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12. 美月Ⅱ



 ニヤニヤ薄ら笑いを浮かべながらいきなりぶっこんでくる美月。


「何で知ってるの?」

「そりゃあ、お兄ぃから聞いたに決まってるでしょ…」


だろうな。訊いてみただけだよ…。



「それで理由も前と一緒で彼女の浮気だって?…… まじウケるんですけど……アハハハ~ 」


そう言ってケタケタと笑う美月。 殴っていいですかね?…お兄さん。


仁志……テメーいらねーことまで美月に吹き込むんじゃねーよ!



「人の不幸を笑うもんじゃありません……」


「だってぇ~ 修二が笑わせるんだもん…」


 ウケ狙ってやってる訳じゃねーんだよ…… 相変わらず好き勝って言い腐りやがって…。

おめーは仁志相手に倫理観を崩壊させてりゃいいんだよ。



 相変わらず人のことをネタのようにして大笑いしていた美月。

すると何故かそこから美月による怒涛の修二君分析が始まった。



「でもなんで修二の彼女って浮気するんだろうね?」


―――うるさい黙れ美月


「修二もなかなかのイケメンなのにね… お兄ぃには負けるけど…」


―――パーカー脱がすぞ


「やっぱ修二の性格?」


―――シャツも脱がすぞ


「ちょっとエロイもんね~」


―――ブラ外すぞ


「そのくせ度胸ないし」


―――生乳揉むぞ


「やっぱヘタレだよね~」


―――ズボン脱がすぞ



「もう彼女とか諦めたら? アハハハ~」


分かった。パンツも脱がして全裸にしてやる。



 黙って聞いてりゃ好き放題言い腐りやがってこのブラコン娘が!

もう我慢ならん。たとえ仁志の目の前であってもお前の生乳揉みしだいてやるからな……


―――ってあれ? そう言えば仁志はまだ帰ってこないのか?



 仁志の帰りが遅いんでスマホで時間を確認していると、すっと立ち上がった美月が俺の傍に来てぺたりと座り込んだ。


 そしてわざと猫背にして、顔の位置を低くして上目遣いで怪しい顔をしながら俺の顔を覗き込んでくる。


 お前さ……背が高すぎるんだよ…… 上目遣いするためにどんなけ苦労してんの? それにあざとさMAXだし…。



「ねえ……修二…」


 聞いたことないような色っぽい声音を出しながらゆっくりと俺に顔を近付けてくる美月。

美月の声音を聞いた俺は言いようのない寒気が背筋を走るのを感じた。


 それからも美月はどんどんとその美しい顔を俺に近付けてくる。

何かを求めるような潤んだ瞳が、俺の視線をしっかりと捉えて離さない。

もう目の前には美月の綺麗な顔しか見えない。互いの息がぶつかっている。


 いつもは幼く思えていたのに何故か今の美月からは女性としての色香を感じてしまう。

美月に魅了されていく俺。 美月のそんな雰囲気にのまれ徐々に身体の自由が奪われていく。


 美月はそっと俺の頬に手を当てて、俺の眼をしっかり見つめながら言う。



「私が修二の彼女になってあげようか?……」



 思わず鼓動が早くなる。妹のように感じていた美月が今は妖艶な魅力を持つ女性としてしか見えない。

俺の手は勝手に動き出す。自分の意思に反して。


 心が叫んでいる……親友の妹だぞ、ダメだろ?

でももう俺の手は止まらなかった。……いや止められなかった。

俺は美月の頬に両手を添わせて、美月の顔を俺の方へと引き寄せる。



 ゆっくりと美月の顔が近づいてくる。そして美月はそっと瞼を閉じて顎を突き出しその美しい唇を俺に差し出す。


―――綺麗だよ、美月、……とっても。


 そう心で呟いた俺は頬に添えた両手に力をいれて美月の美しい顔をさらに近づけて……………



 美月のほっぺたを思いっきりつねって引っ張ってやった。

美月の口は限界まで横に伸び、あの美しい唇の影も形も無い状態に…。



「思い知ったか美月! 浮気された男の恨みを受けるがいい!」


「ひぃぃぃ~ ひゃ…ひゃい… ふぉめんなひゃぁい~~~」


 どうだ?…美月。 いつも言いたい放題言いやがって。お前を彼女になんて思った事ねーよ!


