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第一話 二人の出会い

 俺……ファウストは少し前までとある暗殺組織の一員だったが、依頼の暗殺を成功させた帰り道、突然組織の仲間から襲撃された。


「総統からの伝言だ『お前の実績は認めるが、やはり我らの組織が求めるのはすべてにおいて優れた力を持つ人材。攻撃力はあっても防御が紙なお前などいらぬ』だとさ」


 ふざけた話しだ。

 今まで散々手を汚させておいて、そんなことで消しにかかるなんてな。


 どうにかその場の襲撃を切り抜けた俺は、とある王国に逃げ込み偽の名前と兵士の身分でしばらく時間を稼ぐ。


 その間に別の隠れ場所を求め、誰も知らない土地はないかと王国の書庫を漁っていたとき、遙か昔に来たという異世界からの勇者の日記を見つけ、その中の記述に目を奪われた。


『異世界の勇者が魔王が倒せば、元の世界への帰るための帰還魔法が発動する』


 これだ! と俺は閃いた。


 勇者が帰還する際、俺も一緒にその魔法で向こうの世界に行けばいい。

 

 だが、のんびりと勇者が魔王を倒してくれるのを待つのでは時間がかかりすぎる。

 となれば、手っ取り早く勇者を仲間にして、一緒に魔王を倒してとっとと異世界へ行くしかない。

 たとえ組織に居場所がバレたとしても、勇者と一緒ならそうそう負けることはないだろう。


 そうしてようやくその時が巡ってきた勇者召喚の場に今、俺は立っている。 


 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「我らが神サーダイン様よ……これほど多くの勇者を遣わしていただき、感謝致します……」


 俺の目の前で勇者召喚に成功し、神へ感謝の言葉を捧げる王の前には部屋中央で床の半分を占める巨大な魔方陣。


 そしてその上では、男女が何人も立っており、辺りを不思議そうにキョロキョロと見回していた。


「ふむ……」


 人数は20から30くらい。

 歳は若く見え、大人というにはまだ早く感じるのでおそらくはまだ子供。 

 肌は浅黒かったり白っぽかったり、髪は茶色の者もいるが大体は黒色で、この世界に住む俺や他の人間と同じような容姿だ。


「それに……」


 男も女も見たことのない服を着ているが、男は黒いスーツのような服。

 女は白い上着に黒のスカートと性別ごとに同じ服装をしており、服の数で計算してみると男女の比率は6対4といったところか。


「むう……」


 数十人もの勇者は正直予想外だった。

 2、3人ならまだしもこれだけの数を仲間にするのは、はっきり言って組織に人質にされたり、金や女で裏切る可能性が増えるだけでリスクしかない。

 やはり連れていくなら一人に絞るのがよさそうだ。


「ようこそ異世界からの勇者よ! 私はグリンガム王国のガルム王である!」


 俺がそんなことを考えながら勇者たちを見ていると、満面の笑みを浮かべた王が一歩二歩と前に進み出て、高らかにこの国の王であることを喧伝する。


「全員、整列!」


 同時に将軍からの号令も飛び、俺や同僚たちは急ぎ王の後ろへ横一列に並ぶ。


「え……え?」


「一体なに? なんなの?」


 王としては異世界の勇者たちに威厳を示したかったのだろうが、悲しいことに勇者たちからの反応は薄く、首をかしげたり隣同士で顔を見合わせるだけ。

 さすがに一国の王といえど、何も知らない異世界の勇者にその権威は通じないようだ。


「むう……まぁよい。グルツ将軍、勇者たちに説明してやれ」


「はっ! かしこまりましたガルム王!」


 当てが外れてふくれっ面な王に促され、今度は将軍が勇者たちの前まで歩いていく。

 そして将軍は、この世界がサーリアと呼ばれ、広大な海と6つの大陸で構成されていること。

 その中央にある暗黒大陸にて魔王が誕生間近という神託を受けたため、魔王を討伐してもらうべく勇者たちを召喚した。


 などの説明を簡単に話す。


「では勇者諸君! 魔王を倒すためにも、まず最初に君たちの力を鑑定するので心の準備の出来た者から私の前に集まって欲しい! おい、そこのお前、後ろにある鑑定珠を持ってきてくれ!」


