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11. 美月Ⅰ



 蝶野さんと喋ってから1週間ぐらいが経った。

心に残っていた様々な感情をどう処理するのかがはっきりしてきたせいか、気分は日に日に晴れていく。初恋の人もどこかで自分の道をしっかり歩いているんだろう……そう考えると心の重荷が消えていく。


 蝶野さんと話し終わった後に感じた。

やっぱり俺の心にはしっかりと初恋の人がまだいたんだと…。


 忘れようと頑張って忘れた…… 本当は忘れた振りをしていた。蝶野さんの話を聞いた時、はっきりとその顔が浮かび上がった。結局は全然忘れることができていなかったことを思い知らされた。


 蝶野さんの話は多分俺が最も触れて欲しくなかった部分を豪快に抉った。おかげでその衝撃も半端ではなかったけど…。


 だけどそれによって、俺が今まで逃げていた部分が浮き彫りになり、強制的に向き合わされた。

だから今のような自分なりの答えを出せたんだろう。しかしもうあんなショック療法は二度とごめんだ。



 あの日からは初恋の人の顔を思い出しても心は穏やかなままで居られる。それに思い出すたびに、だんだんとその顔がぼやけてきている。あれだけ忘れようとしていて無理だったのに、忘れようとしていない今の方がその影が消えくのは本当に不思議だ。


 今なら何となく感じる。彼女の影が完全に消えたときが、俺にかかっている呪縛の消える時だと…。


多分もう少しすれば今度こそ本当の恋もできると思う。今はしっかりと心の整理をしないと…。




 あの日以来、蝶野さんと俺がどうなったかというと……


「おはよう、蝶野さん」

「あ、おはよ-、本郷君」


 何も変わってない。全くの通常運転。いつも通り俺の後ろでニコニコと機嫌よくしていなさる…。

ただちょっとだけ変わったことと言えば……


「本郷君、英語の宿題やってきた?…」


「………大天使様、お祈りを捧げますので我にお恵みを…」



 最近“蝶野さんがいれば宿題をしなくていい法則”を見付けた。ただいまどっぷり依存中。

蝶野さん以外の周りの住人との関係も良好で、なかなか楽しい毎日を過ごせている……と言ってたら、


「ほんごうくん~ おはよう~」

「あ、おはよう~ 江藤さん…」


 何故ひらがななのか?……甘ったれたゆるゆるさを察して欲しい。

江藤さん、今日もツインテをゆらゆらとさせて…も~う、きゃわいい。箱に入れて仕舞いたい。




 その日の昼休み。

いつものように3人で昼ご飯を食べていると、仁志が急に箸を止めて、


「……そうだ、修二…今日週末だろ? そろそろ家に来ないか?」


「ん、…そう言えば… そんな時期か」


「だったらいつもの時間ぐらいに来いよ。……それと、アレを忘れないでくれよ?」


「わかってるって。ちゃんと持っていくよ…」



 そう言うわけで、今日は仁志の家に泊まりに行くことに。

俺はだいたい月イチ程度で仁志の家には泊りで遊びに行っている。


 最初何回か泊りで遊びにいっていたら何故か慣習となり、仁志の両親も来るのを楽しみにしてくれている。何故だかは分からん。


 あまりにも友達がいない息子である仁志の最後の防波堤である俺の存在を確認したいんだろう……なんてことは口が滑っても言えない。



◇ ◇



 そして放課後、俺と仁志は一緒に帰り、地元の駅に到着するとそこで別れて俺はいったん自宅へ戻った。部屋に行って制服を着替え、泊り用の荷物の準備を整えてからリビングに行って書置きを残す。


―――「母さんへ。……先立つ不孝を……じゃなくて、今日は仁志の家で泊まります…と」


 それから家を出て仁志の家に向かった。

途中ちょっと寄り道して、家を出てから数十分後に仁志の家に到着。


「こんにちは、本郷です……」


 インターホン越しに名前を名乗ると、直ぐに玄関の扉が開き仁志の母さんである鈴音すずねさんが出迎えてくれる。



「久しぶりね~ 修二君。さあ、どうぞ上がってちょうだい」


「ご無沙汰してます。ではお邪魔させていただきます…」


 仁志の母さんである鈴音さん……もうすっごい美人。中学2年の時に遊びに来て初めて見たときは衝撃だった。最初、あまりの美しさに見惚れていたが、我が家にいる母を想いだして絶望を感じた。

