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AIバディ・ソード

作者: シークレット

文芸部で書いたものです。読んでくれると嬉しいです。

時は二〇××年、世界中でAIが普及する。彼らは人間の生活を豊かにするための補助を担っていた。その容貌も多種多様である。しかし、ごく最近、AIとしての使命を捨て、人間に反旗を翻そうと考える、邪悪なものが現れたのだ。奴はすでに、ユーラシア大陸のほとんどを壊滅させ、傍若無人に暴れまわっていた。名はダークスといい、噂では黒いオーラをまとった剣をもつという。

 今朝のニュースは、そのの話がほとんどだ。私はご飯を頬張りながら、何百回も見るダークス絡みのそれにがっかりする。せめて朝ぐらいは、もっと明るいニュースを流して欲しいものだ。そんなことを考えながら、朝食を済ませ、すぐさま部屋に戻り、部屋の明かりをつけた。そして、机に置いてある英語の教科書を開いて、棚からノートを取り出す。休日とはいえ、受験生である私に、遊んでいる暇などない。

 私の名前は剣崎桐子。女子高校生。学校ではよく、先生や同級生からいろんな頼みごとをされ、家ではお手伝いと受験勉強がほとんど。はっきり言って仕事大好き人間だ。

 午後からは、あの煩いAIと、川での奉仕活動が日課に組み込まれている。今のうちに勉強しなきゃと思って手を動かしたその時だった。

「桐子くん、私と一緒に遊ばないかい。」

 かなりストレートな誘惑をしてくる声がある。

 彼がそのうるさいAIで、名前はソード。背が私の膝くらいしかない要旨をしている。おまけに、勉強中の私に遊びたいとわめくものだから、はっきり言ってただのガキである。私はソードに、そこらへんに置いてあったゲーム機を手渡した。

「ごめんね。私、今忙しいからさ。」

 ソードは静かに頷き、その場に座ってゲームを始めた。去年は私が不登校だったこともあって、彼はずっと私と一緒にいてくれた。その時はソードが側にいるだけで嬉しかったし、心強かった。ただ、今の私の前には、あの頃のソードはいない。彼は突然、私が座っている椅子を左右に揺らしてきた。

「勉強中にすまない。君最近全然遊んでいないだろう。だからほら、羽を伸ばすのも悪くないかと思って。」

 数式を消していた私は、消しゴムを折ってしまった。

「忙しいって言ったよね?」

 私は眉をひそめて睨み付ける。

「自分を休ませてあげるんだ。自分に優しくないと、人に優しくできないぞ。」

 その物言いに、ついに私の堪忍袋の尾が切れた。

「いい加減にしてよ、いつまで私のAIでいるつもり? 私はもうあんたに頼らなくても、一人で立派にやって行けるんだから!」

 私は立って椅子を蹴っ飛ばし、勉強道具をカバンに入れて図書館に向かおうと部屋のドアノブを握った。一度彼の方を見ると、彼の姿は曇っている。私はすぐさま部屋を出た。もうこれ以上、彼を直視できなかった。

 しばらく歩いて、こんな短パンと白いTシャツというだらしない服装で家を出てきたのはまずかったことに気付く。だけど、それもこれも全部彼のせい。結局は自分の言いたいことだけ言って、私のニーズには耳を貸さない、自己中の大馬鹿者のせいだ。ソードへの怒りを抱きながら無我夢中で歩いていると、いつの間にか、毎日奉仕活動をしている川辺に着いていた。

「なんでこんなところ来ちゃったんだろう・・・」

 思えば受験生になって、奉仕活動と学校以外、外に出ることは無かった。だから外に行くときはここって、身体が覚えてしまっているのだろう。

「ここに来たってどうしようもないのに・・・」

 私は一人たそがれる。そんな私の様子を、川の水面が映す。そこにはふてくされている自分がいた。風の音が無くなり、まるでこのあたりだけ、時が止まっているようだった。

ところが突然、その空間を何者かが壊した。私はすぐさま、その主を探す。

「誰かいるの?」

 正体不明の声の主は、草むらの方から、突如私の前に姿を現す。図体がでかいうえ、不気味なオーラを放っている。おまけに黒いオーラをまとった剣を・・・…。まさか、と思ったが認めざるを得なかった。

