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2. 理沙子Ⅱ



「もう終わりにしよう、俺達……」



 理沙子はキョトンとしている。何を言われたのか全く理解できていない。頭の中に?が沢山浮かんでいるのが目に見える。


仕方ないのでもう一度言うことにした。


「今日でお別れだ、理沙子」


 3度目の俺の言葉でようやく俺が何を言っているのか理解し始めた理沙子。蕩けている雰囲気を残しつつ次第にその表情は変化していった。少し驚いて理解できないと言ったような感じに……


 少ししてようやく理沙子は、


「な、何言ってんの? 急に変な冗談言わないでよ。び、ビックリした~」


そう言って顔を手で仰いでいる。



「冗談じゃない。本気で言ってる。何で俺がこんなことを言うかお前には心当たりがあるだろ?」


「―――あ、ある訳ないでしょ! 何いきなり言ってんの?」


 少し怒った表情で俺にそう言い返す理沙子。全く悪びれた様子もない。

俺としては出来ればここで彼女自身に認めて欲しかった。正直に言ってほしかった。


 言いにくいのもわかる。後ろめたいことを堂々と言える人間も少ないだろう。

でもさ、……必死になって嘘を並べられるほど相手は傷つくもんなんだよ、理沙子…。



「理沙子、昨日何処へ行っていた?……」

―――怒ってはいないから…。



「き、昨日は普通に一人で家に帰った。何処へも行ってなんかいない…」



「午後4時頃、○○公園に居なかった? 男と一緒に?」


―――責めるつもりじゃないから…。



「だ、誰かに何か聞いたの?」



「今日学校でな…。誰とは言えんが昨日お前たちが公園でイチャついているのを見たって……」


―――俺が悪かったから…。



「い、イチゃついてなんか… そ、そうだ… 昨日帰りに偶然中学の時の友達に会って喋ってたんだ。きっとそれを勘違いされちゃったんだ…」



「あのさ、正直に言ってくれ。別に怒ったりしない。嘘は聞きたくない…」


―――まだ少しでも俺のことを想う気持ちがあるのなら…。



「―――ほ、本当だって… ぜ、絶対誤解してるよ…」



「じゃあさ、これなに? 友達と喋ってただけ?」


―――自分から言って欲しかった。正直に…。

本当はこんなもの見せたくも無かった。



 俺は昨日録画しておいた動画を見せた。ズームで撮ってあるので誰の顔なのかははっきりとわかる。

再生された画像がスマホに映る。理沙子が男に熱いキスをしに行く瞬間もはっきりと映っている。

スマホに映る動画を見て、少しした段階で理沙子は気づいたようだった。俺が全てを見ていたことに…。



 ギュっと唇を噛み締めて下を向き、少し肩を震わせている理沙子。全く映像を見ようともしない。

だが少しすると怒りの籠った目を俺に向け、激しい口調で俺を非難し始めた。


「何で黙って見てたの? どうしてその時に出てこなかったの? どんだけ陰湿なの?」


 捲し立てるような口調で俺をなじる彼女。

どーやら悪いのは俺らしい。そーなのか?… そうかもね。

確かにその場に出てやろうとも思ったが、俺は冷静にあることを考えて思いとどまった。


 一時の怒りで物事を考えるのではなくもう少し先を見て…… 多分この方がいいだろうって。

彼がいれば俺と別れても理沙子は寂しい思いをせずに済む。二股をばらさない方がいいだろう…。




 さて、ここからが本題だ。今日理沙子を家に呼んだ理由……それは全てを清算するため。

だが俺は理沙子を問い詰めたり罵倒するために家に呼んだんじゃない。復讐するつもりもない。


 大事なこと、伝えるべき事を伝えたい、そして理沙子からも本当のことを聞かせてほしいから…。

二人だけで……最後に本音で語り合う時間をどうしても得たかった。



「理沙子、最初に言いたいことがある……」


 理沙子にそう語り掛けたが、彼女は表情を硬くしたまま何も聞く気が無いという感じだった。

だが俺はそのまま喋り続ける。ここで立ち止まっている訳にはいかない。


「俺は理沙子が裏切ったことを責めるつもりはない。そもそもの原因が俺にあることは自分で分かっている。ただこのまま付き合い続けることはもうできない。それは理沙子だってわかってるだろ?…」


