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17. 高科恭子Ⅰ



「―――これからは昔のように話せるんだよね? ……まだ小さかったあの頃の時みたいに……」


『ああ、そうしたいって思ってる。 恭子、…本当に今まで悪かった… ごめんな…』


「もういいよ。だって昔のように戻れるんだから…。それだけで十分…」


……………。



 修二と話をした。2年ぶり?……ううん、違う。あの懐かしい優しい口調で話してくれたのなんて何年ぶりだろうか?…。


 もう話すことも無い……本当にそう思っていた。 俺に話しかけるなと言われてから2年……

時間が経てば、…冷静になれば、…なんとなく、……以前のように戻れるだろう…そう思っていた。


 だけど月日が経つにつれて思うようになった。……本当に私達の関係は終わってしまったんだと…。



 でも仁志君はずっと私に言っていた。

必ず修二からもう一度話しかける時が来る。だから修二のことを忘れないでいてやって欲しいと…。


そして今日、仁志君が言ってたその時が来た。



 私の中の凄く複雑な思い。腹立たしく思う怒りのようなものもあればこんな状態になってしまった悲しみのようなものもある。はっきり言って修二からの電話がきたとき、何を話せばいいのか分からなかった。


色んな気持ちが込み上げてくる。



……だけど、あの声を聞いた時、あの懐かしい優しい声を聞いた時、ただ嬉しかった。



 そしてもう他の事はどうでもよくなった。

修二の話し方を聞いていて分かった。 ……修二は私のことを忘れてはいなかったんだと…。


 それを感じて凄く嬉しかった……のだけど、ちょっと反省をして貰っちゃおうか…そう思ってちょっと意地悪を…。相変わらず私の言うことを真に受けちゃって… 修二はそう言うところは全然変わってないな…。



 でも本当に懐かしいと思った。まだ私達が仲良くいつも一緒に居たあの頃を思い出して…。


 まだ小さかった時、私達はいつも一緒に居た。互いのお母さんに連れられて公園に行ったり、買い物に行ったり…。 そして修二は私の手を引いていろんな楽しい遊びを教えてくれた。それが度を超してよくお母さんにも叱られたっけ…。


 でも修二は優しかった。怒られる時も私を庇ってくれて、…私がめげていてもわざと楽しそうな顔をしてくれて…。ちょっと適当でだらしないけどいつも私を楽しませてくれる私にとって大切な友達……それが修二だった。



 ずっと仲のいい友達、これから先も…そう思っていたいのに…。

ある時から何故か修二は私と競争しようとしてきた。どっちが勉強できるか…。修二が挑んでくるので私も頑張るようになった。


 二人で仲良くするのもいいけど二人で競い合うのもいい事だ、……お互い賢くなれるんだし。そう思って私も一生懸命頑張った。


 ただ、修二はせっかくやり始めても長続きしない。直ぐにだらけてしまうから結局私に負けてしまう。修二は決して出来ない訳ではない。私よりも物覚えも早かったし小さかった頃はよく勉強を教えて貰っていた。


 修二のだらしない部分が足を引っ張っている。それが分かっていた私は修二に説教じみたことを言うことが多くなっていった。


もっと真面目にやりなさい、直ぐに諦めることをやめなさい、もっと努力しなさい……


そんな言葉が口癖になってきた頃から私と修二の関係はおかしくなっていった。



 修二のことを思って、もっと頑張って欲しい… そう思っているのに…… 修二は私から少しずつ離れていく。そんな修二の態度を見ていると、どうして?…といった納得がいかない気持ちになった。


 私の言うことに耳を傾けてくれないことへの苛立ち…。 そして…私から離れて行こうとすることへの寂しさ…。


最初は小さな隙間だったはずなのに、日を追うごとにその隙間は大きくなっていった。




 そしてそんな時に私と修二の関係を決定的に変えてしまう人が現れた。


 それは修二の初めての彼女となった人。

私と彼女は同じクラスで同じテニス部、なので最初は話す機会も多かった。話の内容は他愛もない事ばかりだったけどやはり同じクラスの人のことは話題になりやすい。そこには当然修二のことも含まれていた。


 私は修二と同じクラスになれたこともあり、入学したばかりの頃はつい嬉しくていつも修二の傍にいた。暫くすると当然のように周りの皆はいろんな噂をし始める。そして二人の関係を訊いてくる。


そんな人達に対して私はこう答えた。


―――修二は私の大切な幼馴染



 誤魔化してもいない、隠してもいない、私の本当の気持ち。胸を張って自信をもってそう答えた。

だけどそんな私の答えに興味を持ってさらに深く訊いてくる人達もいくらかいた。


彼女もそのうちの一人だった。


 彼女は私と修二の昔話などに凄く興味を示して楽しそうに色んなことを訊いてきた。嬉しそうに聞いてくれる彼女を見ていると、なんだか私も少し得意げになって幼馴染である修二の自慢話などをしていたと思う。



 だけど実際には自慢の幼馴染である修二との関係が少しずつ希薄になっていっていた。

それも自然にそうなっていっているのではなく、修二の意思でそう変化してきていることは何となく私にはわかっていた。


 どうして修二がそうするのかは分からない。本当は訊いてみたかった、……どうしてなの?…って。

だけどそれを修二に直接尋ねることはできない…… 尋ねればもっと悪い結果になる…何となくそう思った。


どうしてこんな事に…… 何となくそんな想いが心の中に広がり私の気持ちを沈めていく。



 そうして何処かやり切れない思いを抱きながら過ごしていたある日、私は気付いた。

もうだいぶ以前から私には見せなくなっていた心から楽しそうに笑っている修二の笑顔……

修二はその笑顔を今は彼女に向けていることを…。



 いつも私がいた場所、…修二に最も近いところに今は彼女がいる。そして私に向けていた笑顔を今は彼女にだけ向けている。


 二人の様子を見てすぐに分かった。 ……修二は初めて女の子を好きになったんだということが…。


そして私は思った。


―――修二にとって必要なのは彼女であり、もう私ではないんだ…。



 いつかはこんな日が来ることは分かっていた。修二にも私にもそれぞれ好きな人が出来てお互い離れていく…。 それは仕方のない事だ…… 頭では理解していた。


 でも現実に目の前でそれを見ると心が締め付けられるような思いになる。

大事な何かが誰かにとられていくような… 手元からそれが消えていくような切ないこの感じ…。


―――私は修二のことが好きだったの?


 最初にそれを思った。だけど考えてみてもよく分からない。

修二を一人の男の子としてどう思うか?…それは考えたことが無かった。

いえ、それ以前に自分が誰か男の子を好きになるということ自体を考えたことが無かったのかもしれない。


 素直に感じるのは大事な幼馴染が彼女の元へ行ってしまったということ……

そして私と修二との関係が大きく変わったこと。


私の傍にもう修二はいない、… 私はもう修二の傍に行ってはいけない。 ……これが現実。



 いつまでも私達は仲の良い幼馴染…… 振り向けば近くに必ず修二がいてくれる…。

それは幻想なんだということを目の前の光景が私に教えてくれた。


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