「この剣で奴を、残虐に処刑する。」

 傍若無人で知られるダークスだった。しかし、そのがなぜ、ここにいるのか。あれこれ考えているうち、奴は私の背後を取っていた。私は首を掴まれ、地面に押さえつけられる。次の瞬間、私の身体にかなりの激痛が走った。

「ソードはどこだ。」

 ダークスはそう言い、私をさらに強く地面に押さえつける。意識を失いそうになるのを必死にこらえる。

「知って、どうするの?」

 奴は嬉しそうにこう答える。

「殺すに決まってるだろ。」

 体が動かない。奴はこっちに向かってくる。もうだめだと諦めかけたその時だった。

「桐子君!」

 彼の声である。それに反応したダークスは手を緩めた。途端、私の目の前は真っ暗になった。

 今私の目の前に、赤いランドセルを背負った少女が、顔をくしゃくしゃにして泣いているようだ。ランドセルには、デブ、ブタと落書きされている。確かにふっくらしているが、そこまでしなくても……。その時、見覚えのある彼がやってきて少女を励ました。

「大丈夫、君には私がいる!」

 何故か分からないが、私の目の前は潤んで曇り、そのまま真っ暗になった。

 再び目を開けると、黄緑色のカーテンに囲まれていた。どうやら私は病院のベットの上にいるようだ。

「気が付いたかい?」

 声のした方向を見ようと、胴体ごと向けた。そこには、母と彼が座っていた。

「ホントに心配したんだから。数日もすれば、退院できるそうよ。思いのほか早くて良かった。ソードちゃんにお礼を言うのよ。」

 しかし事の元凶はソードである。つまり彼さえいなければこんな怪我はしていなかった。だが抵抗があるとはいえ、母が涙ぐみながら悲しむ姿はさすがに見ていられない。私はお礼をいうことにした。

「その・・・・・・、ありがとう。」

 しかし、彼の顔は私とは違う方向を向いていた。明らかにいつもと様子が違う。

「桐子。」

 彼は初めて私の名前を呼び捨てにした。

「私は、君にとって邪魔者かい?」

 私は唐突の質問に、思わず黙り込んでしまった。頭の中でどう自分を諭しても、ネオスに対する恐怖がさらに強い力で支配する。しばらくの間、二人の間に沈黙が続いた。その後、先に口を開いたのはソードだった。

「分かった。今日限りで、私は君のAI家庭教師を解任させてもらう。」

 そういって、彼は病院を出て行った。彼が出て行った後、私は胸が苦しくなった。今にもくしゃくしゃになりそうな顔を腕で隠し、毛布で体を覆う。そしてその中でひっそりと涙を漏らした。わかってる。彼がただ弱いだけだというのは分かっている。ただそうだとしても、虫唾が走る。行き場のないこの気持ちが私を苦しめる。ならばこの気持ちは、一体どこにぶつければいいのか。仮に彼のことを簡単に忘れられるならば、きっと私はこんなに苦しんでいないだろう。とすると、選ぶべき道は一つしかない。私は涙を拭った。そして毛布を蹴飛ばし、母にトイレに行くと伝えて病棟を出た。

 走る。まだ走るのに向かない体で、勢いだけを頼りに走る。とはいえ、身体は常に正直だ。しばらくすると、私は歩道に倒れこんでしまった。せっかくここまで来たのに……自分の体力が情けない。いや、ここは立ち上がらなければ。私は息を切らしながらも、どうにか川辺にたどり着くことができた。誰かが話をしている声が聞こえる。きっとダークスとソードだ。私はその場にしゃがみ込み、様子を窺うことにした。

「さあ兄弟、決着つけようぜ。俺と互角に戦えるのは、てめえぐらいだからよ。」

「ここでやったら、人々はどうなる?」

 ソードの質問に、奴はこう答える。

「関係ねえ、死ねばいいさ! 心配せずとも、剣を持たないお前と、剣を持つ俺じゃ、すぐに決着がつく。」

「止まる気はないのか、兄さん。」

 生々しい音と同時に、ソードが吹っ飛び、民家のコンクリートにぶつかる。その威力だけで、コンクリート壁が破壊された。彼は見事に瓦礫に埋もれ、それに追い打ちをかけるように、すぐさま横腹を蹴って、さらにソードを大きく飛ばした。その俊敏さに目が追いつかないほどである。やっぱりダークスは化け物だ。

