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14. 本郷修二Ⅰ



 仁志の家に泊まった次の日、家に帰った俺は用事を済ませると、部屋でただぼんやり昔のことを思いだしていた。


 仁志に謝れと言われた人…… それは俺の幼馴染の女の子。

俺は初恋の人と別れてから、その幼馴染とも一切口をきかなくなった。


 今から考えてもあれは俺の身勝手、幼馴染には本当に悪いことをしたと思っている。

ただ、あの時はどうしようもなかった。それに幼馴染とは初恋の人以外の事でも俺には思うところが前からあった。



俺の幼馴染……高科たかしな恭子きょうこ



 恭子の家は俺の家の向かいにある。

俺の住んでいる家辺りは結構ご近所付き合いがまだ残っている地域なので、お互いの両親は同じ年の子供を持つこともあり、割りと仲良くしていた。


 やがて俺と恭子の母親同士は所謂ママ友になり、近所の公園などへ行くときはいつも一緒に行き、そのうちお互いの家にも遊びに行く関係となっていった。



 恭子は小さいときからしっかり者で、おもちゃを使って遊んでもしっかりと後かたずけをする。一方俺はいい加減なのでかたずけを恭子にぶん投げる……こんな感じだった。しっかりしてて、面倒見が良くて、頼りになる、……俺はそんな恭子に甘えながら楽しい日々を過ごしていた。



 小学生になっても二人の関係は全く変わらない、いや、だんだん自意識が芽生えてきたので以前よりも恭子のことを大事な友達と思うようになった。朝は毎日一緒に学校へ行き、用事の無いときは一緒に学校から帰ってくる。週末もお互いの部屋に行って遊んだり……恭子が俺の隣にいる生活がありきたりの日常だった。



 だが、小学生も高学年になってきたころから俺の中で恭子を見る目が少し変化してきた。

勉強の内容もだんだんと難しくなってくる。身体能力にも個人の差が大きく現れてくる。


 恭子は勉強も芸術も体育も全てそつなくこなしていく。

一方俺は、どうやっても勉強や芸術などは恭子に敵わなかった。恭子に勝てるのは男女差が出る体育ぐらい…。


 そしてこの頃から恭子によく注意されるようになった。

ちゃんと宿題やりなさい、予習もやりなさい、朝もちゃんと起きなさい、どうして真面目にやらないの?……


まるで口うるさい姉さんのよう……


 口を開けば文句を言われる……腹が立つから見返してやろうと頑張る……でも勝てない。

少しずつ鬱憤がたまってくる。普段は仲良くしているが、心の奥にはそう言った嫌な感情が少しずつ蓄積されていった。




 そして中学校に入学。

俺ははっきりと思い知らされることになる。


 人間としての出来の違い……所謂スペックの違いと言われるやつを……

入学した当初から恭子の周りには人が集まる。そしてちやほやされる。


何故なのか?……美少女であるから。


 何の苦労もせず、自分から努力しなくても勝手に人は集まってくる。

そして暫くすると更に人は集まり、恭子を褒めたたえて称賛する。


何故なのか?……勉強ができるから、温和で優しい性格だから、人の悪口も言わないから……



 こんな女の子と幼馴染であれば普通は自慢するのかもしれない。 ……あの子と俺は特別仲がいいんだぞって…



 だが俺は違った。俺が思った事、それは……


―――どうしてあいつだけ?… 俺はなぜ何一つあいつに敵わない?