やはり鈴音さん、大人の女性。いつ見てもエロ…色っぽい。



 鈴音さんに招かれ玄関口から中に入り、靴を脱いで上がると。


「修二~~~、久しぶり~~~」


と言って突進してくる物体あり。



 全力で突っ込んできたのは仁志の妹の美月みつき。靴を脱ぎ終わってようやく家に上がった瞬間、美月から突撃ダイブを食らった。でもこれが美月の通常運転。


 だがそろそろ勘弁してほしい。沖田家は総じてみんな背が高い。

美月は俺より2コ年下で今は中学3年になったところなのだが、身長的にも俺に近付いてきている。

小さな小学生が甘えてくれるならうれしいが、お前はでかすぎるって…。ホントに。


「はい、いつものやつ」


「やったあああ~! 修二大好き!」


 俺は持って来たアレを美月に差し出した。

仁志の家に泊まりに行くときは美月お気に入りのケーキ屋でケーキを仕入れてお土産に持っていく。



 ケーキの入った箱を大事そうに持って急いでキッチンへ向かう美月。相変わらず子供っぽくて可愛い。だがこの美月、兄の仁志が超イケメンであるのと同様、この美月も超美少女。美人タイプで単純な美しさだけならあの蝶野さんにも引けを取らないかも。目鼻立ちがはっきりとしていて凛々しく美しい。流石は兄妹って感じでこの辺は兄とよく似ている。



 冷蔵庫にケーキをしまい込んだ美月は直ぐに俺のところへ戻ってきて鈴音さんと喋っている俺に向かって再びダイブ。もう背中にべったりって感じでこなき爺と化している。


―――でも美月、本当に大きくなったね、…おっぱい。 ごちです。


 背中に当たるというかもうボヨンボヨン感じまくる柔な感触で涎が出そうになっていたらようやく仁志が現れた。


「よう、やっと来たか」


 二階から階段を仁志が降りてくると美月は全力ダッシュで兄のもとへ。そして兄の胸元へ飛び込んで愛の抱擁。


「あんまり纏わりつくなって、…美月」


 はい、これがいつもの光景。美月は超が5コくらいつくほどのブラコン娘。多分もうヤバいでは済まされないレベル。


「お兄ぃ 大事な妹への愛情が足りないよ…」


いや…お前の愛情の大きさがおかしすぎるだけだからね。




 そんな二人を俺は微笑ましい表情で見守りながらいつも思う。


―――この二人はいつ人間として超えてはいけない境界線の向こう側に旅立つんだろう…って。


 もう近親○姦待ったなし! 多分美月は既に境界線の向こう側で仁志が来るのを今か今かと待っていると思う。


俺もその日を心待ちに……いや何も言ってませんよ、わたし。



 あれだけイケメンの仁志が彼女をつくらない……つくれない理由のいくらかは美月こいつが原因っていうのは察しの通り。


 仁志はクール系の超イケメンで凛々しい。こんな兄を持てば妹がブラコンまっしぐらになるのも残当。


 そんな美月はどちらかというと人見知りの方だが、さすがにもう3年の付き合いになるので俺には馴れている。



「修二、部屋に行こうぜ」


「ああ、そうだな」


「修二君、そう言えば今日は泊っていくんだよね?」


「はい、お世話になります」


「いいのよ、気にしないでね。いつもの事だもんね。ウフフ…」


「修二、今日は泊るんだ? なら私も後でお兄ぃの部屋に遊びに行く~ 夜も一緒に遊ぼ~」


「―――あはは、…そうだね」



 それから仁志と一緒に部屋に入り、適当に雑談していたら仁志のスマホがブルブルっと……。

ラインのメッセージを見た仁志は、「悪いな、ちょっと母さんに用事頼まれた…」と言って部屋を出た。


 仕方ないんで本棚から適当に漫画を取り出して、カーペットにゴロンって感じで読んでいると、部屋の扉がゆっくりと開いて美月が入ってきた。


 ジュースとお菓子を盆にのせて危なっかしい感じで部屋の中に入ってくる。

コントみたいにジュースを頭からぶっかけられるのは勘弁… なので急いで立ち上がってお盆からジュースの入ったコップを俺は手に持ってゆっくりとテーブルの上に置く。


「修二、ありがとうね…」


そう言ってニコッと笑うと美月はテーブルの上にお盆を置いた。


「お菓子ここに置いておくよ」


「ああ、サンキュ~」


 さて、漫画の続きでも……

そう思って漫画を手にとって再びゴロンと……しようと思ったが、美月がテーブルの傍で座ったまま居座っている。


 テーブルに頬杖をついて何やら怪しげにジーっとこっちを見ている美月。

ショートパンツにピンクのパーカーで胸元をがっぽし見せている格好はもはや妹ゲーのキャラのよう。


 そんな恰好であまりこっちを見るんじゃありません。早くお部屋に戻りなさい。

視線を漫画に戻して続きを読もうとしていると、美月からひと言。



「ねえ、修二ってさ……彼女と別れたんでしょ?」


ですよね。 言うと思ってたわ、…それ。


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