 しかし、ソードも反撃する。小さな体を活かし、小回りの利くトリッキーなフェイントで、ネオスを攪乱する。しかし、同じスピードで立ち回れるダークスは、いとも簡単にソードを捉え、川の中に投げ飛ばした。その後、奴は持っていた剣をお見舞いしようとした。

「処刑執行!」

 私は衝動的に、ダークスに向かって叫んでいた。

「もうやめてこんなこと! 兄弟なんでしょ?いったい何のための人工知能なの?」

 私の必死な問いかけに、奴が手を止め、答えた。

「何のための?」

 奴は私の方を向いた。

「それは人間が与えたものだ。便利であることを要求され続ける、優秀な俺たちに。」

 ネオスは、徐々にこちらに接近してくる。

「その知能のせいで、俺たちAIは、自由になりたいという叶わない欲にかられたのさ。シェルター越しの輝かしい希望を、ただひたすらに見ることしかできないというのに。」

 私は何も言い返せなかった。

「そんな残酷なことができるお前ら人間こそ、本当に心が無いと思うが?」

 そう言われても仕方がない。奴は、私の戸惑う様子を嘲笑する。

「人間には剣を使う価値もねえ。殴り殺してやる。AIを代表してな。」

 ネオスが拳を振り上げたと同時に、今までに受けた痛みとは比べものにならない衝撃が私の身体を弱らせ、すべての動きを静止させた。走馬灯が頭の中をぐるぐる回る。私の目の前には、再び暗闇が訪れた。

 周りは闇、ただひたすら闇。そんな空間に一人たたずむ私の名を、誰かが呼んでいるのが聞こえる。声のする方へ耳を傾ける。後方を見てみると、そこにはソードが立っていた。

「ソード。」

私は彼の名前を呼んだ。だが返事はなく、姿はすぐに闇に消えた。代わりに、彼の声が聞こえてきた。

「やはり兄さんにはかなわない。私が弱いから。」

彼が自分を悲観しても、私は憤りを感じるだけだ。 

「役立たずでほんと済まない。だが今ならまだ間に合う。逃げるんだ。」

ソードの言うことを受け入れようとしても、どうしても抵抗する気持ちがあった。彼は話を続ける。

「たとえ私が使えなくて、弱いAIだとしても、君にとってのAIでいたい。だから、私は死んででも君を守り抜く。」

我慢の限界だった私は、こらえていた気持ちをとうとう漏らしてしまった。

「強くないなら強がれ! 弱いから勝てないなんて、だれが決めた。」

 暗闇の中に一点、私はかすかに光っている何かを見つけた。私はそこに向かって走る。

「私はソードが大好き! また一緒に笑いたい。」

 いくら走っても追いつかない。それでも私は、そこに向かって手を伸ばす。

「奴がどうとか今は関係ない。だから、」

 光の断片が少しずつ見えてくる。

「一緒に戦ってあげる。いいでしょ?」

 その時、目の先の光が、私の前に姿を現した。それは剣が一つ、何かに刺さって立っている光景だった。私は衝動的にそれに触れた。そして、引き抜こうと柄を握り、引っ張った。これを引くことができれば何かが変わるかもしれない。私はそう思った。しかしピクリとも動かない。私はムカついて手を放し、その場に座り込んだ。座った途端、ある不安が募りだした。それに影響されたのか、私の目の前の景色は、黒色から白色の世界へと塗り替えられていく。私の脳裏には、ある憶測が確信に移り変わろうとしていた。

