから私はそこまで容姿にこだわらないけどね。確かに女の子の中には容姿だけで決めちゃう子がいるのも事実だけど…」
話を訊いてて意外だと感じる面と、納得できると感じる面の両方が…。
選択範囲を狭めたくない… まさに蝶野さんらしい合理的な考え方。
イケメン諸君、残念だが蝶野さんは顔だけでは落とせないらしいぞ…… 残念だね… ざまぁ~www
蝶野さんの話を訊いていてニッコリ笑顔のボク。
決してイケメンに対する卑屈で矮小な醜くい妬みや嫉妬やコンプレックスが原因で笑っているのではない事だけは言っておこう。
そう言えば……
俺は何となく恭子のことを思い浮かべた。
恭子はどうなんだろ?
あいつも蝶野さんと同じで美少女なんだけど、やっぱ蝶野さんと同じように容姿にこだわんないのかな?…
そういや恭子の好きな人って想像したことないや…。
恭子は俺が知っている間は誰とも付き合ったことも無かったし、噂になった男もいない。
高校に入ってからも仁志と噂になったぐらいだし、仁志とそう言う関係じゃないのは知ってるしな…。
よく考えたら恭子とこんな話なんて一度もしたことが無い…。
「ほら、本郷君… こんな言葉があるでしょ?…」
恭子のことをぼんやり考えていると蝶野さんがいきなり話しかけてきて……
「“富士には月見草が良く似合う”ってね……」
富士には月見草が良く似合う…か。 太宰の言葉だな…。
雄大で大きな象徴の富士山には小さくて儚く健気に咲く月見草の小さな美しさが良く似合う。
確かに同じようなものを並べるよりは、異なる良さを並べた方が調和がとれるのかも…。
美少女の傍にしっかりとした心根を持つフツメンがいてもなかなかおつなものなのかもな…。
でもさ、あれはどうなんだろ?
「だったらさ、蝶野さんは佐藤と加賀美っていう組み合わせもアリって感じ?…」
「―――――い、いいんじゃ……ないか…な。 あははは…」
やっぱあれは無いんだ。蝶野さんの頬が引きつってるし…。
あれは美少女とフツメンっていうよりはゴッドとサタンって組み合わせだもんな…。