 唇をキッと真一文字に結び、視線をそらせて怒りを浮かべていた理沙子の表情が変わった。

予想していた罵詈雑言の言葉の代わりに“原因は俺にある”という言葉が投げかけられたからだろう。


 その言葉に驚きの表情を見せた。だがそれは予想外であるという意味ともう一つ、……気付いていたのかという感情が理沙子の顔に出ていた。



「―――私が……どうして浮気したか…その理由が分かってるの?…」


「……ああ、分かってる。たぶん間違いは無いと思う…」


「なら言ってみてよ……」


「俺が前に向いて進まない……立ち止まって動こうとしない。だから感じたんだろう? ……愛されてないって…」



 ハッとなる理沙子の顔。俺がそこまで自覚していた、……なら何故? そんな気持ちが表情から読み取れる。


「修二……分かってて、それを知ってて…酷い、酷すぎる。 どうしてなの? そんなに私のことが嫌いだったの?」



 そう言ったときの理沙子の表情は何とも言えないもので、俺に背徳感を覚えさせた。

疑問、不安、怒り、悲しみ、……そしてまだ残っていた俺に対する想い。それらが複雑に混ざったもの……。


「はっきり言っておきたい。俺は理沙子のことが好きだった、…それに偽りはない。それに理沙子に悪いところがあった訳でもない。……ただ俺が深みに嵌るのを恐れただけなんだ」


 その言葉を呆然としながら理沙子は訊いていた。全く意味が分からないといった様子で…。

あたり前の話だろう。自分に悪いところは無い、自分のことを好きだと言っている、なのに深く愛することができない……


こんなことを言われたら誰だって理解に苦しむ。



「ねえ修二……どうしてなの? ならどうしてもっと私のことを好きになってくれなかったの? 私に魅力がないから? 私のどこがダメなの?…… 教えてよ…」


「違う……違うんだよ。 理由は理沙子じゃない、……理由は俺自身にあるんだ」


「―――どういうこと? ねえ、……どういうことなの? 教えて……全然わからない…」



 意味が分からない……そう訴えかけてくる彼女。だが彼女の態度に何処か縋るような感じがしたので疑問に思った。


 公園での様子から、理沙子の愛情はもう向こうに行っていて、俺に向けられているのは半年間一緒にいたというただの情のようなものしか残っていないと思っていた。


 そんな理沙子の態度に少し戸惑いを感じたが、俺が言うべきことは言わなければならない。その理由を…。



「―――俺には理沙子と付き合う以前に初めて付き合った女の子がいたんだ。俺はその人のことが大好きだった。本当に愛していた。そしてその女の子も同じように俺のことを愛していると言ってくれていた。このままずっと一緒にいるものだと、互いに思っていると信じていた……」



「そしてなんの疑いも持っていなかったある日、俺はその最愛の人が他の男とキスしているところを見てしまった…」


「―――修二……それって…」


「公園で理沙子が他の男とキスしているのと全く同じ光景を俺は初恋のその人に見せられたんだ……」


「…………」



「何の前触れもなくいきなり裏切られた現場を見せられてね、……俺の心は完全に砕け散って無くなっちゃたよ……。何が起こっているのかも理解できない……信じたくもない。何も考えられなかった…。ただはっきり感じたのは俺の眼の前からその人の姿がどんどん遠ざかって消えていくような感じだけ…… 例えようもないくらいそれが悲しかった…」



 過去に裏切られた俺の話、それを聞いてから理沙子の顔色が急激に変化し始めた。今まで理沙子からあまり感じとれなかった罪悪感といった罪の意識が今の理沙子からは見てとれる。



 人間の本質……そう言うものかもしれない。当事者である自分に関係することは冷静に見ることができないが、第三者として客観的に見た場合には常識的に判断することができる。理沙子は多分、自分のしたことを俺の前の彼女がしたことと重ねて考えてみたのだと思う。



「―――そして俺はあの出来事以来、女の子のことを深く愛することができなくなったんだろうと思う…」


「俺は理沙子が望むほど深く愛することができなかった。理沙子はそんな俺を見限って裏切ったんだと思ってる。だから俺達はもう別れるしかないんだ。俺にも理沙子にも恋人を続ける権利はもうないよ……」


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