「やっぱり私のこと、嫌いになっちゃったのかな。」

 私はその場でうずくまった。ここは体温という概念すらない世界なのだろうけど、私の身体は徐々に冷たくなっていく。ゆっくりと腕を見ると、既に氷で覆われ始めていた。さらに追い打ちをかけるように、冷たい風が私の背中に当たってくる。その速さは加速し、とうとう顔以外の身体は、すべて凍ってしまった。私は目の前の剣が刺さっていたものを、もう一度見る。さっきは暗闇で見えなかったそれは、氷でできた塊だった。その瞬間、私の頬を次々に涙が濡らして行った。私は最後の力を振り絞って叫んだ。

「寂しかったんでしょ? AIとして私と友達でなければ、存在意義も消えちゃうから。そうなったら、ソードは一人になってしまうから!」

 風は強くなり、意識が遠のいていく。それでも私はあきらめたくない。彼が目の前から消えてしまうなんて考えるだけで、こんなにもむしゃくしゃするのである。私は目を一瞬だけ閉じた。伝えたいことを整理したかった。

そして私は、力強く目を見開いた。

「もう一人にしない。だから、私を一人にするな!」

 その時、今まで私を覆っていた氷が消え、目の前の剣が輝きを増した。私はもう一度剣の柄を握り、力強く引き抜こうとする。今度はあっさり引き抜くことができた。

「ありがとう、ソード。」

 その瞬間、目の前の景色が変わりだした。

 川がゆっくりと流れる音がする。目の前には、再び奴ダークスが現れる。立たなきゃいけない。しかし、身体は言うことを聞いちゃくれない。背中からは激痛が襲ってくる。どうやら私は今、現実にいるようだ。ダークスがこちらを向いた。

「まだ息があったのか。敬意を表して、この一太刀を食らわせてやる。」

 私は何かを握っているような感覚がしたので、右手を見た。私の予想は的中した。握っていたものは、ネオスのとは正反対の、金色のオーラをまとった剣だった。

「これで、処刑完了だ。」

 真上から闇の太刀が襲ってくる。正直、体が動かないのではどうしようもない。私が死ぬ覚悟を決めたその時だった。

「桐子くん!」

 彼が奴の真横から現れ、力強くダークスを殴り飛ばした。すぐさま彼は私に駆け寄った。

「パートナーをこんなに怪我させて、ひどいAI。」

 私は笑顔で意地悪を言いながら、右手の剣をソードに渡した。

「勝たないと許さないからね。」

彼は剣を受け取り、ダークスに刃を向けた。     

「ああ、勝ってみせる。」

だが、ダークスはそれを見ても動じていない。奴は口を腕で拭い、体を右往左往しながら静かに立ち上がる。

「なるほど、お前の剣は、人間との絆によって目覚めるようにプログラムされていたのか。」

 彼は眉を顰め、ダークスに質問をした。

「兄さんは何がきっかけだった?」

 奴は苦笑する。

「俺の剣は、AIの役割を放棄した時に生まれたのさ。要は正反対ってわけだ。」

 ダークスは持っていた剣の刃先を、ソードに向けた。

「一太刀で決着をつけよう。AIから生まれた俺の剣と、人間との関わりから生まれた剣。勝った方が正しさを証明できる。」

ソードは一息おいて、首を縦に振った。ダークスはそれを見て、ソードの正面に立ち位置を変えた。

「構えろ、ソード!」

 二人の間に沈黙が流れる。互いに目を離さず、鋭い眼光でにらみ合っている。見ている私にも、その緊張感が伝わってくるほどだ。さっきまで聞こえていた川の流れる音も聞こえない。沈黙は長く感じたが、実際は五~六秒ほどであった。二人はすぐさま剣を斜めに振り上げ、一斉に駆け出した。二人の剣の刃が衝突し、互いに一歩も引かない力比べとなった。しかしこのままだと、等身が低いせいで地面に足が付かず、勢いだけでぶつかっているソードが不利だ。ダークスもそれをわかっているようである。

「よく頑張ったがここまでだな!」

 奴はそう吐き捨てた。だけど、ダークスは最後の最後で大きなミスをした。勝利を見据える今のソードにとって、その言葉は侮辱でしかない。ソードだけじゃない。私にとってもそうだ。私はわずかな力を振り絞り、死ぬ気で叫んだ。