「はっ!」


 指を指された俺は勢いよく返事をし、手のひらに収まる大きさの水晶玉を乗せてある台座ごと将軍の前まで持って行く。


「さあ、では勇者たちよ。この鑑定珠に手を乗せてくれ。そうすれば君たちが神より授かった力が明らかとなるであろう」


 将軍はぐいぐいと鑑定を迫る。

 だが肝心の勇者たちはいきなり将軍に背を向けて円陣を作ると、額を突き合わせてなにやら話し合いを始めた。


「ねえ――って夢――ないの?」


「いや――も――ゲームだろ?」


「VR――じゃ――新しい――」


「きっと――のプロモーション――よ!」


 どんな話をしているのか気になったが、俺は勇者たちから少し離れた将軍の横におり、時折会話の断片がちらほら聞こえてくるだけで詳しくは分からなかった。 


「あのう……」


 しばらくして勇者たちの会議は終わり、集団の一番前にいた黒く長い髪で眼鏡を掛けた女性勇者が恐る恐る手を上げる。


「その……私たちが魔王っていうのを倒したら……ゲームクリアということで、ちゃんと解放されるんでしょうか?」


 女性勇者からの問いかけに対し、将軍は首をかしげながらも頷く。


「……? そのゲームというのは私にはよく分からんが……君たちの願いは魔王を倒せば必ず叶う! さあ、鑑定珠に手を置いて勇者たちの力を見せてくれ!」


 将軍の一押しに勇者たちはようやく円陣を崩し、続々と将軍の前に並び始めた。


「それじゃあ……まずは私から!」


 最初の鑑定は先ほど手を上げた眼鏡の女性勇者。

 彼女が手を置くと鑑定珠が白く輝きだし、頭上には両手を広げたくらいの大きさをしたステータスボードが現れる。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 宮本琴葉:レベル1 


 体力:100

 魔力:200

 攻撃力:150 

 防御力:120


 スキル:属性魔法(火・水・土・風・光・闇)・回復魔法・幻惑魔法・杖術・同時魔法・魔力増幅


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おおお! これはすごい!」


 ステータスを見た将軍の口から、思わず声が漏れる。


「君の職業は魔法系の中においてなり手の少ない貴重な『賢者』。六属性全てが最初から使える上に、同時魔法というSからDまであるレア度でAランクのスキルがある! これはもう大当たりというしかない!」


「そっそうなんですか?」


「ああ、体力や魔力もレベル1の時点でかなり高い。普通の人間なら体力や魔力は10程度、鍛えた兵士でもやっと100に手が届くくらいだ」


 さっきまで不安げな顔を浮かべていた眼鏡の女性も、将軍からの賛辞でまんざらではない笑顔。


「じゃあ次は俺だ!」


「次は私よ!」


 そんな鑑定の様子を見てか、他の勇者たちの動きが俄然騒がしくなり、勇者たちは我先にと鑑定珠に群がり、職業やスキルを鑑定していく。


 ふむ……なるほどな。


 今いる位置なら、ステータスボードの文字も大きいので内容はバッチリ分かる。

 俺は表示された勇者のステータスを目で追い、目的のためしっかりと頭に刻み込んでいった。


「俺、双剣士か! かっこいいじゃねえか!」


「瞬間移動ってSランクのスキルなの? やったあ!」


 こうしてあっという間に二十四人まで鑑定が終わったところで、未鑑定の勇者は残すところあと一人。


「では……君で鑑定は最後かな? えーっと……すまないが君は男の子? それとも女の子かな?」


「ぼっ僕は男です! 一色良音っていう男の子です!」


 最後の勇者が必死に自分の名前と性別を叫ぶ。

 だが、俺がその勇者をパッと見た時、将軍が迷うのも無理はないなと思わず頷いてしまった。


「あれ……男かよ」


「嘘だろ? どう見ても女じゃないのか?」


「あんな可愛い子が男の子のはずがねえだろ……」


 後ろにいる兵士たちも最後の勇者のことを口々につぶやいている。


 一色良音と名乗った勇者は、首元まである黒い髪と薄く白い肌、顔立ちは整っていて目はクリッとした丸目に薄く紅い唇と、まるで女性の顔のよう。

 体格も小さく華奢で、他の女性勇者と大差がなく到底男には見えない。

 化粧をして、ワンピースなど女性ものの服を着て王都を歩けば、間違いなくすれ違った男性がみな振り向くような美少女になれるだろう。

 だが、彼の着ている服は確かに男の勇者たちと同じ黒のスーツ。


「ううむ……」


 不思議な奴だなと俺は思わず唸ってしまった。


「君は男なのか、すまなかったね。じゃあ手のひらを鑑定珠に置いてくれ」


 将軍が謝りながら鑑定を促すと、可愛い勇者は勢いよく手のひらを置く。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一色良音:レベル1


