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第四話 仲間にするための計画 第二段階

 俺は立てた人差し指で、自分と良音を交互に指さす。


「どういう……こと?」


「実を言うとね、俺は君たちが元の世界へ帰るための方法を知っているんだよ」


「……っ! 本当!? どうやったら帰れるの!?」


「それについてはこっちを見てくれ」


 そして俺は机の上に、古めかしいが豪華な革表紙でできた一冊の本を置く。


「これは……?」


「過去に召喚された勇者たちの足跡や言動をまとめた日記みたいなものだ。まぁ読んでみるといい」


 良音は俺に促され、パラパラとページをめくり始める。


 そしてある程度めくったところで突如手を止め、書かれた内容にくぎ付けとなって文章を口に出し始めた。


『長く苦しい戦いだった……勇者としてこの世界に召喚された俺は、各地の『神の試練』を突破してレベルを上げた後、少数の信頼出来る仲間で暗黒大陸へと渡って魔王を辛くも倒し、人間たちを破滅の危機から救うことができた』


 良音の目は文章を必死に追いかけ、口からはその内容が呪文のように流れ出てくる。


『討伐前に王からはぜひ王女と結婚してくれと請われていたが、向こうには俺が残してきた妻がいる。王女の涙に後ろ髪は引かれるが元の世界に帰ろうと思う……』


 良音の本を持つ手がプルプルと震えている。


『王は黙っていたが、元の世界に帰る意思を汲んでくれた王女がこっそりと俺に帰る方法を教えてくれた。どうやら、魔王城には転送の間という部屋が隠されており、勇者の手によって魔王が倒されると部屋の魔方陣が起動し、勇者を元の世界へ帰すための魔法が発動するらしい』


 震える手で次のページをめくる良音。


『王女の教えもあってすでに魔法が発動した転送の間は見つけており、後はここに飛び込むだけ。この日記はいずれ別の勇者たちが来たときに見てもらえるよう、ここに残る仲間に託すことにした。後の世に来る勇者たちよ、どうか俺の書いたこれを参考にして、魔王を倒した後に各々の世界へ帰れることを祈っている』


 読み終わった良音は本をパタリと閉じた。


「……魔王を倒して、転送の間という所に行けば、僕たちは帰れる……」


「ああ、そうだ」


「魔王を倒すには……どれくらい強くならないといけないの……?」


「その本には魔王の強さも載っていてな、それによればあらゆる魔法やスキルを使い、体力や魔力は優に30000を越え、レベルは250に届くらしい」


「そんなに……」


「ああ、だが勇者に関しては別だ。この本に書いてあるとおり、世界に五カ所ある『神の試練』を全て突破すればレベルは300に到達し、魔王を倒し得る絶対的な力が手に入るそうだ」


 俺の話をここまで聞いた良音はベッドに座り込んだままうつむいてしまったが、しばらくして顔を上げ、険しい視線をこちらに向けてきた。 


「それで……僕にこんなことを教えて、ファースさんは何がしたいの?」


「何がってのは……なんだ?」


「だって、ファースさんはこの国の兵士なんでしょ? だったらわざわざ王様たちの陰謀を僕に打ち明ける意味なんか無い。なにか目的でもあるの?」


「目的、ねえ……ああ、あるぜ。【ステータス】」


「えっ?」


 俺はそれを説明するため、自分のステータスを良音に見せた。


「えっ名前が!? 職業が『暗殺者』!? レベル200!? それにこんなにスキルがいっぱい……」


「そう、ファースは偽名、王国の兵士も偽り。本当の名はファウストで、少し前まで暗殺が生業のとある組織に入り、多くの人間を殺してきた男さ」


「……っ!」


 良音からゴクリとツバを飲む音が聞こえてくる。

「そんな俺だったんだが、ある時色々あって組織とケンカすることになってな、この王国に逃げるついでに幹部連中を皆殺しにしてきたのよ」


「ええっ!?」


「それでしばらくは安泰かと思ってたんだが、どこから嗅ぎつけたのか、最近俺の周りに組織の影がちらつくようになったもんで、どこか別の隠れ場所はないかと色々調べていたら、転送の間のことをこの本で知ったのさ」


 俺はポンポンと机の上の本を軽く叩く。


「そして俺は考えた。誰も俺のことを知らない別の世界へ行けば、もう復讐なんか気にすることはないだろうって……だから俺は君たち勇者の到来を待っていた」


「僕たちを……」


「そう、俺の目的はただ一つ。二十五人の勇者の中で唯一の『盾使い』である君と一緒に魔王を倒し、転送の間の魔法を発動させて君たちと一緒に世界へ行くことだ」

 

「……僕たちの世界に?」


 俺は小さく頷いた。


「ああ」


「本当に……それだけ?」


「本当にそれだけだ。俺はもう自分の過去にも、この世界にも飽き飽きしたんだ。今さら人殺しの日々に戻る気もないし、逃げ続けるだけの人生も嫌なんでな。おれはただ静かに暮らしたいだけなんだよ」