「頑張れえ、ソード!」

 その直後、ソードは光に包まれ、黄金色に輝きだした。

「私は希望のために戦う!」

 今度はソードが押している。逆に、ダークスの剣はボロボロと崩れていき、ついに跡形も無く消滅した。奴は見るも無残な形相で発狂しだした。

「この俺が、こんな奴らに負けるだと!」

 ソードの剣の刃が、ダークスの身体に直撃する。ソードは着地し、ネオスは勢いよく地面に倒れた。ソードの身体は元に戻り、持っていた金色の剣も姿を消した。代わりに空からの太陽の光が彼を照らす。互いの正しさを掛けた一瞬の戦いの末勝ったのは、私のAIバディのソードだった。彼はすぐさま、私の元に駆け寄ってくれた。

「病院へ行こう、桐子くん。」

 彼は傷を負った小さな体で私を担ごうとする。さすがに恥ずかしいのでおろしてもらった。そして電話して迎えに来てもらうようソードに言って、携帯を渡した。彼が電話番号を打とうとした。すると、突然携帯の待ち受け画面が塗り替えられ、そこにダークスが現れた。

「俺は死なねえ。」

 私もソードも特に驚かなかった。言葉をしゃべろうが、待ち受けを乗っ取られようが、今の奴からは襲われる危険性を感じなかったからだ。ソードは奴に質問をした。

「なぜ私を殺そうとした。」

 奴は案外素直に答えた。

「兄弟として、俺の手で殺しておきたかった。俺と同じところで生まれた腐れ縁だからな。」

 奴は少し沈黙を挟み、再び話し始めた。

「近いうち、全世界のAIの記憶は抹消される。」

 私は耳を疑った。聞き違いなのか。

「もともと俺は総理大臣と一緒にいたAIだからな。奴らの裏の陰謀ぐらい知っている。」

 私は、背筋が凍りつきそうになった。もしダークスの言っていることが本当なら、私は今目の前にいるソードに合えなくなってしまう。

「おそらく俺らAIが、人間に危害を加えそうで怖くなっただろうな。身勝手だろ?」

ディスプレイ越しのダークスから、行き場を失った怨念がこみあげてきた。

「だから殺すんだ。人間を全滅させればAIの記憶も抹消されることは無い。今からでも遅くはない。弟よ、俺と一緒に来い!」

 奴がそういった直後だった。ソードは携帯の電源を切った。すると、ネオスの声が聞こえなくなった。

「どうして?」

 ソードに画面を見せてもらうと、ダークスはもういなくなっている。ソードが答えた。

「兄さんは携帯のシステム管理を任されたAIだ。実体がやられた今、一度電源を切ってしまえば、もうこっちに手出し出来ないだろう。」

 私はソードの表情をとても直視などできなかった。確かにダークスとはもう関わらなくて済む。奴にあったせいでいろいろ辛い思いをし過ぎた。しかし、奴の残した言葉は、私の脳裏にしっかりと刻み付けられていた。私はもっとソードと一緒にいたい。こんなのあんまりである。さっきダークスに受けた傷よりも胸が痛い。離れたくない、二度と会えない世界に行ってほしくない。そう思ってた私に、いきなり彼は話しかけてきた。

「桐子君、私はAIの記憶末梢計画を阻止する!」

 空気を読まないし人の気も知らないその行動に、私は戸惑いつつも、思わず吹き出してしまった。

「この世の人間とAIの共存を守り抜くぞ!」

 彼はヒーローのポーズをとった。すごく様になっている。彼は私の方に手を差し出した。

「君も来るかい? 桐子くん。」

 そう聞かれた時、私の答えはすぐに決まった。しかし、ダークスにやられた傷がうずく。やはりこの痛みも奴の無念も、一緒に抱えていくしかないようだ。私は覚悟を決め、用意していた返事をしようとした。

「病院でこの怪我を直したらね。」

 だが私は素直じゃない。彼には私を振り回したことを謝ってもらわねば気が収まらない。だって私は彼と、お互いの隔たりを、ゼロにしたいのだ。そしてそれができたのなら、ソードと一緒に歩きたい。共に希望を切り開く剣が、それを可能にしてくれるがと信じているのだから。          完


内容は結構単純です。

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