 体力:100

 魔力:100

 攻撃力:1

 防御力:200


 職業『盾使い』


 スキル:盾術・挑発・体力自動回復・硬化


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そうして現れたステータス欄に良音は目を輝かせていたが、対照的に将軍の顔は曇っていくばかり。


「君の職業は……『盾使い』か。しかも攻撃力も……」


「え……? もしかして……あんまり良くない職業なんですか?」


「……うむ、『盾使い』はその名の通り盾を使った防御に長けた職業系なんだが、攻撃系のスキルをほとんど覚えず職業として火力が低いんだよ」


 険しい顔で話す将軍を見て、段々と良音は涙目になっていく。


「それに体力や魔力はともかく、防御は高いが攻撃力が……そこらにいる子供のほうがまだ高いくらいだ」


「そっそんなあ……」


「加えてスキルの数も他の勇者たちより少ない。まぁ魔物の気を引き、味方の代わりに攻撃を受けられる【挑発】は盾使いだけが覚えるスキルだし、【体力自動回復】などは唯一Cランクで有用だが、正直言って見劣りしてしまうなあ……」


 将軍の落胆した言葉に、良音はがっくりと肩を落とす。

 しかし、落ち込む良音とは逆に俺はグッと小さく拳を握りしめていた。


 防御が無い俺と、攻撃力がない良音。

 お互いの弱点をカバーし合えばいいコンビになれるのではないだろうか?


 だがそんな良音のもとに、男の勇者が三人ほどニヤけた笑顔を浮かべながら近づいてくる。  


「なんだぁ? お前学校だけじゃなく、ゲームでも役立たずなのか?」


「けっけっけ、そこらへんは設定で良くある現実世界のデータを参考にってやつだろ」


「良音が盾使いとか……俺たちにちょっと小突かれただけですぐ転ぶような奴が盾とか重そうなもの持てるのかよ?」


 男の勇者たちは『盾使い』となった良音を口々にからかい出す。

 けれど良音は言い返すこともせず、ただじっと下を向くばかり。

 近くにいる他の勇者たちも遠巻きにその様子を見つめるだけで、仕返しが怖いのか彼を助ける者は現れない。


「ちょっと! あなたたち、こんなところでも一色くんをいじめちゃダメでしょ!」


 しばらくして、良音に気づいた先ほどの眼鏡の女性勇者がからかっていた勇者たちを一喝して、ようやく良音は解放された。


「うう……ありがとう委員長……」


「大丈夫だった? 良音くん。 ごめんね……私が気づくの遅れちゃって」


 泣き出す良音を慰める眼鏡の女性勇者。

 そんな二人を見ながら、王はバツが悪そうに咳払いをして場の空気を変えようとする。


「ゴホン、それでは勇者たちよ。今日はゆるりと休んで頂き、明日から早速ダンジョン『神の試練』へと向かってもらう! 人間の危機を救うため、是非とも頑張ってくれ!」


 王の宣言の後、勇者たちは兵士に付き添われて部屋を後にし、王や将軍も自室へと戻っていった。



「【ステータス】」


 そして……誰もいなくなり静かになった部屋で俺は一人、自分のステータスをジッと眺めていた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ファウスト:レベル100 


 職業『暗殺者』


 体力:10000

 魔力:8000 

 攻撃力:5000

 防御力:1


 スキル:短剣術・気配遮断・気配感知・空中歩行・致命の一撃・手加減・魔法剣(火・水・土・風・光・闇)・投擲・神毒霊薬生成・影分身・偽装・落下ダメージ無効・罠感知


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「一色良音……絶対仲間にしてみせる」


 ステータスを見ながら、俺は自分に言い聞かせるようにポツリとつぶやいた。

 

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