―――さっきはちょっと思っちゃたけど。えへッ。



 だけど美月ももう中学3年生、来年は高校生だもんな。

初めて見たのが小学校6年生だったからさ、あの頃と比べるとすっかり綺麗な女の子になっちゃって…。


 だが、まだ美月は中学生だ。ここは年上のお兄さんとして優しく諭してあげねば…。

(いま手を出したら捕まるからまだしっかり養殖に励まねば……)


あれ? みんなには何も聞えなかったよね?



「美月、男子をそう言った冗談でからかうもんじゃありません。危ない目に会ったらどうするの?」


「―――ち、ちがうもん…」


あれ?… どうした美月… なに泣きそうな顔してんの?


「―――修二だから… 修二だからだよ…」


「……美月」


「修二だから言ったんだよ!……」


「……お、お前もしかして…」

…………………。


「ヘタレって知ってなかったら言える訳ないじゃん! バ~カ…死ね!」


「だよな、知ってたわ…」


「よくもマジになってほっぺをあれだけ引っ張ってくれたわね~! ガチでムカついてんだけど!」


「やるか? 久々に相手になってやんぞ…」


ま、大体こんなもんす。いっつも。



 ここからいつものじゃれ合いプロレスなんだけ……い、痛いって、それマジで止めて… お盆で殴るのダメだって…。


 だいたいここから俺がやられて負けてやるっていうのがいつも……っておい、お盆の角は反則だぞ!



 そんな訳でいつも通りに俺の敗北にて終了。

そして美月は捕虜となった俺を虐待する。


「―――ったく~、私に勝てると思ってんの? はいッ…正座する!」


「へ~~~い……」


 言われるがままに正座する俺。

すると美月はむすっとした表情のまま顔を横向けて俺の膝の上に頭を置く。これで膝枕完成。


「―――ふんッふんッ…」


 美月はそう唸りながら自分の頭に向かって指をさす。

知らない人が見たら「わたしアホの子です」アピールに見えるが、これは頭を撫でろという命令。


 それぐらいはちゃんと喋りなさい。“ふんッふんッ”って……動物園のゴリラじゃあるまいし。

妹で末っ子で女の子。ま~こうなるよね?… なんだかんだ言って本当に甘えん坊です。



 美月のサラサラとした髪を手でゆっくりと撫でてやると、美月は膝の上で頭をもぞもぞとさせながらベスポジを確保して気持ちよさそうにしている。肩を竦めて少し縮こまるように寝ている美月はまるでネコ。


 いつもはがやがやうるさいのにこの時だけは静かになる。

だがこうやって美月の頭を撫でているといつも思う。


―――俺にもこんな妹がいたらよかったな…。


 俺は一人っ子なので兄妹ってものがよく分からない。ただこうやっていると妹がいるっていうのも悪くないと思う。


 しかし仁志と美月の兄妹を見ているとダークな一面が垣間見られるのでやっぱり妹はいなくてよいかも…。


結論……妹はやはり2次元が良い。


 俺がそのような究極の結論を導き出してぼんやりしていると、俺の膝元から美月の呟く様な声が聞こえてきた。



「―――修二…」


「……ん、…どした?」


「修二はまた誰かと付き合うの?……」


「―――暫くはないかな…」


「次の彼女ができてもさ、……浮気されるって心配にならない?」


「どーだろな…… でも俺がしっかりできたら次は大丈夫だと思えてきたけどな…」


「……あのさ…」


美月はそう言って急に向きを変えて俺の顔を見ながら……



「―――私は絶対に浮気なんてしないよ……」



そう言って俺に真剣な眼差しを向けた。


「―――そうだよな……美月はしないよな……」


「もー、真剣に聞いてんの?……」


「聞いてます、聞いてます……」



 俺のなまくら返事を聞いて美月はプンプンといった感じで怒り、ほっぺを膨らませていきなりそっぽを向いた。


 ちょっと美月を怒らせてしまったが、美月が俺に言ってくれた言葉は心にじんわりと染み込んで俺を温かい気持ちにさせてくれた。



―――やっぱり美月はいい娘だな



 しみじみとそう感じた俺は美月の頭を両の手で抱えて…………ぶん投げた。

もう限界。足が痺れて感覚が無い。ちょっと触れられただけでも激痛が……。

だいたいいつまでやらせる気だ?… いい加減この辺で満足しろ。


「―――も~う、修二…いきなりなにすんのよー!」


「お前もいつまでも膝枕に甘えてんじゃねーよ! こっちはもう足の感覚が無いんだよ!」



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