 いつも隣にいた女の子は、実はヒロインであり俺はただのモブ……

さらに温和で優しいヒロイン、実は俺にだけ厳しくて優しくない……



 ライバルのように思って競っていたつもりの幼馴染は、実ははるか雲の上の存在でした……

この事実を思い知らされて、俺は恭子の傍にいるのが嫌になった。


 今から考えればわかる。

俺の自分勝手な感情からくる嫉妬……そして敵わない事実を突きつけられた敗北感

それらをこじらせて、俺は恭子のことを穿った目で見るようになっていた。

まさに中二病的なものの考え。




 中学1年の時に俺と恭子は同じクラスだった。

そして入学当初は当然よく二人で一緒にいた。いつも通りって感じで…。


 やがて俺と恭子が幼馴染という噂は広まっていき、クラスの皆が知るようになる。


―――すると当然二人を比較した話が出てくる。


俺は恭子からわざと距離を置くようになっていった。




そうして恭子から距離をとり始めて暫くたった頃のことだった……


「本郷君ってさ、高科さんと幼馴染なんでしょ? どうして最近喋らないの?」


 クラスメイトのある女の子がそう言って声を掛けてきた。ショートヘアーでサラサラとした髪を揺らせて俺に近寄り、愛嬌のある笑顔で俺に話しかけてきた女の子……



―――それが俺の初恋の人となる女の子だった。



「―――いや、別に。用事もないから…」


俺が“つまらないことを訊くな”…… そんな感じで不愛想に答えたにも拘らず、


「どーしてー? 高科さん人気者だから傍にいないととられちゃうよ?」


俺の返事を全く意に介することなく明るい感じで勘違いも甚だしいことを言う。


―――恭子を彼女に?…… 冗談言ってんじゃねーよ。



その時の俺は、恭子に少し苛ついていたのでその言葉を聞いて少しむっとした。そして言い返す…。


「俺と高科はただの幼馴染。それ以外は全く関係ないよ…」


すると彼女は、


「へ~え、そうなんだ… 私はてっきり高科さんと……。 ううん、ごめんね、変なこと言っちゃって。気を悪くした?」


「―――いや、なにも…」


……気に障ることばかり言いやがって……



 俺は不機嫌になり彼女の方を見ないで適当な返事だけ返した。

空気読んで早くどっかへ行け…… そう思っていたが、彼女は立ち去らずさらに話しかけてくる。


「でも……不思議だね。高科さんってあんなに綺麗なのに……興味ないの?…」


ホントに… 俺の前で高科って名前を何度も出すなっての。

……そうだ、嫌がらせ言ってやれ。



「そうか?… 高科より俺はお前の方が可愛いと思うけどな?……」


 俺は嫌がらせのつもりでそう言った。恭子はクラスの誰もが認める一番の美少女。その子より可愛いって言葉はイヤミでしかない。これで彼女は怒って何処かに行くだろう……そう思った。だが彼女の反応は…。


「え、えッ…… 本郷君……ほんとに? なんかお世辞でも嬉しいな~ ありがとうね…本郷君」


 白い頬をほのかな赤に染めて両手をその頬にあて、照れた様子で少しもじもじしている彼女。

最初は興味もなくあまり顔も見ていなかったが、俺はその時初めて彼女の顔を真剣に見つめた。

少し大きな眼の目尻を下げ、女の子らしく丸みを帯びた柔らかそうな頬がピンクに染まり何とも愛らしい。


冗談で言ったつもりだったが、彼女の顔を真剣に見た俺はその時思った。


―――凄く可愛い子だな



 俺は……この時初めて“女の子”というものをその子に感じた。


 恭子は確かに美しい。だが恭子は俺にとってあくまで“女の人”だった。

俺にとって恭子は姉や母といった感じの方が強かったのかもしれない。



俺は初めて“女の子”を感じた彼女に興味を持った。



 それから彼女はたまに俺のところにやってきては他愛もない話をするようになった。

そして俺もたまに彼女の元へ行ってくだらない話をするようになる。



 はっきり言って話の内容などどうでもよかった。彼女と近くで話しをすることが大事だった。

楽しそうに話してくれる彼女を見るたびにどんどん彼女に興味が湧いてくる。


 昨日よりは今日、今日よりは明日、……俺の心はどんどん彼女に惹かれていったんだろうと思う…。

そしてそれは彼女も同じような感じだった。

二人で会って話しているときが何よりも幸せだった。



 そしてある日俺は気付いた。


―――これが恋というもの?


 彼女と一緒にいると凄く楽しい、だが週末になり会えなくなると寂しいと思ってしまう。

俺は彼女に恋をしてるんだ…… 自分でそれが分かるようになった。


 それから俺は更に彼女へと近づいて行った。彼女もそれに応えてくれた。

いつの間にか俺は彼女に夢中になっていた。



 そして、幼馴染だった恭子とはどんどん疎遠になっていった。


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