ゴールイン
リョウベエはやっとこさで立ち上がった。
目がかすみ、足がフラフラする。
――走ルンダ、走ルンダ。
頭には走ることしかなかった。
――ジュンクント、約束シタンダ。
トラックのレーンにもどると、ゴールに向かってふたたび走り始めた。
トラックでは次の六年生が走っていた。その六年生からも追いぬかれたが、それにも気づかずひっしに走った。
――走ルンダ。ジュンクント、約束シタンダ。
ひたすらゴールをめざし、リョウベエは走り続けたのだった。
ゴールが目の前になる。
体が燃えているように熱く、胸は爆発するほど苦しい。
それでも走るのをやめなかった。
そんなリョウベエを、だれかれともなく応援を始めた。がんばる姿に胸をうたれたのだ。
「がんばれ!」
「もうちょっとでゴールだぞー」
声援は徐々に大きくなり、やがてそれはまわりにも広がっていった。
声援はリョウベエには聞こえない。
このときすでに意識がなかったのだ。けれど足だけは、けんめいに前に前にと動かし続けていた。
そのころ。
ジュンは会場を立ち去っていた。友だちと顔をあわせるのがイヤだったのだ。
――ほんとにほんと、ドジなんだから。
思い出すだけではずかしい。そして、リョウベエのドジに腹がたっていた。
――ヒロシんとこみたいなロボットがいいな。
リョウベエはかっこ悪い。
それに掃除も料理もヘタ。スポーツはからっきしダメ。なにをやらせても、いつだってドジばかりだ。
ジュンは痛む足をひきずりながら家に帰った。
すると玄関に入るなり、
「ジュン! あなた、なにしてたの。リョウベエがたいへんなことになったのよ」
ママさんが飛び出してきた。
「リョウベエ、どうしたの?」
「走ってるときにこわれちゃったそうよ。意識がないって」
「ほんとなの?」
「班長さんから電話があってね。さっきパパが、車で迎えに行ったんだから。そのままロボット病院に連れていくって」
「そうなんだ」
ジュンはさほど心配しなかった。
リョウベエが故障することはまいどのこと。そのたびにロボット病院でなおしてもらっていたのだ。
「ねえ、ママ。なんでうちは、新しいロボットを買わないの?」
「リョウベエがいるでしょ」
「リョウベエはダメだよ」
「どうしてよ?」
「だって、いつも故障ばかりだもん」
「病院で、なおしてもらってるじゃないの」
「でもドジは、ちっとも良くならないじゃないか」
「しかたないでしょ。リョウベエはずいぶん古くなっているんだから」
「ねえ、どうしても買わないの?」
「あたりまえじゃない」
「ヒロシんちのロボット、料理がすごくうまいんだってよ。リョウベエのはまずいのばっかり」
「それでもいいの」
「どうしてだよ?」
「パパもママも、リョウベエが大好きだからよ」
「オレはきらいだよ」
そう言いすてると、ジュンは二階の自分の部屋にかけ上がった。
まだリョウベエに腹がたっていたのだ。