 今まで人を殺し続けてきた俺が平和な生活を望むのもお門違いかもしれないが……誰にだって全く別の人生を望む権利はあるはずだ。


「もう一つ、質問していい?」


「ああ、いいぞ」


「ファースさんが話をしてくれた理由は分かったけれど……なんで僕だけなの?」


 良音は首をかしげながら尋ねてくる。

 

 そりゃまぁあれだけ職業や自分のことを散々こき下ろされたり邪魔者扱いされてたんだ。

 

 なぜ自分がって思うのも無理はないか……。


「それは君の職業が『盾使い』だったからさ」


「僕が『盾使い』だから?」


「ああ、俺が君たちの世界に行くには本の通り、魔王が勇者によって倒されなければならないよな」


「うっうん……」


「だったら今いる勇者全員を引き連れてレベルを上げて魔王を倒した方が……って思うかもしれないが、勇者という存在は他国にとって脅威であり、また魅力的なものだ」


「そうなの?」


「そりゃそうだろ。この国だって君たちを奴隷にしてこき使いたいって思ってるんだ。他の国が同じ事を考えない理由はないぞ」


「あっそうか……」


 良音は納得したように相づちを打った。


「ただでさえ組織から命を狙われているような俺に、まだ子どもで人質になったり金や女で転ぶ可能性のある危なっかしい連中を、二十五人も抱えて旅をする余裕なんてあるわけないだろ?」


「たっ確かに……」


 そんな旅を強いられたらさすがの俺でも詰みかねん。


「だったら魔王を倒せるだけの実力を持った一人の勇者と俺の少数精鋭でいくのが一番良い方法だと俺は思った次第さ」


 それに俺は子守ができるほど面倒見が良い性格でもないのでね、せいぜい一人か二人が精一杯だ。

「それと俺の『暗殺者』は数ある職業の中でも攻撃スキルを多く覚えてダントツで火力は高いが、その代わり防御系スキルが少なくて攻められると弱い。それを補うには守備に特化した職業が必要だった」


「なるほど……」


「『盾使い』は確かに覚える攻撃スキルが少ないが、君の持っている【体力自動回復】はもちろん、ダメージを減らす【硬化】、各種攻撃の【耐性】とか、防御系のスキルは充実している」


 ここが押しどころだな。


「『盾使い』は最初こそ弱くても、いずれは鉄壁になり得る存在。最強の火力に最硬の防御ならまさに理想的な二人だろう?」


「りっ理想的な二人……」


 なぜか良音はポッと頬を赤らめた。

 

 ……なんか俺、変なことでも言ったのか?


「とっとにかく、『暗殺者』である俺にとって一番相性が良いのが『盾使い』の君一人しかいなかったというのが理由だ。納得してくれたかな?」


「……分かりました」


 そこから良音はしばらく思案を重ね、そしてついに決心した面持ちで口を開いた。


「ファースさんの言うことを……信じます。僕は強くなって魔王を倒して、きっと皆やファースさんと一緒に元の世界へ帰ってみせる! だからファースさん、力を貸して下さい!」


 良音の決意の言葉に、俺は大きく頷くとともに、懐から黒い石のはめこまれたチョーカーと小さなビンに入った青い飲み薬を取り出して良音に渡した。


「よし、じゃあまず先にこれを渡しておこう」


「これは?」


 良音が不思議そうに二つのアイテムを見つめる。

「そのチョーカーは隷属の首輪のレプリカだ。形はそっくりだが本物と同じような他人を無理やり支配する効果は無い。一応言っておくが、用意出来たのはこれ一個だけからな」


「そうですか……」


 他の勇者の分がないと聞いて、良音はちょっと残念そうな顔を見せる。


 他に連れて行きたかった勇者がいたのかもしれないが、俺としてはこれ以上同行者が増えるのはリスクしかないので御免被りたい。


「それと青い薬は俺が【神毒霊薬生成】で作ったあらゆるダメージを一定時間無効化できる超硬化薬だ。明日はお前にミノタウロスの攻撃を受けてもらうし、その後少しばかり深い穴に落ちてもらうからな。これは必ず飲むように」


「えっ!? 僕高いとこ苦手なんだけど……」

 

「それさえ飲めば死にはしないから安心しろ」


 ただし、少々痛みがあるのは黙っておく。


「そして明日の行動だが、俺の分身が兵士に扮して本体は【気配遮断】でお前の後をこっそりついていく。その後、将軍たちから首輪を渡されたら回収してやるから、代わりにそのレプリカを着けるんだ」


「はっはい」


「次に十階層で戦闘が始まってしばらくしたら俺は爆発を起こして部屋の隅に穴を開ける。ミノタウロスの姿が変わったら君は急いで超硬化薬を飲み、穴の前でミノタウロスに【挑発】を使い、攻撃を受けて穴に落ちるんだ。いいな?」


「分かりました!」


「最後に、くれぐれも今の話は他人にするんじゃないぞ。バレたら俺の準備も君の決意も全くの無駄になるんだからな」


「はい!」


 良音は何度も大きく頷いた。


「それじゃあ話も終わったし俺は帰るが……良音」


「はい?」


「明日からよろしく頼む」


 俺は良音に右手を差し出す。


「……はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 良音はニッコリと笑い、俺とガッチリ握手を交わした。

作品を閲覧いただきありがとうございます。


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